日本経済が成熟化し、平成年間(失われた30年)を経て、新たなフェーズを模索しています。少子高齢化、労働力人口減少、イノベーションの欠如、AI、RPA…様々なキーワードがメディアを賑わせていますが、本質はどこにあるのでしょう?私たちの雇用や暮らしはどう変化し、何を準備しなければいけないのか?特集3では、『AI×人口減少これからの日本で何が起こるのか』著者の中原圭介さんにお話を伺います。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

アセットベストパートナーズ株式会社 中原 圭介 氏

ゲスト:アセットベストパートナーズ株式会社 中原 圭介 氏
1970年生まれ、茨城県土浦市出身。慶應義塾大学文学部卒業。元土浦市税務課職員。
経済評論家、ファイナンシャルプランナーとして『アセットベストパートナーズ』に在籍。
新聞・雑誌やラジオ、著書などで資産運用の専門家として活動を展開している。



◆オピニオンリーダーであることの難しさ

岡田英之(編集部会):今回は、アセットベストパートナーズ株式会社に在籍され、経営アドバイザー・経済アナリストとして活躍しておられる中原圭介さんにお越しいただきました。まずは中原さんのご専門と、いま関心を持っている分野について教えてください。

中原圭介(アセットベストパートナーズ株式会社):私の専門は日本経済や世界経済の分析・予測、それに基づく経営アドバイスなどです。この仕事を始めて14年目になりますが、「楽しい」という感情だけで仕事をしていたのは最初の10年くらい、それ以降は使命感で続けている感じですね。
ここ5年ほどは、日本の人口減少と、それが経済に与える影響に注目しています。実は日本経済にとって好・不況というのはささいな問題で、本当に重要なのは人口減少問題の方なんです。ただ、それをメディアでいくら発信してみても世間の反応は鈍いですね。先日対談した『未来の年表』の著者、河合雅司さんも同じことをおっしゃっていました。10年前からオピニオンを発信して官僚にも働きかけてきたけど、動きはなかったと…。オピニオンでこの国を動かしたり、国民の意識に訴えかけたりするのは難しいのかもしれません。

岡田:ただ、オピニオンリーダーが発信をやめてしまうのは良くない?

中原:ええ。人口減少は仕方ないと割り切ってしまい、放置したのでは日本経済は悪化するだけです。たとえ減るのはわかっていても、減っていく割合を少しでも減らす手段を考えなくてはいけません。そういう意味で、オピニオンを発信することにはそれなりの意味があると思います。実際、少数派ですが、全国の改革派の知事さんたちもその点を理解して頑張ってくれていますよ。

発信し続けることの大切さ

岡田:AIで生産性を上げようという話もあります。

中原:たしかにAIを導入することで生産性を上げ、人手不足も解消されるとバラ色の話をする人もいます。ですがそれは難しいでしょうね。なぜならテクノロジーが普及すると、そこからこぼれ落ちる世代も必ず出てくるからです。特に30代後半から50代前半のミドル世代にとっては、新しい技術にキャッチアップできず雇用のミスマッチをおこす、つまり失業してしまう危険があります。おそらく東京オリンピックが終わったあたりから、こうした問題が顕在化してくるのではないでしょうか。
AIの普及に伴う問題はそれだけではありません。今の日本でAIと呼ばれているのは、実際にはRPA(Robotic Process Automation)という「AIもどき」です。従来からの古いシステムを継ぎ接ぎだらけで使っているため、欧米からは大きく遅れています。また欧米では途上国を利用して大規模なデータ入力を行っていますが、日本はこれをしていません。今後AIのグローバルマーケットが広がっていく中で、システムでもデータでも大きな差を付けられている日本企業は圧倒的に不利です。IoTをうまく活用しない限り、競争に破れ失業者が増えることになるでしょう。


◆「人口減少」という問題は目に見えにくい

人口減少より大事なこととは

岡田:最新著『AI×人口減少 これからの日本で何が起こるのか』についてお聞きします。第1章には「人口減少という静かなる危機」とうタイトルが付けられていますが、これはどういう意味でしょうか?

中原:人口減少は一日一日の変化が見えにくく、どうしても対応が先送りになるという意味です。たとえばリーマンショックのときのように目に見えて生活が悪化すれば、さすがに政府は動きますよね。また大災害で生活基盤が破壊されれば、大規模なインフラ投資も行われます。つまり国民にはっきり見えるものに関しては、国も動きやすいんです。ところが人口減少については、そうはいきません。
日本の人口で65歳以上が占める割合は、現在のところ4分の1程度です。そして2036年にはこれが3分の1にまで増えると言われています。さらに高齢者人口がピークを迎える2042年には、日本全体の人口は相当程度減少しているでしょう。このように数年?十数年のスパンでならはっきり見える人口減少も、一日一日の単位ではなかなかピンときません。

岡田:人口減少がピンとこないのは、日本がすでに高齢化社会になっているからでしょうか?

中原:それもあると思います。いま10代の人にとって、この先の人口減少は由々しき問題です。ですが60代・70代の高齢者にとって、50年後の社会はイメージしにくいですよね。こうした高齢者が政治や投票行動のマジョリティになっているわけですから、人口減少という問題に対して国の反応が鈍いのも無理ありません。

岡田:なにか大きな刺激がないと国や社会は動かないということですね。その点、消費増税は刺激になるでしょうか?

中原:政府は消費増税による反動を気にしすぎていますが、消費税というシステムを採用する以上、増税時期になんらかの反動が起こるのはあたりまえです。これは日本もヨーロッパも関係ありません。1年単位で前後を均せばまったく問題ないレベルですから、刺激というほどのことはないですね。

岡田:人口減少と移民問題の関係についてはどのようにお考えですか?

中原:移民の問題は、今回の本ではあえて書きませんでした。減少する労働力を補うため外国人労働力が必要という議論は国会でも行われていますが、実は人口減少に伴う人手不足は5年単位の話で、10年単位ではむしろ人が余るんです。
政府が主張する「1億総活躍」や「人生100年時代構想」というのは、言い換えれば「死ぬまで働く」ということです。そうしないと社会保障が保ちませんから。反感を買わないよう今のところは「70歳」と言っていますが、少なくとも将来的には「75歳まで働いて欲しい」というのが本音だと思います。実はこの75歳というのがキモで、現役世代と高齢者世代を75歳で線引きすると、これ以上「高齢者」は増えないんです。だいたい2000年と同じ程度の比率になります。一方70歳で線引きすると高齢者は少し増え、今の消費税では社会保障の維持が困難です。
いずれにしても、現役世代が70歳や75歳まで拡大されることで労働人口は増えます。人口減少問題の解決として移民を持ち出す必要はありません。


◆イノベーションと社会保障の再構築

岡田:次に第3章「破壊的イノベーションは何をもたらすのか」についてお聞きします。ここでいうイノベーションとは、具体的に何のことでしょうか?

中原:イノベーションという言葉の意味は、時代によって捉え方が変わります。たとえば18世紀後半から始まった産業革命もイノベーションですし、航空機や自動車、電力など、私たちの生活を便利にするもの、賃金を上げて生活水準を上げるものがその時代のイノベーションということになります。
2000年以降について言えば、イノベーションはIT技術でしょう。GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)がその代表です。これらの企業は、少ない人数とわずかな設備投資で莫大な利益を生み出すという点で画期的ですが、同時にすさまじい節税によって、公共的なコストをほとんど支払わないという問題があります。特にオバマ政権時代にはロビー活動に力を入れ、自分たちに有利な状況を作ることで公共とのアクセスを避けていました。
こうして莫大な富が一部の人たちのみに集中し、再分配が行われなかった結果が、アメリカ史上最大の格差です。それがポピュリズムの台頭を招き、トランプ政権が誕生しました。もちろんヨーロッパも似たり寄ったりで、今や民主主義自体が危うくなっています。

岡田:破壊的イノベーションが蔓延している現代、どうやって社会保障を再構築すればよいのでしょうか?

中原:私が評価しているのは、スウェーデンをはじめとする北欧のシステムです。北欧の企業は競争が激しく、こぼれ落ちてしまう人も少なくありません。ただしこぼれ落ちた人には、国が教育を施して再挑戦のチャンスを与えてくれます。加えて「国の世話になりたくない」という国民性も強いため、いったんこぼれ落ちた人もやがて労働市場に戻っていきます。

岡田:日本でも同じようなシステムを構築できるでしょうか?

中原:今のハローワークを見る限り難しいでしょう。小手先の施策や組織編成を変えても、職員が同じでは組織の風土は変わりません。「消えた年金」問題で社会保険庁が解体された後も、業務を引き継いだ年金機構の体質が変わっていないのと同じです。一般に組織の中身は時とともに入れ替わるものですが、公務員は変わりにくいですね。日本が10年以内に北欧並みのシステムを取り入れるのは難しいですね。

岡田:個人や民間企業レベルで変化していくことは可能でしょうか?

中原:一昔前は一人の人が5年から10年かけてキャリアを築いていましたが、今はAIを活用することで効率的なキャリアアップが可能です。2、3年でひとつのキャリアを築くことも不可能ではありません。30年あれば10以上のキャリアで、それぞれを組み合わせればキャリアの種類はさらに増えます。
また75歳まで現役という時代になれば、仮に20歳で就職したとして、職業人生は50年です。対して企業の寿命は24年。この先イノベーションによってさらに短くなり、20年になるのも時間の問題です。ということは、少なくとも一人あたり2、3社のキャリアを歩む計算になります。こうして見ると、民間企業やその中の人は必然的に変化していくように思えます。実際、近年では兼業、副業、フリーランスなど働き方そのものが多様化しています。
ただ現実には、理想通りのキャリア形成はなかなか困難と言えます。人は過去の成功体験に依存する傾向がありますから、特に高度成長期を経験してきた団塊の世代は当時の成長体験がキャリアの邪魔になります。平成が終わる現代でも、昭和へのノスタルジーが企業の意思決定に影響した結果、変化を拒絶してしまう例は少なくありません。
加えて政治家の質も問題です。貧しい時代の政治家はそれなりに使命感や矜持を持って活動していたと思いますが、現代の豊かな時代を生きてきた政治家にはあまり危機意識がありません。高い見識や教養がないと、社会の仕組みを良い方向に変化させることは難しいと思います。

◆変化する仕事のありかたと賃金体系

岡田:続いて、第4章「私たちの仕事はどう激変するのか」について伺います。「AIで私たちの仕事はどう変わる?」といった議論もありますが、これからの労働市場に生じる変化についてどのようにお考えですか?

中原:大前提としてAIとRPAの違いを理解する必要があります。日本でいまAIと呼ばれているのはRPA(Robotic Process Automation)です。RPAというのはロボットによる業務自動化のことで、AIとは別物です。ただし将来的にはAIと組み合わされて活用されることはあるでしょう。
RPAは、2017年ごろから大企業での導入が進みました。実際に導入した企業の9割以上が効果を実感していて、半分近い業務削減に成功しています。特に銀行業務とは相性が良くて、メガバンクの中には95%くらいの削減率を達成し、大幅な店舗削減と実質的な人員削減を行っているところもあります。結果として就職活動の人気企業ランキングでは順位がガタ落ちしていますが…。AIもどきのRPAですら、そこまでできるということです。

岡田:同様の変化はメーカーなどでも起きていますか?

中原:業種は問いません。特に事務の仕事は、半分どころか7割近く削減されています。この先RPAがAIと組み合わさることになれば、メーカーから流通まで一斉に効率化され、人がいらなくなります。アディダスが最近ドイツに建設した工場が良い例ですが、広大な敷地に建つ大規模な工場でも数名で回せるようになってきます。もちろん、仕事がなくなるのはブルーカラーもホワイトカラーも一緒です。マネジメントを行うミドルマネージャーもほとんど必要なくなりますね。
中でも、さきほどお話したように銀行や保険などの金融業、つまり比較的賃金の高い業種では影響が顕著です。そうした企業が人減らしをすれば、影響は他の企業にも確実に落ちてきます。ですから5年単位では人手不足が叫ばれても、その後10年単位ではどの業種も人手が余ってくると思います。
現在、日本の失業率は2%台半ばです。2030年ごろにはこれが5%くらいになるかもしれません。ちなみにリクルートワークスでは5.8%という数字を予想しています。これはリーマンショックのときとほぼ同じですが、さらにそこから、どんどん上がっていくでしょう。

岡田:企業の賃金体系は変わりますか?

中原:まず定年が延長される以上、給与体系の変革は必須と言えます。現在では再雇用に伴い賃金が下がるのが一般的ですが、それでは優秀な人は残りません。優秀な人材が足りなくなれば当然「奪い合い」になるので、今後は年齢給や勤続給ではなく、能力給が中心となっていくでしょう。高い賃金を提示することで、優秀な人材を確保するという流れです。
そうなると新卒採用の意味も無くなってきます。採用した新卒を長い時間かけて育てる余裕がなくなり、結果として再雇用がその受け皿になります。もちろん優秀な即戦力が選ばれることで、現役社員の処遇も影響を受けるはずです。

岡田:これからの教育や職能訓練はどう変化すべきでしょうか?

中原:一部のハイスペック人材を除き、ブルーカラーもホワイトカラーも問わず、国が職能訓練制度をきちんと整備すべきです。今のハローワークがやっている程度のものでは不足です。ただ現実問題として、国には期待できません。
教育や職能訓練の中身について言えば、AIで実現できない部分のスキルを身につける必要があります。これからの時代、新卒のアドバンテージはありません。学生が戦う相手は海外の人材になるでしょうから、十分対抗できるだけの力が必要です。そのためには中学高校から方向づけをして職能訓練を行い、それに沿って大学を選ぶ方向に変えないと追いつきません。必要なのは平均点の人材ではなく、特筆すべき技能を持った人材です。

◆人事担当へのメッセージ

岡田:最後に読者である企業の人事担当者の皆さんにメッセージをお願いします。

中原:人口減少という問題についてお話してきましたが、将来の人口動態はある程度予想できます。ですから、AIが生活にもたらす影響も考えた上で「生きる方向性」をきちんと考え、決めていってください。
また企業経営者へのメッセージになりますが、社長業というのは「未来予想業」です。判断を誤れば従業員を路頭に迷わせてしまいます。常に先を見通して、会社の業態を変えていかないと生き残りは難しいでしょう。企業が成長すれば、国民全体が潤います。ぜひ経営者の皆さんには頑張っていただきたいと思います。

岡田:中原さんのポジティブなメッセージに力づけられました。企業の今後についても、とても有意義なアドバイスをありがとうございます。以上で終わります。

対談を終えて




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