このコラムでは、日本で長く続く伝統やそれを守る人々を、見てきました。人々がどんな思いで考え、知恵を巡らして、それぞれの伝統を守り、後世に伝えてきたか?そこには、答えは一つでなく、時代の背景や環境にあわせて、対応をしてきたことが読み取られました。現代に住む我々にとっても、今の環境に合わせたさまざまな答えがあるのでしょう。
 先人が辿って来た道、現在も伝統を守る人びとを取り上げる中で、訪れた場所はさまざまでした。あらためて、伝統を守る人々や情報をまとめてお伝えしたいと思います。
 皆様がお考えを巡らせる際に、参考になればと願います。

伝統を守る家と人たち(掲載順)

  • 小笠原流弓馬術礼法おがさわらりゅうきゅうばじゅつれいほう
  • 宝蔵院流高田派槍術ほうぞういんりゅうたかだはそうじゅつ
  • 日本刀を支える刀鍛治
  • 元薩摩藩青少年教育「郷中教育ごちゅうきょういく

小笠原流弓馬術礼法おがさわらりゅうきゅうばじゅつれいほう

 小笠原家は、弓馬術礼法の伝統を一子相伝で鎌倉時代から800年ほど受け継いできた。初代小笠原長清おがさわらながきよが鎌倉幕府初代将軍源頼朝の糾法きゅうほう(礼法・弓術・弓馬術)師範に任命されたのを始まりとして、その後、室町幕府足利将軍家、江戸幕府徳川将軍家の師範を務めた。明治時代以降は一般へ門戸を開き、伝統の継承を行っている。現在の宗家は31代目小笠原清忠おがさわらきよただ)氏。門人と共に全国の神社などで流鏑馬やぶさめや礼法の儀式、弓術の神事を奉納している。

【小笠原流弓馬術礼法の現在の活動】
 毎年全国各地で神事を奉納し、流鏑馬まつりなど行事でその伝統を披露している。

 流鏑馬神事や行事
宮崎神宮(4月)、浅草流鏑馬(4月)、賀茂御祖神社(下鴨神社)(5月)、日光東照宮(5月)、鶴岡八幡宮(9月・10月)、日光東照宮(10月)、笠間稲荷(11月)、多度大社(11月)
その他、草鹿式くさじししき百々手式ももてしき大的式おおまとしき三々久手狭式さんさんくてばさみしきなどの弓術に関わる神事や行事

その他、各地の教場やカルチャースクールで礼法教室、和食の作法教室、講演会等を行っている。
詳しい事については、下記のサイトを参考していただきたい。
小笠原弓馬術礼法 http://www.ogasawara-ryu.gr.jp

鶴岡八幡宮崇敬会例祭での流鏑馬

鶴岡八幡宮崇敬会例祭での流鏑馬

 小笠原流が毎年執行する鶴岡八幡宮での流鏑馬。この神社には流鏑馬専用の敷地が参道を交差するように伸びている。毎年9月16日に流鏑馬神事が行われ、古式ゆかしき形式にのっとり執行される。秋の崇敬者大祭など、流鏑馬の詳しい執行内容については鶴岡八幡宮のホームページまで。
鶴岡八幡宮 https://www.hachimangu.or.jp/



宝蔵院流高田派槍術ほうぞういんりゅうたかだはそうじゅつ

 興福寺僧宝蔵院覚禅房胤栄そうほうぞういんかくぜんぼういんえい(1521~1607)が創始者。猿沢池に映る三日月をみて十文字鎌槍を作り出し、この十文字鎌槍がその特徴となる槍術の流派である。その正統は、高弟中村尚政なかむらなおまさ高田又兵衛吉次たかだまたべえよしつぐへと伝わり、以後子孫代々がこれを相続。そして高弟森平政綱ら3名が江戸に出てその槍法を広め、弟子4000人と伝えられる最大の流派となった。明治維新にかけ、廃仏毀釈などの災難にあうが、脈々と受け継がれ、現在は21世宗家一箭順三いちやじゅんぞう氏がその伝統を受け継ぐ。

【宝蔵院流槍術 現在の活動】

奈良本部道場での稽古風景

奈良本部道場での稽古風景

 奈良市を中心に、日本各地、そしてドイツに道場を構える。
奈良本部道場、名古屋道場、大阪道場、ドイツハンブルグ稽古場

 宝蔵院流こども槍術教室などを開講し、小学生に教える講座も開いている。主な行事は、
宝蔵院流槍術・柳生新陰流兵法やぎゅうしんかげりゅうへいほう 春日大社奉納演武会(4月)、靖国神社春季例大祭(4月)、宝蔵院流槍術興福寺奉納演武会(9月)、鹿島神宮奉納 日本古武道交流演武大会(10月)、春日若宮「おん祭」 槍術奉納演武奉納(12月)、日本古武道演武大会(2月)。その他にも各地の神社に演武を奉納。

更に詳しい事をお知りになりたい方はこちらを参考に。
宝蔵院流槍術 http://www4.kcn.ne.jp/~hozoin/

 初代胤栄いんえいが所属した興福寺は、その当時奈良の行政を担うほどの大きな組織であった。運営できる人材をかかえ、その組織経営にあたっていたと推測する。その中から発酵技術が発達し、お酒などの発祥の場所であるというのも興味深い。近鉄奈良駅からも徒歩5分程度。「阿修羅像あしゅらぞう」が納められる国宝館は2018年1月にリニューアルオープンする。その他境内には三重塔、五重塔、国宝級の建物が並ぶ。江戸時代の敷地からはるかに小さくなったと言われるが、実際歩くとその規模の大きさを感じていただけると思う。
法相宗大本山 興福寺 http://www.kohfukuji.com/

 

◆日本刀の伝統を紡ぐ刀匠

月山日本刀鍛錬道場入口

月山日本刀鍛錬道場入口

 月山一門というのは、鎌倉時代初期、奥州月山鬼王丸おうしゅうがっさんきおうまるを起源に約800年続く刀鍛冶の一門。江戸時代の終わりに月山貞吉が大阪に移住し、月山貞一さだかず(帝室技芸員)、月山貞勝さだかつ、月山貞一さだかず(重要無形文化財保持者)、現在の月山貞利さだとし氏、その後継の月山貞伸さだのぶ氏へとその伝統は受け継がれている。江戸から明治、そして戦前から戦後と移る際に西洋文化が日本に導入され、古い伝統は存続の危機を迎えるが、月山刀工もその一つであった。しかし先人の苦労と工夫によりその伝統は受け継がれ、更にその技術や伝統は研ぎ澄まされてきた。月山刀工の最大の特徴は刀身に現れる「綾杉肌あやすぎはだ」と言われる模様である。現在は奈良県の三輪山麓に「月山日本刀鍛錬道場」を構え、数々の日本刀を世に送り出している。
月山日本刀鍛錬道場 http://gassan.info

 2017年にオープンした新刀剣博物館。両国国技館近くの旧安田庭園の一角にある。日本刀に関して更に知りたい方はこちらの施設にも訪れる事をお勧めする。
刀剣博物館 https://www.touken.or.jp/museum/

 この博物館を運営する公益財団法人日本美術刀剣保存協会は、たたら製鉄の製法で玉鋼を製造する日本唯一の施設「日刀保たたら事業所」も運営する。基本的に一般へは公開をしていないが、和鉄と言われるたたら製鉄の製造方法と成り立ちはとても興味深い。こちらのサイトが参考になる。
鉄の道文化圏推進協議会事務局 http://www.touken.or.jp

 また、現在日本各地で活躍する刀匠が会員となって運営している全日本刀匠会。ますます今後の活躍を楽しみにしたい。現在の会長は三上高慶氏。
全日本刀匠会 http://www.tousyoukai.jp



◆薩摩藩の郷中教育ごちゅうきょういく

 現在NHKで放映中の大河ドラマ「せごどん」の主人公西郷隆盛は、薩摩藩の下級武士に所属しながら、明治維新をけん引した重要人物の一人である。その西郷隆盛が長老を務めたという、薩摩の郷中教育を寄稿させていただいたことがある。青少年が年下の子供達を指導するというとてもユニークな教育システムであるが、この教育システムは一朝一夕にできたわけではない。豊臣秀吉の朝鮮出兵に駆り出された薩摩武士が留守をする中、青少年の教育は深刻な問題となった。更に江戸時代に発生する様々な問題を解決しながら、試行錯誤してできた青少年を育てる仕組みはとても興味深い。郷と言われる行政組織の中で、この郷中教育に参加する青少年は次の年齢層に分けられた。

小稚児(こちご、6-10歳)、長稚児(おせちご、11-15歳)、二才(にせ、15-25歳)、長老(おせんし、妻帯した先輩)

 島津家中興の祖で、島津義弘の祖父でもある日新斉島津 忠良(ただよし)が作った「日新公いろは歌」が基本となり、素読、薩摩琵琶などの音楽、示現流という武術などがいわゆる教科となる。その中にも西洋のディベートにも似た詮議せんぎなどがあり、現代に住む私でも新鮮でユニークな教育システムと感じる。
その郷中教育で剣術の基礎となるのは示現流じげんりゅう)。
示現流兵法所 http://www.jigen-ryu.com/about_tombo1.html

 更に郷中教育を詳しく調べてみたいと思う方は、以下の施設をお勧めする。
鶴丸城跡の黎明館正門れいめいかんしょうもん(御楼門部)にある鹿児島県歴史資料センター黎明館 https://www.pref.kagoshima.jp/reimeikan/
維新ふるさと館 http://ishinfurusatokan.info/

仙巌園の庭の前に見える桜島

仙巌園の庭の前に見える桜島

 その郷中教育で鍛えられた青少年たちを束ねる島津藩藩主である島津家。鎌倉時代から続く島津家も長く続く家と言えよう。代々島津家の別邸だった「仙巌園せんがんえん」は、万治元(1658)年、19代島津光久によって築かれた。目の前に桜島、そして中国の影響も向けられる庭園が美しい。邸内に建てられた御殿では、御殿ガイドツアーが毎日20分おきに開催されていて、島津藩主の生活ぶりが見られるので、こちらも興味深い。隣にある尚古集成館しょうこしゅうせいかんでは、島津家の歴史、そして日本の近代化の様子も見られる。
仙巌園 http://www.senganen.jp/


 日本は世界から見ればほんの小さな国だ。しかし、各地にはとても興味深い伝統が多く伝わり、それを伝えた人たちがいた。その方々の辿ってきた道のりを探り、その叡智にふれるのも面白いかと思う。

取材・文:中田 尚子(Insights編集部員)



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