先代から何を学び次世代に何を残すのか。温故知新。どんなに世の中が多様化しても、企業経営における真理はやはり不変なのかもしれません。

聞き手:インサイト編集部員 岡田 英之

アカオアルミ株式会社 代表取締役 代表取締役 赤尾 由美 氏

アカオアルミ株式会社 代表取締役 代表取締役 赤尾 由美 氏
●1965年東京生まれ。1988年明治大学文学部卒業。ジャズダンスのインストラクターや行政書士の講師を務める。1996 年、ブータン人と結婚し、第一子出産直後、創業者である父の死去に伴い、アカオアルミグループの代表に就任。アルミの圧延、器物の製造販売をしている。また、一円玉を作る唯一の民間企業。2014年ビジネス社より「国防女子が行く」(共著)、2016年ワニブックスPLUS新書より「民進党(笑)。」を出版。「働くことを通じて日本人らしさを学ぶ」を企業理念とし、社員教育に力を入れている。なお、大日本愛国党の故・赤尾敏は伯父。


ダイヤ精機株式会社 代表取締役 諏訪 貴子 氏

ダイヤ精機株式会社 代表取締役 諏訪 貴子 氏
●1971年東京都生まれ。成蹊大学工学部卒業後、ユニシアジェックス(現・日立オートモティブシステムズ)でエンジニアとして働く。32歳(2004年)で父の逝去に伴いダイヤ精機社長に就任。新しい社風を構築し、育児と経営を両立させる若手女性経営者として活躍中。日経BP社Woman of year 2013大賞を受賞。ニュースZEROや日曜討論等のメディアに多数出演し、中小企業の現状を伝えている。



岡田英之(編集部会) 今回は、二代目として製造業を承継された気鋭の女性経営者お二人にお越しいただきました。この20年、日本企業の人事施策は未だ迷走から抜け出せずにいますが、同時に中小企業の世界では事業承継の最盛期を迎えています。経営者が交代する際の問題や、交代を機に社内組織や人事などをどのように変革するべきかについて、また、企業をいかに永続させるかという観点からお話を伺いたいと思います。
 まずは、会社を継がれた経緯を含めて、自己紹介をお願いします。

◆悲しみの中、突然の事業承継

諏訪貴子(ダイヤ精機株式会社代表取締役) 私たちの会社は創業50年になる町工場で、自動車部品を測定する治工具、ゲージを作る超精密金属加工を行っています。今年で社長を承継して13年目になります。先代が急に亡くなったために跡を継ぎました。
 2007年ごろから人材確保と育成に力を入れ、2015年の2月には高齢化していた職人集団の人口比率を、技術レベルを維持したまま、20代、30代が多いきれいなピラミッド型に移行することがきました。小さな会社ですが熟練工の高度な技術と経験が認められ、某自動車メーカーのティア1(1次下請け)としてお仕事させていただいています。

赤尾由美(アカオアルミ株式会社代表取締役) 私たちの会社は昭和22年に父が創業し、今年70年目の会社です。弊社も父が急逝し、20年前の31歳の時に何も分からないまま会社を継ぎました。アルミを圧延加工し、お客様に材料として納品する他、キッチン用品などの最終製品も作っています。社員は250名ほど。練馬の圧延工場は24時間交代制で操業しています。その他栃木と群馬に6つ加工工場がありましたが3つに整理し、できる限りスリムな体制を心がけています。

◆社長であっても「自分の会社」だと思えない時期

岡田 お二方とも突然社長業を引き継がれたわけですね。当然「二代目社長」として社員や工員、周囲の視線は厳しかったと思われますが、どのように運営されていったのでしょうか。

赤尾 アルミについての知識や技術のことは全く分かりませんでしたから、社長就任当初は役員から業務内容の説明を受けて理解することが仕事でした。

岡田 ご自身はどのタイミングで、社長として社員に受け入れられたと感じましたか。

赤尾 社員は最初から「仕方ない」という感じで受け入れてくれたと思いますが、私自身は5年くらいずっと「父の会社」という感覚から抜け出せませんでした。平成13年のITバブル崩壊時に業績がかなり落ち込んだ際、メインバンクの支店長から「人に頼っていてはだめだ。社長がどうするかだ」と叱責されたのをきっかけに変わりました。そこから役員に遠慮せずに、業績回復のために思い切った施策をいろいろと行ったのです。危機に直面し、どうにかしなくてはいけないという強い思いから「自分の会社なのだ」という意識が芽生えました。

◆社員から一転、社長へ

岡田 諏訪さんも似た状況でしたか。

諏訪 私は社長を継ぐ以前は、社員として会社を手伝った時期もありました。そのときは社員として社長である父と対立する立場。社内分析の結果からリストラを提案したのですが、逆に私のほうが2回もクビにされたりしました。
 社長に就任した際には、それまでの経験からやるべきことは分かっていました。会社の存続がかかった状態だったので、いきなり経営改革を断行したために、社員とはかなりぶつかりましたね。それでも社員が離れていかなかったのは、社員時代に同じ釜の飯を食べた仲間、ということも大きかったと思います。

◆組織再生のためには憎まれてもいい

諏訪 先代の急逝で組織ももろい状態になっていたので、組織をもう一度まとめるために、あえて「私VS社員」の対立構造を作りました。私と会社の悪口を言いたい放題に言わせる「悪口会議」を行ったのです。私への対抗心を持つことで、社員同士に一体感を持ってほしかった。

岡田 「敵の敵は味方」ということですね。社内政治スキルとして経営学の観点からも、意図的な対立構造を作ることで困難な経営状況を打破しようという手法は提唱されています。どのようにしてこの手法を思いつかれたのでしょうか。

諏訪 そのときの私にはこれしか考えられなかっただけです。社長と社員の間には一線あるということは分かっていました。だからこそ、社長の自分が社員に頼れば会社がだめになると思いました。一時的には対立しても社内がまとまり、そこからコミュニケーションをとることで、いずれベクトルが合っていけばいいと考えたのです。

赤尾 必死だからこそ知恵が出るんですよね。社長と社員の距離感については同感です。
 私が大学卒業後に「会社を手伝いたい」と言っても、父は働かせてくれませんでした。今思うと、先々のことを考えて社員と馴れ合ってほしくなかったのだと思います。

◆ファミリー企業の「和」の感覚と継承の難しさ

岡田 アメリカでは所有と経営の分離がしっかりしていて、ヨーロッパや日本ほどファミリー企業は多くありません。

赤尾 日本は天皇家に象徴されるように、トップはシンボルであり、家長です。欧米のように支配者と被支配者という二項対立ではなく、トップが範を示して、みんながそれを見て同じベクトルに向いて行くやり方は、古くは古事記に「シラス」という概念として示されています。上下関係ではなく、家族のような一体感を大事にすることは、「和」のメンタリティを持つ日本の国民性に合った経営スタイルではないでしょうか。

岡田 世襲制を採用する場合、去る経営者が次世代の人間にどのようにバトンを渡すのかという点は難しく、お家騒動にもつながりやすい問題です。特に周りの社員はよく見ているので、多くの配慮が必要だと思いますが、いかがですか。

諏訪 私もよく相談を受けますが、親子間で継ぐかどうかという場合は「先代は若いうちに引退して、会社には関わらないようにしてください」と言っています。やはり一緒に働いていると、二代目、三代目にも甘えが出ます。誰にも頼れない状況だからこそ、必死で勉強もするし努力もするのです。だから先代はスパッと身を引いてくださいとアドバイスしています。

◆血縁だからこそ経営方針も自然と似てくる

岡田 お二人が二代目経営者として引き継がれて、先代のやり方を意識されている部分はありますか。

諏訪 父はすごくカリスマ性のある人で、50メートル先を歩いていても父だと分かるオーラを出しているような人でした。父の時代はその力で社員全員を引っ張っていく鍋蓋型の組織でしたが、まず私にはそれができません。それと社員として会社に携わっていたので、経営者としての父のやり方を見ていないのです。亡くなってから、もっと話し合っておけばよかったと後悔しました。だから父とは違うやり方になったと思いますが、ここ数年は「先代に似てきた」とよく声をかけられるのです。自然と目指す方向は一緒だったのかなと思います。

赤尾 父は戦争帰りの人でしたが、日本のことや会社の理念を語る人でした。私も父と同じようなことを話し、社員の教育・育成に力を入れています。
 父と同じ経営スタイルになっていることも、決して意識したわけではなく、気が付いたらそうなっていました。創業者の足元にも及びませんが、結局最後は似てしまうということかもしれません。

◆揺るぎない企業理念の継承

創業者と二代目の違いは…

岡田 人材の育成にはどのような方法を取っていらっしゃいますか。

赤尾 月1回「到知」という雑誌を使い、社員には指定した3つの記事から1つ作文を書いてもらいます。それを4人のチームごとで読み合い、美点凝視で感想を伝える。そして私は社員の作文全てにコメントを書いて返却しています。5年前に幹部社員から始めて徐々に広げていき、今年からは60歳以下の社員220名で、この勉強会を行っています。
 結局、仕事をしていく上で大切なことは人間学だと思います。どのような生き方をすべきなのか、どのような心構えで仕事と向き合うべきなのか。社員とともに学び、一人ひとりの考え方や能力を把握することは、まさに私自身の仕事です。また、跡を継いだ当初は古参の役員が12名いましたが、今私以外の役員は生産・営業・管理を担当する3人だけです。能力も愛社精神も秀でたこの3人を見いだせたことは、20年の社長業の中でも先代に誇れる業績の一つだと思います。

◆あえて二代目の独自性を出す必要はない

岡田 赤尾社長は、時代に合わせて多少は変化しつつも、徹底的にお父様が作り上げたアカオアルミの理念を継承していらっしゃいます。しかし一般的に二代目、三代目として経営される方は独自色を打ち出したいと考える方が多いと思います。お二人には起業家のような、全く新しいものを生み出したいというお気持ちはありますか。

諏訪 起業家マインドはないですね。やはり創業することはすごいことで、創業者はインスピレーション型の方が多いと思います。自分の思いついたことが理論でもきちんと説明がつき、そこがとても鋭いので成功にもつながる。二代目、三代目は経営も苦労も見てきている分、果たして自分にインスピレーションで動くだけの能力があるだろうか、と考えるところから始まります。ですから創業者タイプとは逆で、プロセスを重視し、ロジカルシンキングになる。ともすれば守りに入りがちなので、私も成長し続けるために「攻めろ」「動け」と常に自分に言い聞かせるようにしています。

赤尾 継いだ当時は、独自色を打ち出す余裕がありませんでしたが、今も自分の仕事は「人・モノ・金を揃えて最適に配置すること」と割り切って、あとは現場に任せています。部署や役員から「こうしたい」という希望が上がれば、基本的には止めません。だからこそ、幹部社員には当事者意識を強く求めますが。

◆創業者の「苗字」が二代目には「武器」になる

創業者(父)からの指示は…

岡田 血縁関係があるから自然と経営スタイルが似てくるというのは理解できます。ですが、裏を返せば血縁を条件とした事業承継では閉鎖的になりませんか。競争環境の変化や、顧客の志向の変化といった、激しい外部環境の変化に対応していけるでしょうか。復古主義的な企業経営では競争優位性を保つのは難しくありませんか。

諏訪 私の子どもは今19歳ですが、私から社長を継いでほしいと言ったことはありません。社長業には覚悟が要りますから本人の意思が重要です。ですから、すでに社員の中でも社長になりうる人材を育てています。
 ただ、大企業が自社のネームバリューで仕事を取るのに対し、中小企業は社長の苗字がネームバリューとなり、仕事につながります。ですから、閉鎖的だから競争優位性が保たれないとは思いません。
 私は就任当初、本名で仕事をしていましたが、「諏訪の娘」と認識してもらえなくて苦労しました。他人が会社を承継する場合は人的パイプを一から作らなくてはいけませんから、そこが一番難しいと思います。
 二代目にとっては、創業者が作り上げた人脈やテリトリーをつかむことがまず重要であり、苗字はそのための武器となるのです。

赤尾 私も20歳と高2の子どもがいますが、私の代で所有と経営の分離をしっかり行って、他人でも継げるようにすることが目標です。ただ、私も父には「結婚しても名前は変えるな」と言われていました。

◆経営者とは、会社のことを一番に考えられる人間

岡田 創業者と同じ苗字であることは、中小企業にとって経営におけるリソースなのですね。ただやはり、リーダーは育成するものだと考えます。リーダーのシンボル性を強調すると、血縁者以外はリーダーになれないことになりませんか。

赤尾 確かに、経営哲学や企業理念を他人が継ぐのは難しいかもしれません。ただ、本当に大事なのは経営者にふさわしい人を選ぶことです。自分の立場やエゴよりも会社存続のために必要な決断を下せる人、「自分を捨てられる人」こそが経営者にふさわしいと思います。
 私が会社を継いだとき、会社には100億の借金があり、自分の立ち位置や二代目としてのビジョンなどを気にしている余裕はありませんでした。とにかく「会社のためにはどうしたらいいのか」ということしか頭になかった。自分がバトンを渡す番になったら、血縁の有無に関係なく、一番に会社のことを考えてくれる人間を選びます。

◆経営者の必須条件「経営センス」とは

岡田 ここまでのお話で、経営者になるためには専門知識や経験、血縁関係さえ必須ではないということでした。ではプロの経営者として求められる条件は何でしょうか。

諏訪 私が求めるものは経営センスです。経営者という仕事はやはり特殊ですから。

岡田 センスとは具体的にいうとどういうことでしょうか。今若手や中堅には社長になりたい人がたくさんいます。そういう人たちが経営センスを学ぶことはできるのでしょうか。

諏訪 私も「なぜそんな考え方ができるのですか」とよく聞かれます。説明は難しいですが、思い付きではない、経験からくる直観がセンスなのだと思います。周りの環境を分析し、いろいろな判断要素ファクターを組み合わせ、それでいて感覚的に素早く経営判断する。二の足を踏んでいるようではだめなのです。センスがある人たちはいろいろな経験をしていて「まずやってみる」という姿勢があります。
 私が社員みんなに「明日、海外に赴任しろと言われたら行くか」と聞いたとき、即決で「行きます」と答えたのはただ一人でした。その社員を社長候補として現在育てています。素早い判断力や行動力は経営センスに必要な要素だと思います。

◆当事者意識が経営センスを呼び覚ます

岡田 そうすると日本の多くの組織人は、経営者には向かないということですね。

赤尾 センスを発揮できるかどうかには、猛烈な当事者意識があるかないかだと思います。自分がこの会社を動かしているのだという自覚がなければ、責任ある決断はできません。
 私の会社には十数人の管理職がいますが、当事者意識を持ってもらうために「自分を指させ」と言っています。うまくいかない原因を上司や部下、環境など、自分以外のせいにしているうちは、問題は解決しません。他を指さす前に自分を指差し、自分が出来ることに集中しろと言っています。

◆正しい人事なら「女性」を特別に扱う必要はない

岡田 ではここで、女性の働く環境の変化についてもお話を伺いたいと思います。国の政策としても女性活躍推進法や、女性管理職の比率を上げるなど、環境整備が進んできました。女性経営者の視点から、日本の会社の人事政策の変化や疑問点について、意見をお願いします。

赤尾 まずそもそも「女性経営者」という言われ方に疑問を感じます。私自身は二代目社長の視点はあっても、女性経営者の視点は全くありません。わが社も現場、営業、役員それぞれに女性社員がいますが、単なる適材適所。男女差で実力を見ることはありません。

岡田 確かに都知事や、民進党代表のニュースでも、メディアはよく「女性初の」と言っていました。ことさらに「女性」という枕詞をつける時点で、ダイバーシファイされていないということですか。

赤尾 私たち中小企業は、社員の能力が少々足りなくとも、今いる人材をうまく活用して仕事をしていかないと会社が潰れてしまいます。やりくりに必死です。
 それに比べて政治や官僚の世界、大企業では、当選回数や年次など、年功序列で人事が決まるようなことが見られます。今さらダイバーシティだ、女性だと言っているのは、これまでいい加減な人事をしてきたということ。「つぶれる心配がない」と勘違いしているからではないでしょうか。

◆男性社会の中で女性が働く現状

諏訪 私も女性経営者の視点を求められることに強い違和感がありました。
 ただ世間をみると、実際に女性だからという理由で苦労されている方もいます。私自身も男性社会の中に一人入っていくことに多くの苦労がありました。これから二代目、三代目として事業承継していかなくてはいけない娘さんもたくさんいます。そういう方たちの助けになるのであれば、女性目線というものをもう一度見直してもいいと思います。

岡田 どのような視点でのアドバイスができるでしょうか。

諏訪 やはり男性と女性では脳の構造も違いますし、心理学的にも、結果を重視する男性に比べ、女性はプロセスを大事にします。経営者のスタイルもいろいろありますが、サーヴァントリーダーシップと言われる「女将さん経営」のスタイルは、過程を重視したい女性経営者にマッチしやすいのではないでしょうか。

◆年配の男性は、女性の同僚に慣れることから

岡田 先ほど、女性として男性社会に入っていく苦労があったとおっしゃいましたが、どのようなことがありましたか。

諏訪 女性が一人だけということで、やはり目立ちます。ライバル企業が集まる会議などで、私だけ顧客の上層部から話しかけられることも多く、他社から嫉妬されて嫌がらせされたことも多々ありました。

岡田 ダイバーシティという以上、本当は男女差なくフラットになっていなければいけないのですが、実際の職場では女性が男性社員から差別やいじめを受ける例も当たり前のように残っています。
 最近は「男性学」ということで、このような女性の働く環境を根本的に変えるには、まず男性の意識を変革する必要があると言われていますが、男性も変わる必要があると思われますか。

諏訪 やはり40代以上の男性には、職場で女性をどう扱っていいかわからないという戸惑いがいまだに見られます。女性の私でも、女性社員に話をするときには男性に比べて気を遣う部分もありますから、やはり今まで男性だけだった業界は、性差を意識するなというのも無理でしょう。男性には女性同僚と働くことに慣れていってもらう必要があります。

岡田 慣れるためにはどうしたらいいでしょうか。

諏訪 そのような状況で女性が受け入れてもらうには、やはり結果を残す必要があります。私も最初は傷ついていましたが、結果を出すことで徐々に受け入れてもらえました。文句を言わせない仕事をする。これが正攻法だと思います。

◆「ダイバーシティ」が進まないのはなぜか

岡田 十数年前、田中真紀子氏が外務大臣だった頃にも、官僚との関係で女性閣僚としての難しさを語っていましたね。その頃から全くダイバーシティは進んでいないということでしょうか。

赤尾 本来、ダイバーシティ云々と言っていることが、もうおかしいのです。適切な人材を配置し、成果を出すことを一番に考えれば、女性を差別したり、仲間内でつぶし合ったりしないはずです。エゴで何かを決定し、間違った人事を放置しているような組織は必ず弱体化します。組織をつぶさないためにどうするかだけを真剣に考えるべきです。

岡田 「慣れ」の問題だけではないということですか。

赤尾 我を捨てて、問題解決のためにどうすべきかを考えるだけだと思います。
 また、現在の女性就労を支援する政策にも疑問を感じます。2016年の4月に始まった女性活躍推進法も、正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」というのです。つまり女性にも働いてもらって納税してもらおうということが主眼にある政策です。女性が活躍し輝くようにと言いながら、すでに家庭で輝いている女性に対しては否定的です。職場と家庭の両立などを訴えていますが、女性の生き方を限定的に捉えている点で、多様性を認めていないのだと思います。

諏訪 私も厚生労働委員会の会議に参加してお話をさせていただくこともありますが、働きたい女性は意外と多いと思います。でも厚生労働省には生産年齢人口を増やしたいという大きな数値目標があり、数々の施策はそのためでもあります。実際、手に職をつけたい女性の希望とはちょっとずれている部分があるかもしれません。

◆変革によって日本の製造業はだめになってきた

赤尾 1985 年のプラザ合意以来、グローバル化の名のもとに、いろいろな政策や法律が出されました。特にこの20年はデフレと共に日本の製造業がだめになってきた歴史でもあります。デフレの原因は人口減少などではなく、グローバル化の結果だと思います。

岡田 政策として推し進めてきたグローバル化や多様化は、中小企業のものづくりに合わないということですか。

諏訪 まさにそうです。税制に関しても日本の政策は大企業向けであって中小企業向けではないと思います。また働き方に関する規制も三六協定などがあり、高度経済成長期のようなマインドで、ものづくりに没頭することが難しい状況です。多くの規制は、波が激しい中小企業において、社員の一体感や達成感を得づらく、また利益を出しづらくしていると思います。

◆規制や権利主張は働き手のためになっているか

岡田 確かに就業時間に関係なく、いいものを作り、それがお客さんに受け入れられて世の中のためになる、というこれまでのシンプルな構図は成り立ちにくいかもしれません。

赤尾 以前は、今ほどいろいろ整備されていませんでしたが、仕事で得られる達成感や幸福は現在よりも多かったように感じます。今はたくさんの規制ができて、働く人間のためになっているようでそうではない。厚労省によるストレスチェックも、真面目に一生懸命働いているだけなのに、それを鬱病に誘導するような結果が出るのです。
 対立構造があおられて、労働者として会社や世の中に自分の権利ばかり主張している状態です。自ら主体的に動く、働くという考えを持たなくては、幸福感は得られないと思います。

岡田 では、働き方の多様化や自由化というのは、そもそも日本社会に合わないということでしょうか。

赤尾 多様性や自由はもともとあったと思います。働く側は電話一本で退職できる自由を持っていますが、会社側は不誠実な人さえクビに出来ません。どちらが弱者か明らかです。
 また、安全や環境への過度な配慮、マイナンバー管理、働き方改革と、政府からあれこれ押し付けられている状態です。これでどうやって利益を出していくのか。このままでは日本の企業は弱体化していくと思います。この20年間、日本の製造業は手足を縛られたまま、グローバルの海に放り込まれて「泳げ」と言われている状態です。これからは英米のように反グローバルの立場で内需拡大の政策を取って欲しいと思います。

◆人事が担う役割をもう一度見直して

岡田 では、最後に読者の方々に向けてメッセージをお願いします。今後、日本企業は人事政策をどうしていくべきでしょうか。

赤尾 私利私欲やエゴを捨てて、適材適所の人事を行うだけと思います。それが組織を本当に生かすことにつながります。エゴやメンツにとらわれていては、間違いがあったときも素早く修正できませんから。

諏訪 私も適材適所が重要だと思います。その人の生まれ持った適性や性格、能力を生かしてあげられる人事が大事です。そのためにはまず人を見る目を養うこと。
 私は個人の適性を見極めるために、社員と交換日記をしています。これを真似される方も結構いますが、それだけではだめなのです。人を見抜く力がなければ意味がありません。

岡田 やはり最近の社内人事や採用などは、そういう眼力が足りませんか。

諏訪 足りないと思います。コミュニケーションも足りていません。しっかりと対話することで、本人の希望も含めて適性が見えてきます。能力と希望が合致するところに配置してこそ、その人材の能力が最大限に発揮されるのです。

岡田 ありがとうございました。

経営者としての意見交換となりました…


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