政府が打ち出した人生100年時代構想を受け、現役で働く期間が延びています。一方で、労働力人口の減少により女性や外国人労働者など働く人間の多様性は増しています。ダイバーシティと一言で片づけてしまうと思考停止に陥ります。今、日本の多くの企業現場で何が生じているのか?世代間断層という不都合な真実かもしれません。例えば、日本企業の最後の大量採用世代、「バブル入社組」も、はや50代に差し掛かり、人生の岐路に立っています。根っから楽観的と評される彼らは、多くの企業でどのように見られているのでしょうか?就職氷河期世代との関係は?役職(ポスト)不足、保証されない将来への不安など心理的葛藤を抱えている彼らの心の叫びとは。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

株式会社HRアドバンテージ 代表取締役社長 相原 孝夫 氏

株式会社HRアドバンテージ 代表取締役社長 相原孝夫
1965年生まれ。人事・組織コンサルタント。マーサージャパン株式会社代表取締役副社長を経て、2006年4月より現職。人材の評価・選抜・育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。著書に、『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』(幻冬舎)、『会社人生は「評判」で決まる』(日本経済新聞社)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(日本経済新聞出版社)、『コンピテンシー活用の実際』(日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』(共著、東洋経済新報社)、ほか。経営アカデミー(日本生産性本部)、日経ビジネススクール、早稲田大学エクステンションセンターでの講座ほか、講演多数。 厚生労働省および総務省の研究会委員、日本人材マネジメント協会(JSHRM)幹事等を歴任。慶応義塾大学卒。早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了

バブル入社組の憂鬱

岡田英之(編集部会) 本日は人事・組織コンサルタントで「バブル入社組の憂鬱」の著者である相原孝夫さんにお越しいただきました。早速ですが、直球のタイトルの本書出版の経緯についてお話いただけますか。

相原孝夫(人事・組織コンサルタント) 社内の者などには「相変わらず仕事に関係のない本ばっかり書いてる」と言われておりますが、本業とは別に、多少の気分転換も兼ねて、本業に直接関係ないとも言い切れない周辺のところで出来るだけ本を書いていきたいと思っていて、よく世の中で言われている割には表立って取り上げられて書かれた本がないようなテーマを書きたいと常々思っています。
 私自身バブル世代ということでタイトルそのままなのですが、特に大企業に勤めている友人たちを見ていると、40代前半ぐらいまでは結構元気があったのが50歳に近づくにつれて、なんだか元気をなくしていくのです。会社で居心地が悪そうな話も聞くようになって、悶々と憂鬱な状況を継続していても仕方がないので、ひとまず憂鬱の原因を特定しようかということでヒアリングを始めました。
 個人としては、職業人生最後の10年をこの状況のまま過ごしていくというのは非常にもったいない。会社としては、その世代が役職定年になって役職から降りたとしても、年次としては最上位にいるわけで、しかも結構ごそっといるわけですから、その人たちがぶら下がっていたり、あるいは年下の上司の妨げになっていたりすると会社全体としても非常に大きな問題になるだろう。これは何とかせんといかんという課題意識で人事コンサルとして書こうと思いました。

◆バブル世代の栄枯盛衰

岡田 今の20代の人たちに「バブル時代というのがあってね。そこのタイミングで就活をして就職した世代が今ちょうど50代前後になってるんだよ。そういう時の本なんだよ」という話をしても、既に歴史のひとコマみたいな感じになっているように感じます。職場にもそういう世代がいるにはいるんですけども、「あの部長そうだったんですか」ぐらいのことで、バブル世代の方々が就活から生きてきた行く末というイメージがあまり思い描けないようです。そうなると、そもそもバブルと呼ばれている時代というのがどういう時代だったのか、バブル時代の人は新入社員から若手、中堅ぐらいまでは職業人としてどんな生活を送っていたのかという説明が必要になるわけです。

相原 そういうこともあって、バブル時代前後について、各世代こういう環境の中で育ってきて、就職期がどうであってということをまとめたパートを作っています。今現在、売り手市場はバブル期を超えたとも言われてますよね。ですから、もしかしたら今後新たなバブル採用世代というのが数年続く可能性があるわけです。でもそれがいつまでも続くわけはないので、また同じような状況になるのかもしれません。

岡田 今就活をしている大学3、4年生は、いずれバブル世代と同じような文脈で語られる可能性があるのかもしれないということですね。

相原 会社の中において同じ境遇に遭う可能性があるのではないかと思います。同じ境遇というのは、入社まではよかったけど、数年で売り手市場ではなくなって、後輩が入社してこなくていつまでも自分の仕事がレベルアップしないし、後輩の面倒を見る機会もない。企業業績も下降すれば教育の機会にも恵まれないというような状況で、マネージャーになる頃にはぐんと歳の離れた部下とやっていかなければいけないという状況です。そんな状況になっていくかもしれません。バブル世代とここ数年で就職される方とは共通性があるかもしれませんね。最近のバブルリバイバルという流れに乗っかったわけではないのですが。

岡田 様々な文化、カルチャーみたいなもの、当時、流行したものを少しリアレンジして復活してきているというイメージでしょうか。

相原 バブル期の就職活動は、海外旅行に連れて行ったりクルーザーに乗せたり、他の会社を受けられないように拘束するようなことは普通にありました。入りたい会社を逆指名するような形でバンバン内定がもらえた状況です。
 バブル期のどのあたりかにもよるのですが、末期でなければ入社して2~3年ぐらいは良い状況の中で、比較的新しいことにチャレンジさせてもらったり、努力しなくても物が売れたり、非常に幸せな状況だったのですが、そこからどん底になってしまうわけですよね。バブル世代が入社した時代背景の誤解が若い方々にあるので、「実力以上の会社に入れてラッキーな世代だな」などと思われがちです。そこの誤解も解けたらな、という感じですね。入社までは良かったのですが、その後はずっと不遇な状況が続いているわけです。
 給料も入社時には年功で右肩上がりで上がっていくものと考えていたのが、2000年前後ぐらいから人事制度改革ということで、年功が上がってもそうそう給料は上がらず、パフォーマンスですよということになっていきました。管理職になるぐらいの年次になっても、人数が多いので部下を持ったライン管理職になれる割合というのはごく小さく、ほとんどはスタッフ管理職で、厳しい環境の変化に直面する訳です。

岡田 部下なしの役職者が大量発生したということですね。

バブル世代の憂鬱とは?

相原 そうです。課長代理とか担当課長という言い方がされています。そういった不遇な状況にあって、年々年齢が下がってきているように見られる役職定年によって、50代のいずれか段階で無役職になる。そこからが長いと思うのですよね。50歳だったら10年、再雇用で65まで働くとしたら15年です。

岡田 職場の中では多様化が進んでいきます。いろいろな世代、考え方、いろいろな価値観の方々がコラボしていかなければいけないと思います。特にバブル世代を身近に感じていない子たちがどんどん入ってきています。著書の第6章「バブル入社組の強みと弱み」で、バブル世代の人たちは、個人差はあれ総じてこういう強み・弱みをもっていますということが書かれています。強みとしては4点、コミュニケーション能力が高い、根拠のない自信がある、会社への依存心が強い、見栄を張りたがる。この部分について補足説明お願いします。

相原 現在でいうアラフィフの方々を見ていただけると結構特徴的なところがあってデフォルメを効かせて書いています。コミュニュケーション能力というのは、学生時代よく遊んでいて、交際関係が広かったということが一つの要因と考えられます。

岡田 大学は勉強する場所でもあるのだけども、それよりも遊びみたいな感じですよね。

相原 そういった交際範囲の広さから身についたというのもあるかもしれません。営業職を例にしたデータを出していますけども、コミュニケーション能力でしのいできたという面あるんですよね。入社当初は実力がなくてもモノが売れたという経験していますから。

岡田 本当に実力がなくても売れたのですか。実際そんな甘くはないのではないかという気もします。

相原 私はその頃からコンサルの現場に入っていたのですが、なんの経験もなくても売れたという経験は確かにありました。一方、バブルが弾けて以降は何をやっても売れないという状況になりました。

岡田 逆に経験があっても売れなくなった。そもそも要らないからですか。ニーズがないから?

相原 予算が出ないわけです。予算がじゃぶじゃぶ出ていた時は「多少何かの役に立つかな」というぐらいでも買ってくれたという状況があった。それが、財布の紐が絞られて本当に売れなくなった。そういう状況の中で、実力はないので人間関係でなんとかやっていかざるをえない、バブル世代によっての生き延びるポイントのひとつはデータにも出ている通りそういう売り方だったと思います。



◆会社への依存心とは?

岡田 4つの特徴の中の3つ目の会社への依存心についてですが、働き方改革で個人と組織との関係性がもう終身雇用ではない、個の自立だと、表現はともかく、ここ10年15年で自分と会社との関わり方みたいなものがグラグラ揺れてきたと思います。そんな中でバブル世代の方々の強みである「会社への依存心が強いこと」は、今のような時代においてもものすごくプラスに作用するケースが多いと思います。
 逆に今就活している学生さんが志望する会社に何を求めるかというと、専門性が身につく、お給料が高い、バリバリ打ち込めるなどというよりは、居心地がよい、ブラックじゃなくて長く勤められる、人間関係が良いみたいなところになってきている。なんとなくここに、会社への依存心が強いという特徴をもっているバブル世代の方とこれから入る22、3歳の子の共通点を感じて、割とフィーリングが合うのではないかなと思うのです。

相原 景気が良い時に入社する人たちというのは会社を信用して入りますよね。我々の入社期、バブル期というのはリストラという言葉もなかったわけですし、大きな会社に入れば将来にわたって給料が上がり続け、立場もどんどん上がっていくという未来を描いていました。あと氷河期世代と逆で、実力以上の会社というか、入りたいという会社に入社した人が多かった。そこで愛社精神というものが芽生えやすいですし、妙に会社を信用している。ですから多少自分の意に反するような意思決定が組織的になされたとしても、割り切って、会社のため、組織のためにやろうじゃないかという切り替えができるという良さがあります。一方で、変に信用しているので役職定年というのがものすごくショックなんですよね。もう必要とされていない、お払い箱なんだ、これだけ信じてきた会社に裏切られた、みたいな。そこは依存心に関わるところで、ネガティブに働く場合もあると思います。

岡田 そんなバブル世代の会社に対する依存心、いわゆるコミットメントが高いことは、今の20代にもその傾向が感じられます。一方で、グローバルに見た時に、ここ数十年ぐらいのそういう日本人の雇用や組織と人とのあり方を見ていて、ちょっとエキセントリックだという見方をする人もいますよね。個が自立していない、そもそもジョブという概念がない、終身雇用をやめたといって未だにやめてないとか。

相原 そういうこともあって「職人を目指せ」というようなことを書きました。組織の中で上に昇っていくというキャリアを描いて歩んでいくという意識だけだと、どこかで挫折するということになる。専門性も深まりづらいのではないかなと思います。ですから、ある分野における職人として質を高めていくという方向でキャリアを歩んでいったほうが良いのでないかというのは正にその辺りのことを言っています。

◆バブル世代 vs 就職氷河期世代

岡田 バブル世代を見てきた就職氷河期世代がいます。就職氷河期世代とのコントラストに関しても第5章「バブルvs氷河期の構造」ということで書かれています。氷河期世代というのは実際どうご覧になっているでしょうか。これも人によってバラバラだとは思うのですが、彼らは彼らで妙に被害者意識が強くて、批判的なのはいいのだけれども、実際に当事者意識をもって我が事として会社を背負ったり、他人事ではなく自分事として働けているのかと、いろいろな意味で問題があるのではないかと思いますが、そのあたりはどうなのでしょうか。

相原 氷河期世代は優秀であるとは言われてますよね。ひとつの根拠としては、やっぱり就職が厳しかったので、実力のある学生も、会社のランクをいくつか落とした形で入っているケースが多いと考えると、会社の中においては上の世代よりも優秀な人材が入っているという可能性はありますよね。

岡田 結果的に、相対的にそうなっているのでしょうね。

相原 ただ、入社時の優秀さがその後どこまで続くのかということはわかりません。あとは上の世代からの同情というもあるでしょう。採用人数も少ないし、狭き門をよく頑張って入ってきた、彼らは優秀であるという見方もあるでしょう。少なくともバブル世代が言われているような「バブル世代は仕事ができない」みたいな言われ方は氷河期世代にはしないですよね。この本は、各世代を理解するきっかけになってくれれば良いかなというふうに考えています。
 ちなみにこの本は世代論ではなくキャリア論として書いていて、出版社のアイデアでは「バブル世代の憂鬱」だったのですが、「バブル入社組」というキャリアを想起できるようなタイトルにしていただいたという経緯があります。今後、昇り一辺倒のキャリアではなくて、途中から下っていくというキャリアというのが普通になっていくわけなのですが、下り方というのを教わってきていないので、バブル世代が先陣を切って下り方を模索することが重要です。
 セカンドキャリアに共通することはあると思うのですが、その時点での棚下ろしというのが少なくとも必要です。自分がどういう経験をしてきて、どういう知識やスキルを持っているのか。それを考慮した場合、今後どういう仕事の仕方や生き方が考えられるのか、ふさわしいのかを考える機会というのが必要になると思います。機会を提供するということではセカンドキャリア研修も悪くはないと思うのですが、なんかセカンドキャリアという言葉にもお払い箱的なイメージがありますよね。

岡田 表現がよくないですよね、ファースト、セカンド、サード…。

◆後半戦のキャリアが大切!

相原 総仕上げとして最後の10年間にどのような貢献の仕方をしていけば良いのか、していけるのかという捉え方をしていただきたいです。

岡田 20年以上続いてるこの日本の閉塞感を打破しようというイノベーションも含めて考えた時に、多分氷河期世代はその役割を担う適性はないと思います。アドミニストラティブには優秀なのかもしれないですが、「根拠なき自信」といったものがこの閉塞感を打ち破るのだとすると、氷河期世代にはそれがない。むしろこのバブル世代というのを知らない世代も今は企業の中で増えてきたというのを追い風にして『バブル入社組』という新しいブランドを作って、ある種、豪放磊落に良い意味で引っ掻き回すというようなことをすると、この閉塞感というのが変わっていくのではないかと思うんです。あえて「え、この後に及んでその文脈かよ?」というようなやり方で仕事をしちゃうとか。

相原 氷河期世代から煙たがられる覚悟と、経営の理解が必要ですよね。

岡田 最近は経営がものすごくディフェンシブではないですか。

相原 バブル世代が経営陣を占めているかもしれないですけれども、会社としてディフェンシブを志向するというのはあるかと思います。氷河期世代のことをちょっと悪く言いすぎたのでフォローをいれておきますと、仕事の仕方が手堅いですよね。手堅いけれども…。

岡田 面白くない…と。

相原 面白くないし、新しいことをやるとか、チャレンジとかということがあまり特長としては見られないというところはあると思います。もちろん個人差はあります。
 最近は、大手企業さんなどで、次世代経営人材の選抜育成を担当することが多いのですが、ほとんどが氷河期世代の40代です。本当に器も大きくて、チャレンジ精神もあって、良い経営者になりそうだなという方は少なからずいます。共通的なところで見ると手堅くて面白みに欠けるように見えても、その中でも器を持った人材がいて、そういう人たちが経営を担っていけば良いわけなので、氷河期世代に任せられないということではなくて、バブル世代とは違って手堅さがある分安心していられるし、経営を担える人材がいるわけですし、そう考えてそれほど悪いイメージは持っていないです。
 本来は経験豊富な成熟した人材がいるというのは会社に取っても強みなはずなので、どうやって辞めていただこうとか、どうやって排除して邪魔しないでいてもらおうかということではなくて、その活かし方というのを今一度考えていただきたいというふうに思います。
 氷河期世代についてこの本の中ではちょっと悪く書き過ぎている面があるのですが、我々バブル世代の本音としては、安心して任せられるので大変頼もしく期待しています。氷河期世代は自分たちのやりたいことをやって、バブル世代は会社に少しでも貢献して職業人生を終われればいいんのではないだろうかと思っています。

対談後のワンショット

岡田 いろいろな世代それぞれにキャリアが、もっといえば個人のキャリアというのがあって、それをどう描いていくかというところで、ひとつのバブル世代を取り上げた、ひとつの考え方、キャリアの構築の仕方のヒントとなる一冊ということですかね。
本日は、どうもありがとうございました。


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