組織と個人の関係が変化し、キャリア自立・自律が求められています。誰もが羨む大企業に勤務するビジネスパーソンであっても、組織に閉塞感を感じ、将来のキャリアに対する危機意識が高まっています。働き方も多様化し、兼業・副業やフリーランス、起業は言うまでもなく、ギグワーカーという新しいワークスタイルも登場しています。一方で、スキルや専門性を高め、市場価値を獲得する具体的なプロセスを模索するビジネスパーソンも増えています。ポートフォリオワーカーという表現に代表されるように、人生100年時代を迎え、複数の仕事や活動を同時並行で行う生き方がスタンダードになります。
特集6では、『凡人起業-35歳で会社創業、3年後にイグジットしたぼくの方法-』を上梓された小原聖誉さんに新しい起業スタイルと誰もが実践できる働き方改革について語って頂きます。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

株式会社Start Point 代表取締役 小原 聖誉 氏

ゲスト:株式会社Start Point 代表取締役 小原 聖誉 氏
起業家・エンジェル投資家、株式会社StartPoint代表取締役。1977年生まれ。98年、大学在学中に起業家のインターンに参加したことでベンチャー企業の経営を間近で見る機会にめぐまれ、「やがては自分も起業しよう」と考えるきっかけとなった。2013年、株式会社AppBroadCast創業。起業を意識してから15年が経っていた。ABC社ではスマホゲームのマーケティング支援事業を独自のフレームワークに基づいて展開。徹底して凡人であることを前提に経営したことで、立ち上げたメディアは2年で400万ダウンロードを超えた。創業して3年目の2016年、大手通信会社グループに同社をバイアウト。現在は自らの創業経験をもとにIT起業の支援・投資活動を行っている。

小原 聖誉 氏 著書:凡人起業


岡田 英之(編集部会):本日は株式会社StartPointの代表取締役社長で『凡人起業』の著者である、小原聖誉さんにお越しいただきました。それでは小原さん、簡単に自己紹介をお願いいたします。

◆2度の起業体験から学んだこと

リアルな起業体験から学んだこととは?

小原 聖誉(株式会社StartPoint創業者・代表取締役社長):僕はこれまで2度起業をしています。まず1回目は1999年に東大を中退したプログラマーの方と知り合いまして一緒に会社を創りました。彼は3歳上だったのですが兄弟というよりは親子に近い関係で、僕は何もわからないまま起業にお付き合いしていた感じです。最初はパソコンの壁紙にカレンダーを表示するソフトを作りオンラインで発売したのですが、これがあまりうまくいきませんでした。

岡田:上手くいかなかった?1999年ですとWindows95が出て4~5年、今のITの世界とちょっと違いますね。

小原:まず、オンラインで購入するという文化があまりなかったです。それで社長から「このままではヤバイ、一年だけ一生懸命頑張ろう。それでダメなら解散しよう」という話があり、次はちゃんとヒットする事業をやろうということで携帯電話のアプリを検索するサイトを開発したのです。

岡田:携帯電話のアプリ。ガラケーの時代ですね。

小原:はい。ちょうどiモードが1998年頃に登場して503iという端末からアプリも使えるようになりました。当時は小さい画面でアプリなんて誰もやらないだろうという基調だったのですが、我々は新しいことをやろうと決めていたのでサービスを立ち上げたところ、それが思いのほかうまくいったのです。

岡田:2度目でマーケットインして、マネタイズできて事業として確立した。素晴らしい成功体験ですね。

小原:そのときに“自分たちが作りたいものを作るよりも時代に乗っているサービスを提供した方が努力は何倍にもなる”ということを体感しました。その経験が2度目の起業に生きます。2013年に起業したときはスマートフォンのゲームを検索するサービスをKDDIさんと提携して作ったのですが、これがユーザーさんに非常に受けまして、大体400万人くらいの方に使っていただきました。

岡田:2013年でもゲームを検索するようなサービスは、あまり出ていなかったのですか?

小原:実はたくさんありました。工夫したことが2点ありまして一つはゲームを紹介するだけではなくてゲームのクーポンを配布したのです。リクルートさんのホットペッパーを参考にしました。もう一つはAndroidに特化したことです。日本人は格好いいものが好きなので、当時僕が所属するスタートアップ業界の人たちもみなiPhoneのビジネスをしていました。Androidだけを切り取ったビジネスをしている人がいなかったのです。

岡田:当時のシェアでいくとAndroidは2~3割くらいでしょうか。

小原:いえ、不思議なことにAndroidのシェアのほうが大きくて64%あったのです。ただ錯覚するのです。Xperiaとか一つひとつの端末で見ると小さいのでiPhoneのほうが勝っているように見える。ユーザーさんにとってはクーポンがついているほうがいいですし実はシェアが高いならAndroidに特化したほうが競合は少なく勝ち筋が見えます。その後、KDDIに事業を売却して中に入り、2018年まではKDDIグループに所属していました。



◆大企業とスタートアップは水と火のように違う

岡田:最近は大企業のサラリーマンでも閉塞感を感じている人が増えています。会社を辞めるのはリスクがある。かといってこのまま悶々と過ごすのも嫌だ。何かプチ起業、副業のようなことをしてみたいと思う。小原さんの『凡人起業』もそこに刺さったのだと思うんです。起業といっても大それたことをしなくてもチャンスがあるということですね。今日は小原さんの話もふくめてそのあたりのマインドセットというかメンタリティについてもお話いただけるとありがたいです。

小原:僕は縁あって大企業に入ったことがあって感じたのですが、やはり大企業の方のほうが優秀です。スタートアップで働いている人や起業家よりも、人としてというかスペック、スキルが優秀です。

岡田:そうすると、ちょっと人のタイプが違うのでしょうか?

小原:はい、違います。PDCAというサイクルで説明するとわかりやすいのですが、大企業はリソースを抱えているため事業を起こすときに、例えばKDDIなら5000万人のユーザーに対してどのようなサービスを単価いくらで提供してどうコミュニケーションをとってコストはいくらでと考える。PDCAのPとCが非常に容易なのです。

岡田:机上でシミュレーションしやすいわけですね。

小原:一方でスタートアップはリソースを持っていないため外部環境からロジックを組み立てます。今は何が世界のトレンドで次は何がくるかを考えるマーケットイン思考になります。誰がユーザーで、いかにそのユーザーが自分たちのサービスを選ぶようにするかという、勝ち筋の戦略ストーリーを考えることが凄く大切です。PDCAのPとCが強い大企業とDとAが強いスタートアップは水と火のような違いがあります。

岡田:なるほど。だから組むと相乗効果が出る。

小原:そう思います。あと大企業の場合はしっかり根回しをして社内の協力を得ることが凄く重要です。社内で信頼されるためには尖りすぎるよりはまんべんなく人と仲良くできて、市場や取引先を見るよりも上司を見る人のほうがいい。そういうふうに才能が最適化されていくのは本人の問題ではなく構造の問題だと思います。そういう意味で、僕は今までの大組織の方はもったいない働き方だったと思います。でも、これからは逆に大企業のサラリーマンは楽しいかもしれないと思っています。

岡田:これからは大企業のサラリーマンは楽しいのですか?

小原:可能性はあります。なぜなら、副業が解禁されたからですね。もちろん、成功事例が出たり副業する人の社内の生産性が高まったりしないと定着しないでしょうが、建前としては広がっている。そうするといいとこ取りができると思います。
安定した働き方は大企業ですればいい。大企業では、例えばルールとして稟議はなくならないものですし、僕もなくしてはならないと思っています。社会の公器のようになっている会社も多いのでチェック機能が多くなるのは仕方がない。ただし、これからは会社も働き方改革をせざるをえないですから、おおでを振って副業ができます。副業でスタートアップをされたらいいと思うのです。だからこそ、僕は好きなことを副業にするよりは得意なことを副業にしたほうがいいと思っています。

大企業とスタートアップ企業との違いとは?



◆人生100年時代のキャリアをどう創るか

小原:基本的に大企業に入る人は、地頭がよくて競争に打ち勝ってきた方々です。最適化されるということは順応性が高いということでもあります。ならば必ず得意な領域があるはずです。僕がいた大企業グループの経理の女性は50歳くらいですけど、社内にRPAを導入するプロジェクトを担当したことをきっかけに、今はRPAの副業をしています。

岡田:経理、そしてRPAなら汎用性はありますよね。

小原:RPAはわかりやすい例ですが、要は自分の強い領域と世の中で伸びそうなものとを掛け合わせたら何ができるか? と考えていくことが大事です。

岡田:なるほど、起業というと新しいビジネスの種を探してくるイメージがありますが、過去の自分を受け止めて、一度振り返っていくと必ずそこには何かがある。その延長線上で考えることが大切なのですね。

小原:おっしゃるとおりです。キャリアの形成も同じだと思います。弱いところを認めてそこはだれかと組めばいい。あるいは戦略的に撤退すればいい話です。ご自身のスキルで上司のみならず同僚や社外の取引先から評価されていることを、次の成長市場に掛け合わせていくことが大切です。

岡田:役職定年あるいは60歳になってどうしようと考えるのはナンセンスな話で、そのお父さんたちもよくよく考えてみると得意なものがあるのだというお話ですね。

小原:そうです、そうです。

岡田:いまだに昭和型の大手企業は多いです。社員は最適化されてしまいます。そういう大企業に学生は行きたがりますよね。そうなるとわかっていながら入って、案の定最適化される。これ、なぜだと思いますか?

小原:一般論ですが、学生のお父さんや親せきの方々は無名の会社より大企業に入るほうを喜びます。本人の意思とは別に「今まで育ててくれてありがとう」という感謝の気持ちから有名企業を選ぶことがあると思います。もう一つは競争に勝ってきたからだと思います。学歴社会はまだ残っていますし学歴社会の意味するところとは、大学に入って何をするかではなく周りより自分が競争に勝ったことにあると思います。その自負があるので、就職活動でもみなが行きたい会社に入ることが競争に勝った証明だと思っているはずです。

岡田:そこで何をやりたいかではなくて、他人から見て勝ち組だと思われる会社に入ることが大事。

小原:インターンは一応ありますが、日本の学生は就業経験なしで就活しますので、ほかの人の軸に乗ってしまうのは、これも構造上の問題だと思います。学生が就職に関しては大人化していないんですね。
僕の場合、なぜ学生時代に起業したかというと僕は真剣だったんです。なぜなら、学生結婚して妻と子供がいたからです。ノリで就活するわけにいかなかった。また、当時は就職氷河期で僕は東洋大学というスタンダードというよりは日東駒専と揶揄されるレイヤーの学生で、就職活動することにハッピーな絵が描けませんでした。当時も大手企業が社員をリストラする状況はあり、結局そうなるなら自分で商売ができたほうがいいと考えていたところに、会社を創りたいというプログラマーと出会って一緒に起業したのです。


◆日本の大企業組織の問題について

岡田:小原さんは起業マインドと切迫感があったのですね。しかし、人生100年時代でキャリアをどうデザインしていくかとなると、今のお話を聞くとちょっと暗くなりますよね。個人の若者の責任というより年長者の責任というか社会や組織の構造の問題があります。小原さんから見て、日本の大企業組織はここが問題だというのがあれば意見をお聞きしたいです。

小原:実は僕は、大企業は大企業の働き方でいいと思っています。なぜなら、大企業は高度成長期の「物を作ったら売れる」時代の経験を通じて利益の基盤があり、それで雇用も創出しています。あまり怒られる筋合いもないと思っているかと思います。僕も中にいたのでそう感じるのですが。

岡田:いちゃもんつけられる筋合いはないと。大企業はある種のプラットフォームで頑強なセーフティネット的な場というか器であって、そういう意味では社会性もあります。別にそこに難癖つけて破壊しにいく必要もないかということでしょうか。

小原:そう思います。プラットフォームですね。あとは今まで40年間一つの会社で働いてきた人に急に変われと言っても変われない方もいると思うんです。多分その人たちは「今まで身を粉にして尽くしてきたからこその会社の成長。自分が入ったときの企業の売り上げは数億しかなかったけど今数兆ある」という気持ちがあると思います。先兵として戦ってきた方々に「変われ」が最後のメッセージというのは、残念な気がします。

岡田:ちょっとひどいですよね。

小原:そこは「今まで頑張ってくれてありがとう」でいいと思うんですよね。そのうえで年長者の方が若い社員に「自分の時代には副業はなかったけど、君たちの時代はもう保険制度も崩壊するし、自分たちで生きていくのが大前提だから、どんどん副業をしてスキルを身につけて、場合によっては会社を辞めてもいしもどってきてもいい」という話を義務としてすればいいだけの話だと思います。

岡田:まさにプラットフォームですね。組織と個人がウィンウィンの関係になればいいわけであって、出入り自由な緩い関わり方もあるしウェットな関わり方もある。エターナルな場合もあれば一時的な場合もあって多様だということですね。大企業は税金もたくさん払っていますしある種のセーフティネットにもなっています。労働者がプラットフォームとして活用する意義がたくさんあり、大企業側もそういう意識で人を雇ってくださいということでしょうか?

小原:はい、今岡田さんに整理していただいたとおりです。

岡田:そういう会社であれば古かろうがなんだろうがいいと。ただ、一方的に搾取しているというか、ウィンウィンの関係を構築しようとしない大企業組織はまずいということですね。

小原:それはまずいです。そういう会社はすぐ辞めたほうがいいと思います。ただ、大企業は余力がありますし加えてSNS社会になっているのでおかしいことはばれる時代です。大企業もロックオンしづらくなっていますし、むしろめちゃくちゃ緩い方向に向かっていると思います。

◆『凡人起業』について

岡田:もう一つ小原さんにおうかがいしたいのは、最近増えてきている気がするオーバーシックスティーンの起業。60歳とか65歳とか70歳の起業家などはいますでしょうか?

小原:そうですね。一般論で言うとカーネル・サンダースさんは65歳を超えて起業されていますし、非常に大きい会社にされています。

岡田:ケンタッキー・フライド・チキンですね。

小原:マインドブロックをかけなければ、民主主義の世の中であれば年齢は関係ないと思います。年齢で考えると「バカの壁」になってそこで思考停止してしまいがちでもあります。
僕が言っている凡人起業というのは、特別な才能を持っている人やプログラムができる人が起業する権利を持っているのではなくて、むしろノーマルな方が今まで一生懸命働いて身につけた得意分野と成長市場を掛け合わせて起業するという話です。そのうえで起業しなくてもいいと思うんですね。いつでも戦えるファイティングポーズがとれることが大事だと思っています。

岡田:なるほど。そういうオプションがあると知覚するだけでポジティブになるし人生の幅が広がります。今はキャリアも長くなっていますし人生が多様化しています。仕事でもプライベートでも予期しないことも起きます。起業にもいろいろなスタイルがありますが、リスク耐性としての起業マインドはサラリーマンだけでなく主婦の方をはじめみんなが持っていたほうがいいですね。

小原:はい。サラリーマンの方も一社に依存する必要はないかもしれないし、依存してもいいのですがいろいろな選択肢を持っていることが大切だと思うんです。少し大げさな話ですが哲学者のカントが人間と動物の違いについて、「動物というのは人生を選択できないけど、人間は人生を選択できる」と語っています。それを聞いてすごく納得しましたし、選択肢を自分で増やすことが大事なのだと思います。


◆終わりに

岡田:今後のご予定ですが、小原さんは起業研修などは受けていただけるでしょうか?

小原:もちろんです。自分が役に立てることであればそういった機会はありがたいと思っています。あとは『凡人起業』にも起業の準備について書いてありますので参考になるかもしれません。
僕も2回目に起業するまで15年くらいかかりましたが、今振り返るとそれは必要な時間だったと思います。なぜなら自分の強味を磨いて、かつガラケーからスマホにかわるパラダイムシフトのタイミングが噛み合ったことがうまくいった要因だからです。そうはいっても起業準備をしていなかったわけではないので書籍ではそこを詳しく書いています。

岡田:ありがとうございました。それでは、以上で本日の収録を終わります。

対談後の1枚!