既に役割を終えても新陳代謝が進まないことが、日本企業の共通の悩みです。放置して多くと企業内に不必要な脂肪がたまってしまいメタボ体質の企業になってしまいます。そこで何かしらの手当てが必要なことは周知の事実です。しかし問題なのは、メタボ体質まではいかないが、その兆候が見られる中途半端な状態の企業です。際立った問題がなければ放ったらかしになってしまうものですが、そこに対してしっかり手当てをするかどうかが、筋肉質な会社(アスリート企業)と体脂肪率の高い企業(メタボ企業)の差を生みます。ではその手当とは? 行動経済学的視点もブレンドしながら考えます。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

株式会社経営共創基盤(IGPI) パートナー 木村尚敬
パートナー、取締役マネージングディレクター
ベンチャー企業経営の後、日本NCR、タワーズペリン、ADLにおいて事業戦略策定や経営管理体制の構築等の案件に従事。IGPI参画後は、製造業を中心に全社経営改革(事業再編・中長期戦略・管理体制整備・財務戦略等)や事業強化(成長戦略・新規事業開発・M&A等)など、様々なステージにおける戦略策定と実行支援を推進。
IGPI上海執行董事、モルテン社外取締役、サンデンホールディングス社外取締役
慶應義塾大学経済学部卒、レスター大学修士(MBA)、ランカスター大学修士(MS in Finance)、ハーバードビジネススクール(AMP)

木村さんの最新著書です!

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◆経営支援の中で見えてきたもの

岡田英之(編集部会) 本日は、『ダークサイド・スキル』を上梓された木村尚敬さんにお越しいただきました。まずは自己紹介を兼ねて、木村さんのこれまでの活動について教えてください。

木村尚敬(経営共創基盤パートナー 取締役マネージングディレクター、IGPI上海執行董事) 私たち経営共創基盤では、ベンチャー企業や地方のローカル企業、それから大企業や海外まで、さまざまな会社の経営支援を行っています。私自身は製造業を中心とした昔ながらの大企業を主に担当しており、2社の社外取締役を務めています。一般的なコンサルティング会社では経営陣にアドバイスをすることが主となりますが、弊社では、私を含めスタッフ自身が時には当事者として経営実務にどっぷりと入り込んで、経営改革を進めていっています。
 経営支援の方向性は大きく2つに分かれます。1つは健康体の企業がさらに強くなるために、いわばオリンピックレベルの選手が金メダルを目指すためにどうしたらいいかというハードトレーニング系。もう1つは、このままいくとメタボになってしまう、さらに深刻なケースでは「がん」があるような企業が、そこから健康体になるための支援です。
 さまざまな企業の経営を支援していく中で、多くの日本企業には共通した特徴があることが見えてきました。割とメタボ系寄りの企業でよく見られるパターンをまとめたのが、この『ダークサイド・スキル』です。よく「うちの会社のことを書いたでしょう」と言われることがありますが、どこも似たような傾向があって、それを書いています。

岡田 個別企業の具体例ではなく、メタボ体質に陥ってしまうような企業には共通点があるということですね。

木村 そうですね。私自身が実際に経験したことを集大成して俯瞰(ふかん)してみると、こういうことだろうなというものをかたちにしました。

◆放ったらかしがメタボを生む

岡田 何が原因で、メタボ体質の企業ができてしまうのでしょうか。

木村 新陳代謝が遅れているせいで、会社の中に不必要な脂肪がたまってしまうのだと思います。仮に10個の事業があったとして、うまくいっている2、3個については、トップも注目して投資を行うので伸びていきます。また、全くうまくいっていない事業についても、不採算事業をそのままにしておくと大きな問題になってしまうので、何かしらの手当てをしていることが多いと思います。
 問題は、そのはざまにある、あまり目立たない、私の言葉で言えば中庸の事業です。目立つ問題がなければ放ったらかしになってしまうものですが、そこに対してしっかり手当てをするかどうかが、筋肉質な会社と体脂肪率の高い会社の差を生みます。うまくいかない事業を全部やめたほうがいいということではないのですが、自社で無理なら誰かと手を組むとか、いろいろと取るべき対策はあるはずです。

岡田 放っておくのが一番よくないということですね。

木村 ただ、どうしても放っておきたくはなるんです。会社が大きくなればなるほど、経営層が全ての事業の一次情報を把握することは困難で、主力事業や自身の経験のある事業ばかりにスポットライトが当たりがちです。それ以外の事業は、現場から上がってくる二次情報ベースでの判断が基本となり、その他大勢の固まりになりがちです。その固まりに対して、現場を見ているミドル層が、トップに対してどういうパス出しをするかによって、意思決定の質が変わってきます。

岡田 トップマネジメントに正確な二次情報が上がってこなかったり、情報にひずみがあったりすると、メタボ体質が進んでいくことになるわけですね。

◆改革を進めるリーダーのためのスキル

岡田 ご著書を拝読させていただいて、経営全体の俯瞰的な話というよりは、実践的な内容が多いと感じました。主にどういった層をターゲットにして執筆されたのでしょうか。

木村 企業の成長過程においては、2つのパターンがあります。1つは、昔の日本のメーカーの強さの根本でもある、現場の改善活動の積み重ね。昨日より今日、今日より明日と日々改良を重ねていく、連続的な進化です。
 それに対して、これまでとは全く異なる、新しいものに変えていくのが改革です。非連続的な改革をやっていこうとすると、組織の中にひずみが起こったり、異論を唱える人が出てきたりして、前に進みにくくなることが多々あります。そのように、今までとは違うやり方で、会社を変えていきたいと思っている人に向けた内容になっています。

岡田 ご著書では、戦えるミドルリーダーになるためのダークサイド・スキルということで、具体的に7つ紹介されています。「思うように上司を操れ」、「堂々と嫌われろ」など、思い切った内容ですが、それこそが変革リーダーとして必要だということでした。これが全ての組織に当てはまるかというと、そうではないように感じましたが。

木村 全ての組織というより、全てのリーダーに当てはまるわけではないですね。連続型の進化を行っている組織であれば、今までどおりチームワークを大事にするほうがいいでしょう。どちらかというと、あつれきを生みながら会社を変革していこうというリーダーに求められるスキルだと思います。

岡田 とはいえ、働き方革命や生産性革命など、従来の延長線上にはないイノベーションが昨今は求められています。結局は、ほとんどの企業が参考にすべき内容なのかもしれません。

木村 そうですね。会社の中には、連続的な部分と非連続的な部分が共存しています。割合の違いはあるにしても、その共存の中で変革型を求められているリーダーに求められる要素だと考えています。

◆忖度(そんたく)から多様性は生まれない

岡田 7つのダークサイド・スキルの中で、私が最も気になったのは「KYな奴を優先しろ」です。職場にはいろいろなタイプの人がいますが、日本的な組織だと阿吽(あうん)の呼吸が好まれて、KY(空気が読めない)な人はコミュニケーションが取りにくいと避けられがちではないでしょうか。でも、むしろ逆だということが書かれています。

木村 連続的な進化においては、同質性だとか、阿吽の呼吸は極めて重要です。ただ、非連続な改革をするのであれば、多様性のある違った考え方を取り入れていかなければなりません。そのために、「KYな奴」が必要になってきます。例えば、上司が右だと言ったときに、自分は左のほうが正しいと思うと言えるかどうか。組織の中で忖度(そんたく)をせずに意見を言えるといった意味で、KYな人が必要なんです。

岡田 KYな奴が忖度せずに直言する。そして、上司の側もその意見を受け止めて、建設的な意見交換ができるといいですね。

木村 意見をぶつけ合うことで、右でも左でもない、上のほうがいいんじゃないかみたいな、新しい視点が出てくる可能性もあります。

岡田 若手の反対意見と議論を交わすというのは面倒ですが、そこを逃げては駄目なんですね。

木村 KYに何でも言える文化を醸成しないと、組織の中に多様性が生まれてきません。

◆言いたいことを言える雰囲気づくりを

岡田 KYな意見の中に、改革のヒントとなるエッセンスが隠されているかもしれないわけですね。そういった意見は、どうやったら引き出せるのでしょうか。

木村 いきなり全部言えといっても難しいと思いますが、部下が言いたいことを言えるように働きかけていくしかないでしょうね。そして、自分の意見を言う人が少しずつでも出てきたときに、反対意見であっても芽をつぶさず受け入れることがポイントです。これをとにかく繰り返しやることで、少しずつ意見を言える文化ができてくるはずです。
 ダイバーシティーとよく言いますが、性別や外国人、LGBTなど、外見での多様化の話がほとんどです。でも、例えば女性を登用すれば多様化するかというと、その女性がおじさんと同じような意見を言うようでは、社内の多様化は本当の意味では進まないと思うのです。

岡田 女性でも、その辺のおじさんと同じ考えの人もいますよね。

木村 日本企業のマジョリティーである、新卒日本人男子や社会人歴15~20年で家族もいるような中堅層が、しがらみにとらわれずに言いたい意見を言えるかどうか。これが真の多様性を生み出すのだと思います。

◆改革のための重要な要素

岡田 経営者の側が建設的で活発な議論を求めていても、なかなか現場の側がそういった方向に進まないケースもあります。

木村 そうですね。おっしゃるように、トップが改革を指示しても、現場が抵抗する場合もあります。一方で、現場の改革派が一生懸命パスを出しても、変化を好まないトップが動かないというケースもあります。改革派のトップがいるだけはうまくいかなくて、その下のミドルも改革派で、トップに正しいパスを出すことができてこそ、組織を動かすことができるのです。

岡田 組織改革を進めようとしても、何年たっても結果がでないという企業もよくあります。トップの号令だけではなく、ミドルクラスからジュニアクラスまで、ゴールに向かうためのパス出しがきちんとできていないと駄目だということですね。

木村 トップの号令だけで全社が動くのは、一部のオーナー企業だけですね。日本には、強烈なトップダウンの組織というのはほとんどなくて、何千とある上場会社のほとんどは、ミドルとトップの掛け合いで会社が成り立っています。改革を進めていくには、両者がうまくかみ合っている必要があるのです。

岡田 メタボ体質になってしまうような企業は、オーナー型はほとんどないですよね。伝統的な日本企業が改革を進めるには、他の経営組織で学んだような改革派を思い切ってミドル層に登用するほうがいいのでしょうか。

木村 外部から人を入れれば、改革が進むというわけではないと思います。平常時にいきなり外部から人が来ても、社内を理解するのに時間がかかってしまって機能しないこともよくあります。それに、ミドルがいいパスを出しても、決断をするのは結局はトップです。つまり、トップの意思決定力を高める必要がある。そのためには、例えば、ミドルのうちからシリアスな意思決定の訓練を重ねていくなどして、将来経営側の立場に立てる、決断力のある人材を育てていくというやり方もあります。

◆決断力のあるリーダーの育て方

岡田 情報がそろわないと判断を先送りしがちですが、本当の意味での意思決定というのは、たいていが情報が不完全な中での決断になります。間違った判断をすれば、それなりの責任を問われることもある。ミドルマネジメントのうちに、どれだけそういう場数を踏めるかということですね。

木村 リーダーを成長させるために、タフ・アサインメントで経験を積み重ねさせているところも割とあります。

岡田 リーダー候補の人材を、例えば新興国などの不確定情報が多いマーケットにアサインして、その中で厳しい経験を積ませて育成していくわけですね。

木村 弊社では田舎の駅長モデルと呼んでいますが、地方の小さい駅だと、駅長さんが全ての業務をこなさなくてはいけないんです。東京駅だと、同じくらいの年次の人でも駅長になることはなくて、何々係という狭い範囲での業務になってしまいます。そこで経験を積むよりも、小さいユニットのトップとして、全てを自分で判断して動かしていく、その積み重ねで判断力のあるトップが自然とできてくると考えています。

◆煩悩に溺れず大志を抱け

岡田 私の周りに、この本を読んでちょっと違う捉え方をしている人がいます。ダークサイド・スキルを使って、組織の中で効果的に人を動かしていく。それを、自分の成果をアピールしてポジションアップを図っていくためのスキルだという見方をしているのです。
 20~30代前半の若手世代は、タフ・アサインメントのような修羅場経験はしていないことがほとんどでしょうし、社内の人間関係をコントロールして、自分と組織がwin-winの関係になるようにするというところに考えが至らないのかなと思ったのですが。

木村 本の中にもある、「煩悩に溺れず、欲に溺れろ」ですね。出世をしたいとか、給料を上げたいとかいう私利私欲の目線ではなく、会社をこういう方向に持って行きたいとか、改革を進めたいとか、自分が会社の中で何をなし得たいか。私心を抜きにした大義ありきなんです。大義を貫こうとすると、組織の中にあつれきも生まれるし、抵抗勢力も出てきます。そういう人たちをうまく懐柔するためには正論ばかりを言っていても駄目で、泥臭いヒューマンスキル=ダークサイド・スキルが必要という意図で書いています。
 結果として、改革をやり遂げた人がポジションアップすることはあると思います。ですが、目的はあくまでも自分がどうしたいかであって、ポジションアップは結果にしか過ぎません。大義のないまま、ダークサイド・スキルだけを身に付けようという勧めではないのですが。

岡田 若い世代が間違った理解をしてしまうのは、煩悩があるからでしょうね。上司とうまくいかないとき、こういうスキルを使えばいいと思ってしまう。大義なくして、小手先のダークサイド・スキルだけでは上司の側も見抜いてしまうのですけどね。

◆共同体の論理に負けないで

岡田 行動経済学者のリチャード・セイラー氏がノーベル経済学賞を受賞したことで、人事の世界でも行動経済学がホットな話題になってきています。従来型の経済学では、人間は合理的に動くという前提の下に、統計的、数理的に経済モデルを設定します。これに対して行動経済学では、従来の経済学に人間の心理を組み込む、つまり限定された合理性に着目しています。
 ダークサイド・スキルは、生身の人間を説得し組織を動かす上で必要なスキルで、ある意味、行動経済学に通じる面があると感じました。日本の多くの組織が、これまでのデータに基づいたサイエンティフィックな経済モデルに限界を感じつつある気がするのですが、何か行動経済学的な視点からのご意見はありますか。

木村 経済合理性で見ると答えが明白でも、それを認めたくないという組織の心理があると思います。例えば、半導体や液晶パネルなどのように、グローバルレベルでの規模の経済性が決定的な事業エコノミクスである場合、大量に生産することでコストメリットが出てきます。それを冷静に考えれば、市場規模の大きい業界一番、二番手、良くて三番手くらいまでしか、強固なポジションを作るのは難しいということが分かるはずです。だけど、それを認めると工場を全部閉鎖しなくてはいけないし、わが社はどうなってしまうのかと不安になって、見たくないからふたをしてしまいます。これが合理的に動かない原因となって、都合のいいデータをつくったり、事業計画にわい曲が入ったりということにつながってしまうのだと思います。

岡田 製造業で最近データ改ざんが問題になることがよくありますが、そういうことですね。

木村 日本は現場が強くて、社会的正義よりもムラの論理のほうが勝ってしまうという問題が起こりやすいのです。普通は経済合理性や世間の常識が優先されるんですが、共同体の中の常識が勝ってしまう行動原理があります。経営的にいう行動経済学というのは、そういうことではないかと思います。

岡田 そういうときこそKYが動いて、共同体の論理を抑止していかなくてはいけませんね。

木村 日本の組織の多くで、そういう共同体の行動原理が働いています。全員がその同調圧力の中にいては、会社は良くなりません。うちの会社はもっとこうなっていくべきだという大義を持った人が、共同体につぶされずに会社を変えることができれば、結果的に日本企業は良くなっていく。この本は、そういう大義を貫こうとする人のための応援歌です。

◆転職か、改革か

木村 海外だと、例えば大統領の演説にみんながスタンディングオベーションをして、一気に流れが変わったりすることがあります。でも日本だと、一人きりでどんなに素晴らしいことを言っても、周りはしらけてついてきてくれないこともままあります。そうならないためにも、仲間を少しずつ増やしていかなくてはいけません。組織の半数近くが自分の仲間になっていれば、一気に空気を変えていくこともできるはずです。

岡田 会社に不満を持って辞めていく若者も多いですが、本気で会社を変えようと思うのであれば、まず自分がKYになる。そして、1人で改革派として突っ込んでいくのではなく、自分を磨いて、同志を社内外につくっていくのがよいのですね。

木村 私の本を読んで、こんな処世術を身に付けて社内で生き残ろうとするくらいなら、ポータルスキルを身に付けて転職するほうがいいという意見があったんです。確かに、スキルアップして次の会社に行くというのもいいとは思います。でも、駄目だから次に行くというのではなく、会社に残って変えていくというのもすごく勇気のいることです。これは、転職できなかった人のセカンドオプションとしての処世術ではないと考えています。

岡田 それはそれで、重要なキャリアになりますね。では、会社を中から変えていこうとしたときに、志を同じくする仲間をどうやってつくっていくのがいいのでしょうか。

◆ネットワークづくりの大切さ

木村 社内でも社外でも、ネットワークをつくるのは簡単なことではありません。これはもう、地道にコミュニケーションをしていくしかないでしょうね。一気に100人のネットワークはできないので、自分の部署以外にも顔を出して社内営業活動を繰り返して、少しずつ仲間を増やしていくしかありません。
 私自身は、コンサルタント出身なので社外のネットワークは余り広くないんです。ですので、いろいろな社外の会合だとか、勉強会だとかに参加していきました。そういう場所は得意ではないんですけど、少しずつネットワークを広げることができました。社内でも同じことで、自分の部署と、普段仕事のやり取りのあるラインとだけコミュニケーションをするのは楽ですけど、そこからいかに広げていくかだと思います。

岡田 楽なところにいてもメタボに近づくばかりで、見返りはないですよね。少しストレスを感じても、意図的にそういう環境に身を置くことが大事ということですね。よく分かりました。

木村 この本とは別に、日本の製造業がいかに世界で戦って勝ち残っていくのかという、戦略寄りの本(『稼ぐ力を取り戻せ』日本経済新聞出版社)も仲間と一緒に書きましたので、興味のある方はぜひお手にとってみられてください。

対談終了後の1枚!

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