働き盛りの30~40代が非正規雇用から脱することができず、フリーター等の不安定な働き方を強いられています。彼らは就職氷河期世代に該当し、多くの同世代が就職活動で躓きました。新卒一括採用という日本独特のシステムも災いし、所謂正規社員としてのレールから外れ、キャリア(職業経験)を構築する機会に恵まれませんでした。こうした世代も今や中年世代となり、事態は一層深刻さを増しています。今号では、こうした中年フリーター問題を追いかけているジャーナリスト小林美希さんにお話を伺いました。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

ゲスト:労働経済ジャーナリスト 小林 美希 氏
茨城県生まれ。茨城県立水戸第一高等学校卒、2000年神戸大学法学部卒業、株式新聞社に入る。2001年毎日新聞社「エコノミスト」編集部。2007年よりフリージャーナリス。就職氷河期世代の雇用、結婚、出産・育児と就業継続などの問題を中心に活動している。


岡田 英之(編集部会):本日は『ルポ 中年フリーター「働けない働き盛り」の貧困』の著者である、労働経済ジャーナリストの小林美希さんにお越しいただきました。小林さん、まずは簡単に自己紹介をお願いいたします。

◆『ルポ 中年フリーター 「働けない働き盛り」の貧困』について

小林 美希(労働経済ジャーナリスト):株式新聞社、週刊エコノミストの記者を経て2007年からフリーランスとして活動しています。その原点になったのがまさにこの中年フリーター問題で、十数年前は若者だった就職氷河期世代のライフステージに沿うようなかたちで、雇用、出産、マタハラ、保育、医療業界などにもテーマを広げてきました。最近は特に保育に注力しています。

岡田:就職氷河期世代。つまり1990年代後半から2005年ぐらいに就職活動をした世代が、その後も結婚、出産、子育てなどいろいろなライフステージの変化のなかで葛藤していることを追いかけていらっしゃるのですね。

小林:はい。最近はまた新卒採用がバブルになっています。そうするとこの世代に対して「なぜ就職できないんだ?」「なぜ非正規なんだ?」という批判的な感じになってしまう。もう一度、この問題を掘り起こさなければならないと考えています。

岡田:『ルポ 中年フリーター「働けない働き盛り」の貧困』の内容を簡単にご紹介いただけますか?

小林:この本は、就職活動をした時期がかなりの不況だったため、企業が新卒採用の人数を大幅に削減し、当時いくら努力しても内定をとれなかった人たちがたくさん存在したこと。そして一度非正規社員になると日本の雇用環境では、なかなかそこから這いあがれず格差が広がっていく。完全に格差がついてしまった現在の状況を書いています。そこから、どんな問題があるのかを提示したいと思っています。

岡田:いろいろな方がこの本には登場します。氷河期世代の高学歴女性の話など非常に印象に残ります。

小林:2000年あたりは、早稲田や慶応、旧帝大クラスの大学を出ても、女子の就職の門戸は本当に狭かったのです。そのクラスの大学を出るとみな総合職を狙うのですが、実は都市銀行、大手メーカー、商社なども当時は女性総合職の採用枠がエリアで1人というケースも珍しくありませんでした。だから50社、60社、100社受けてもばっさり落とされる。結局、就職先がないよりはマシだということでアルバイトや派遣で働いたり、藁をもつかむ思いで中小企業に入ったりした人もいます。でもそこが運悪く無法地帯のような企業だと、正社員といっても名ばかりで、薄給で過労状態になるまで働かされてしまう。

岡田:いわゆるブラック企業と呼ばれる会社ですね。

小林:結局、そんな企業しか採用の枠がなかった。ブラック企業に正社員で入社して心身が不調になり辞めざるを得なかった人もいます。そうなると正社員で働くことがもう難しくなり、リハビリのように派遣で働きだし、やはりそのまま非正規の立場に固定化されてしまう。派遣スタッフとして真面目に働き続けても次は「3年ルール」がネックになって派遣切りにあいます。20代半ば~後半でキャリアが断絶されることを繰り返していくため、そこから這い上がれないという構図になっていきます。結婚したり子供ができたりしても、派遣社員だと妊娠解雇という問題も如実に出てきます。

◆女女(ジョジョ)間格差、雇用格差、貧困の背景

岡田:労働者派遣法は平成に入ってから何回か改正されました。大きかったのが1999年と2005年の改正です。規制緩和されたわけですが、結局それがあだ花というか、貧困、断絶、格差のある種の原因になってしまったとも言えます。2000年ごろには「女女間格差」というキーワードも出てきました。

小林:出てきました。おしなべて、そういうものはありますね。

岡田:女性の働き方が多様化し、生き方の選択肢が増えていく。一見女性にとってハッピーに見えるのですが女性同士の格差も大きくなっていく。それも明らかに能力に差があるわけではない。

小林:運次第というところがあったと思います。だから女性でもたまたま福利厚生が手厚い企業に入った人は非正規雇用問題に対してあまり関心がありません。それもこの問題が理解されにくい理由の一つです。

岡田:そうなのですね。首都大学東京の阿部 彩先生という貧困問題を研究している社会学者の方が同じようなことを言っていました。こういう貧困、格差などの問題は、実は社会に浸透しているようでなかなかしていない。なぜなら当事者にならないと、いかにこれが過酷で社会問題として解決しなければならない問題かという温度感にならないそうですね。

小林:当事者でないと他人事になります。保育の問題も「うちは良かったから、大変ね」で終わってしまう。雇用もそうです。そこで大事なのがマクロ的な問題提起だと思います。私も常にこのルポをしながら、こんなにマクロな影響がありますよ、税収は落ち込みます、消費も冷え込みます、犯罪も増えるかもしれませんということを言い続けていますが、なかなか伝わらないというジレンマがあります。

岡田:この問題は小林さんからご覧になっても、背景にあるのはバブル崩壊による経済的な不況、産業構造の変化、グローバル化が進んだことの影響に尽きると思われますか?

小林:そのときに経営者がどこを向いたかだと思います。経営者が中長期的な視野に立っていれば社員を大事にしてきている。短期的な利益、短期的な株価に目がいくと人を切り捨てるような企業になっていく。それが社会全体に蔓延したということだと思います。

岡田:短期業績主義、株主資本主義、つまりリストラをすることによって経常利益をかさ上げさせて株価を引き上げて経営者として評価されるようなことになってしまった。

「女女間格差」とは?

小林:そうです。その時期に経済誌の記者だったのですが、決算説明会にいくと「当社はこれだけ正社員比率を下げて非正規を増やしたので利益がこんなに上がりました」と説明して、経営者や財務担当役員が釈明するわけです。そしてアナリストは言うわけです。「IPOをするときには人件費を減らせ」と。そこにすごく疑問を感じました。

岡田:どうなんですかね。資本主義自体は否定しませんが、企業のステークホルダーは、株主、経営者、そして労働者もステークホルダーですよね。

◆平成に起きた雇用格差問題をマクロ的に分析する

小林:それで、実はこの企画を通すために伊藤忠商事の丹羽宇一郎さんにもお会いしたのです。丹羽さんには株式新聞社のころから面識があるのですが、私が社会人一年目のころに「社長の仕事は何ですか?」とお聞きしたときに、「まず、第一に社員のため、次に取引先のため」とおっしゃったんですね。多分3番目が株主のためだったと思います。当時は株式新聞社の記者だったので、非常に驚いたことを覚えています。そのときから経営者というのは、まず社員がきちんと働けることに責任を持つことが原点だという視点で、私もいろいろ見るようになりました。

岡田:伊藤忠商事は大阪の会社ですから、近江商人のいわゆる「三方よし」という理念と近いのでしょうね。

小林:丹羽さんはこの問題にも早くから経営者としてシグナルを発しておられ「中間層の分厚い厳しい消費者の目が日本の技術を鍛えてきた。これが崩壊するのは大変なことだ」と2004年くらいにインタビューに応じてくれました。

岡田:小林さんの中ではそれ以来、このテーマがご自身のイシューになられたのですね。でもこういう問題は解決しそうでなかなかしないですよね。今年あたりは外国人労働者問題も出てきている。大衆の意識はそこにいくので、中年フリーター層がまた置き去りになってしまう。

小林:人手不足といいながら、実際は力を活かしきれていない人がたくさんいるのにと思います。ただ、ここにきて国会でも「外国人労働力を安易に入れるより就職氷河期世代をなんとかしろ」と何人か発言しているんですね。外国人労働者の受け入れ拡大がこのテーマをクローズアップさせる一つのきっかけになるのではないかと期待しています。

岡田:平成の30年間で起きたこの雇用格差の問題を、マクロ的な視点から分析していただけるでしょうか。

小林:まず非正規比率が上がっています。もともと男性は、1990年で35~44歳は数%だったものが、2018年で約1割へ、女性は約5割から6割近くに上昇しています。働き盛りの40代ぐらいの世代賃金は下がっています。生活保護を受給している年齢階級は、すでに働き盛りの世代が高齢者を上回っています。2008年の時点で、この世代を放置しておくと約20兆円の生活保護費が追加的に発生すると試算されていましたが、結局ずっと解決されてこなかったわけです。

岡田:20兆円ですか。アベノミクスの効果が新聞などで喧伝されていますが実態はどうなのでしょうか。

小林:各誌ともそう言いながらも、それは大企業の一部であって統計をきちんと見ると違うという記事も出しています。アベノミクスのおかげで新卒採用が好調という見方もありますが、私も図表で考えてみたのですが、アベノミクスが始まる直前に15~59歳の現役労働人口がピーク時より500万人も減りはじめています。とにかく人の確保というのが人事の気持ちであり、あまりアベノミクスは関係ないと思います。

岡田:そうすると10年後くらいにまた人が余って、今の氷河期世代のような問題がおきないでしょうか?

小林:経済が縮小すればありえます。それを見越して「解雇の金銭解決制度」などで、首を切りやすくしたいのかもしれません。今は経営者が逃げていますからね。「資産を海外に移す」「いかに自分のときに自分の資産を増やして逃げるか」という話が本当に多いです。

◆ママインターンシップ、中高年インターンシップ

岡田:この問題についての小林さん流処方箋というか、解決策があればおうかがいできますか?

小林:やはり、中年フリーター層の就労は一度組織でもまれる経験をしないと難しいんですね。実は国や行政も時々よい施策も行っています。例えば今はなくなったのですが、ママインターンシップ、主婦インターンシップというブランクのある主婦に就労の機会を与える仕組みがありました。

岡田:経済産業省ですね。新卒ではインターンシップはもう当たり前ですが、家庭に入ってアップデートな就労体験がない人にもチャンスを与えるのはよいアイデアですね。

小林:これは企業の費用負担が一切なかったのです。企業も人を見極めることができ、働く側も日当をもらいながら試しに働いてみることができたのでお互いやりやすかった。今、東京都が近いことをしていますが、中年フリーター層にもこういったトライアル雇用の機会があると、道が見えていくのではないかと思います。

岡田::保育の問題は現在どのような状況でしょうか?自治体や会社によっても違うと思いますが。

小林:第1子出産を機に女性が離職する率は5~6割でこの30年ほとんど変わっていません。連合の調査でも6割が離職しています。一部の恵まれた方が育休を取れるという状況だと思います。

岡田:恵まれた方とは具体的にはどのような方でしょうか?

小林:職場で妊娠してもリストラされずに働き続けて、育児休業をとって復帰できる方はもう恵まれている部類です。話が少しそれますが、保育の制度が女性の中年フリーターを生んでいる面もあります。私の地元の茨城県ひたちなか市やほかの地方都市では保育所が0歳保育をやっていないケースが多い。つまり1歳まで育児休業をとれる人か、家庭でみられる人でないと難しいのです。

岡田:近所にお爺さんお婆さんがいるとかですね。

小林:例えば、非正規で妊娠解雇にあって産んですぐ働かなければならないという場合は預ける先がありません。しかも地元にはサービス業が多いのですが保育所は9時~5時しか開所していない。日曜はやっていないなど、もう働くなといわんばかりの保育制度がまだ残っています。無認可のところは長く開けていますが高い。内閣府主導で、最近は企業主導型の保育所もできているので流れとしてはよいのですが、現状は基準がゆるやかで保育の質がむずかしい面もあります。

岡田:そうすると3~4歳までの幼児教育期間をスムーズにクリアできる家庭というのは、リソースがそもそもある家庭に限られるのでしょうか?

小林:これは地価によって変わります。家賃が高いところにある保育園では、両親も比較的収入が高くフルタイム正社員で、職場も理解があるケースが多く短時間勤務ができます。かたや同じ地区でも家賃が低いところだと、両親の収入が低くダブルワークは当たり前。子供も12~13時間、開所から閉園までずっと預けられる。そういう格差が出てきています。

◆子供の格差と貧困にどう向き合っていくか?

岡田:そうなると●●の阿部●●先生がおっしゃるような、子供の血色、栄養の問題なども出てくる。先々は子供の教育問題、発育問題の格差にもつながっていくわけですね。これを資本主義社会だからよしとするのか、子供に責任はないとするのかですが、子供のときから格差とか言われたら、物心ついたときに、頑張ってこういう人生を歩もうという自己効力感がなくなってしまいますよね。

小林:なくなります、もう早期になくなります。5~6歳でも子供はわかりますから。だから子供に対してはきちんと社会保障をする。そして子供に一番影響がある親の雇用に目を向ける。親の中年フリーター層がきちんと働けるように彼らのスキルを上げていくことをセットでサポートする必要があると思います。

岡田:ほかに何か提言されたいことがありましたらお願いします。

小林:2005年あたりには社会保障の1本化ということがすごく言われていましたが、今は立ち消えています。働き方がこれだけ多様化しているのに、例えばフリーランスだと雇用保険も何もない。しかも今、経済産業省はフリーランスを積極的にすすめています。

岡田::副業などもそうですね。

小林:副業ならまだよくても、今の非正規や派遣のように、これがあたりまえのように労働力に組み込まれると何の保障もありません。雇用保険がないので育休もとれない。子供を産んだら0歳で預けなきゃいけない。0歳はコストがかかるから行政は作りたくないと、八方ふさがりです。ここは削るのではなく借金してでも社会保障制度を組み立てなおすべきです。私もまだ具体案までは出せないのですが、近いものとしては育休を希望すれば全員とれる。あるいは育児休業給付金をもらえるようにする。それだけでも救われる人が増えると思います。

岡田:最後に人事担当者向けのメッセージをいただけないでしょうか。

小林:ブラック企業と呼ばれるところは、あまねく法令順守といって本来の意図とは逆のことをします。例えば3年ルールだったら時期がきたら正社員にするのでなくて直前に切る。そうではなくて、採用する側の責任も自覚し人をきちんと養って教育してほしいです。丹羽さんの言葉を借りますが、かつて日本が成長したのは教育をしたからです。そういった教育があらゆるところで劣化しているから、経済が衰退するのだと思います。大企業なら独自でママインターンシップのようなこともできるかと思いますが、そういうことをしながら、中年フリーター層の採用にも少し目を向けていただけると、また活かされる人が出てくると思います。

岡田:今後、小林さんに会員企業から講演や、女性管理職、男性管理職向け研修のプログラムなどでお話をしてほしいという依頼があった場合は、応じていただけるでしょうか。

小林:もちろんです。私はこの「夫に死んでほしい妻たち(朝日新書)」のテーマが面白いと思います。これまでにも何回か依頼を受けたことがあります。個人の幸せのためにもダイバーシティを学ぶことは大切です。

岡田:ご協力いただけるということですね。それでは以上で終了します。本日は、ありがとうございました。

対談を終えての1枚!


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