戦略人事という言葉に象徴されるように、人事部機能のひとつとして自組織の経営戦略実現を効果的にサポートする機能があります。
 では経営戦略と言った際に、明快に語れる人事担当はどれ位存在するのでしょうか?
 ややもするとタコツボ化した専門性や現場(ライン)との馴れ合いに終始してしまい、自組織にマイナスの影響を与えてしまっているのかもしれません。
 経営感覚を有したプロの人事とはどういった役割・機能なのか?
 今回のインタビューを通じて考えてみませんか。

セレクションアンドバリエーション 代表取締役 平康 慶治 氏

セレクションアンドバリエーション 代表取締役 平康 慶治 氏

ゲスト:セレクションアンドバリエーション 代表取締役 平康 慶治 氏

アクセンチュア、アーサーアンダーセン、日本総合研究所を経て現職。大企業から中小企業まで、150社以上(2017 年時点)の人事評価制度改革に携わる。人材アセスメント分野でも多くの実績を持ち、大阪市特別参与として区長公募面接、局長・部長昇任面接担当官も務める。人材教育分野では、グロービス経営大学院准教授として、多くのビジネスパーソンに組織・人事の仕組みや、リーダーシップ発揮についての教育を進めている。特定非営利法人 人事コンサルタント協会 理事/一般社団法人
高度人材養成機構 理事/大阪市立大学経済学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得

<聞き手>:編集部 岡田 英之


◆企業が最も大事にするべきものは何か

岡田英之(編集部会) 本日は人事・組織分野のコンサルタントとして、企業の制度設計に数多く携わってこられた平康慶浩さんにお越しいただきました。まず、自己紹介をお願いします。

平康慶浩(人事コンサルタント) 大学卒業後アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)に入社、5年でアーサーアンダーセンに転籍し、結局、計10 年はアンダーセンと名の付く会社にいました。しかしエンロン問題の際にアンダーセングローバルとしては人事を扱わないことになったため、昔の上司に声をかけていただいて日本総合研究所に移りました。現在は独立して、セレクションアンドバリエーション株式会社の代表取締役の傍ら、グロービス経営大学院で教壇にも立っています。

岡田 新卒からずっとコンサルタントということですが、何かきっかけがあったのでしょうか。

平康 世の中の仕組みを知ろうと経済学部に進みました。そして、世の中の仕組みの一つである、企業を変革する仕事についてみたいと思ったのです。

◆企業が最も大事にするべきものは何か

岡田 現在、関心を持たれていることを教えてください。

平康 大きくいえば「会社組織と人の在り方」についてでしょうか事業に必要な3要素の中で、人事部門の方々は「ヒトが一番大事」とよく言います。でも会計系のコンサルファームにいた際には、「カネが一番大事」というコンサルタントが多かったのです。そこで一度、人事を否定的に見てみるために、早稲田大学大学院ファイナンス研究科でカネについて学びました。
 しかし、そこで学んだ結果「ヒトもカネも大事ではない。一番大事なのはヒトの想いだ」と考えるようになりました。「想い」があるから、ヒトもカネも集まります。さらに言えば、想いを発信するのがヒトだから「ヒトが大事」なのだ、という風に理解できました。

岡田 想いは人によって千差万別ですが、それをマネジメントしないと経営は成り立たないということですか。

平康 経営においては、一人一人の想いではなく、創設者や経営者の「想い」が大事だと思います。その思いが理念となり、従業員の行動に反映されていきます。それは優先順位を判断する基準にもなります。例えばAmazonの理念は「カスタマーファースト」です。だから語弊がある言い方ですが、Amazon の人事判断では「お客様に迅速に配達する」ためであれば「従業員に休日出勤してもらう」こともあるわけです。

岡田 顧客満足度が高まるなら、従業員に多少の負荷がかかっても仕方がないということですか。

平康 それは言い過ぎですが、どちらかを優先するとすれば、理念に沿った基準を優先することが経営だと考えます。そしてその基準の根底に「想い」があります。
 わがままで極端な理念であってもそれに賛同する人だけが集まり、組織になっていれば問題はなくなります。

岡田 では入社後、お互いにその想いが変化したなら、去ればいいということですか。

平康 そうです。想いから生まれた泡沫(うたかた)のような組織を、環境変化に合わせて最適な状態であり続けるようにすることが経営ではないでしょうか。
 働く人の安定を実現することを考えることは、経営のごく一部でしかないでしょう。

◆甘えない働き方

岡田 少子高齢化に伴い高齢者雇用を促進する検討を進めるなど、社会的にマクロの視点から見る、政策的な仕組みについては、人事としてどう考えるべきでしょう。

平康 生活保障の側面を企業が担わざるを得ない場合もあるのでしょうが、本論ではない気がします。メンバーシップ雇用の側面が強い日本企業としては仕方ない部分はあるのでしょうが、企業と従業員とは本来、対等な契約関係にあるべきだと思います。だから基本的に企業も働く側も、皆自立すべきではないでしょうか。
 そういう意味では両社ともに甘えている人が非常に多いのが現状です。「人が大事」という言葉も強い甘えの表れだと思います。

岡田 具体的にはどういうことでしょうか。

平康 従業員側の甘えとしては、心理的契約としての終身雇用の期待がまさにそうです。また、毎年給与を増やしてほしいとか、プライベートの時間をしっかりとりたい、ということも甘えだと言えそうです。しかしそもそも、働いてもらっている企業側でも、会社の都合で社員に「転勤して」「残業して」と言うのは甘えです。暗黙の裡に相手に期待している事、それらがすべて甘えだと思います。
 自己責任で自立した働き方、働かせ方を仕組みとして明確にし、運用するにはどうすればいいのか。これはもうお金で人を釣る世界ではありません。そこで先ほどの「想い」が出てくる。想いに共感し、それを実現するために集まる人達の集団が、あるべき企業組織だと思うのです。そのための組織作りや人の在り方というのを、うまく定義したいと考えています。

◆人事のあるべき姿

岡田 多くの人事部を見てこられたと思いますが、平康さんは人事部をどういう組織だと思われますか。

平康 本来は経営層に非常に近い、チャンスのある組織です。ただ多くの人事部は経営観点の話をせずに、人事観点の話に終始してしまう。そこが残念ですね。

岡田 経営の話と人事の話は何が違うのでしょうか。

平康 例えば「若手のモチベーションが上がらない、ミドルが疲弊している。だから評価と報酬の仕組みを変えましょう」という話はよく聞きます。ただ経営の視点に立つのであれば、会社の戦略を理解したうえで、現在の状況を見なければいけません。「社長、従業員に求めるセールススタイルが従来のBtoBから変わってきていますよね。そのせいで社員のモチベーションが下がっています。今後も新規開拓を続けるなら、新しい人員を入れる必要があるのではないですか」というような提案をするべきなのです。
 人事の観点だけで話すことは、病気の治療でいうなら「熱さましを飲む」といった対処療法です。しかし経営の観点で話をすることは、原因を探り治療をするということ。クリティカルな考え方をしなければ、経営者の心に響く提案にはなりません。

岡田 自社のビジネスモデルや業界事情、今後の競争優位性などを理解して、その文脈の中で語る必要があるということですか。

平康 そうです。多くの人事は、目の前で苦労している社員に寄り添っています。それ自体は人事の運用のためにはいいことですが、その感覚のまま経営者と話しては、改革の提案にはつながりません。

◆経営と人事の「思考のずれ」はなぜ生まれるのか

岡田 経営の観点で語れる人事が、減ったのでしょうか。

平康 もともと少ないのだと思います。私が仕事で関わった企業は150 社以上ですが、経営者感覚で語れる人事がいる会社は2、3割でした。

岡田 経営層と人事の思考がずれるのはなぜでしょうか。

平康 従業員に寄り過ぎている方が多いですね。そういう人は、人事畑一筋の方に多い気がします。逆に経営の感覚を持っている人は、営業出身の方が多いです。

岡田 人事部員のキャリアパスについても、よく話題になります。やはり他部署を経験して人事になった方は違いますか。

平康 視点が違います。サイバーエージェントの曽山哲人さんは有名な人事責任者ですが、彼も最初は営業でした。私のクライアントでも、営業トップだった女性課長を人事課長に据えて、営業の視点で人事を一気に改革した企業もあります。逆に、社内育成の一環として、若手の人事マンに営業経験を積ませることも効果的なことが多いようです

◆移り行く人事の専門性

岡田 人事のようなスタッフ部門では、同じ職種に長く務めたほうが、専門性が高まるのではないでしょうか。

平康 専門性の蓄積性については企画系と業務系を分けて考えるべきです。業務系をいくら経験しても、企画系の経験には繋がりません。たとえば私自身、給与計算をしたことはありませんが、評価報酬制度の設計においてはプロフェッショナルとして活躍できています。業務系の専門性ももちろん大事なのですが、今後はシステム化の進展やAIによる効率化が進み、今とは異なる専門性が求められるようになるでしょう。
 例えば評価運用一つとってみても、システム活用はあたりまえになっています。人事部門が評価シートを配布するのではなく、現場ですべてシステムを使って評価の確定までやってしまうことも珍しくありません。

岡田 給与系サマリーや社会保険の手続きなど、ルールの決まっている作業はなくなっていくということですか。

平康 社内のいわゆる総合職正社員の役割ではなくなる可能性が高いでしょう。その代わり、アウトソーシングとか、大企業であればシェアドサービス化することになると思います。
 ある重厚長大系メーカーの組織変革を手伝った際には、人事、経理、法務、物流、IT、これらすべての部門をシェアードサービス化しました。結果として売上高5000 億ぐらいの企業で、人事本部に残した人員は3~5人になりました。あとの数十人は別形態の給与となり、各々のルーティンで品質とスピードを守ってもらえばいい、ということになったのです。そして残った3~5人は、人事戦略を企画することに特化しています。

◆人事部の「今」

岡田 「人事部不要論」は90年代後半にも話題になりました。2000年中ごろからはコンサルも入り始め、さまざまな組織変革が行われました。あれから16、7年経ちますが、人事部はどこまで健全に解体されたのでしょうか。

平康 人事に関わる人数自体は減っていないと思います。ただ、コストは下げているのではないでしょうか。例えば神戸の某上場企業はグループでのシェアード化を徹底している会社です。業務を移管しているだけなので雇用している人数は変わりませんが、所属や給与形態が変わることで、人事部全体のコストは下がっていると思います。

岡田 人事部門を完全になくすことはできないということでしょうか。すべての人事部門をアウトソーシングできないのですか。

平康 経営と人事とをつなぐ役割がないがしろにされることはありません。最初に申し上げた、想いにあわせた採用や配置、教育、入替などには、想いを理解できる人事の役割が必須だからです。

◆これからの人事に求められるバリュー

岡田 今後人事に求められる役割は、経営層の想いを実現するためのエージェンシーということでしょうか。

平康 人事に聞けばうちの会社がこれからどこへ向かおうとしているのか分かる、という状態が一番いいでしょう。人事部としては、必ず経営戦略の中に人事戦略が入っていて、それが重要な位置を占めているという形を目指すべきだと思います。

岡田 そこはAI にも駆逐されない、人事部員のバリューになるのでしょうか。

平康 そこだけは絶対に消えません。わがままな経営者の想いや組織風土などをきちんと理解し、現場に伝えるのは人でないと難しいと思います。

◆新たなスキルを身に着ける

岡田 今後の人事の専門性が、経営層の想いを施策に具現化し、伝道師のように伝えることだとすれば、若手人事マンはどこでそのスキルを身につければいいですか。

平康 一つは環境変化を冷静に見極めるためのフレームワークの知識が必要です。例えば3C分析やPEST分析のような古典的な手法でもいいので、自社のビジネスや業界で、今何が起きているのかを見極める目が重要です。その点ではビジネススクールも非常に有効でしょう。
 もう一つはビジネスの現状と社内のギャップを理解することです。「若手がやる気をなくしている」というのなら、その本質にたどり着く目も必要になります。

岡田 本質を見極めるためには、何を学べばいいですか。

平康 この点は人のモチベーションの在り方など、最低限の心理学的な知識も必要だと思います。

◆「人的資本価値」を理解するところから始めよう

平康 私はよく「損益計算書(P/L)だけでなく貸借対照表(B/S)を理解できなければ人事マンとして失格だ」と言っています。

岡田 それはどういう意味合いで必要なのですか。

平康 これは私も起業して初めて理解できたところですが、資本が蓄積されて初めて会社は成長します。利益が資本に移行していくとき、人はコストを払うだけの存在でB/Sには載りません。では人がB/Sに貢献するためには何をするべきか、それを考えなくてはいけないのです。

岡田 人を人件費としてではなく、資本化する必要があるということですか。でも人的資本価値を算出するのは難しいですよね。

平康 一時期、インタンジブルアセットとして人的資本を計算しようという動きも流行りました。人をコストにしないためには、やはりB/S で考えないとだめなのです。コストとして人を使い捨てのように考えている会社は絶対に伸びません。そして人を育てる意識をもつには、人事こそがやはり会計をきちんと理解する必要があるのです。

岡田 例えば製造業の期間工をアセット化しようとしたときに、すぐに研修やモチベーションの話になります。でもその前段階として、期間工の人たちを長期的、有効な資本にして回転率を高めていこうという発想が必要だということでしょうか。

平康 そうです。そういう視点を持つためにも座学は大事です。またぜひやってみてほしいとお勧めしているのは、一度「自分で会社を作る」ことです。少額でいいのでお金を稼ぎ、決算書類もすべて自分でやれば、すぐに理解できるはずです。私も起業後3年間はすべて自分でやっていました。

◆社員はどこで学ぶべきか

岡田 一時期、越境学習も流行りました。社内研修よりも外で学ぶべきだというものですが、実際は「あまり役立たない」という話も多く聞きます。サードプレイスラーニングの価値は今後どうなっていくのでしょうか。

平康 外部での学習することの価値は高いと思います。ただし「7・2・1の経験則」で示されるように、しょせん座学には10%の「気づき」効果しかありません。あとの20%が人とのつながりであり、70%は実務のOJTです。サードプレイスラーニングの価値とは、気付きを与えてくれる座学と人的ネットワークです。それを成長につなげるためには、やはり業務に持ち帰って活用することが重要なのです。

◆専門職としての人事と転職

岡田 人事担当者がいろいろな企業を渡り歩く事例も増えています。今後は自社の経営への理解が求められる以上、それはよくないことなのでしょうか。

平康 環境変化を理解して、自社のビジネスの本質をつかもうとするなら、いろいろな会社を見たほうがいいでしょう。転職は有効だと思います。

岡田 いろいろな会社を見ることで違いに気づき、自社への理解も早く深まるということですか。

平康 そうです。ただし「前の会社はこうだった」と繰り返すだけなのは論外です。前の会社のやり方にとらわれず、あくまで自社の本質に迫る必要があります。

◆成果主義はなぜ失敗したのか

岡田 これまでに、経営層の課題認識とずれている、人事の「愚策」は何かあったでしょうか。

平康 お金で人を釣ろうとすると短期的には良いのですが、中長期的には大体失敗しましたね。ただ、私自身も当時は成果主義の効果を信じていた部分がありました。

岡田 大企業の多くが成果主義を取り入れたことで、流行りに乗るように導入した中小企業もありましたか。

平康 ありました。それは多分、コンサル業界にも非があります。成果主義の説明資料でも「優秀な人に報いて、できない人に改善のきっかけを与える」などと書いていましたから。ですが本質は、限られたパイの中で傾斜配分をしたいというニーズから始まったものです。もちろん前向きな想いもありましたが、人件費の単純増や年功序列を止めるための、リストラ混じりの一面もあったわけですから、多少うそがあったのです。

岡田 儲けを出すためには、できる営業マンに多くのインセンティブを払う必要があり、そのしわ寄せが稼がない人間にきたということですか。

平康 そうです。ただそのときに失敗だったと思うのは、結局「人の心」を分かっていなかったことです。成果主義で差をつけられた側は、何をやっても無駄だという学習性無力感の状態に陥ることもあります。一方でもらっている側にはアンカリングが働き、もらって当然と思うようになってそこからの成長がなくなったりもしました。
 ダニエル・カーネマンが2002 年に行動ファイナンス理論でノーベル経済学賞を受賞しました。成果主義の導入当時にその理論のような心理面についての理解があれば、評価や報酬の出し方をもっと工夫して、人のやる気を効果的に引き出せたのかもしれません。

◆評価と給与が直結しない時代へ

岡田 確かに当時は、行動心理学、行動科学、意思決定論などは、ビジネスの世界ではあまり注目されていませんでした。現在、成果主義や評価制度は、給与額を決定する基準としては用いられていないのでしょうか。

平康 評価制度は給与額を決めるためではなく、社員の行動を集約し、事業目標を達成するためのマネジメントツールとして用いるべきだと思います。アメリカではノーレイティングというように、評価そのものを日常化する動きもあります。
 さらに部門に報酬原資を一括で渡し、部門内で給与額を決めさせたりする会社も出てきました。その意味では、評価と報酬とはつながりますが、生活給としての側面は薄れていくように思います。

岡田 しかし社員個人の目線で考えれば、今も評価イコール報酬イコール生活給だという思考回路は残っていると思います。

平康 たしかに評価する管理職も、相手の生活状況を考慮していたりしますね。けれどもそれはそもそも、支払っている金額が低すぎるからです。経営者と従業員とが正当な契約関係になるのなら賃金カーブも逓増型に変える必要があります。

岡田 今は経営と働く側が馴れ合っているのでしょうか。

平康 甘えの循環というか、共依存の状態ではないでしょうか。これを断ち切るには、まず企業側が変わらないといけません。

岡田 マインドを変革するためには、職務ベース、同一労働同一賃金など、あくまでジョブや役割に対して給与を支払うべきでしょうか。

平康 理想としてはそうです。ただし日本は生活給の時代が長くあります。ですから、わが社が制度を作る際にもハイブリッド型を提案しています。要はコンピテンシーとジョブグレードを案分するのです。例えば、ジョブが変わっても給料の下げ幅は考慮します。また成長を評価し、ジョブグレードが同じでも昇給させたりします。

◆根強い同調圧力の壁

岡田 昨今のダイバーシティへの人事の取り組みについてはどう思われますか。

平康 「育休期間の延長」は最大の愚策だと思います。逆に3か月ぐらいに止めて、時短勤務を積極的に許容し、かつ時短でも損をしない状況にするべきでした。
 一昨年、育休や時短を取って戻った多くのワーキングマザーにインタビューしたのですが、キャリアを積みたい方にとっては、休みは価値がないという結論でした。

岡田 ワークキャリアの観点からは、長い育休は必要ないということですか。

平康 そうです。本当は子どもと一緒に働くことを是とする方向にもっていくべきだったのです。会社に子どもを連れてきてもいいし、生産性を上げて仕事をすれば、早帰りを認めてもいいはずなのです。このような思考が広がらないのは、法律を作るのも、会社の上層部も昭和感覚のままで、同調圧力が強いからだと思います。実際、若い会社では、真に子育てと仕事を両立させる働き方が認められてきています。

◆「会社」が許容できる能力格差の限界

岡田 今のお話はハイパフォーマーの人に限られませんか。ローパフォーマーの人に同じような働きは難しいのではないでしょうか。

平康 ローパフォーマー問題は、また別だと思います。ローパフォーマーに生活できる給料を払うことは、できる人の生産性を高めないでしょう。機会均等の社会であるならば、結果的には能力格差社会になるのです。

岡田 2・6・2の法則など、人事がよく言うロジックは「会社にはいろいろなやつがいる。できるやつばかりに手厚い制度はだめだ」というものです。定年後も残りたい人には、その人にできる仕事を探してきたりもします。気持ちは分かりますが、それは企業人事の役割外だと思うのです。

平康 そのような考え方は共同体意識から来るのだと思います。会社に一生勤めるつもりでいるから、企業にしがみつくようになるのです。もっと副業を促進して、会社への依存度を減らすべきだし、企業も「雇ってやっている」という発想を止めなくてはいけないと思います。

◆タレントマネジメントをさらに発展させる

岡田 グローバル化の取り組みについてはどうですか。グローバル人事やタレントマネジメントなど、人事がグローバル化されることに意味はあったのでしょうか。

平康 多くの施策の中で唯一今後も必要だと思うのは、タレントマネジメントの一環である「階層化」です。一定以上の能力レベルになればグローバルタレント扱いをします。その中でも特定のグレードまで上がったら、それまではローカルハイヤーとして地域ごとの報酬水準だったとしても、「一律10 万ドル」などにします。そして、この人たちには世界中で勤務してもらうのです。
 このような仕組みは、グローバル企業に限らず、複数の事業を行うグループ経営において必須になってきます。また、その立場になる人は、その会社が目指すビジョンを実現し、将来の成長も期待できる人材であるべきです。

岡田 グローバル化すべき人材とローカルで成果を出すべき人材は、優劣の差ではなく、あくまでファンクションの差として考えるべきでしょうか。

平康 そうですね。実際に日本発のメーカーの人事部を作ったときにも優劣の問題が出ました。アメリカとヨーロッパの売り上げが全体の50%を超えているのですが、国別では日本単独の売り上げが一番多い。ではCEOの給料はアメリカと日本のどちらを高くするべきなのか。日本のCEOは英語も話せず、ローカルでしか活動できない人でしたが、結局日本のCEOの給料を上にすることで決まりました。
 このように、ローカルのトップがグローバルの水準を越しても別に構いません。ただ移動や教育の方向性が違う存在として、グローバルタレントを置くべきです。

◆経営者感覚で語れてこそ、プロの人事

岡田 最後に、これからの人事部が目指すべきあり方について、読者に向けて一言お願いします。

平康 人事部に配属されたのはチャンスです。今後得るべきスキルや経験を総称するなら「アントレプレナーシップ」だと思います。
 人事部の組織形態は会社に合わせて、今後ますます多様化していくでしょう。しかし、どんな形であれ、自社の経営への理解を深め、戦略的な提案をしていけば、経営層に近い存在になれるでしょうし、会社の経営戦略にとって大きな力になれると思います。

岡田 ありがとうございました。