2019年4月より改正入管法(出入国管理及び難民認定法)が施行されました。日本はかつてないスピードで少子高齢化による人口減少(総人口は1億2520万9603人で、9年連続減少。2017年比較で37万4055人減り、減少幅は1968年の調査(住民基本台帳調査)開始以来、最大を記録)が進んでいます。2018年度生産年齢人口は7484万3915人であり、総人口に占める割合は59.77%となっています。今後もこの傾向は加速していきます。既にコンビニ業界や飲食店業界等では、人材確保が儘ならず、営業形態(24時間営業や深夜・休日営業)の見直しや閉店に追い込まれるケースが頻発しています。
こうした状況への打開策のひとつとして、外国人労働者の積極活用が進められています。5年間で34万人以上の外国人労働者受け入れが公言されています。高度専門的業務のみならず単純労働も含め広範囲な業種・職種での受け入れが模索されています。一方で、技能実習生制度に象徴される制度の歪みも散見されています。
特集4では、入管法改正の背景と経緯、外国人労働者問題について、行政書士法人ACROCEED代表(行政書士)の佐野 誠さんにお話を伺います。p>

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

行政書士法人ACROCEED 代表社員 行政書士 佐野 誠 氏

ゲスト:行政書士法人ACROCEED 代表社員 行政書士 佐野 誠 氏
大学卒業後、外国人雇用に特化した行政書士法人、社会保険労務士法人、税理士法人を併設し、大手企業から中小企業までの外国人雇用コンサルティング、在留手続きを得意とする。その他、専門性の高い許認可の取得コンサルティング、外国人雇用に関する講演活動などを精力的に実践している。


◆「行政書士」を中心にワンストップサービスを提供

そもそも行政書士の仕事とは?

岡田 英之(編集部会):今回は、株式会社ACROSEEDの代表取締役で、行政書士としても活躍しておられる佐野誠さんにお越しいただきました。まずは株式会社ACROSEEDについてご紹介をお願いします。

佐野 誠(行政書士法人ACROCEED 代表社員 行政書士):ACROSEEDの前身は、30年以上前に私の父が始めた行政書士事務所です。その後社内に行政書士法人・社労士法人・税理士法人を併設し、現在は行政書士10人・社労士4人・税理士4人の計18人体制で、各専門家の強みを生かしたワンストップサービスを提供しています。得意分野は、就労ビザの申請をはじめ外国人雇用に関連した業務です。

岡田:佐野さんご自身も行政書士ですが、行政書士とは具体的にどのようなことをするのですか?

佐野:簡単に言うと、役所や官公署に提出する書類をお客さまに代わって作成する仕事です。ただし法務局や裁判所に出す書類は司法書士、税務関係の書類は税理士といった具合に、専門性が高い分野は他の士業が担当しています。行政書士が担当するのは、それ以外の「幅広くて専門性がない」分野です。

専門性がないということは、裏を返せば自分のやりたいことを考えてやれるということです。自由に仕事を作れるのが強みとも言え、中には「ペットの葬儀」のように、これまでにないサービスを開拓している行政書士もいます。

岡田:行政書士が顧客を開拓するコツとはなんでしょうか?

佐野:「来た仕事は基本的に断らない」ことでしょうか。当社でも「あきらかに受けてはいけない仕事」以外は、選り好みせず引き受けるようにしています。そうすることでお客さまとの信頼関係が作られますし、お客さまの知り合いをご紹介いただくこともできます。

それと、行政書士のサービスは税理士や社労士と違い、単発のものがほとんどです。ですから事務所を維持するには新規の顧客開拓を続ける必要がありますし、そのための営業力も求められます。もっとも社会人として何十年も働いてこられた方はある程度の人脈を持っていると思いますので、そのコネを最大限に活用するのも良いでしょうね。


◆外国人労働者の増加が日本企業に与える影響

岡田:現在の外国人労働者を取り巻く環境について教えてください。

佐野:まず、外国人労働者は近年ますます増えています。それに伴い、外国人雇用を巡るトラブルも増加する一方です。コンプライアンスがしっかりした大企業ならともかく、中小企業では人事担当者に「入管法」の理解が不足しているケースも多いため、明らかに入管法違反の状態で外国人を雇っている会社も珍しくありません。

実は、日本は戦後一貫して「高度な外国人」のみ受け入れるという方針をとってきました。高度な外国人というのは、たとえば技術者やエンジニアといった人たちです。これに対して外国人が「単純労働者」として働くことは、原則として認められていません。実際には工場やコンビニで働いている外国人は大勢いますが、あれは技能実習生や留学生のアルバイトといった例外的なケースなのです。そのことを人事担当者が理解していないとトラブルになりかねません。

実際、このあたりの法律的な部分は複雑でわかりにくいと思います。ご相談いただければ、個別に説明させていただきますよ。

岡田:外国人雇用を巡る問題は、今後どうなっていくでしょうか?

佐野:工場などで単純労働をしている技能実習生は、制度の関係上いつまでもその会社にはいられません。そのような人の中には、日本の永住権を取得して本格的に就職する人も増えてくるでしょう。また留学生の中には、卒業後そのまま日本でベンチャー企業を立ち上げる人も増えています。つまり、いずれは外国人経営者に雇用される日本人も出てくるわけです。

そこで問題となるのが、外国人と日本人それぞれが仕事に対して抱く「価値観」の違いです。評価の基準や昇給、働き方についての考え方が違うことで、雇用を巡るトラブルや混乱は今後ますます増えていくと思います。

外国人労働者に対する国の姿勢も変化しています。かつては違法滞在の外国人を取り締まっていた入管が、今は外国人労働者の保護に力を入れているのです。実際、コンプライアンスを守れない中小企業はどんどん摘発され、排除されています。

日本企業にとって、今後は情報セキュリティやガバナンス同じように、入管法に関する知識も必須テーマになっていくでしょう。

◆外国人労働者を巡るトラブルの原因とは

外国人労働者を受け入れるには?

岡田:外国人との間で労務トラブルが起きやすいのはなぜでしょうか?

佐野:ひとつには、日本人同士では「なあなあ」でできたことが通じないことが挙げられます。社内や仕事のルールや段取りを一つひとつ説明していくのは面倒くさいので、多くの職場で省略されがちです。ただ日本人相手ならなんとなく理解してもらえることも、外国人の場合は丁寧に説明しないと伝わりません。これがトラブルの原因になります。

国民性の違いもあります。たとえば中国人の従業員は、互いの給料の額や評価の内容について、日常会話で天気の話をするように気軽に話すのが普通です。その結果、会社への不満や不信感が生まれてしまうことも少なくありません。

残業や有給休暇などについての感じ方もそうです。外国人労働者からしてみれば、法律や就業規則に書いてある以上は「自分たちが主張できる権利」なのですが、現実にはなかなか難しいですよね。日本人の労働者には伝わる「阿吽の呼吸」も、外国人には通用せずトラブルになります。

岡田:日本の企業は変わるべきでしょうか?

佐野:外国人を使うなら、ある程度変わる必要があると思います。もちろん残業や有給休暇の問題は、たとえ相手が日本人でもしっかり直していかないといけません。

悩ましいのが社員旅行やお花見といった社内イベントです。社内イベントには仕事かプライベートかはっきりしないものも多いのですが、日本人には「なんとなく」受け入れられることでも、外国人にとってはそうはいきません。もし仕事なら、就業時間内に行うとか時間分の手当てを出すといった措置を講じ、仕事でないなら完全な自由参加にするなど、外国人が見てもわかりやすいように、やり方をはっきりさせる必要があります。

こうしたことはすでに外国人が入っている会社を含め、すべての会社がいずれは直面する問題です。

岡田:会社を変えるにはどうすれば良いですか?

佐野:まず、就業規則の整備は当然です。そのうえで、経営者の意識も変える必要があります。一方、経営者が言うだけでは会社は変わりません。現場で働く一人ひとりが目的意識を持つことも大切です。


◆不法労働を助長する関係者たち

岡田:外国人労働者を含め、ダイバーシティ(人材の多様化)の実現にはどのような課題がありますか?

佐野:外国人労働者をはじめ、高齢者の再雇用や働く女性の問題、障害者雇用など、それぞれの課題について規範となる法律やルールがあります。ただ、中小企業の経営者の中には、そうしたルールを理解していても会社を運営するために目をつぶっている人も少なくありません。本人にとっては止むに止まれぬ決断かもしれませんが、違法なものは違法です。

岡田:行政書士には、そうした問題を未然に防いだり、解決する役目も期待できるのでしょうか?

佐野:行政書士をはじめとする士業には、もちろんそのような役割があります。ただ現在のところ、「外国人を雇いたい」という需要に対し法律が追いついていないというのが現状です。どうしてもグレーゾーンのような部分が発生してしまうため、残念ながら、そこを狙って突くようなアドバイスを行う行政書士も存在しています。

岡田:関係者が違法行為を助長するようなケースもあるということですか?

佐野:最近特に問題になっているのが、虚偽申請です。翻訳・通訳として在留資格を取得させていますが、技能実習制度です。本来は外国人が報酬を受けながら技能を学ぶ制度なのですが、実際には工場などが単純労働をさせているケースが少なくありません。

また日本人学校の問題もあります。海外からの留学生を受け入れる日本語学校は全国で増えていますが、地方などの学校では海外から積極的に生徒を引っ張ってこないと経営が成り立たないところもあります。そうした学校がアルバイトとセットで留学生を勧誘したり、企業に外国人を斡旋したりといったブローカー的な動きをするケースも見られます。

日本で働きたい一部の外国人にとっては、お金を稼げるなら技能実習生でも偽装留学生でも構いません。そこにつけ込む人たちは少なからず存在しています。

岡田:それらを取り締まる制度はありますか?

佐野:入管が取り締まりを行っています。加えて、在留資格の取り消し制度の創設や、外国人留学生の場合には在留資格の更新時に納税証明を添付させ収入額から労働時間を確認する取り組みも始まっています。ただ不法労働をする外国人たちはそもそも正確に申告納税していないケースも少なくないため、実効性は疑問です。

一方こうした取り締まりに対して、外国人労働者の側はあまりに楽観的過ぎます。偽装留学生として働いていても、日本語学校を卒業したら働き続けることはできません。そのままでは日本での生活が成り立たなくなるばかりか、不法労働が発覚すれば強制送還され、その後日本に来ることはできなくなります。

4月1日の入管法改正以降、こうしたトラブルはますます多発すると思います。今後は行政書士だけでなく、社労士など他の士業もこの分野の「ビジネス」に乗り出してくるでしょうね。

◆グローバルなルールづくりのポイントとは

岡田:企業が外国人労働者を採用・育成する際の注意点について教えてください。

佐野:外国人労働者に限った話ではないのですが、誰にでも得手不得手があります。そうした人たちを戦力化するには仕事の進め方を「欧米化」する必要があります。

たとえば従来の日本企業では「人に仕事がつく」、つまり一人のひとが最初から最後まで仕事を担当するのが一般的です。これに対して、欧米では「仕事に人がつく」考え方をします。仕事をいくつかのパートに分け、それぞれ別の人が担当するという形です。ひとつの仕事に必要な人数は増えますが、仕事の流れがオープンになるため、誰かがバカンスのような長期休暇をとっても仕事は止まりません。これに対し日本の方式は仕事をブラックボックス化してしまうため、その人がいなくなったら仕事が進まなくなります。要は仕事の仕方の問題なのですが、人材をより合理的に使うには欧米方式が有利なのではないでしょうか。

働き方や仕事の段取りについて、統一ルールを作ることも必要です。本来は就業規則でやるべきことなのですが、ほとんどの会社では就業規則の内容が漠然としており、現場では使いものになりません。実務的な判断をするには現場に即したルールが必要です。このルールは、現場でトラブルが起きるたびに具体的に作り込んでいけば1年?2年で整備できるでしょう。大事なことは、誰が見てもわかるようにすることです。そうしないと、次に入った人がまた同じトラブルを起こしてしまいますから。

岡田:外国人にルールを伝える際の注意点はありますか?

佐野:外国人には、日本人の職人のような「以心伝心」とか「口頭伝承」といったやり方は通用しません。職人の勘のようなものに頼らず、データで示す必要があります。だれがやっても同じようにできる、つまり「標準化」を心がけるべきです。

それと「言語」の問題もあります。世界的に見て、日本人には英語を話すことができない人が多いですね。実際、日本では英語が通じないので働くのが嫌という外国人は少なくありません。他の国ならある程度英語は通じますし、英語さえ話せればなんとか用は足せます。ところがそうした常識が、日本ではまだ通用しません。外国人を雇用する以上、日本企業の英語対応は不可欠です。たまに「ここは日本だから従え」というスタンスの経営者もいますが、それではいつまでたっても変わりません。自分たちの仕事をさせておきながら、外国人にばかり義務を課すのはおかしな話です。グローバル化のためには、社風を変えることも必要です。

◆人事担当へのメッセージ

岡田:最後に読者である企業の人事担当者の皆さんにメッセージをお願いします。

佐野:日本の働き方と地球全体の働き方は違います。まずはそれを認識しておいてください。日本であたりまえの給料評価基準や年功序列制度、残業などの働き方や休日の取り方、今話題のワークライフバランスなど、どれをとっても世界標準からかけ離れています。

ほとんどの日本企業には、日本で高度な業務に就きたい人を受け入れる環境が整っていません。海外の優秀な技術者やエンジニアから見れば、どんなに働いても先にいる人の給料を抜けないのではやる気が起きないのも当然です。

もちろん、現在の日本企業が能力主義を貫くのは無理です。現実には生活保証的な給与体系も残す必要があるでしょう。

岡田:このようなお話を、さらにセミナーなどでお聞きすることはできますか?

佐野:いろいろな機会に、セミナー講師としてお話させていただいています。今のところ主催セミナーは開催していませんが、お電話をいただければお伺いします。今後は日本人材マネジメント協会さまとの共同セミナーなども開催できると嬉しいですね。

岡田:ぜひお願いします。本日はすべての日本企業が抱える課題について、的確な指摘とアドバイスをいただけました。今後の人材雇用についても有意義なお話だったと思います。以上で終わります。

対談を終えて