女性の社会的な活躍にさらなる期待が集まる今、時間やお金を使える働く女性たちは、 企業のマーケティングにおいても重要な存在ですが、好みが細分化・多様化している彼女たちの心を、どのようにつかむのかがポイントです。働き方やキャリアにおいても多種多様な状況です。こうしたハタラク女性の意識やワーク・スタイルに労働法制、人事制度が追いついていないのが実態です。女性活躍を一層加速させるため今回の特集3では、「キャリジョ」たちの実態に迫ってみたいと思います。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

株式会社 博報堂 アクティベーション企画局 買物研究所  松井 博代 氏

株式会社 博報堂 アクティベーション企画局 買物研究所  松井 博代
2008年博報堂入社。マーケティング担当として化粧品、下着、美容家電、サプリメントなど主に女性ターゲットの新商品開発、ブランディングに従事。14年からは買物研究所で心理学知見を活かした潜在意識の測定(アイトラッキングやレスポンス・レイテンシー)を活用した調査をリリース。
また、2013年には社内横断プロジェクト「博報堂キャリジョ研」を立ち上げ、20~30代の働く女性(=キャリジョ)について研究中。

博報堂 キャリジョ研

働く女の腹の底


◆キャリジョ研立ち上げの背景

岡田英之(編集部会) それでは『Insights』夏号(特集)の対談をはじめます。博報堂の松井さま、本日はよろしくお願い致します。まずは、ご著書の紹介とご自身のキャリアについてお話をいただいてよろしいでしょうか。

松井博代(株式会社博報堂) まず博報堂キャリジョ研についてご紹介します。『キャリジョ』という言葉自体も聞き慣れないかと思いますが、実は私たちが作った造語です。博報堂、博報堂DYメディアパートナーズの社内有志が集まって立ち上げた社内プロジェクトです。
 特に子どもがいなくて働く女性をキャリジョと定義しているのですが、その方々は自分のためにお金と時間を使いやすい立場であって、消費パワーも大きく、社会的にも経済インパクトもあるかな、ということで着目しています。そういう方々の表現として、「OL」というのが一般的にありますので、これを副題にしました。

岡田 「ただのOLなんて、もういない」。副題に大きく書かれてますね。

松井 OLという言葉は、実際に働いている私たちのなかではしっくりこないなっていう印象があって…。それは昔からある言葉で、職場で腰掛け的に働き、寿退社をしていくようなそんな印象があります。一方で「キャリアウーマン」という言葉もあるけれど、それはそれでガツガツ、バリバリしすぎている。今はもう少し肩の力が抜けている働き方もあったりするかなって思いました。
 どれもしっくりこないので、じゃあ新しい言葉を考えてみようということで、いろいろ練ったうえ、職歴とか仕事という意味合いでの「キャリア」を持つ女性を、バリバリもゆるゆるも含めてニュートラルに「キャリジョ」というふうに名付けて、キャリジョ研というネーミングに行き着きました。2013年発足なので、この本を執筆していたときはちょうど5年目にあたり、この4月から6年目に差し掛かったという社内プロジェクトになっています。

岡田 「キャリジョ」という言葉の定義をお話しいただいたんですけれども、「OL」や「キャリア―ウーマン」とは異なる新しい造語なのですね。キャリジョというのは、キャリアを持つ女性。このキャリアにはいろんなキャリアがありますけれど、必ずしも仕事だけじゃなくて家庭とかプライベートも含むというイメージですか?

松井 「社会に出て仕事をしている」という意味合いで使っています。その仕事のしかたには、バリバリの働き方もあり、仕事は仕事としてしながらも、やっぱりプライベートも充実させたいという、ワークライフバランス(WLB)を意識した働き方もあり、全部含めて捉えています。

松井 私自身は2008年に博報堂に入社をしました。入社してからずっとマーケティング担当として仕事をしています。
 化粧品や、洗剤のようなトイレタリー品、下着、さらには美容家電、サプリメントなど、女性が中心になるような商材の新商品開発やブランディングを担当していました。
 2014年に、買物研究所に異動して、「買う」という行動をつぶさに見ていくようになりました。
 「売る」よりも「買う」という生活者の目線でマーケティング捉えなおしてみようというプランニングを担当しています。
 その異動前に、社内プロジェクトとしてキャリジョ研を始めました。

◆新書出版に至る経緯と内容の章立

岡田 では、著書の内容に入らせていただきます。光文社新書から出された『働く女の腹の底~多様化する生き方・考え方~』っていう本について少しお話を伺います。まず出版の背景あたりからですね。

松井 先ほども触れましたけれども、この本を出そうと本格的に動き出したのは、ちょうどプロジェクトが5年目を迎えていたときでした。5年のあいだに定量調査をしたり、インタビュー調査をしたり、あと私たちなりにトレンドを収集しては、その背景にあるインサイトを探究したりという活動をして、ちょっとずつHPなどで発表をしてきました。それを、きちんと形にしていけたらということで、今までの知見を1冊の本にまとめてみよう、という意味合いで取り掛かりました。
 さらに、キャリジョ研として活動していますって事あるごとに言うんですけど、やっぱり認知をされてないっていうのが社内でも結構あるんですね。せっかくこうやって時間をつくって頑張っているので、それを知ってもらい、活用してもらいたいんですが、活用の前の段階ができてないんだなっていうことを痛感していました。社内にも社外にも知ってもらおうということで、本というかたちが世の中にはわかりやすいのかなというのが、思い立ちにあります。
 あと、光文社さんとさせていただくきっかけですが、博報堂の新しい大人文化研究所が昨年本を出していまして、その1章を私たちが担当したんですね。「イケてない大人」にならないように、「かっこいい大人」になろうという本の中で、若い女性から見てイケてる大人や上司ってどうなんだ…という女性視点を入れてほしいということで、1章分キャリジョ研が担当したんです。それが結構面白いと光文社新書の方に言っていただいて、そのつながりもあって、お話を進めていただきました。

岡田 もうひとつ、こういうキャリジョ、働く女性っていうものの置かれている環境などを含めて、世の中に対してのメッセージというか、問うてみたいこと、発信してみたい何かがあったのかなって思ったんですけどね。

松井 そうですね。「多様化する生き方・考え方」とサブタイトルにつけたように、現代の女性は捉えにくくなっています。私たちキャリジョ研内にもメンバーが17人いますが、やっぱりみんなバラバラでいろんな女性がいる。そういう女性たちを無理にひとつにまとめるのではなくて、多様化を認めて、みんなも理解して付き合っていくと、お互いに幸せなんじゃないかなという思いがありました。
 もう一つの出版に込めた思いは、女性を理解してもらうきっかけになるといいなっていうことです。それは対男性もそうですし、女性自身も女性のことを必ずしもわかりきっている訳じゃありません。自分のようなタイプはわかるけど、そうじゃないタイプがいるっていうこと自体がわかってなかったりすると、そこですれ違いとか、職場での軋轢が生まれたりします。そういう人もいるんだなとか、そういう考え方の人もいるんだなというのがわかっていれば、うまく心を持てたりするんじゃないか、女性向けにもいいんじゃないかということで、わりと男女両方に向けてこの本を作っている、というつもりではあります。

岡田 なるほど。実は、『女女間格差』なんて言葉があったりしますけど、女性自身が多様化してくる。男性から見た女性っていうこともさることながら、女性同士でも、「多様化する」ってことはある種ストレスだと思うんですよね。なぜ職場でダイバーシティが進まないのかっていうと、やっぱりストレスなんですよ。異質のものに対して、身構えてしまう。人間の本性みたいな感じですね。
 そうすると、実は女性のなかでも職場にいる様々なタイプのキャリジョたちを、よくよく理解しないと、ミスコミュニケーションやすれ違いや誤解が生じる。それがストレスの原因になったりするというようなことが現実にあるってことなんですかね。

松井 そうですね。細かく見ればどこでもあるようなことなんじゃないかとは思いますけど、人間関係は問題になりやすいトピックだと思います。
ong> この本は4章立てになっています。キャリジョを規定するのは仕事をしている人、ということなので、今時の20~30代ぐらいの女性の仕事観とか、仕事意識ってどうなっているんだろうっていうことを第1章に書いています。それこそ新しい働き方として副業ということも出てきているので、そういった話も少し触れています。
 プライベートも大事にしたいという調査データが、この仕事編の中にも入っていますが、第1章の後半では、そのプライベートの中心になりそうな、恋愛・結婚観をテーマにしています。モテ(モテる女性)がだんだん変わってきてるのではないかといった部分でも多様性についての話をさせていただいてます。
 次に第2章を丸々使って「SNS」について取り上げています。若年女性とってSNSはもう切っても切り離せない生活の一部かと思いますので、その使い方はどうなっているのか…、ここでは特徴的な3メディアを取り上げています。

岡田 Facebook、Twitter、Instagramですね。

松井 使い方の知識、使い分け方ですとか…、ユーザーごとに切り分けて見ても、ちょっと気質が違うみたいなことがわかってきたので、そういったところを書いています。あとは、こんな小技を使ってみんな、SNSやネットに向き合ってますよといったTipsなんかも紹介しています。
 第3章は「キャリジョたちのリアル」ということで、多様化の詳細に触れていく章になるんですけども。定量調査の結果で私たちはキャリジョを7タイプに分類しています。その7タイプが想像つきにくいかなとも思ったので、フィクションなんですけど、小説風な感じでのご紹介をしています。
 最後が第4章で、今後のキャリジョたちについてを考えるにあたって、イラストエッセイストの犬山紙子さんにインタビューをさせていただきました。キャリジョたちにとっての幸せな生活を考えていきたいと思っていて、ポイントをいろいろと書いています。犬山さんのご意見は、ちょうど今ニュースでも話題になっているようなところにも触れていただいているので、今の時代を映している内容になっていると思います。

◆この本の読みどころ

岡田 今さらっとご説明があったんですけど、特にこのなかでここが面白いんですよ、ここに力を入れましたみたいなところがあれば、ランダムでいいですけれどもご紹介下さい。

松井 それは第3章ですかね。

岡田 やっぱり第3章。これは定量調査やられたのですか。
 調査概要が書いてある。目的と対象1280名。クラスター分析等々ありましたけど、アンケート調査をされたってことですよね?

松井 はい、そうですね。「多様化」と言ってしまったら本当は7つなんかじゃなくてもっと多いはずなんですけれども、大まかにどんなタイプがいるかっていうことが伝わればと思い、7つにしています。先ほどフィクションと言いましたけど、全くの妄想ではなくて、各タイプにあてはまる生活者にもインタビューをさせていただき、私たちが知っている身の回りのキャリジョたちのエピソードも含めて書いていて、「日常生活の具体化」ということに私たちはチャレンジしています。わりと生々しく、面白いと言っていただける部分だと思います。

岡田 鞄の中身とか書いてありますよね。定量調査はアンケートっていうよりも、実際にインタビューされたのかなって感じがしますけど。

松井 これはですね、鞄の中身そのものを聞いている訳ではないんです。調査の結果から出ていることと、あとは7タイプのパーソナリティーを私たちもきちんと把握していますので、こういう行動をする人たちだったら、こういう物を持っているんじゃないかっていう風に、ちょっと推測も含めて書いています。
 そもそもこれは仕事意識でクラスターを作っていて、その意識の違いで7つに分けているんですね。それはあくまでも自己申告の意識になるのですが、残業はできればしたくないなど、仕事を必要最低限に留めたいという意見もありますし、成長するために仕事は重要という意欲的な意見など、幅広く聞いています。

岡田 なるほどですね。こうしたクラスター分析は興味深いですね。何かいろいろ見ると、面白いキーワードがいっぱい出てくるのですよね。

松井 この3章で私たちが工夫したところのひとつは、ハッシュタグで注意書きを書いているというところですね。面白く、なるべく伝わりやすく、若干おおげささも含めて書こうとすると、みんなが知らないような言葉も出てきたりするので、ハードルも高かったんですけれどもやってみました。
 あと同じ言葉が出ていたとしても、クラスターのタイプによって使われ方が違う、捉えてる意味合いが彼女たちによって違うというふうに思われるので、そこがわかりやすくなるようにハッシュタグを用いています。なので、必ずしも注意書きが必要ないような普通の言葉にもついています。書き手としては着目ポイントとして捉えている。

岡田  やっぱり違うんですか?いろんなことでハッシュタグで出てくるのが、ヴィンテージマンションとか、リノベとかいう単語ですが、例えば同じリノベという単語を聞いてもクラスターによってイメージする内容が大きく異なるということですね。

松井 そうです。そもそもリノベーションをするかどうかですが、たぶん全員が全員そうじゃないと思いますし。あとはリノベーションしたとしても、どんなテイストにリノベーションするか、どこを重視してリノベーションするかはきっと違うだろうなと思います。

岡田 なるほどね。そういったところが面白い、多様化してますよっていうことでしょうか。

松井 そうですね。鞄の中身を企画したのは、同じ土俵で比べたら違いがわかりやすいんじゃないかと思ったからですね。それぞれの個性をそれぞれのところで書くと、横並びでは比較しにくい。「鞄の中身」っていう同じ話にすると、その中に入っている物で個性がこれだけ違うんだというのがわかりやすいんじゃないかと。

岡田 中高年はじめミドルクラスの皆さんにも読んでほしいということでしょうか。

松井 そうですね。「相手を知る」ということはコミュニケーションの基本で、相手はこういうタイプ、自分とは違うこういう考え方の人なんだって知るっていうのは重要だと思うんですけど、そのときに自分が接してきていないタイプっていうのはなかなか想像がつかないところもあるんじゃないかと思います。
 この本ですべて網羅してるわけではないという問題はありますが、ある程度タイプを広めに見せているつもりですので、その中でこのタイプに近いのかなっていうのを拠り所にコミュニケーションをとっていくといいと思っています。

岡田 決めつけ(バイアス)は良くないけど、ひとつのヒントとして捉えれば有効であるという考え方ですね。

松井 もちろん細かいところは全然違うっていう場面はいっぱい出てくるとは思うんですけれども、大枠こういう考え方に近いなっていうのがヒントにはなると思います。
 仕事とプライベートの使い分け意識は特に特徴が出やすいですね。たとえば、プロキャリっていうのはちょっとそこの垣根が曖昧なクラスターかなと思います。

岡田 プロキャリの方は曖昧なクラスターなのでしょうか。

松井 クラスター自体が曖昧というわけではなく、仕事とプライベートの境が曖昧という意味です。趣味も仕事みたいなかたちで、わりと仕事を中心として生活をしている。専門性を磨いていこうっていうクラスターです。

岡田 仕事が大好きで、できるだけ長く仕事をしていたいってことですもんね。

松井 はい。一概にこの人はこうだからこのタイプっていう一人対一タイプ対応はなかなか難しいと思うので、いろんなパターンを知った上で、今こういう意識はどのタイプに近いんだろうというふうに対応してくのがいいのかなとは思います。

岡田 なるほど。

◆男性のキャリアの多様化

岡田 第3章以外に興味深いPartはありますか?

松井 あとは、犬山さんのところ(第4章)ですけれども、私も非常に学びのあるというインタビューになりました。多様性をどんどんと認めていこうということが、一番大きなメッセージだと思うんですけれども、ただ、女性の権利を主張しすぎても、男性だって別に同じく多様じゃないかっていう、もう一方の意見もあると感じました。
 私も女性、女性って言いすぎるとアンバランスだなっていう、違和感もあるんですね。家庭中心だったところから、家庭と仕事の両立をしようとする、そういう背景から、その両立の配分をどうする、など女性の方が多様になりやすいんだと思うんです。それに対して、男性って仕事はどうしても「するのが当たり前のもの」みたいな、一本道のコースがあって、その中でまた出世を目指す。わりとコースも決まっているように思います。

岡田 単純、単線型ですよね。

松井 そうですよね。だから書籍の中で、「あみだくじキャリア」っていうのを書きました。女性は結婚、出産、旦那さんの転勤、介護など、自分ではコントロールできないいろんなことが起こって、急に横道に移動するっていうことがある。不安などもあるにしろ、でもそれだけの自由度があるということだし、多様になりやすいということなんだと思うんです。
 でも、今後は男性の多様性っていうのも考えていくべきなんじゃないかなと思います。男性が結婚して、イクメンになって…となると、女性に対応するように男性側にもそれだけのゆとりや多様な選択がないとできないと思うんです。

岡田 大正大学(元武蔵大学)に「男性学」という分野で研究されている田中俊之さんという先生がおられます。ダイバーシティとか、女性活躍で女性はもっとこうしてください、女性にチャンスを…とかって言うんだけども、結局職場とかが変わらない一番の原因は男性だという主張をされています。極端に言えば、働かない男がもっといていいんじゃないかという主張をされています。

松井 そうですね。女性が仕事に対して、割り切ってやっていたり、乗っかってやっていたり、ちょこっとだけ腰掛けでやっていたり、猛烈にやっていたり、プロフェッショナルにやってたいりと、多様性が7つぐらいありますが、男性も一本道で仕事を頑張ろうというだけじゃなくて、やっぱりプライベートを充実させるっていう思考であってもいいでしょう。家庭を大事にするっていうのでやってもいいでしょうし。

岡田 男性もこれだけ多様化っていうか、ある種格差が出て、いろいろだと思いますので、このキャリジョ研から見た男性クラスター分析みたいなことは面白いとおもいますよ。ポイントはキャリジョ研という、女性視点からのカテゴリー分けですよね。そうするとすごく面白いと思いますね。いろんな奴がいると思いますよ、結構男性も。

松井 そうですね。では、今後の研究課題として。

岡田 結果として働かない男がいてもいいでしょうし、極端な話、自分の奥さんの方が稼得能力が高く、自分は、料理とかが得意だという夫婦の場合は、役割分担も変わりますよね。さらに、子育て好きだと言うんだったら、奥さんがバリバリ働いて(プロキャリ)みた方が家族のコスパはいいです。そうすると、旦那が家庭を守る主夫、専業主夫的役割を担うのも多様化ですよね。

松井 そうですね。今、ちょっとずつ専業主夫の方も見かけるようにはなっていますけれど、まだまだ数としては少ないのではと思います。

◆「凡キャリ」クラスター生まれる背景

松井 7タイプの中で一番特徴が捉えづらいクラスターが、「凡キャリ」ですね。

岡田 「何事も現状維持思考の平凡キャリア」ですね。人生をルーティンで生きる。結構多いようですね。

松井 ボリュームとしては実は一番多いところになっています。データ上の特徴は本当に出てこなくて、全体に低体温みたいな感じです。何かが上がってて、何かが下がってれば特徴としてわかりやすいんですけど、全てが下がっているっていう形なので、捉えづらいクラスターなんです。

岡田 平均年齢28.1歳。

松井 そうですね。ちょっと30代寄りで、年齢層が他のクラスターに比べると高めなんですが、こういうタイプの方をインタビューで呼んだんですね。でも、まずこういったタイプを見つけるっていうのがなかなか難しいんです。

岡田 どうやって見つけるんですか?あなた凡キャリですよね、とか…。

松井 書籍内で「キャリジョクラスター診断」を掲載していますが、本来51個の質問で分けるところをかなりシンプル化して、3問ぐらい答えればどのクラスターになるかってわかるようにしています。これよりはさらにもうちょっと質問項目を増やした状態で、調査にご協力いただける定量調査パネルの中で、他のクラスターと異なるように分岐をしていくと、凡キャリに当てはまるっていうことが判ります。

岡田 面白いですね。

松井 このクラスター(凡キャリ)は、では何をモットーに生きてるんだろうっていうのが一番気になっていた点です。

岡田 何が生きがいなのでしょうか?キャリアアンカーは何なのでしょうか?

松井 その結論としては、何事も現状維持思考ということでしょうか。何か変化を起こすっていうこと自体にちょっと不安であるというか…。変化を起こすっていうのは、エネルギーをそれだけ使うんですけれども、それに対して何かを失うんじゃないかっていう、トレードオフ関係みたいな考え方をしている。

岡田 何か変化を起こす、何か今までのやり方と違うことをするっていうのはストレスがかかるし、それによって失う物もあるんじゃないかっていうリスクを感じちゃうってことですね。

松井 そうですね。何かを得るということは何かを犠牲にしていることなんじゃないか、っていう思考なんですね。これはもう人の思考の癖だったりすると思うので、別にこれが悪いという訳ではなく、こういう考え方であるということです。やることはやって、仕事はきちんとこなしますし、きちんとした人として生活しているという方だと思います。

岡田 タナカミカコさんという仮名の人が出てきますけどね。普通の毎日、33歳銀行勤務なんですね。これ狙ったんですか。

松井 実際一般職が多いのはありますが、たぶん事務作業で、わりと淡々と毎日ルーティン仕事をしているんじゃないかという想定で描いていますね。あとは、他のクラスターと被らないようにというのもあるので。ほかの一般職クラスターと並べてみて、どう調整しようかなっていうのもあります。

岡田 ボリュームとしても、統計的にも多いし、こういう「人生をルーティンで生きる」っていう「凡キャリ」クラスターの思考性の人が、増えているっていうことなんですかね、実数として。

松井 経年比較上ではやや増えていまして、こういう人たちは一定数いるということだとは思います。特徴があって分かりやすい人が着目されがちではあるんですけど、特徴がある人というのが全てではなく、本当にこういう人もいるんだというのを、研究する中でいろいろと知りました。もし自分もこのタイプに当てはまってたら別にそれでいいんだなっていうふうに思っていただければという思いで紹介しています。

岡田 そうですね。「凡キャリですけど何か?」っていう感じですね。個人的な意見を伺いたいんですけど、凡キャリというクラスターがちょっと多いっていうことなんですが、社会的背景みたいなのはあるんですか。松井さん的には、たぶんこんな要素があるんじゃないかな、みたいな。

松井 年代的には、30代前半が多いので、私もそこに含まれますが。この世代って小学生や中学生など、自我を形成されるような時期に不安定な時代を生きていたりするので、何かやってもうまくいかないんじゃないか、そういう不安がひょっとしたら根底にあるのかもしれないですね。

岡田 不安心理。

松井 そうですね。

岡田 不安心理を払拭されないまま大人になっちゃった、みたいな。

松井 あと、90年代後半の不安定な時代に苦労している親の後ろ姿を見たりですとか。

岡田 親御さんが、もしかするとちょっと厳しい環境に置かれていたというケースも多いのかもしれないですね。

松井 場合によっては。そのあと、2000年代ぐらいはてITバブルがあって、一瞬華やかに見えたときがあったけれどもわりとすぐにバブルがはじけて。そして、2000年代前半で就職氷河期になると思うんですけど、その辺りを見ていると、一瞬浮上したように見えても、やっぱり何かがだめになったり。そういう時代の流れを見て、ちょっと悟ってしまったのかもしれないですね。

岡田 「さとり世代」というネーミングもありますよね。

松井 さとり…。そうですね。さとりだと実際はもうちょっと下の世代にもなるんですけども、でも同じような環境をもうちょっとお姉さんの立場で見ていたのかな。しかし、もちろん同じ時代を生きても、もっとバリバリと、努力したら叶うと思う人もいたりします。そこはちょっとパーソナリティーによる感じがするんですけど。ひとつ考えられる背景として、いまの話のようなこともあるのではないかと感じています。

◆キャリジョ研の将来方向

岡田 お時間の関係で最後になります。今後ますます多様化する女性の生き方・働き方っていうことなんですけれども、松井さんからご覧になって、10年後にはキャリジョ研ではたぶんこんなことがテーマになってるだろうなというのを伺いたい。
 10年後の2028年、また社会環境が変わりますよね。『未来の年表』なんて本が売れてますけど、2030年っていうのがいろんな意味で、ターニングポイントって言われています。
 オリンピックも終わり、本格的に団塊の世代が全部高齢者になり、3人に1人が65歳以上。少子化は進んでいきますし、働き方に関しても、シンギュラリティとか、AIって話も出ている。そういった意味では職場も変化していきます。

松井 かなり難しいご質問だなと思ったんですけど、さっきもちょっと途中で出ていたキャリアパスの柔軟性は、これは希望ですけれども、どんどんと増えて、認められていくといいなって思います。子育てをするようになってからも働く女性はもうかなり増えてきている中で、子育てと仕事の両立をするロールモデルが今ようやくでてきはじめている気がします。でもまだパターンっていうほどバリエーションは多くはないですし、結局は家庭と仕事の両方でまだちょっとバタバタしている方もいて、確立はできていないかもしれないですね。

岡田 個人差がありますよね。

松井 あんなふうにできるんだろうかって、下の世代の人間は不安を抱えるみたいなこともあると思うんですけど。「あみだくじキャリア」とさっきも言いましたが、柔軟に変化していくのが予期できたり、当たり前になってくると怖くない。変化を不安じゃなくて「そういうもの」として、キャリアを考えていくような時代になるといいかなと思います。
 そこには男性の多様性がすごく必要になってくると思います。仕事をする男性と家事分担をする男性の比率が逆転して、家事分担が高くなってもいいじゃないかって思いますし、会社全体でそこに対応をしていかないといけないとも感じます。
 そうするともう、「キャリジョ」っていう言葉の「ジョ(女)」って言ってること自体が古くなって、名前はともかく、男性も含めてニュートラルに、性別を超えた働き方やプライベートの過ごし方の多様性を追っていくことになるのかもしれないです。

岡田 今ここに登場するキャリジョの皆さん、20代30代っていうことで10年後になると30代40代になりますよね。そのときに、キャリジョビフォーアフターみたいな感じでまた追っかけて取材していくんですか。

松井 そうですね…。同じ人の世代を追いかけていくのか、20~30代という年代を追いかけるのかっていうことだと思うんですけど、これまではそんなに中長期スパンでの研究を考えていませんでした。
 キャリジョ研では常に若手を入れてるんですけれども、どんどんと新しい感覚の若者が入ってくるので、その若者がどういう意識や行動をしているのかということに着目し、皆さんにそのナレッジをご提供していくことが考えていた構想ですね。どちらかというと年代を追っています。

岡田 キャリジョ研の組織自体も活性化する意味で、どんどん新陳代謝をしていかないと。

松井 そうですね。ただ、今のところ、ママになったから抜けるってことはなく、メンバーにはママもいるんです。なので、若いキャリジョたちだけでなく、ママのキャリアとのブリッジも、今後必要だとは思っています。
 個人的に、人事って、すごく大事なミッションを持っているって思うんですけども。私は、採用などには直接携わっていないですけれど、新人研修をしたり、インターンのチューターをしたり、そうやって入社したての社員や、今後入ってくる若者たちに触れる機会はあります。そこで、この子たちがみんなどういう人で、何をしたくて、どういうふうに成長してくのかという、ポテンシャルをこの段階で見極めて、適切な部署に配置していくっていうのはすごく大事だと思います。

インタビュー収録を終えて

岡田 適材適所ですね。

松井 そうですね。そういうのは本当に難しいことで、能力がいるなと思います。そういうときに、こういう女性の働き方や働く意識のタイプがあるんですよっていうことが、もし参考にもしなるのであれば、少しでも参考にしていただきたい。配置される社員としても人事としても、お互いに会社をもっと盛り上げていくためにWin-Winになるために役立つといいなとも思っています。

岡田 ありがとうございました。



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