HRMの分野では幅広い知識・見識をもとに、さまざまな角度から課題を検討・検証することが求められます。それら知見の「マナビ場」として、JSHRM活動以外で実施されている勉強会やセミナーなどをレポートします。
今回は実務を見据えたプライベートでの自学習の場として、経済と金融を中心とした読書会を開催している非営利組織「FED(Financial Education Design)」の取り組みについてご紹介します。

FED HP https://www.fed-japan.com/

Facebook https://www.facebook.com/FED.Japan/

村上 茂久 氏

村上茂久(むらかみ しげひさ)
一橋大学大学院経済学研究科修了後、金融機関に勤務し、証券化や不良債権投資業務に従事した後、現在はプロジェクトファイナンス業務や投資業務等をマネージャー職として手掛ける。FEDの前身となるマンキュー経済学読書会を2009年に、そしてFEDを2011年2月立ち上げ、事務局長として運営している。他、みずほ学術振興財団等の懸賞論文で入賞多数。

村上 由貴子 氏

村上由貴子(むらかみ ゆきこ)
不動産会社を経て、金融機関に勤務。勤めながら、早稲田大学大学院ファイナンス研究科を修了。金融機関では、不動産ノンリコースローンの融資管理業務に従事。2018年4月より子会社の信託銀行に勤務。プライベートではFEDの企画プロデュースを手掛けると共に、2児の子育てに奮闘中。

 FED(Financial Education Design)は「未来の金融をデザインする」をミッションとする金融と経済を中心とした読書会・勉強会を開催する団体です。同団体は現在、村上茂久さんと村上由貴子さんご夫妻で運営しています。参加者から500円を参加費として徴収しますが、残額分をNPOに寄付するという非営利の任意団体として運営されています。取材者が特に興味を持ったのが、そういった団体でありながら、大手書店のビジネスコーナーのランキングで上位に入る著書の著者もしくは訳者が多くの回で登壇・参加するということ。またBrexit や異次元緩和についてエコノミストとのパネルディスカッションを企画する一方で、マンキューやクルーグマンの輪読を行うなど、読書会、勉強会として非常に懐が深い所でした。元々はアカデミックで少人数の勉強会がなぜ2018年2月現在では200回を超える勉強会を開催し、参加人数はのべ3,000人を超える会になったのか、インタビューしました。


◆設立のきっかけ

 設立のきっかけについて伺うと、村上茂久さんが当団体設立当時から勤める金融機関で「村上経済通信」というメルマガを同期の仲間中心に発刊していて、同行内で働いていた村上由貴子さんがそのメルマガを知ったことがきっかけだそうです。メルマガは○○○そのメルマガは世界の株価や株価指数、金融のニュースをストレートに伝えるだけでなく、その現象が起きた理論的背景や今後の展望などを書き記した「解説記事」がメインで、それを毎日社内のメールで同期宛に送り続ける姿を見て「この人に何かさせたら面白そう!」と由貴子さんが直感的に思い、この人の才能をプロデュースしてみたいと思ったそうです。

 ちょうどそれが2009年11月頃であり、その時世の中はリーマン・ショック後の閉塞感に覆われる中、所属する組織への帰属感が日本でも薄れてきた頃でした。また勝間和代さん等がエポックに取り上げられるなど、『自立したキャリアを歩むために自ら勉強しなければならない!』と勉強ブームが起き、mixiやtwitter等のSNSの発達もあって、様々な「読書会」が各地で乱立していた時でした。


◆有益な読書会にしたかった

◆この才能を世に広めたい

一方で由貴子さんはFEDとは別に「ハーバード・ビジネス・レビュー 読書会」を自分で立上げていました。実際読書会をやってみて、あまり質の高くない読書会が乱立していること、その場限りの学びとなってしまい継続性がないことを問題意識として持ったそうです。その問題意識と茂久さんの特異稀な才覚の魅力から、茂久さんに「読書会」をやってみないかと持ち掛け、2009年にFEDの前身となる読書会を立ち上げたそうです。

 はじめは「理論をきちんと学ぶ」という趣旨から、マンキュー経済学をゼミ形式で1章から輪読という会を開いたものの、参加者は村上さん夫妻を含め6名。そういった重厚な経済・金融のテキストの輪読を中心にしつつ、由貴子さんからの提案で、2011年頃から「もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら」や「お金2.0」など経済入門的な本や、ピケティの著書「21世紀の資本」やジョン・ケイの「金融に未来はあるか」など話題となっている金融経済の書籍を取り上げ、FEDに参加する方が増えていったとのことです。間口が広がると出版社から出版本の取り上げを依頼するオファーもあったりする等、多くの人がFEDに興味を示すようになったそうです。著名な登壇者としては、JT副社長であった新貝康司氏(当時同社取締役)、慶應義塾大学大学院の池尾和人教授、一橋大学大学院の齊藤誠教授、会計評論家の細野祐二氏、プロゲーマーの梅原大吾氏など多岐に渡ります。

 茂久さんに現在のFED運営方針について伺ったところ、「アカデミックな理論をしっかり学ぶことは重要であり、一見遠回りに見えるものの、ビジネスに活きるという考えは2009年当初から変わりませんが、理論を学ぶだけでなく実務体験をシェアすることも、理論を学ぶ事と同じく非常に有意義なことだと認識しています。妻からの提案もあり、金融経済に関わる方以外にも気軽に参加できる様にしています。」とのこと。

 またFEDの独自性について特に意識していることとして、「他の勉強会にありがちな『聞いて、聞いて、聞いて、帰る』のではなく、『聞いて、考え、対話して、気づいて、デザインする 』( 中原淳.「知がめぐり、人がつながる場のデザイン―働く大人が学び続ける”ラーニングバー”というしくみ経営学習論: 人材育成を科学する」.20112.英治出版)ということを重要視しています。3時間の中でプレゼンター等に解説していただく時間も取りますが、ディスカッションが活性化するような問題提起をプレゼンターにお願いしています。参加される皆さんは、実務家としてその道のプロフェッショナルであり、貴重な週末の時間を読書会に参加しようという非常に意欲旺盛な方々ばかりなので、「高等知識の消費者 」(東京大学大学院経済学研究科 岩本康志教授のコラム「大学院での経済学の学び方」より。」)ではなく、意見を出し合って知識の生産者になってもらうようにしています」とのことでした。確かに、参加者が自分から話すようにすることは、人材開発でも昔から言われていることで、学びを深めるのに重要なことのようです。実際取材者も複数回参加していますが、3時間のうち少なくとも1時間はディスカッションの時間となるような工夫がされており、会にアサインされている感覚が強まり、能動的な学びとなっていることが実感できました。

 FEDの今後について伺ったところ、由貴子さんから「経済は常に理論と現実を行ったり来たりするものなので、その時にホットな話題や人を取り上げることも大事だと考えています。特にFEDの初期に関わったメンバーの多くが成長して偉くなった(笑)ことや自身の著書を世に出すようになり、FEDでもそれを取り上げる機会が非常に増えました。私自身、人をプロデュースすることが好きなので、今後もFEDという器を使って面白い人や事柄を世に発信していけたらと思います」との話を伺いました。

 FEDには経済学を学ぶ学生からエコノミスト、コンサルタント、金融以外の実務家も多く参加されています。特に本年からは経済における市場 の内でも労働市場(HRM)にフォーカスしていくとのことですので、JSHRM会員の方も一度参加してはいかがでしょうか。


取材・文:葛西 達哉(Insights編集部員)