フリーランス経理部長という働き方をご存知でしょうか?働き方が多様化する中で、経理や財務、法務、人事など管理部門人材が専門性を活かし、複数の企業と契約をするフリーランスが増えています。今回は、フリーランス経理のパイオニアでマルチな才能をお持ちの前田康二郎さんに話を伺いました。テーマは、「組織不祥事(不正)」です。2018年には多くの企業不祥事(不正)が明るみに出ました。実は、不祥事や不正に走るのはごくごく普通(フツー)の人なのです。不都合?な真実です。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

流創株式会社 代表取締役 経営コンサルタント・作家 前田 康二郎 氏

流創株式会社 代表取締役 経営コンサルタント・作家 前田 康二郎 氏
1973年愛知県名古屋市生まれ。学習院大学経済学部を卒業後、数社の民間企業で経理・IPO業務を中心とした管理業務、また中国での駐在業務を経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」として、経営コンサルティングや企業の経理社員などへの実務指導、サポート業務などを行っている。ファイナンシャルプランナー、日本語教師としての活動も行っている。

◆フリーランスの経理部長という働き方

岡田 英之(編集部会):今回は、数社の民間企業で経理業務実績を持つコンサルタントで、『職場か゛ヤハ゛い!不正に走る普通の人たち』の著者、前田康二郎さんにお越しいただきました。まずは前田さんの自己紹介をお願いします。

前田 康二郎(流創株式会社):大学を卒業した後、最初に入ったのが学研クレジットという学研の子会社でした。その後エイベックスに移り、小さな会社を挟んでサニーサイドアップという会社に転職しています。どの会社でも経理担当でしたが、総務人事や秘書などの業務知識も一通り勉強してきました。サニーサイドアップでは経理部長としてIPOや上場を経験しています。ただ、実は学研クレジットやエイベックスでも上場の準備に携わっていまして…前者は私が転職した後、後者は転職してきた翌年に上場しました。

岡田:経理というよりも上場請負人ですね。

前田:サニーサイドアップの上場審査でも「上場屋ですか?」という質問を受けました。上場したらすぐにいなくなるのか、というネガティブな意味で聞かれたのですが、転職と上場が重なったのはたまたまです。

岡田:そこから今のお仕事に移られた経緯をお伺いできますか?

前田:今は「フリーランスの経理部長」という立場で、複数の会社で経理業務やコンサルティングを行っています。経理と聞くと定型の処理業務を行うイメージがありますが、IPOに伴う仕事は大変です。エイベックスでは在籍していた5年間のうち、夜10時より前に帰った日は一週間もありません。サニーサイドアップでも同様でした。気がついたら30代後半になっていて、さすがにもういいかなぁと…。このまま一生経理を続けると考えたら鳥肌が立ちましたし、もともとコンサルタントになりたいという願望もあったんです。それに、上場する会社を渡り歩いたのは偶然ではなく、自然とそういう会社を見極めていたのかも、とも感じていました。私にはMBAなどの知識はありませんが、PLを見て中の数字を良くするセンスはあると自負しています。だったら一社に居続けるよりもフリーの立場で能力を活かそうということで、独立しました。

岡田:具体的にどのような業務を提供されていますか?

前田:上場企業の管理部長なら当然できるレベルの業務はすべてやっています。マイナンバーなどの新しい知識を取り入れてフィードバックすることはもちろん、入退社レベルの総務人事業務に関するアドバイスや、経営者が出席する企画会議で一緒に課題解決に取り組むこともあります。最近は働き方改革として働く時間を減らすことにばかり注目が集まりますが、それによって利益が下がり、会社が潰れてしまったら意味がありません。減らした数字をどこで拾うか、売り上げなのか、人件費なのか、といったことをしっかりお話しできるようにしています。

岡田:なるほど。前田さんのような働き方は増えているのでしょうか?

前田:デザイナーなどのクリエイティブ業務ではフリーランスが増えていますが、経理や人事、法務といったバックヤード系の人はほとんど見たことがありません。この違いは仕事の性質や中身にあると思います。たとえばフリーランスというと時間に縛られないイメージがあります。たしかにクリエイターなどはあまり勤怠に縛られませんが、バックヤード業務では基本的に遅刻など許されません。またクリエイティブ業務の成果物は「その人ならでは」のものですが、経理処理はだれがやっても同じ…せいぜいスピードや正確さ程度しか違いがありません。ただこうした考え方は、実は一面的なものです。たとえば経理について言えば、数字を処理するのは全体の2割くらいで、本当に重要なのは数字の上げ方に関するアドバイスだと思います。私の場合は会社員時代にずっとIPOをやっていたので経験と知識がありますが、そうした強みがないと経理のフリーランスは難しいかもしれません。

◆昨今多く報道される組織の不正や不祥事について

岡田:最近の報道では、日大アメフト部や相撲協会をはじめ、不正や不祥事が増えているように感じます。

前田:私の考えは逆でして…不正は、実質的には減ってきていると考えています。職場内での不正は、中の社員にすら知らされないまま終わることがほとんどです。公開すればお互いに疑心暗鬼になったり不満が蓄積したりして、社内が混乱します。もちろん対外的にも不信を招きますから、公開のメリットはほとんどありません。ですから処分はちゃんとしても、少なくとも社外に対しては公表しないのが一般的です。

岡田:最近は事情が代わってきていると?

前田:はい。インターネットの匿名掲示板やインターネットカフェの普及などで、情報をリークするハードルが下がっています。結果として「情報を流したら見つかって解雇されるかも」という心理的な抑止力が減り、若い人を中心に内部情報を外部に出すケースが増えているようです。マスコミもそうした情報を積極的に拾いますから、不正情報を目にする機会が増え、不正や不祥事そのものが増えているように感じるというわけです。実際に報道されている事例を見ても、最近起こった不正というよりは、昔から続いている不正が最近になって明るみに出てきたというケースが多いですね。

岡田:最近の企業体質や社員の質の変化によって不正が増えているわけではないのですね

前田:そう思います。そもそも不正は、現金やモノのある場所じゃないとできません。二次下請けや三次下請けを使っている昔ながらのメーカーならともかく、サービス提供が中心のベンチャー企業などでは不正する場所がありません。しかも人材派遣の利用などで社内のお金の流れが単純になっていますから、不正をしたくても物理的にできない環境です。もちろん、昔ながらの仕組みを持つ取引相手から不正行為を要求される場合もありますし、管理監督者自身による不正はありえます。それでも若い人を中心に、大抵の不正はばれるということ、そしてメディアに出されることを理解する人が増えていますので、不正は減りつつあると思います。

岡田:不正を行うのは、古い(社歴の長い)人が中心ということでしょうか?

前田:古い(社歴の長い)人の場合、「不正はばれるもの」という認識や危機意識が薄いです。自分は特別、自分はばれないと思い込んでいるので、今になって足元をすくわれるケースが増えていると感じます。

◆『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』について

岡田:近著のタイトルに「不正に走る普通の人たち」とありますが、「普通の人」とは具体的にどのような人のことでしょうか?

前田:本のタイトルは編集部が決めるんですが…このタイトルだと、事務員など一般の社員をイメージする方が多いですよね。ただ私の意図はそうではなく、会社の上層部で「自分は特別」「自分は特権がある」と思い込んで不正をしているほど、実は庶民レベルの小さい人間なんですよ、だから権力にすがって不正をやらせたりするんですよ、という意味を込めています。

岡田:なるほど。この本を書かれた動機についてお伺いできますか?

前田:きっかけとなったのは東芝の不正事件です。かつての東芝は内部統制が最先端といわれ、多くの会社が手本にしていました。特に経理業界ではお手本になる会社だったんです。ところがフタを開けてみると、明るみになった不正は「社内で誰も知らなかったわけがない、気付かなかったわけがない」ほどあからさまな内容でした。結局、みんな知っていたのに「大人の事情」で見てみぬふりをしていたはずです。経理に携わる人間として、このように帳簿を汚されることに腹が立ち、経理を馬鹿にされていると感じました。

岡田:そうでしたか。すると、この本が想定する読者や目的はどのようなものでしょうか?

前田:特に意識したのは、新しい経理の方たちです。多くの会社では、多かれ少なかれ東芝のようなことをやっています。ほとんどの社員は気付かないものの、不正は帳簿に表れるので経理の人にはわかるんです。少なくとも見る気さえあれば気付きます。ところが実際には、8割・9割がスルーされてしまう。これは「どういう不正があるのか」「どの数字を見ればわかるのか」を知らないためです。もちろん対処法も知りません。不正への対処は、不正を牽制・予防する仕組みから始まります。ですから経理の人間でも、経理だけでなく人事の知識も知らないといけません。この本はその指南書として書きました。

組織不祥事(不正)に走る人とは?

岡田:本の中で、前田さんならではの強みといえる部分をお伺いできますか?

前田:私はしがらみのないフリーの経理ですから、良い事例も悪い事例も書けます。特定の会社に所属している方は基本的に良い事例しか書けないので、そこが私の強みですね。ただ具体的な会社名はほとんど出していません。そういう本は上品じゃありませんし、会社名の付いた事例は読者にとって「他人事」になってしまいます。「自分もその場にいたらやってしまうかもしれない」と理解してもらう、自分事として感じてもらうことで、慣習的な不正がなくなっていくのでは?という期待も込めて書いています。

◆不正が横行する組織の特徴と、そこで働く社員の特徴について

岡田:そうはいっても実際に不正は起きてしまいます。不正が横行する組織とそこで働く社員にはどんな特徴があるのでしょうか?

前田:物理的な面とマインドセットという、2つの特徴があると思います。まず物理的な面から説明すると、不正が起きる会社は「ワンオペレーション」体制になっている、つまりダブルチェックができていないところがほとんどです。具体的には、組織をチェックする立場にいる管理監督者や役員に対するチェックをする人がいない、あるいはそうした立場同士の相互チェックの仕組みが働いていないということです。業務が忙しくて手が回らないとか、業務を秘書へ丸投げしているようなところではよく見られます。逆にそういうところでなければ、不正はほぼありません。もし2人以上の人間が怪しい動きをすると周りも気付きます。ですから物理的に不正をやりにくいんです。

岡田:そうですか。ではマインドセットの方はどのような内容ですか?

前田:端的に言うと、不正で逮捕されるというイメージを持っていません。不正をする人というのは、一見するとちゃんとしている人、みんなから慕われるような人が多いんです。ですから不正が見つかると、周りの人は「やっぱり」と思うより、「なにか悩んでいたのでは」と反応することが多いです。

岡田:それは面白いですね。背景にはなにがあるのでしょうか?

前田:対内的にも対外的にも、不正をクローズにする会社の体質です。たとえば万引きをしたらそうは行きません。公に逮捕されるイメージがありますから、まともな人ならまず手を出さないですよね。ところが会社が情報をオープンにすることはほとんどありませんし、就業規則でも不正の定義や処分について濁しています。「会社のお金をちょっとごまかしたらどうなるか?」が明確でないうえ、まさか逮捕されるなんて思いませんから、つい手を出してしまうんです。

岡田:実際に逮捕されないのでしょうか?

前田:会社によっても違いますが、ほとんどは顧問弁護士と人事とで相談して決めるようです。場合によっては逮捕を含めた対応を就業規則に盛り込む場合もありますが、そこまでいくと取り返しがつきません。ですからどの会社にとっても、不正は公表しづらいというのが大前提です。それに不正を働く側の社員も、いきなり大掛かりなことをする人はあまりいません。「明日の朝に返せばいいか」という感じで小さなお金を握ってしまい、それが積み重なっていくケースがほとんどです。事の重大さを理解していないんですね。「社員は家族」という社長の言葉を都合よく解釈して、「家族を警察に売ることはない」と思い込んでいる場合もあります。

岡田:こうしたケースで、不正を予防することは可能ですか?

前田:先ほどの話に戻りますが、ワンオペレーションではなくツーオペレーションを徹底することです。そしてプロの経理を活用することです。AIを使ったバックヤードの自動化や負担軽減では、労務コストは減るものの不正は逆に増加します。たとえば営業社員が友達との飲み会のレシートを費用に上げてきても、プロの経理なら見抜けますがAI+素人経理にはそれがわかりません。それと、人間は目に見えるもの、視覚に訴えるものには緊張します。入国審査でも怖そうな監視員が複数いれば不正はできませんよね。同じように、経理に厳しそうなプロが2人もいれば現場に緊張感が出ます。もちろん経費の削減も大事なのでうまく考える必要がありますが、そこはどのような形でもいいので、とにかくツーオペレーションにして、それを社員に説明することが重要です。もうひとつは、就業規則をきちんと整備することです。「著しい損害を与えたものは相応の処分をする」といったあいまいな表現ではなく、不正の定義と不正行為に対する処分を具体的に示すべきです。

◆人事担当へのメッセージ

岡田:最後に読者である企業の人事担当者の皆さんに何かメッセージをいただければと思います。

前田:人事に限りませんが、自分の業務以外にも関心を持ってください。たとえば経理では自分の専門領域に狭く深く潜る人が多くいますが、経理処理のほとんどはAIで代替できます。むしろ機械の方が早いし正確です。経理の人間が生き残っていくには、労務人事の知識を身に付けてそれを活かすことが必須といえるでしょう。

岡田:そうした知識を身に付けるのは難しいのではないですか?

前田:経理出身の人が人事総務に行くのは割と簡単です。逆に人事総務から経理にいくためには、簿記の知識も必要になるのでハードルは高いですね。とはいえ幅広い業務にまたがる知識があれば転職も有利ですから、人事総務の人もぜひ経理に関心を持ってください。他の業務に関する本を読んだり、自分の業務とリンクできる部分を探す習慣を身に付けることで、会社にとっても有用な人材に成長できます。

岡田:前田さんご自身が、なにか工夫されてきたことはありますか?

前田:私の場合、デザイナーなど自分と離れた職種の人と積極的に食事に行って話をしています。そのような場では、相手の仕事と経理の仕事のつながりを探すよう心がけています。どのような会社にいても、「その人が必要、この人だから居てほしい」という人になるためには知識や情報が必要です。あらゆる機会を捉えて「知る」ことの幅を広げてください。本を読む場合でも、ただ読み流しするのではなく実際の業務の大変さをイメージするようにします。人事の人が他の業務について「どんな業務か」「なにが大変か」「できる人とできない人はどう違うか」などを知っていると、採用の場面でも応用できると思います。

◆まとめ

収録を終えて

岡田:最後に前田さんの今後のご予定を教えてください。

前田:年内はマネーフォワードさんやオービックさんで、業界向けの講演を何本か予定しています。主に経理業界向けの、内々の内容ですが…。

岡田:人事の人がそういうところにいくのもありですよね。

前田:そうですね。それと、この3年で7冊くらいの本を出しています。ほとんどは経理に関するものですが、1冊だけ「働き方」の本がありまして、「フランス人の働き方と日本人の働き方がどう違うか」など人事の方にも興味深く読んでいただけると思います。

岡田:前田さんの幅広い知見に触れることができそうですね。本日はありがとうございました。以上で終わります。


これより先のページは会員限定のページとなっています。
事務局より発行されました「ユーザー名とパスワード」にてログインください。

既存ユーザのログイン