賃金分析における人事の役割とは?

賃金が平等かどうかの分析は、人事が関わらないわけにはいかない。
しかし、人事のみによる分析であってはならない。

HR’s Role in Pay Analyses

Analyses on compensation equity can’t go forward without HR but shouldn’t be handled by HR alone.
By Allen Smith, J.D.

◆公平な報酬を保証するにあたっての人事の役割とは?

 カリフォルニアの新しい男女賃金衡平法やニューヨークでの同様の法律等が成立したことにより、「同一賃金」は、経営者が、まず最初に頭に浮かべる関心事の一つとなっている。また、一部の上場企業が、株主総会や公的提出資料等にて、「同一賃金」に関する報告をしなければならないという事態に直面している。これらの新しい「同一賃金」に関する法律や株主による後押しにより、今まで「同一賃金」に対して全く対応していなかった企業までが「同一賃金」への対応を進め始めている。

 米国連邦レベルでは、米国雇用機会均等委員会が、100人以上の従業員を雇用する企業に対して、2018年に賃金データを提出する旨の提案を7月に行った。これにより、多くの企業が報酬分析に対し積極的になっていると言う。

 カリフォルニア州法の男女賃金衡平法が、「ゲームチェンジャー」となり、賃金差別を主張する訴訟を起こすことが、原告にとってかなり容易になると言われている。

 今や、人事プロフェッショナルの間では、報酬分析は、人事だけで行わず、弁護士を関与させ、弁護士・依頼者間の秘匿特権(Attorney Client Privilege)事項として扱うことが一般的となっており、報酬が公平かつ非差別的であるかどうかについての法的な助言を行うことも人事の業務領域ではないと認識している。

 では、公平な報酬を保証するにあたって、人事の役割とは、何なのか?

◆まずは、採用時の報酬設定を正しく行う

 人事による公平な報酬保証は、採用時に始まる。新規採用の従業員と既存の従業員との間に、不均衡な報酬設定が行われないよう、報酬設定することが重要なのである。また、報酬設定の決定事由を文書化したり、何らかの交渉が行われた場合や特記事項がある場合も記録しておくことが重要である。

昇給プロセスのモニタリングを行う

 人事は、人事考課において、各マネジャーが、部下のどの様な行動や成果を、どう評価しているかを、知っておくべきである。

 また、マネジャーが、客観的で公平な評価が出来るように研修を行ったり、人事考課全体の分布の評価、そして事実に基づいて人事考課が行われていない評価者への介入を行うべきである。また、自社の報酬構造に関係なく自由裁量で部下の報酬を決定してしまうマネジャーへの指導を行うことも重要だ。

◆報酬監査を行う

 酬分析を行う場合、弁護士の法的なアドバイスに従うと共に、情報は秘密事項して取り扱うべきである。

 そして、経営者は、調査が行われる前に、報酬に対する是正措置が行われる可能性があることを認識しておくべきである。もし、監査で是正の指導があったにもかかわらず、報酬の不均衡を是正していなかったことが明るみに出れば、経営者は、賃金の未払い額の支払いに加えて、損害賠償金の支払いを余儀なくされる可能性もある。

 報酬分析の主な目的は、同様の業務を行っている従業員間での報酬差異は、ジョブ関連の基準に基づいて設定されていることを、説明できるよう担保することである。従って、報酬分析をする場合は、設定されている賃金バンドの範囲を下回っている従業員や上回っている従業員を特定し、それらの従業員が報酬バンドの設定範囲内に収まらない理由を徹底的に調査することから開始するのがよい。

◆職務の分類は、慎重に行う

 職務の分類は、可能な限り慎重に行うべきである。単純に役職名などでの分類はしない事だ。

 カリフォルニアの新しい男女賃金衡平基準は、連邦同一賃金法において、賃金分析の際に様々な役職や責務、更には職業を持つ従業員までもが、一つのカテゴリーに一纏めにされるのを避ける為、「実質的に同様の業務」と、「同一業務」は、区別することとしている。従って、経営者が賃金分析を行う際には、役職や職務記述だけを頼りにするべきではない。

 人事は、どの業務やどの従業員を同じカテゴリーに入れて賃金分析すべきなのかを知っておくべきである。賃金分析時に、職務分類枠をあまり広く設定してしまうと、法的に異なる職務間での賃金分析を行ってしまう為、結果的に賃金の不均衡を招いてしまう。一方、職務分類枠をあまり狭くしてしまうと、サブカテゴリーが増え過ぎ、不公平な差異に気が付かず、同じく結果的に賃金の不均衡を招いてしまう。

◆変更は、段階定期に行う

 人事は、報酬の決定において、報酬決定に関する文化的要因を説明出来る信頼できるアドバイザーであるべきである。

 統計学者や労働経済学者、弁護士は、各専門知識による見解から報酬分析を行うが、人事は自身の現場における独特な報酬決定要因や報酬哲学などの重要な情報を提供する役を担う。

 人事は、法務チームの指示の下、(1)報酬分析の結果をリビューし、マネジメントに対しての行動計画を提案し、(2)その実行計画を立案する。また、(3)承認された変更事項が、遵守されているかをモニターするとともに、(4)給与変更により発生する可能性のある従業員との問題を解決することが、期待されている。

 例えば、報酬分析の結果、ある従業員の給与が上方修正される場合、その従業員が、本来受け取れるはずの高い給与を今まで受け取っていなかったと憤慨し問題となることがある。従って、このような場合の給与の上方修正は、段階的に行っていくというアプローチをとることも必要であるし、状況によっては、過去分の給与弁済を行うことも検討するべきなのである。

 数々の報酬修正による訴訟を目の当たりにしてきた弁護士は、「地獄への道は善意で舗装される。」と言う。

(要約:インサイト編集部員 黒田 洋子)