「管理職に就くことになったが経営・マネジメントに関する体系的な知識がない」と嘆くビジネスパーソンが未だ多くいらっしゃいます。日本では多くの大学で昼夜問わずMBA(経営学修士)を習得できるコースがそのニーズを満たす1つと言えますが、習得のためには多くの時間とおカネを割かねばなりません。本シリーズは「そこまで労力は割けない」と考える方々へ向けて、マネジメント全般に関する知識のessential(必要最低限)を分野ごとに取り上げます。
第2回目は「イノベーション」について大正大学で教鞭をとる高山誠氏に解説いただきます。

高山 誠 氏

解説:高山 誠 氏
大正大学地域創生学部地域創生学科教授(イノベーション、マーケティング、バイオ・医療産業)
カリフォルニア大学医学部客員教授(バイオ・医療ビジネス)
筑波大学大学院経営・政策科学研究科修士課程修了(MBA)、
東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了(博士、経営工学)

京都大学大学院理学研究科修士課程修了後、ベーリンガー・マンハイム(現ロシュ)、山之内製薬(現アステラス製薬)に勤務。2003年度新潟大学大学院現代社会研究科教授、2004年度同研究科研究科長、2006年度同大学院技術経営研究科教授を歴任。
現在、大正大学地域創生学部教授およびカリフォルニア大学医学部客員教授
著書として、『新製品開発の失敗の本質』(東京図書出版会)『スリーナインマインド』(日本能率協会)他多数


イノベーションとイノベーションを活かす企業人事
-日本企業のイノベーションの観点から考える人事部門への期待-

◆1.イノベーションがなぜ必要か

動かない建物の寿命はもたせて百年、成長していても企業の寿命は10~20年、成長していても市場が瞬く間にコモディティ化、陳腐化する時代になりました。それゆえ、変化できない企業は生きていけない時代になってしまっています。ゆえに、企業ではイノベーション(新しいこと)が必要になります。ところが、イノベーションがインスタント化(瞬間的に、ぽっと出てくる)したため、従来言及されたイノベーションによる利潤獲得期間が物凄く短くなりました。「乱気流時代の経営」(Drucker,P.F. 1970, 1996)の時代は、そろそろ乱気流が起こるどうか人間が予見できました。しかし現在は、予測できるはずだったものが全く予測できなくなっている大変な時代です。

1-1.米国の国家戦略に踊らされた1990年以降の日本

1990年以降の日本の失われた30年間、躍らせ続けたのは、米国からの経営と中韓政策によるものでした。日本企業を経営破綻させるための対日政策は、当時ハーバード留学中の元国会議員や、製品アーキテクチャの大家と言われる大学教授、CIAにリクルートされた留学生が米国のために日本の強みについて情報提供したことが全てのはじまりです。彼らを締め出しクローズで行った米国議会の対日経済政策委員会を受け、1990年頃から組織的集団的に、大使館、企業、大学、政府が一体となって、グローバル化と自由競争の宣伝活動が始まりました。

1-2.巧みな米国の産業政策

まず、半導体など米国発のオリジナリティを日本が奪ったことに注目させ、情報保護を求めながら、情報ビジネス封じ政策を成功させました。日本版グーグルは米国のグーグルと同時にサービスインされましたが、情報開示を日本中の皆に拒ませることに成功して、日本発ネット検索スタートアップを見事に潰せたことが、記念すべき先駆けでした。米国は公共性のある情報は許可なく即時に開示するフェアユース規定を(日本には許さないよう誘導し)自国には仕組んでいました。自由競争とグローバル化と言いつつ、自国は保護主義である二枚舌(ノーベル経済学賞受賞理由ともなったスティグリッツが明かしたダブルスタンダード)作戦は、本音は日本嫌いで「日本の経済発展を許したことを後悔」と発言して有名な親中キッシンジャーに見て取れるように、昔から自国主義の米国の常法です。

1-3.1990年代後半に崩壊が始まった日本企業

米国による米国のための自由競争は、小泉政権での某大臣の偉大な貢献により実現され米国の戦略を完成、実現させました。しかしそれより前に、日本のメジャー企業であるソニーでは、無能な経営者が国を売った上に自滅させるエポックな出来事が実はあったのです。ソニーの1997年の経営会議では、ダウンロードミュージック事業・機器開発を興せたのに否定して、アップルになる道を自分から捨て、日本の終わりの先駆けとなりました。「みんなで決めたことだから仕方ないよね」と言ったのは、当時の芸大出の社長の実際の発言ですが、日本のサラリーマン経営者がよく使う言い訳です。「仕方がない」ことに輪をかけてなのか、2000年代からカネボウ、シャープ、三菱自動車が同じ失敗をしています。これらに加えて、最近では東芝と日産自動車も同様に、一世を風靡した大企業が泥船を漕いで失敗・破綻を繰り返しています。21世紀は、「経営者が暴走」し、自分の得のために世の中での徳(得)を失い、国も世の中のみんなも得を得られなくなりました。かくして、米国が日本を褒め殺しにして稼ぐシステムが確立されてしまいました。

1-4.米国のベストプラクティスに踊らされ、失敗し続けた日本企業

以前は後進国だと馬鹿にしたことに付け込み、バーターもさせずに日本から無償で援助されていた国々が強くなり牙を剥き始めました。こんなことに仕向けたのは、実は2000年よりずっと前に、約20年前に出版された『ジャパン・アズ・ナンバーワン』から始まったのです。そこで高らかに謳われた日本企業の成功要因は、終身雇用・年功賃金・企業別労働組合との協調・企業内福利厚生の充実といった人事施策でした。それに続いて、良くて安くて速い「すり合わせ」と「知識創造経営」が日本を世界一にしたと思い込ませ躍らせることに成功したのです。すり合わせのために知識を共有させ、他方で知識創造してイノベーションを興す、それらを速くするために協働するという、矛盾だらけの「俊敏な経営」が、日本の失敗の根源とは当時誰もわかりませんでした。この時すでに、米国は日本を長期間、泥船に乗せておく時間稼ぎに成功していたのです。

1-5.米国のキャッチアップと勝ち組だった日本企業の終焉

都合がよかったことに、邪魔が入らなかった1990年代後半からの10年間で、米国は日本を洗脳すると共に、オープンプラットフォームのリーダーになることができたのです。その間、日本を変化させないために、「リエンジニアリング」や「ザ・ゴール」、「ナレッジマネジメント」という日本の経営工学の逆輸入をすることで、日本企業に無駄な知識創造をさせ疲弊させ潰していきました。「俊敏な経営」は日本のお家芸(コア能力)だから、もっと鍛えるべきだとして、日本の旧財閥と一体化した外資系コンサルと外資系金融、そして日本の金融も金儲けしながら、製造業を中心とした日本企業の戦略不全を招き、どんどん失敗に追い込んできました。これらの仕掛けに共通したことは、勝負の土俵が変わることを気付かせずに、少しでも長く泥船に留まらせる戦略・誘導でした。俊敏な経営は目先の利益獲得に向きますが、イノベーションのために時間をかけて育てる探索型の能力を有する人材開発に向くはずがありません。まして、企業価値(企業の値付け)を良くしろとグリーンメーラーや機関投資家に仕掛けられた経営者は、たとえ変だなと思っても、皆が言うから言い返す能力は持ち合わせていません。そうこうしている間に、米国は勝負の土俵をプラットフォーム(エコシステム)ビジネスに変えて、違うところから日本企業を潰してしまいました。

◆2.時代の変化を理解しよう

トランジスタラジオ、ポケベル、腕時計、テープレコーダー、液晶電卓、電子辞書、ウォークマン、ビデオカメラ、DVD、プラズマテレビ、液晶テレビ、日本の電機、書店、スーパー₀まだまだありますが、これらには共通することがあります。それは、『ビッグバン・イノベーション』(Larry and Paul,2015)によって、一夜にして爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化により消滅したか、しようとしてることです。加えて言えば、欧米ベンチャー以外に、大企業は次の成功を手にすることは出来ていません。加えて言えば、欧米ベンチャー以外の大企業は次の成功を手にすることは出来ていません。それは、市場が変わったからです。ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代の「日本製品は安くて、良い」が良い時代ではなく、いまは「高いけど良い」ものが良い時代に変わってしまったのです。

2-1.米国企業に踊らされた日本

日本でしかできなかった日本発のオリジナルは沢山ある。米国企業が不可能だと決めつけていたDVDと省エネ、当時世界一厳しいとされたカリフォルニア州の排ガス規制をクリアする自動車エンジンは、奇しくも1990年に完成しています。ところが、すぐに陳腐化し寿命が尽きるハイテク技術にのみ政官民に取り組ませています。キャッチアップによる製品寿命の短縮化は、すり合わせではなく組立(モジュラー)に強い企業とプラットフォームを作った企業が漁夫の利を得て横から奪って、日本の手元から続々と失われています。米国が勝つための仕掛けが、グローバル化と自由競争なのです。米国は20世紀末には自前製造と自前研究を捨て、製造しないものづくりのインテル、情報の元締めのgoogle、購買の元締めになるAmazonのように仕事が行き交うプラットフォームの元締めになるビジネスモデルに転換していました。ところが、先述の仕掛けのおかげで、日本が動く路はしっかり塞いでいたのです。

2-2.誰もが勘違いしやすいイノベーションの誤解

イノベーションは実は技術から起こっていないのです。1990年代前半から米国で広まっていましたが、一部の成功企業はマーケティング・マシーンに徹しています。いわゆる「もたない(ファブレス)企業」です。21世紀はさらにそれを発展させて、研究所を閉鎖して、誰かがやったものを摘み食いするビジネスモデルへ転換する世紀なのです。動きが速過ぎるため、自前でやっていては間に合いません。ソニーが捨てたiPod,iPhoneさえも既に負け始めています。例えば、世界制覇を仕掛ける中国は、製造2025(全製造物の自給自足)を待たず情報取得・操作をするネットと携帯企業は世界トップになりました。米国議会で問題とされたヤフーはアリババと組み、中国政府に情報提供しているなど、米国の次は中国政府=企業が渾然一体となり情報経済戦争を始めています。

2-3.イノベーション・ルールのチェンジと成功と失敗の法則

今、日本の家電・電機企業よりも後進国の企業の方がよいものを作り始めました。勝負の土俵が塗り替えられたことに、後進国担当者だけがやっと気が付き始めたが、時すでに遅し、です。イノベーションはこれまでと違うところから自然発生的にあちこちで実験され、突然に破壊し、新しいものが俄かに市場制覇しています。しかも、よりよくて、安くて、便利なことは、最初から備わっているのが当たり前になりました。様々な分野でインスタント・イノベーションが起こり、あっという間に多くの実験がされ、あっという間に市場が変わるので、従来の大規模に経営資源を使うイノベーションが不要になったのです。

2-4.ルーチンがイノベーションを駆逐する

そこで問題となるのが企業の組織慣性です。企業は生きて行くためのルーチンをしても、生き続けるためのイノベーションはしません。むしろ、それを駆逐します。何故なら、生きて行くためのルーチンは目標もあれば、戦う敵もあるから、誰にでも分かります。しかし長期間企業解いて生き続けるためのイノベーションをマネジメントするインセンティブは低いのです。これらを踏まえると、イノベーションにおける必勝と必敗の法則が次の様に成り立ちます。製品・サービスが直接競合する市場でメジャー企業(既存の大企業)はルーチン通りにしていれば必ず勝てます。一方、例えばAmazonは本屋を潰した後に、日用品販売、輸送業の市場を包摂している事実があります。書店のドメイン以外にも他の流通業や運送業のエコシステムの市場を飲み込んでしまう。この現象は、直接競合しない間接的な競合市場にあるメジャー企業は必ず負けてしまうという運命を示しています。古くはカーボンナノチューブを繊維ではない総合商社が、デジタルカメラをカメラ・フィルムメーカーよりも先に電機が、トクホ製品を医薬ではない食品・日用品メーカーが、メジャー企業が負けてしまう市場を開拓しているのです。

2-5.ルールチェンジに伴う適切な人事マネジメントの変化

勝負の土俵が変わった世界では何が重要なのか。イノベーションのライフサイクルを管理するだけになったのです。管理は人がします。人がすることは人事が管理します。しかし、事業も技術も何もわからない人事がイノベーションをマネジメント出来るのでしょうか。実は、大学教授はじめプロの世界が典型なのですが、分かった人は分かったつもりに過ぎないことが自己認識できないのです。最先端の技術開発をする人はそれだけは知っています。でも、多用途な世界での商売は分かり得ません。かつて、バイオ研究花盛りの時に、大学で教授にもなれない中身もない似非学者を企業が雇い騙されることがありました。よって、事業や技術が分からない人事は達観して管理だけを行えばよいということになります。但し、従来の人事管理である、人の使い方と評価を管理することに加えて、後から分かる成果と成果が出る前の処遇管理を合わせた、「後から人事制度」を作れば成功するでしょう。

◆3.イノベーションマネジメントにおける人事の役割

日本の衰退は製品寿命が短命化したことが問題ではありません、ビッグバン・イノベーションでは、既存のものを木っ端微塵に破壊し、姿を変えます。イノベーションのライフサイクルが超短命化したため、モノの管理よりもイノベーションの管理する人材の管理が最重要事になっていることにみなさんは気が付いているでしょうか。俊敏な経営は、実は企業の行動をゆっくりさせるための罠であり、できもしない嘘です。でも、人事はコンサバで良いから、「アジャイル(俊敏な)人事」(『ハーバード・ビジネス・レビュー2018年7月号』.ダイヤモンド社)程度に俊敏に(ゆっくり)変化に対応していて丁度良いのです。このことを理解できれば、日本の国のために人事が役割を果たせる時が現在やっとやってきたことに気が付きます。

3-1.後戻り出来る人事制度を創ろう

私の考える人事の役割は二つあります。一つは、「後から人事制度」、後戻りする人事評価と制度作りが必須です。成功した人も失敗した人も、後戻り、リフレクションをしたがりません。しかし、特にトップと取り巻きは自分の都合と好き嫌いが一緒になってある意味傲慢に仕事を進めるため、彼らの評価は退任後にならないと出来ない事は読者の方が一番ご存知のはずです。他方、正しいことをしようとしていても潰されることは多々あります。そういう人が真に能力があったことになるから、後から人事で金も地位も上げ直す制度を作ってみませんか。そこで、後から人事で、地位も給与もアップダウンする制度を作れば、非常にやる気を出させるものになるのではないでしょうか。加えて、この制度は過去の東芝やシャープの社長のように、自分の利得のためだけの発言・行動する人を封じ易くなります。日本の会社法は、先にお話しした米国の国家戦略から、米国企業が日本企業を買収ターゲットとするためにではありますが、実は日本の経営者の暴走を加速するように改正されています。しかし、肝心の社外取締役や委員会制度は機能しません。外部の識者で暴走を止められないのであれば、その会社の人事が制度を作る以外に方法はないと思います。失敗・暴走したら後から評価を下げ返金もさせる。このシステムは、実は政府も2019年度から採用を始めます。

3-2.ダイバーシティではなく、異文化評価

もう一つが、異文化評価です。大企業の市場は突然破綻するため、研究を自分だけでしていることは、能力の罠に陥ってしまいます。数えきれない多くの実験と探索はスタートアップと呼ばれるベンチャーが行っています。当然、買収してもしなくても、言葉が通じない違う文化の組織の人を使わなければ成功はありません。プロパー中心の企業は滅びるのは自明ですが、ここで問題となるのが外部の人材評価は難しいということで。であるから後戻りして、上下する制度は必須だと思います。しかし後戻り制度があったとしても、価値観の統一はどうするとできるかが肝になります。変化する時代は大事なものが常に変わるため、尚更難しそうに見えます。ブレない価値観に必要な要素は何か?非常に抽象的な話をすると、何れの人も自分たちの世界観と価値観を大事にしています。例えば労働を給料の苦役と考える人は、学者とコンサルのいうような難しい理屈を考えないことを大事にする人、でしょう。そういう人は実は企業にたくさんいます。彼らに共通の価値観を見出すとするならば「働いて良かった」ということなのではないでしょうか。彼らの様に給料のために嫌でも働かざるを得ない人が、「働いて良かった」と生きる意味を与えるエバンジェリスト(伝道師)となれるのは人事だけでしょう。同時に、それを私物化して利用させないための制度作りも企業人事以外には出来ないはずです。

3-3.人事パーソンに大事にしてほしいこと

「目先での成果は業種の一部で本質的な基準としない」
「働く人が納得して迷いがなく仕事ができる」
「遣り甲斐があり働き甲斐ができる」
「働くことで世の中に貢献した気持ちになれる」
「企業のためでも悪い行動をすれば評価をさげる」
「世の中のためになる=社会と従業員のためになることをする」
このようにすれば、成果として、顧客と製品・事業開発という結果が後からついてくるのではないでしょうか。
どんなに強いビジネスモデルでも、環境の変化によって強みが失われていくことは避けられません。長きにわたって強くあり続けるためには、企業自身が時代の要請に応えるための変化に取り組むことが必要です。企業を継続させたいのであれば、従業員が損得なしで喜びに満ち溢れて働く企業にする人事制度を絶えず作り続けることです。動いていない人も組織も廃れていきます。重要なのは、普遍的な価値観をもち、企業が社会的公器としての役割を果たせるということです。また、企業が失敗することは一企業だけの損でなく、限りある経営資源をムダに浪費するので日本の損であることを意識しなければなりません。ですので、世のため人のためになる人事制度を作ることが人事に、人事パーソンにいま求められているのです。


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