本セミナーは、当初、東京大学社会科学研究所教授の玄田有史先生と、学習院大学名誉教授の今野浩一郎先生による対談を予定しておりましたが、玄田先生が緊急のご公務のため止む無く欠席されることになり、2月1日当日は、今野先生を囲むセミナーに変更して開催されました。
 急な内容変更にもかかわらず、今野先生の絶妙な司会進行により、セミナーを企画したワークライフキャリア研究会のメンバーからの3つの問題提起について、活発な意見交換がなされました。

2020年代の雇用とキャリアを考える

◆テクノロジーは雇用をどう変えるのか

 ワークライフキャリア研究会のメンバーからの問題提起の1つめは、「テクノロジーは雇用をどう変えるのか」でした。具体的には、(1)「AI/RPAの利用により、人手不足が解消し、人手が余るのか?AI/RPAにより、ルーティン業務の多い非正規労働の雇用はどうなるのか?」、(2)「シニアは、AI/RPA等の新しいテクノロジーに適応できるのか?AIが不得意とされる創造性を中心とした仕事に、シニアは適応できるのか?適応できないシニアは、肉体労働を中心とした仕事をするのか?」、(3)「AI/RPA時代、雇用をしてもらえるようになるためのエンプロイアビリティはどのようなものになるのか?」の3点について、今野先生に投げかけました。

ワークライフキャリア研究会 泉田氏からの問題提起

 今野先生は、「戦後を振り返ってみれば、技術の発展により消えていった職種や産業は少なくない。たとえば通信技術の発展で消えたのは、タイピストや電話交換手という職種。オートメーションやME(マイクロエレクトロニクス)革命などによって、工業でも大きな変化があった。石炭から石油へというエネルギー政策転換では、多数の炭鉱労働者が職を失った。商業においても、八百屋などの商店もかなり減った」とまずお話しされました。そして「雇用は変化するもので、先人はその都度、どうにかしてきた」とし、「AI/RPAの発達によっても、雇用にそれなりの変化はあると予想される。今までも雇用の変化に対してどうにかしてきたように、これからも、変化に対して『どうにかする能力』が重要」とコメントされました。

 会場では、「どうにかする能力」とは具体的にはどのようなことかをめぐって、意見交換がなされました。「知的好奇心」、「学習習慣」、「チャレンジ力」で構成される「変化対応行動」と、「どうにかする能力」は近いのではないか、という意見に筆者は共感しました。

 また、「AI/RPA時代、雇用をしてもらえるようになるためのエンプロイアビリティ」についても、今野先生は、「そもそも、『エンプロイアビリティ(雇われる能力)』にとらわれることはないのではないか」と指摘され、雇用に変化がある中で、「雇ってもらう」という受け身の発想ではなく、「これから必要とされる能力、変化に対応できる能力」をいかに身に着けるべきか、と積極的に「打って出る」発想が必要なのではないか、とコメントされました。

 

◆働き方改革とキャリア形成

 問題提起の2つめは、「働き方改革とキャリア形成」でした。/p>

 具体的には、(1)政府の働き方改革実現会議の資料<「働き方改革の実現」樹形図>をみると、「処遇の改善(賃金など)」「制約の克服(時間・場所など)」「キャリアの構築」の3つの課題について、いろいろな施策を、様々な部署がばらばらに取り組んでいるように思える。どれもキャリア全体にかかわることなので、政策ももっと全体としてやるべきではないか」、(2)「高齢者の活用策について」、の2点について、今野先生に投げかけました。

 今野先生は、「働き方改革の実現」のための政策について、「政府は日本経済を成長させたい。そのためには、少子高齢化社会の下、労働力を増やすことと、生産性を上げることが重要。そこで、多様な労働者(女性、高齢者、障がい者)を増やして有効活用をすることが求められる。そこで(1)制約の克服(多様な労働者には様々な制約があるので、ワーク・ライフ・バランスを確保できるよう、柔軟な働き方ができる制度設計が必要)、(2)キャリアの構築(ライフスタイルやライフステージの変化に応じた働き方ができるよう、個人の学び直し・職業訓練が必要)、(3)処遇の改善(「同一労働同一賃金」の実効性確保など)、の3つの柱ができている」とポイントを整理して説明してくださいました。
 さらに、職業訓練については、「『雇用弱者(失業者、障がい者)支援』、『若者支援』、『在職者支援』の3種類があり、それをどういう主体(国、企業、公的団体等)がどのように実施するかは、各国それぞれの職業訓練についてのグランドデザインによって異なる」と説明してくださいました。
 その上で、「日本は残念ながらグランドデザインがなく、個々の施策がばらばらに動いている。もっとしっかりとグランドデザインを描くことが重要」とコメントされました。

学習院大学名誉教授 今野浩一郎先生

 また、「高齢者の活用」については、会場の参加者、特にキャリアコンサルタントの皆さんから活発な発言が展開されました。「個人の支援と組織の活性化の両面から、高齢社員のサポートをどうしたらよいか」が現場で切実な課題となっていることがうかがえました。

 今野先生は、「定年再雇用で実質65歳定年のようになっている。『若い上司とシニアの部下』という状況には、ともかく慣れること。企業はその過渡期にある。大学ではすでにそうなっている。問題は、どこかでキャリア(職責)を下していく必要があること。商店など自営業では、年をとるにつれ、子どもに引き継いだり、事業を縮小していったり、とキャリアを下している。それと同様のこと」とコメントされました。

 また、「なぜキャリアを下げなければならないのか」という質問には、「管理職には体力が必要。部下を抱え、評価や育成をしつつ、組織目標も達成するというのはしんどいこと。体力が衰えたら、管理職から下りるべき。もちろん、高齢でもずっとキャリアを上げている人もいらっしゃるが、それは例外」とお答えになりました。

 さらに、「シニアの辞め時が難しい。工場などでは危険なこともある。高齢者の運転免許と同じ。本人はまだまだ働けるつもりのところを辞めてもらうためには、制度もそうだが、本人が納得するしかけが必要」と補足されました。「高齢者の運転免許と同じ」という点に、「人生100年時代」の大変さを筆者は感じました。「定年が○○歳だから、(本人の意向とは関係なく)辞める」というのは、制度としてはうまい仕組みだったわけで、「キャリアを下していくこと」や「自分の辞め時を自分で決めること」について、今後は、自営業のノウハウを見習うべきだと思いました。

◆人生100年時代のリカレント教育

 最後3つめの問題提起は「人生100年時代のリカレント教育」でした。特に、「日本の雇用システムが学び習慣を失わせているのではないか」という問いかけを中心に、意見交換がなされました。

 今野先生は、「『日本の雇用システムは、日本企業の強みであり、職業訓練面でも効率的・効果的』というのが従来の一般的な認識。時代が変化する中で、かえって学びの阻害要因になっているということなのか。今日の問題提起は、大変重要」とコメントされました。セミナーの時間が残り少なく、十分な議論はできませんでしたが、今後の掘り下げが期待される論点でした。

活発な意見交換がなされました。

 上記3つのテーマについて、活発な意見交換がなされ、あっという間に予定の時間が過ぎてしまいました。今野先生が折角ご用意してくださったレジュメ「制度屋からみたこう変わるビジネスパーソンのキャリア」は、残念ながら、セミナーでご説明いただくことができませんでした。従来の「会社員型」キャリアから「組織内自営業主型」キャリアへの転換という変化をとらえていらっしゃるようです。またの機会に是非、ご説明いただければ幸いです。

取材・文:仲野 美佳(Insights編集部員)


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