少子化による対象年齢人口の減少により熾烈を極める新卒採用活動。就職協定廃止、インターンシップ、ナビ採用とリファラル採用、HRテックなど表面的な理解が原因で踊らされる採用担当者。新卒一括採用ってどうなの?というテーマの議論も局所的に盛り上がりを見せるが変わらない現実があります。一方で、若年者の早期離職は恒常的に増加傾向にあります。問題の本質は何なのか?どこに向かおうとしているのか?迷走する新卒採用市場及び関連テーマについて、人材関連ビジネス起業家の視点から考えます。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

株式会社Roots 代表取締役 中島 悠揮 氏

株式会社Roots 代表取締役 中島 悠揮 氏
大学卒業後、一部上場の広告・人材会社に就職。その後、楽天株式会社に転職し、入社1年半にしてMVP、楽天賞を獲得(9,303名中)して、新卒紹介事業の責任者として事業を牽引した。その後、株式会社Rootsを設立し、大手・中小企業を中心に200社以上の採用コンサルティングや大学での講演をはじめ、多くの学生に対し就職アドバイスを実施している。

株式会社カイラボ 代表取締役 井上 洋市朗 氏

株式会社カイラボ 代表取締役 井上 洋市朗 氏
成蹊大学経済学部卒業。株式会社日本能率協会コンサルティング、社会起業大学事務局長を経て2012年3月に株式会社カイラボを設立。
2013年に新卒入社後3年以内で会社を辞めた早期離職者100人へのインタビューをまとめた「早期離職白書2013」を発行。早期離職の実態と対策に関するセミナーや研修を全国で実施。現在は高校生や大学生向けのキャリア教育の授業にも登壇し、年間100件以上のセミナーや研修などを行っている。一般社団法人プラス・ハンディキャップの理事も務め、「生きづらさ」をテーマとしたWebマガジン「Plus-handicap」でのコラム執筆も行っている。


岡田 英之(編集部会):本日は、株式会社Roots 代表取締役の中島悠揮さんと、株式会社カイラボ代表取締役の井上洋市朗さんのお2人にお越しいただきました。まずそれぞれの会社の事業内容のご紹介、起業の経緯などをお話いただければと思います。

◆それぞれの起業理由

中島 悠揮(株式会社Roots 代表取締役):当社ではHRテック事業と人材紹介事業を行っています。HRテックに関しては、クラウド型の応募者管理システム『採用一括 かんりくん』というシステムを提供しています。人材紹介に関しては一般に採用課金100万円くらいの紹介会社が多いのですが、当社は採用課金が38万円で、そのかわり入社後に退職しないように毎月フォローするサービスを月額制で提供しています。採用学を研究されている神戸大学の服部泰宏教授にご協力いただき、離職の可能性を可視化し、離職可能性が高くなると人事にアラートを出したり、メンタルサポートしていただいたりする仕組みです。データをもとにどういう人を採用すべきか、どういう人が活躍して定着していくのかもフィードバックしています。

岡田:起業されたきっかけを教えて下さい。

中島:前職は楽天におり、人事の方は聞くとぞっとするかもしれませんが「みん就」というサービスに関わっていました。その前も学情という会社で新卒採用に携わっていました。新卒採用の業界とは非常に不思議な世界で、20年間ずっとリクナビ、マイナビが牛耳っています。でも、今は新卒で入社した若者の35%が3年以内に辞めていく。仕事が楽しいと思えている若者たちも少ないような世の中になっています。この業界に対する疑問があり、変えていきたいという思いから起業しました。

起業に対する「思い」を語って頂きました!

井上 洋市朗(株式会社カイラボ 代表取締役):私は、2012年にカイラボという会社を立ち上げて早期離職対策のコンサルティングを行っています。お客様は従業員規模100~500名くらいの中小企業が多いです。立ち上げた当初は早期離職と言ってもまったく響かない時代でしたが、先日、某セミナーで大手人材サービス会社の方が「これからはエンゲージメントの時代、離職防止です」と発言されていたのを聞き、最近、時代が変わってきたと感じていいます。

岡田:井上さんはなぜ独立されたのですか?

井上:新卒でコンサルティング会社に入ったのですが、入社した直後にリーマンショックがあり、コンサルティングの現場に配属されたら、仕事はリストラ案件ばかりでした。組織開発に興味があってその会社に入社したので、人を切っていく仕事に関わるうちに自分の気持ちが回らない状態になり、正直、逃げ出すように辞めました。その後、教育業界の企業で働いた経緯もあり、自分なりに早期離職や職場環境について何かできるのではないかと考え起業しました。今は企業研修、企業コンサルティングを行いながら、「早期離職白書」というデータ集も発行しています。

◆インターンシップで二極化する新卒市場

効果的なインターンシップとは?

岡田:では、まず新卒採用についてお伺いします。今は2020年入社予定者のインターンシップのタイミングかと思いますが、新卒採用市場の現状分析やトレンド、企業の視点と学生の視点などをお聞きできますか。

井上:新卒採用は言うまでもなく超売り手市場です。インターンシップすら採用できない企業が多いです。それには原因もありまして、私のお客様は中小企業が多いためか、ブラック企業と言われることを過剰に恐れ、説明会でも福利厚生などを必要以上にアピールする傾向があります。当然、学生が中小企業に求めていることとはズレがあるため応募がきません。ある企業で説明会資料をビジュアルメインにしてやりがいに訴求するように抜本的に改めてもらったところ、応募率が劇的に上がりました。今は企業がネット上の評判を意識しすぎている気がしています。

岡田:続いて中島さん、お願いします。

中島:同意見です。かなりの売り手市場で、大手企業は別ですが中堅以下の企業は非常に厳しい。とはいえ採用に成功している会社もあり二極化しています。結局インターンシップをしているかどうかなんです。井上さんのお話のようにインターンシップも打ち出しを間違うと訴求しません。でも、そもそもインターンシップをしていないと3月スタートではもう間に合わない。今は学生への啓蒙活動を2月までのタイミングでしておかないと、その業界にその企業があると認知されないので、インターンシップをしていない企業は追加の予算を組むなど、まだかなり苦戦しています。

岡田:3月のナビサイトオープン時点で事実上もう決着しているのですね。では中堅中小企業が学生さんに訴求するインターンシップを行うにはどうすればよいでしょうか。

井上:まずインターンシップの目的をはっきりさせることです。優秀な人材をその層から採用したいのか。インターンシップをきっかけにその業界に興味を持ってもらうのか。今日の日本経済新聞に出ていましたが、第一志望の業界のインターンシップを避ける学生も多い。そういった学生に「この業界ありかもしれない」と思ってもらうという目的でもいいのです。あるシステム会社で、理系の学生はまず採れないので、インターンシップでは文系の学生のみを対象にロボットを作るワークショップを開催したところ、応募率が劇的に上がったという事例もあります。

中島:結局コンテンツ勝負です。2月までコンテンツで惹きつけて学生のプールを集めなければいけない。3月、4月は多少ましでも5月以降はどれだけ頑張っても応募者は来てくれません。そうなると2月までに集めていたプールにアプローチするしかない。プールを作るためのコンテンというのは重要なのです。

岡田:インターンシップはまさに母集団形成であって、ゆくゆくは個別アプローチをして選考プロセスに乗せていく。だからインターンシップの段階で、できるだけ量的にも、質的にも我が社にあう母集団をデータとして蓄積しなければいけない。それにはインターンシップのコンテンツが勝負だと。

中島:はい。学生の話を聞くと、インターンシップでは企業名も気にしてはいますが、どちらかというと内容に興味を持っています。インターンシップだからこそコンテンツに力を入れるべきです。

◆早期離職問題について

岡田:ところで新卒採用とはそんなに大事なのでしょうか。中途採用というチャネルもありますが。

中島:私は新卒採用は物凄く大事だと思っています。なぜならベンチャー企業が中途採用で優秀な人材を採用するのは非常に難しいんです。でも新卒採用なら当社でも、慶応、早稲田などの学生が採用できます。多くの経営者と話してきましたが、新卒を採用せずに伸びた会社は稀だと思います。

井上:新卒採用のときが一番ポテンシャルの高い人材を採用できるのは同意見です。ただ優秀な人材の採用という意味では、外国人、ワーキングマザー、女性、高齢者、障がい者などチャネルがいろいろある中で、新卒採用だけにかたよる必要はないと個人的には思っています。

岡田:早期離職問題についてはどうお考えですか?

中島:実はうちの会社も去年、新卒が割と辞めてしまいましてかなり悲しい思いをしました。それで人が辞める理由を徹底的に研究したところ、エントリーマネジメントと、役割と責任の明確化が大事だという結論に達しました。入社前にどのように伝えて、本人が入社してからどんな思いを持ってきたかにずれが生じると辞めてしまう。会社のビジョンを明確に打ち出し、このビジョンを達成するためにあなたにはこの役割をお願いするとはっきりさせ、それに評価もつけてあげることが大事です。そこを改めてからは、新卒入社の子も中途採用した子も誰一人辞めていません。

岡田:エントリーマネジメントと役割と責任の明確化、そして評価ですね。井上さんのお考えは?

井上:私は存在承認、成長実感、成長予感の3つがポイントだと思っています。大企業を早く辞める人に多いのが3つ目の成長予感だと思います。実際インタビューをしていて感じるのですが、大企業の32~33歳だと係長にもなれていないため、若手から見ると自分と同じ業務をしているようにしか見えないんですね。それで本人は5~6年たってもあまり成長できないと判断し、成長意欲が強いがゆえに辞めてしまう。そういう方は大体、外資系や有名ベンチャー企業に転職していきます。

中島:それも役割と責任が明確化できていないことの一つの原因だと思います。社員が成長し続けるには新たなミッションを与えないといけないですし、ミッションを与えるということは責任と権限が明確であるべきです。それが提示できていないと自分のいる場所はここではないと感じてしまう。

岡田:役割やミッションはどんどん変わっていきますよね。そうすると企業の責任でしょうか。

中島:そうですね。多分経営者の責任です。ただ与えられるミッションに限界がくるときはあるので、そういう場合はその人は他社に転職したほうが日本のためにも良いと思います。

井上:私も離職が必ずしも悪いとは思っていなくて、白書にも書いていますが個人の成長スピードが会社を追い抜くことはあると思うんです。そのときにこの会社は自分を育ててくれた会社だから友達を紹介したいと思うのか、もうこの会社の人の顔も見たくないと思って辞めるかは大きな差があります。もしポジティブな離職が100%だったら、早期離職率100%でも別に問題ないと思います。

◆リファラル採用、中高年採用、外国人採用

岡田:友達の紹介というお話が出ましたが、リファラル採用も最近話題です。中途採用市場でもマッチングビジネスはもう終わりだという声も出ていますがどう思われますか?

井上:リファラル採用は成長しているベンチャー企業ならありだと思います。ただ私のお客様の中小企業のように、例えばオーナー企業で成長率も横ばいのいわゆる「ザ中小企業」となると難しいと感じます。辞めるときは友達を紹介どころか完全に喧嘩別れです。

中島:同意見です。リファラル採用はあまりうまくいっている会社がない。アメリカはリファラル採用が50%だといいますが、終身雇用という文化がないので。日本だとまだその文化が残っていますから、ちょっと条件が良いという理由で動く人は少ないんです。ただ徐々に増えてはいます。

岡田:転職マーケットの環境が違うわけですね。では次に中高年の採用についてお聞きします。今はライフシフト100年と言われるように働く期間が長くなっています。50歳以上の人が自分を高めていき、企業もそんな人材を活用していく方法はありますか。

中島:先日50代以上のシニアの採用支援を行っている会社が上場しました。その会社はこれから伸びる会社のランキング上位に入っています。飲食店を見ても留学生も多いのですが老人も多い。しかも元気です。多分中高年マーケットはブルーカラーと建築士など専門性の高い人たちの2つのマーケットで伸びていくと思います。

井上:同意見です。中高年はホワイトカラーとブルーカラー、専門性の高い人とそうでない人の格差が激しくなるというイメージがあります。ただ昨日もスーパーでおじさんがレジを打っていたのですが、絶望的に愛想がなかった。今後中高年マーケットが伸びるにせよ、スキル云々よりも人当りや愛想がいい人がもしかしたら生き残っていくかもしれないと感じております。

中島:私もNPOのボランティアに参加したときに、会社名や所属部署がないと人として価値がないというようなスタンスの方々にお会いすることがあります。中高年市場でマッチングを考えたとき、そこが多分課題になってくると思います。

岡田:日本生産性本部にも50~60代の人がたくさん学びに来ています。上手に自己改革できた人はどんどんチャンスが与えられるし、そうでない人は難しいわけですね。

中島:中高年層はマッチするところにはマッチします。知人の会社で50代以上しかとらない会社もあります。辞めないので安定感が凄いという理由です。

岡田:日本には今、留学生も増えています。外国人採用はどうでしょうか?

中島:間違いなく伸びていきます。明らかに日本の若年層人口は減っている。どこかで若い労働力を確保しなければと考えると、ビジネスマンの副業か海外から人材を呼び込むしかないと思います。

◆HRテックの導入状況について

HRテックを活用するには人事担当者の意識改革も必要

岡田:HRテックについて簡単に触れたいと思います。人事でも後工程、給与計算などにはRPAが導入されていますが、採用のフェーズでHRテックの導入はどの程度進んでいるでしょうか?

中島:新卒採用をする企業7万社の中で、応募者管理システムを導入しているのは2000社しかないと言われています。大手企業は導入していますが、中堅中小企業はエクセルを使って管理しているのがまだ現状です。ただポテンシャルはかなり高い。中途採用の管理システムについても、営業している肌感覚からいくとお客様の引き合いはかなり強いです。今後中堅以上の企業では導入しているのが普通という世の中になるだろうと思っています。

井上:先日ビッグサイトの働き方改革フェアに行ってきました。採用管理、労務管理、従業員のエンゲージメント、メンタル系の分野は非常に増えていると感じました。うちもストレスチェックシステムを持っているのですが、結局いまのHRテックでできているのは早期発見でしかないんです。兆候が出てきたのを早めに察知して対処することはもちろん大事です。でも本当はその兆候をどう出さないかということがさらに大事です。だからメンタル系のHRテックもエンゲージメントの方向に流れるという気がしています。

岡田:中島さんのお話に出た服部先生が、人事部は採用の母集団や社員の評価履歴などのデータをHRテックで蓄積し予測するべきだとおっしゃっています。勘と経験でではなくと。そういった意味では普及していきそうですね。もちろんエクセルもマクロなどを活用すればいろいろできますけどね。

中島:採用管理では増えると思います。従業員満足度のシステムについてはうちでも大手のシステムを導入して使っているのですが、どうもロジックがあるのかよくわからないんですね。まだ各社、解を探している状況という気がしますね。

井上:システムで「調子が悪いです」と出てきても、まあそれは顔を見ればわかります。2~3日早くわかって、ではどうすればいいのかというフェーズでは、いまのところ「頑張って下さい」みたいな状態になってしまっているのが現状だと思います。HRテックもやはり業務改善、業務の効率化のところが多分最初にきますね。

中島:わかりやすいですよね。この分の人件費をITでカバーできるので、その分コストが下がりますよというのが一番わかりやすい。

井上:おそらく、あなたの会社のこの状況ならこういう施策でこれだけ売上があがるとか、ESを上げることも、データを全部ぶち込めば可能だと思います。ただ各社データを自分たちで持っているのでなかなかそこまでいかない。エンゲージメント系のシステムを開発している企業の方が言っていたのですが、意外と経営者のほうがはそこに悩んでその分野に目をつけているのですが、人事担当者の意識がそこまで進んでいないというお話でしたね。

岡田:ちょっと時間がかかりそうなパターンですね。

◆人事担当者へメッセージ

岡田:それでは最後に、会社の今のトピック、今後の事業計画についてお話いただけますか。

井上:ルーツでは早期離職白書というデータ集を、2013年と2016年出していまして、Amazonでも販売しています。電子版とオンデマンドで注文して印刷するタイプがあります。Amazonで買ったほうが当社のHPよりも安く買えます。早期離職白書は来年2019年版を作る予定です。今まではインタビュー集の意味合いが強かったのですが、2019年版では統計的な裏づけもつけて論文に近いような感じで出したいと思っています。
あとはメンタルの問題で、一次予防の段階で何かできないかなといろいろな企業と声をかけあいながら仕組みを考えている段階です。早期離職はメンタルの問題とすごく関わっています。日本全体の課題だと思っているので、2019年を皮切りにそういう方向に力を入れたいと考えています。

岡田:株式会社カイラボと検索していただいて、問合せフォームからアクセスすると、井上さんにコンサルティングしてもらえるわけですね。早期離職白書も「早期離職白書」と検索するとAmazonで購入できる。わかりました。では中島さん、お願いします。

中島:当社では新卒採用の支援を行っていますが、採用成功のポイントは時期別の媒体の使い分けとエンゲージメントの構築と思っていますので、そういうところをご支援できます。また最近当社の『採用一括 かんりくん』というクラウド型システムのサービスがLINE連携しまして、LINEで自社に応募する学生に対しメールを送れます。しかも学生からの返事もLINEで返信してもらえる機能がつきかなり好評です。新卒採用市場はナビシステムで頑張って学生を集める時代は終わっていて、集まってきた母集団に対していかに転換率を高くし採用していくかが命題になってきています。そう考えるとエンゲージメント構築がすごく重要で、その一つの手法としてLINEは有効だと思います。
私は長期的には採用というのは点の採用ではなく線の採用であるべきだと思っていて、どういう人が活躍していくかというデータをもとに、誰を採用すべきか決めるべきだと考えています。今、当社のサービスにのっていただければ、将来そういったことも含めてご支援できます。セミナーも定期的に開催しています。

岡田:例えばこれから初めて新卒採用を始めてみようという会社の相談にものってくれますか?人事部もないような会社で、担当が事務の女の子と1人とかの会社でも。

中島:もちろんです。「はじめての新卒採用」というサービスがあります。母集団形成から採用に至るところまで支援できます。新卒採用がなぜ必要かというところからサポートさせていただきます。

岡田:お2人とも有難うございます。それでは以上で終わります。

座談会終了後のワンショット!