2036年。あらゆる問題を「先送り」してきた日本型組織の典型(永田町・霞が関)に限界が来ます。年金、保険などの社会保障はもとより、安全保障に至るまで、多くの課題を抱えつつも改革を先送りし続けてきた日本型組織。私たち民間企業も同様ではないでしょうか。年功序列、終身雇用、硬直化した組織、フレキシビリティに乏しい労働市場など人事領域でも永田町・霞が関と同じ風景が垣間見られます。
 先送り傾向が強い日本型組織と決別し、迅速で透明な意思決定と変化を楽しめる日本型組織へ脱皮するために必要な考え方とは。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

株式会社トリリオン・クリエイション 代表取締役社長 岡山県立大学 地域共同研究機構 客員准教授 宇佐美 典也

株式会社トリリオン・クリエイション 代表取締役社長
岡山県立大学 地域共同研究機構 客員准教授
宇佐美 典也

1981(昭和56)年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済産業省入省。2012年に退職。太陽光発電、半導体政策等に関わるコンサルティングの傍ら、メディア出演、著述活動に勤しむ。著書に『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』等。岡山県立大学客員准教授。


◆『逃げられない世代 日本型「先送り」システムの限界』について

日本型先送りシステムとは?

岡田英之(編集部会) 本日は経済産業省ご出身のコンサルタントで、『逃げられない世代 日本型「先送り」システムの限界』の著者、宇佐美典也さんにお越しいただきました。まずは宇佐美さんの自己紹介をお願いします。

宇佐美典也(コンサルタント・ガバメンターアフェア) 僕は1981年生まれでもうすぐ37歳になります。現在は主として太陽光発電の開発コンサルタントと半導体分野で政府と民間企業をつなぐような仕事をして、その合間に文筆業を勤しんでいます。元々は東京大学を卒業後、経済産業省に入省し調査統計や税制改正の部署を経て、産業技術環境局という部署で研究開発に関する組織法制や知財法制の改正などを担当していました。最終的にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)という研究開発の現場に出向し、半導体・電機に関する研究開発プロジェクトを実際に立ち上げました。その後、自分で独立したかたちです。

岡田 官庁もかなり人事ローテーションがあるのですね。

宇佐美 僕の場合はちょっと特殊で、前任がいたのが最初の部署だけで、その後ずっと前任がいなかったので通常のローテーションの枠から外れていました。法律や税制を手掛けるのが得意だったのですが、省内ではそういう人材は都合よく使い回される傾向があり、新しい制度を作るプロジェクトが立ち上がると「あいつ呼べ」と声がかかってプロジェクトベースで仕事をしていました。ただ、仕事の軸は制度改正ということで共通していました。

岡田 『逃げられない世代 日本型「先送り」システムの限界』の出版経緯、課題意識などをお伺いできますか。

宇佐美 この本では、官僚としての自分、フリーランスとしての自分の立場から見えてきた社会を、特に自分と同じ年齢層の人たちに共有したいと思いました。当時から今の社会保障システムはあと20年持っても30年は持たないと思っていましたので。

岡田 社会保障システムの破綻は論理的にあり得ることですが、官僚の方は口に出せないですよね。

宇佐美 はい。官僚も居酒屋などでは話題にしますが対外的には言えません。僕は統計の部署にいたので冷静にデータを積み上げるとそうなる可能性は十分ある。むしろそうなる可能性が高いと思っていました。もちろん破綻といっても社会保障給付が全くゼロになるわけではありませんが、今政府が建前で説明している内容と、現実の制度の運用状況にどれ位乖離が出るかを具体的に示したかったのです。もう一つは出版社の方とも方向性が一致したのですが、世の中に蔓延るまやかしの議論。例えばどれだけ借金を増やしても大丈夫、日本経済は内需が中心で非常に頑健な構造、諸外国と比べて日本は特別に優れているなどの説に対して、データ上はそうなっていないということも提示したいと思いました。

岡田 本の反応はいかがですか?Amazonでもかなり売れていますよね。

宇佐美 20~30代向けの本としては売れているようです。Kindle版の売上比率がほかの本の10倍くらいあり若年層に読まれている感触もあります。反応は良いので書いた甲斐はあったと思っています。

◆経済産業省での人材流出と中途採用

岡田 平成29年に経済産業省若手プロジェクトが公表した『不安な個人、立ちすくむ国家』というレポートが非常に話題になりました。宇佐美さんの本にも出てきますが、社会保障制度の問題はそもそも人口構成上避けられない話ですよね。

宇佐美 おっしゃるとおりです。

岡田 ある種こんなの前からわかっているという話でもあります。でも改めて数字をベースに官僚の皆さんが語ることで物凄くインパクトがありました。しかしこれまでの霞が関では、若手がこんな発信をするのはタブーだったと思います。最近、霞が関界隈はどのような状況なのでしょうか。

宇佐美 このレポートをどう見るかです。若手の生きがいいと見ることもできます。ただ私から見るとそうではなくて、実際に省を動かしている50代後半以上の人たちが、若手官僚の不満を抑えきれなくなってきているということだと思います。
ここ何年かで省庁を辞めてしまう若手官僚が増えており、私の経済産業省も私と同世代の職員が大分転職しました。それは働き方の問題や政策の標準モデルが現実とあまりにかけ離れているギャップに耐え切れないからだと思います。そこで「このままじゃまずい、何らかのかたちで若手のガスを抜こう」という問題意識から出てきた動きが若手プロジェクトなんだと僕は思います。今は経済産業省だけでなく各省庁が若手プロジェクトのようなことに取り組んでいますが、決して草の根で起こっているわけではなくて、人事や省庁の管理側が若手にそういう機会と言論の自由を与えているわけです。

岡田 今のお話を聞くと、民間企業の人事が抱えている悩みとよく似ていると感じます。企業でも現在は、新卒入社3年以内に約3割が離職します。理由は、グローバル化をはじめ外部環境の変化に合わせ組織を変革する必要があるのに経営層がなかなか腰を上げない。結局組織の論理で若手の意見は押し返されてしまい、最終的には若者が組織を去っていく。特に大企業と呼ばれる昭和型マネジメントシステムを導入している企業が典型です。霞が関の組織構造もこれに近い構図になっているのでしょうか。

宇佐美 同じだと思います。ただ最近面白い現象が起きています。官僚の世界でも人材が外資やベンチャーに流れているのですが、ある一定数を超えて人材が辞めてしまうと、今度は人材を外部登用(中途採用)するか若手を抜擢せざるをえなくなります。経済産業省ではそのため、この2~3年物凄い抜擢人事や中途採用が進んでいます。結局いけるところまで旧体制で突き進むと、変わるタイミングは出てくるのだなと感じます。最近は40歳超えたくらいで課長職になる人もいて、昔より10歳以上若返っているのでびっくりしています。

岡田 面白いですね。民間の人が聞いたら、今の話には質問がたくさん出ると思います。ところで、今後少子化がさらに進み官僚の志願者も減っていきます。霞が関がこれまでの組織体制を維持するためにはどうしたらよいと思いますか。

宇佐美 2トラックにするしかないと思います。従来通り内部昇進で育つ人たちと、一度転職市場を通じていろいろな会社を渡り歩いて戻ってくる人たちの2つの人事体系でいく方向性です。金融庁でそういう例が出ていますし、最近は銀行でもそんな動きが始まっています。

◆先送り国家の構造について

国家システムの先送り体質

岡田 先日、リクルートから東大大学院に進み、若手社員の離職について研究している人が「隷属された主体性」という表現をしていました。組織人としての正しい主体性の発揮の仕方は、その組織のメカニズムに隷属している主体性だという概略です。宇佐美さんはお話を聞くと物凄く優秀です。でもおそらく経済産業省のコンテクストでいう主体性とは少しズレていたような気がします。

宇佐美 少しずつ外れていった感は自分でもあります。プロジェクトが終わって普通のポストに回されたとき、実は3回ほど干されています。本にも書きましたが、例えば国会の答弁で野党の質問にまともに答えようとするようなことを私はしてしまうんですが、それは官僚の世界のマナーから外れている、そういう微妙なズレが積み重なっていく感覚が当時はありました。

岡田 国会の答弁ですね。一般の人は中継されている国会で物事が決まると思いがちですが、実際は与党内の事前審査、政調会、各部会、委員会審議などいろいろなステップを経て揉まれてもうほぼ決まっている。だからテレビ中継で見る国会の様子は、はなはだ茶番劇ということですよね。

宇佐美 そうです。建前としては国会で与野党が議論して決まることになっていますが、実際は自民党の中にプチ国会のような部会というものがありまして、ここで与党の先生方に審査してもらい了承を得た法案は一語一句変えることができないのです。野党は国会でどんなに頑張っても法案を変えられないので、法案を廃案に追い込むことくらいしかできない。その前提があるので、国会審議の野党の質問に対する答弁は上げ足を取られないようにまともに答えなかったり、ちょっと外して答えたりという内容になるわけです。

岡田 例えば、城山三郎の「官僚たちの夏」にあるような世界観や志は、今は邪魔なのでしょうか。

宇佐美 いえ、あのような志は今の組織のベースに存在します。ただ開発官僚主義といいますか、その時代と違い今は何が正しいかわかりにくい時代です。だから決めるべき立場である政治家に正しい情報を提供して判断していただくというスタンスにならざるをえないと個人的には思っているのですが、現実には優秀な政治家というのは限れられていて人材リソースの問題から官僚主導が続かざるを得ないとこはあります。

岡田 でも、それでは国会に大量の税金を投入するのは、無駄ではありませんか?

宇佐美 100%無駄とは言えません。野党の粗さがしは徹底しているので監視力としては有効で、官僚はミスをしないよう心がけるようになります。それでもたまに問題のある法案が出てしまうと多くの場合廃案に追い込まれます。ただその結果官僚の仕事はある面では過剰品質になって無駄な仕事が増えているので、それも一長一短ですね。

岡田 企業でもよく「資料を作れ」と言われて若手が残業して作ります。だけど実際にはそれが活用されない。それ以前に物事が決まっているということは頻繁にあります。こういった無駄な組織の意志決定プロセスはどのようにすればよいと思われますか。

宇佐美 国会についていえば、委員会審議の場では野党も審議に参加し必要に応じ法案修正できるような制度に改正するべきだと思います。本会議の場は対決型のショーでもよいと思いますが、委員会レベルからそうだと、政府側にとっても野党にとっても良いことはありません。得するのは与党の議員だけだと思います。

◆逃げらない世代=団塊ジュニア以降

岡田 話は戻りますがこの本に出てくる「逃げられない世代」とは何歳くらいの人たちですか。

宇佐美 本では30~39歳としていますが、シンプルに言うと団塊ジュニア以降の世代です。

岡田 団塊ジュニアは1971~1975年生まれ。それ以降の世代は逃げられない。逆にそれより上の世代は、この日本型先送りシステムで何とか逃げ切れるということでしょうか。

宇佐美 そこは少し語弊があったかもしれません。団塊ジュニア以上の世代が楽な人生を送ると言いたいわけではありません。財政が苦しくなれば給付の切り下げもありえます。ただ、団塊ジュニア以降の世代はそもそも旧来の社会保障システムが完全に維持できなくなります。そのシステムとはまた違うシステムで生きていくしかない世代なのです。

岡田 そんな中で宇佐美さんが同世代の人たちに一番問いかけたいことは何ですか?

宇佐美 一言でいうと勝ち組の概念を変えようということです。これまではブランドのある企業や団体に勤めている人が勝ち組だったと思います。でも将来的には定年後社会保障に頼りきりで生きていくことはおそらくできなくなります。それを考えると、何か自分が得意なことや好きなことを他人にサービスとして提供できるレベルまで磨いて、退職後もある程度定常収入を維持できる人が勝ち組だと思います。ずっとバイクをいじることが好きで中小企業に勤めていたけど定年後もその仕事で定収入があるとか、会社員と農家を兼業していて退職後は農業ができるとか、種類はともかく退職後も自分のブランドを維持できる人です。

岡田 働かない生き方。つまり、ベーシックインカムという概念についてはどうお考えですか。

宇佐美 社会保障という制度に生存を全面的に委ねる思想には否定的ですね。もちろんラストリゾートとしての社会保障は重要ですが、まずはどのような形でも自分の存在がマーケット上で評価されることを目指すべきでしょう。それがうまくいかない時に機能するのが社会保障ですよね。「ベーシックインカムを受け取っているから好きなことができる」という関係ではなく、自分自身の満足と社会の評価は同時に追求していかなければいけないと思います。求められることと、できることと、やりたいこと。これが交差しているから持続可能なのだと思います。

岡田 僕は40代ですが、既に今の30代には組織に属さずセルフブランディングを確立して自分の価値で勝負している人が多いと感じます。かなり多様化しているようにも見えます。

宇佐美 モデルになる人は増えていると思います。表面的には多様化しているように見えますが、本質的には、好きなこと、興味あることを自分の中で育てているうちにコミュニティの中で評価されるようになって、経済的に自立可能になった、という意味では共通しているんだろうと思います。絵が好きならデザインを学びそれをかたちにしてSNSなどを通して世に問う。そして改善していく。そんなことをずっと続けられるかどうかだと思います。

岡田 一本足でなく収入の柱を複数持つということでしょうか。

宇佐美 そうです。自分のブランドを育てて稼いでいくということです。

◆組織と個人の関係性が変化する

岡田 宇佐美さんは経済産業省という組織を離れてフリーになられました。でもフリーランスといっても何かしらの組織と関わりますよね。最近は組織と個人という関係が凄くボーダレスになってきているように感じます。1:1の対応ではなく、あるときはAという組織に属するのだけど、Bという組織に属するときもある。関係性がマルチというか、アメーバ状になってきているように感じますがいかがでしょうか。

宇佐美 今の僕は完全にそうなっていますね。

岡田 そういう人が多くなってきて、それがスタンダードになるのでしょうか。

宇佐美 実はあまりそんな気はしていません。そういった関係性を推奨するというよりは、組織にいる時間は組織としてきちんと拘束することがむしろ大切だと思っています。

岡田 その時間はきちんと隷属させるわけですね。

宇佐美 はい。ただ、その時間だけねということです。そこから外の時間は何をしようが君の勝手だよという切り分け方になるのではないかと思います。そのうち社員も外の世界で自分のブランドが確立されてくると、他の会社とも付き合いがでてきて、その組織にいることがちょっと不都合になってくることもある。そうすると自分の中の損益バランスを考え、多様な企業と付き合い始めるということになると思います。

岡田 そういう時期もあるけど、また先々戻ることもある?

宇佐美 そういうことだと思います。やはり人間は組織を作らないと大きな仕事は基本的にできないので、組織は組織としてきちんと時間を区切って、ある範囲の中でルールを徹底的に守らせるというスタンスになると思います。

岡田 なるほど。組織というものを作らないと、個人ができることは限界があるというわけですね。

宇佐美 企業の人事も、副業、兼業、労働時間短縮、働き方改革などといったことを個別に考えるのではなく、「社員に自分のブランドを育ててもらう」という軸で、労務・研修制度を考えていくことが必要だと思います。自分自身を振り返って反省するのですが、時間ができたからといって会社の仕事と直接的な関わりがあることを副業にするようなことはやめて、それよりも自分の好きなこと、興味あることを追求して、アウトプットして、SNSを通してコミュニティで評価してもらうほうがよいと思います。副業というのは活動の結果であって、目的と考えるべきではありません。会社に入る前の自分の人生、あるいは入社後でもかまわないのですが、本当に自分が好きだったこと、興味があったことを自分の中で育てていって、SNSでアウトプットを出して、コミュニティ内で評価されるようになろう、ということです。

◆人事担当者へのメッセージ

岡田 最後に読者である企業の人事担当者の皆さんに何かメッセージをいただければと思います。

宇佐美 僕が企業側に言いたいのは、もう会社がサラリーマンの一生を保証できる時代ではないので、ルールに基づいて構成員として接しましょうということです。

岡田 ルールに基づくとはどのような意味ですか。

宇佐美 例えばサービス残業です。もう社員の一生を保証できないわけですから、サービス残業をさせていたら将来恨まれることになるかもしれません。社員を組織の中に押し込むのではなく、一定のルールの中で社員が自分の組織外で通じるブランドのを育てる取り組みも歓迎、指導すべきと思います。そちらの方が不満も解消されやすくなると思いますし、ルールを整備しメソッドを伝えることで社員が外で大きな炎上することも減るんじゃないでしょうか。代わりに小火のような炎上案件は増えるかもしれませんが、それも覚悟してSNSの使いこなし方などを教えることは社員のロイヤリティを高める上で悪いことではないと思います。

岡田 SNSの使い方はさまざまですが、宇佐美さん自身はどのように使われているのですか。

宇佐美 僕の場合は文章です。SNSは自分の感性をかたちにして見せることに使う場だと思います。文章、絵、写真、動画、何でもよいのですが、自分の感性を形にして特定コミュニティに晒して、評価してもらって、その評価を踏まえて改善して、というサイクルを繰り返すことで自分のブランドが育っていくのだと思います。

岡田 なるほど。ブランディングというと商業的ですが自己表現の一つの場として使うということですね。

宇佐美 もちろんその中で他者とぶつかることもあります。でもそもそもSNSは他者を否定するためにある場ではなく、繋がるためにある場です。自分の思想なり作品なりを表現する場として使うのが、SNSの正しいとまでは言わないですけど、効果的な使い方だと思います。

◆終わりに

岡田 最後に宇佐美さんの今後の活動予定などを教えて下さい。

宇佐美 はい。今、インターネットテレビ局AbemaTVの『AbemaPrime(アベマプライム)』という番組にレギュラーとして出演しています。毎週金曜日21~23時です。

岡田 宇佐美さんの人となりをより知るには、この番組を見ればよいのですね。本日は有難うございました。以上で終わります。

とても刺激的なお話でした!