「管理職に就くことになったが経営・マネジメントに関する体系的な知識がない」と嘆くビジネスパーソンが未だ多くいらっしゃいます。日本では多くの大学で昼夜問わずMBA(経営学修士)を習得できるコースがそのニーズを満たす1つと言えますが、習得のためには多くの時間とおカネを割かねばなりません。本シリーズは「そこまで労力は割けない」と考える方々へ向けて、マネジメント全般に関する知識のessentialを分野ごとに取り上げます。第4回目は「デジタルマーケティング」の中でも特に「インタレストグラフ」について学習院大学国際社会科学部の澁谷 覚氏に解説いただきます。

澁谷 覚 氏

解説:澁谷 覚 氏(しぶや さとる)
学習院大学国際社会科学部(マーケティング、消費者行動分析)
博士(経営学)

東京大学法学部卒業後、東京電力株式会社勤務を経て、1995年慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了、2001年同後期博士課程単位取得退学後、2003年に博士(経営学)を取得。2001年新潟大学経済学部助教授、2006年同大学大学院技術経営研究科助教授。2007年東北大学大学院経済学研究科准教授、2009年同大学院教授を歴任し、2016年より学習院大学国際社会科学部教授。
つまり、いま何かの
マーケティング、主にオンラインとオフラインの消費者同士の影響関係やコミュニケーションの特性を明らかにし、クチコミ・マーケティングに活用するための研究を専門としている。
2010年に吉田秀雄記念事業財団助成研究吉田秀雄賞(奨励賞)、2012年に日本商業学会優秀論文賞、2017年に吉田秀雄記念事業財団助成研究吉田秀雄賞(大賞)を受賞。
著書に『はじめてのマーケティング』(共著、有斐閣、2013年)『類似性の構造と判断:他者等の比較が消費者行動を変える』(有斐閣、2013年)、『そのクチコミは効くのか』(有斐閣、2018年)、『1からのデジタル・マーケティング』(碩学舎、2019年)ほか、論文等も多数。


人々の間のコミュニケーション: インタレストグラフのクチコミの影響力

◆1.はじめに

 昨今のデジタルマーケティングでは、オンライン上のソーシャルグラフ(人々の社会的つながり=知り合いであること)の有効性を見切り、改めてインタレストグラフ(人々の興味・関心つながり)の影響力に期待を寄せる論調が見られます。しかし以下で議論するように、インタレストグラフの影響力には注意すべき点があります。そこで本稿では、最初に人々の間のクチコミを4種類に分類した上で、インタレストグラフの役割について議論していきたいと思います。

◆2-1.分類枠組みを構成する2つの軸

2-1-1.オンライン←→オフライン

 ここでは議論の前提として、最初にタテ・ヨコ2軸から成るクチコミの分類枠組みを導入したいと思います。そのうちまずタテ軸として、「オンライン←→オフライン」の軸を採用します。1990年代半ばから、人々はインターネットを用いてコミュニケーションや情報探索を行うようになりましたが、こうしたオンライン上のクチコミは従来のオフライン、すなわち対面のクチコミとは異なる特性を有していました。したがってオンラインとオフラインを比較することは、クチコミを分類する上でぜひとも必要な軸です。そこで本稿では、クチコミを分類する枠組みのタテ軸として、「オンライン←→オフライン」を導入し、両者の特性を比較することにします。

2-1-2.ソーシャルグラフ←→インタレストグラフ

 次にヨコ軸として、「ソーシャルグラフ←→インタレストグラフ」を採用します。その背景は以下のとおりです。

2-1-2-1.ソーシャルグラフ

 初期のクチコミ研究では、主に家族、友達、仕事仲間などの小集団における情報伝達の過程を調査していました。こうした研究からは、「対人関係が(中略)、伝達内容の通路となる」、「2人の人間の間の友情は、コミュニケーションの生きた通路の存在を意味する」などとされ、基本的に構成員間の社会的関係(つまり知り合いであること)がクチコミにおいて重要な役割を果たすという知見が一致して得られています。つまりインターネット以前のオフラインのクチコミにおいては、明示的にまたは暗黙的に、クチコミを行う当事者同士が知り合いであることが想定されていました。
 でも、クチコミのベースに知り合い関係があることは、今日のインターネット上でも、基本的には変わりがありません。今日のオンライン上のクチコミにおいても、その大部分はこうした当事者間の社会的関係に基づくコミュニケーションが占めています。皆さんがソーシャルメディアを使い始めるときに、最初は知り合い同士で「友だち申請→登録」から始めることが、このことを示しています。
 なおこのような当事者間の社会的関係を近年は「ソーシャルグラフ」と呼びます。

2-1-2-2.インタレストグラフ

 インターネット上のクチコミにおいては、消費者の情報入手先は、知り合いすなわちソーシャルグラフで結ばれた相手ではなく、興味・関心が似ているが面識はない他者であることがたびたび指摘されてきました。このような「興味・関心が似ているが、知り合いではない他者とのコミュニケーション」については、ソーシャルメディアが急速に普及するより前、つまりインターネットの草創期に、むしろさかんに脚光が当てられました。それまでのオフラインの(現実世界の)コミュニケーションでは、知り合いではない他者とコミュニケーションする機会はきわめて珍しかったため、こうしたコミュニケーションこそが、インターネットが新たにもたらした画期的な事態だともてはやされたのです。ただし当時は、こうした関係に「インタレストグラフ」という用語は使っていませんでした。その後2007年前後からソーシャルメディアが急速に普及したため、ソーシャルグラフが注目されるようになりましたが、ソーシャルメディアの喧噪が一段落した昨今、再びこのインタレストグラフに注目が集まっているのです。ただし以下に述べるように、興味・関心が似ているが、知り合いではない消費者同士の関係を「インタレストグラフ」と呼ぶのは、最近のトレンドです。
 そこで本稿では、ヨコ軸のもう1つの極にインタレストグラフを置くことにします。
 「インタレストグラフ」とは、本来はネットワーク分析において、個々の消費者と、その消費者が選好する対象同士を結ぶグラフ(図の上で描かれる直線のこと)、あるいはそうした対象同士を結ぶグラフを意味しており、消費者同士を結ぶグラフとして使われてはいませんでした。しかし米国では、Twitterがこの用語を使い始めた2007年前後から急速に知られるようになりました。その際に、相互に「友達」として承認し合う仕組みをとるFacebookとは異なり、Twitterでは利用者が興味のある発信者を一方的にフォローすることができ、これをインタレストグラフと呼んだことから、今日ではインタレストグラフとは、興味・関心、態度、信念、嗜好などが近い消費者同士の結びつきを意味するようになりました。インタレストグラフで結びつけられた消費者とは、共通の興味・関心を有している一方で、知り合いではありません。そこで本稿では、ヨコ軸の上でインタレストグラフとソーシャルグラフを対比することにします。

2-2.クチコミのプラットフォームと態様

 以上のタテ・ヨコ軸から構成されるマトリクス(図1参照)に、クチコミが行われる場(オフラインの場合)またはプラットフォーム(オンラインの場合)を位置づけ、合わせて各領域におけるクチコミの態様を図示したものが以下の図です。これを用いて第2章では、同図の各領域におけるクチコミの特性を概観しましょう。

(出典:澁谷覚(2017)「知らない他者とのコミュニケーション:オフラインとオンラインにおけるインタレストグラフの役割」、『季刊マーケティングジャーナル』、36(3)、23-36.より)

◆3-1.各領域におけるクチコミの概要

3-1-1.領域Ⅰ:オフライン×ソーシャルグラフのクチコミ

 知り合い同士が主にリアルな同一空間において対面で行うクチコミです。ソーシャルメディアが浸透した今日でも、消費者間のクチコミの約90%は、このような領域で行われているという結果が得られています。つまり私たちの日常の会話のほとんどは、これほどソーシャルメディアが浸透した今日でも、なお対面の状況で、すなわち学校や職場、家庭などで、知り合い同士や家族間で行われるものがほとんどなのです。
 ちなみに、インターネットが普及するより前の時代には、当然のことですがクチコミの研究とはこの領域を対象としていました。したがってこの領域には、1940年代頃からの膨大な研究蓄積があります。皆さんもおそらく聞いたことがあると思いますが、オピニオンリーダーとかインフルエンサーなどの研究も、この領域で行われてきたものです。

3-1-2.領域Ⅱ:オフライン×インタレストグラフのクチコミ
3-1-2-1.概観

 相互に面識はないが、興味・関心を同じくする当事者同士が、主にリアルの同一空間において対面で行うクチコミです。インターネット以前の時代には、人々がこのようなインタレストグラフで結ばれる可能性のある他者、つまり同じ興味や関心をもつ他者を見いだす可能性は、たまたま周囲にそのような人がいるかどうかに左右されていました。つまり同じ興味・関心をもち、かつ知り合いである他者しか当時は選択肢がなかったのです。もちろん本来は、知り合いという制約をはずせば、興味・関心が同じ他者をたくさん見つけられる可能性があります。しかしそもそも私たちは面識のない他者と日常生活の中で会話をすることはあまりありませんから、インターネットがない時代には、インタレストグラフのみにもとづくクチコミはきわめて少なかったのです。そしてこのことは、今日でもオフラインの領域ではほとんど代わりはありません。私たちは、日常生活で面識がない人と対面で会話することは、(仕事上で出会って名刺交換から始める業務上の会話等を除けば)ほとんどないのです。

3-1-2-2.うわさ、流言、ニュースの伝達とインタレストグラフ

 ただし例外として、うわさや流言の研究があります。うわさや流言は、しばしば面識のない人々の間で伝わることがあるとされています。衝撃的な事件や災害などが起きたときに、マスメディアを上回るスピードでうわさや流言によってニュースが広まったことが、過去に何度も観測されているのです。そしてこのような状況下のクチコミは、しばしば互いに面識のない人々の間でも伝わると一般に言われてきました。面識がない人々の間で伝わるから、マスメディアより速く伝わることがあるのです。
 こうしたうわさや流言は、人々の会話によって伝わるわけですからクチコミの一種であり、かつ衝撃的な事件や災害に関心があるから面識のない人同士でも会話をするわけですから、一種のインタレストグラフで繋がっているということができます。したがってうわさや流言は図の領域Ⅱに分類することができます。

3-1-3.領域Ⅲ:オンライン×ソーシャルグラフのクチコミ
3-1-3-1.ソーシャルメディア

 消費者が自ら生成したさまざまなコンテンツを、オンライン上で共有する機能を提供するサービスをソーシャルメディアと総称しますが、電子メールなどを除けば、現在のオンラインのクチコミのほとんどは、ソーシャルメディア上で行われています。ソーシャルメディアにおけるオンライン上の消費者同士の結びつき方には、ソーシャルグラフによる結びつきとインタレストグラフによる結びつきとがあります。そのうちソーシャルメディアによって結びついた消費者同士によって主に利用されるソーシャルメディアは、一般にSNSと呼ばれています。

3-1-3-2.ソーシャルグラフを介したクチコミ

 オンライン上にて1ソーシャルグラフで結びつけられた個人同士とは、例えばFacebookで利用者同士が「友達」として相互に承認することです。これによって、発信者が投稿した情報が、受信者の端末上で使用されるFacebookアプリ画面上のニュースフィードに表示される機能が実装されます。
 ただし、このようなプッシュ型コミュニケーションを受信者側から見れば、自ら選んだわけでもない雑多な情報(例:発信者が今日のお昼に食べたラーメンの写真など)が向こうから勝手にやって来ることを意味します。そこで受信者がフォローする相手、すなわちソーシャルグラフで結びついた相手が多いほど、それら多数の発信者から投稿された大量の、かつどうでもいい情報が、絶えずSNSを経由して受信者に届き続けることになります。このため領域Ⅲのクチコミでは、受信者は一般に受動的で、また受信した情報に対して関心が低いことが知られています。

3-1-4.領域Ⅳ:オンライン×インタレストグラフのクチコミ

 ソーシャルメディアのうち、利用者同士が興味のあるトピックごとに意見や情報を蓄積し、共有し、議論する場を提供するものには、掲示板やクチコミサイト、オンラインのブランド・コミュニティなどが含まれます。食べログやAmazonのクチコミ、クックパッド、アットコスメなどは、この領域に分類できます。そこでは、興味・関心分野ごとにプラットフォームが棲み分けされ乱立する傾向があり、また個々のプラットフォームの利用者は、それぞれのプラットフォームごとに特定の興味・関心を共有しています。そこでこれらのプラットフォームに参加する人々は、相互にインタレストグラフによって結びついた状態であると理解することができます。昨今は、このインタレストグラフの役割に再び期待が高まっているのです。

3-1-4-1.インタレストグラフとクチコミ

 ただし「人々がインタレストグラフによって結びつく」状態とは、実際にはそれらの人々が相互に、あるいは一方向的に、他の参加者に対して、関心や選好についての心理的な類似性を認知している状況を比喩的に表現したものに過ぎません。つまりインタレストグラフとは、SNSにおけるソーシャルグラフのように具体的・物理的なコミュニケーションの通路の存在を意味するわけではないのです。したがって、インタレストグラフによって結びつけられた個人間では、発信者によって発信された情報が直接受信者に届くことはありません。図中の領域Ⅳ内の絵に示すように、情報はいったんどこかのプラットフォームに蓄積され、受信者は必要なときに自らこれを検索し閲覧します。このような行動は、コミュニケーションというよりは、データベースを検索している状況に近いのです。

3-1-4-2.ソーシャルグラフからインタレストグラフへ

 Facebookは、同社のビジネスの基盤である利用者間のソーシャルグラフを活かして、ソーシャル検索やソーシャル・コマース、ソーシャル・ディール、ソーシャル・ビューイングなど、新たなビジネスの提案を相次いで打ち出したものの、いずれもめざましい成果には結びつきませんでした。つまりソーシャルグラフを利用してビジネスとして成功したのは、ソーシャルグラフをプラットフォームとして提供しているFacebook社のみであり、そのプラットフォーム上にビジネスを展開しようとした多くのアイデアは、結局あまり目立った成果を出せなかったのです。このような状況を顧みて、ソーシャルグラフの限界を指摘しつつ、インタレストグラフの影響力を再評価しようとする論調が見られるようになってきました。

◆4-1.インタレストグラフのクチコミについて

4-1-1.領域Ⅱ(再):オフライン×インタレストグラフにおけるクチコミ

 相互に面識のない人々の間の対面のコミュニケーションについての最近の研究では、うわさや流言が発生するような、かなり重大な事件が発生した状況下でも、人々は基本的には知り合いとの会話を行うばかりであり、従来考えられてきたほどには、面識のない他者と会話を行うわけではないことがわかってきました。
 つまり、緊急のニュースや重大事件などが発生し、人々がかなり強いインタレストグラフによって一時的に結びついている状況でさえも、そうした人々が面識のない他者とリアルでコミュニケーションを行うことは、あまりないのです。つまりオフラインのインタレストグラフには、面識のない人々同士の間で強制的にコミュニケーションを行わせるほどの強い力はない、ということができます。

4-2.領域Ⅳ(再):オンライン×インタレストグラフにおけるコミュニケーション
4-2-1.潜伏者(lurkers)

 オンライン上における見知らぬ他者とのクチコミに関しては、「潜伏」(lurking)という参加スタイルに関する古くからの議論が参考になります。潜伏とは、議論を見守るだけで自分は発言しないような参加スタイルのことです。過去には「潜伏とはフリーライダーだ!」のような批判的な論調も多く見られましたが、近年はオンライン・コミュニティにおいて潜伏行動をとる参加者について、いろいろなことがわかってきています。
2009年に英国の1,078名の大学生を対象に行われた調査では、潜伏行動をとることについて、最も多く報告された理由は「読んだり閲覧したりするだけで十分だから」(48.3%)、「他の参加者の回答と同じだから」(35.8%)、「発言する必要がないから」(31.1%)などで、この調査を行った研究者は、大部分の大学生にとってオンライン・コミュニティとは交流の場ではなく質問し回答を得るための場、すなわち必要な情報を得るための場であることがわかった、と結論づけています。
 先に見たように、インターネットを巨大なデータベースと見なし、インターネット・ユーザーを情報検索者と見なす視点に立てば、この結論は当然のことにも思えます。データベースの利用者の目的はあくまでも情報取得であり、同じデータベースを利用している他者と交流することではないからです。つまり、いま何かの困りごとなどがあって、インターネット上で何らかの解決策やヒントを探している消費者は、知識のある人から教えを乞いたい。出来れば掲載してある情報を探索して済ませたいと思っているのです。

4-3-1.インタレストグラフの役割

 以上のオフライン(対面)のインタレストグラフと、オンライン上のインタレストグラフに関する議論をまとめると、インタレストグラフとは情報収集・取得のための手段である、ということができそうです。インタレストグラフとは、他者と交流するために利用される、他者とのつながりではないのです。
 社会心理学の領域では、インタレストグラフという用語は用いませんが、ある人が過去に選択したさまざまなモノが自分と似ていると感じると、その人に信頼や魅力を感じることや、自分と意見が似ている他者を見つけると、自分の意見の確信が高まることなどが示されています。これらも、表現は異なりますが、インタレストグラフの心理的な役割と考えることができます。しかしこのような心理的類似性がその他者とのコミュニケーションに結びつくという結論は得られていないのです。

4-3-2.興味・関心の類似性認知は情報取得行動に繋がる

 これらの知見をオンライン・コミュニティの文脈に置き換えて考えてみましょう。特定のオンライン・コミュニティや、その参加者に対して、興味・関心の類似性を認知した潜伏者がいるとします。その結果、その潜伏者は、そのコミュニティや投稿者への信頼や親近感、好意を強めます。その結果として、そこにある情報をますます熱心に参照し、自分の意見の確信を強めます。しかしだからと言って、この潜伏者が、このコミュニケーションに参加して投稿している人たちと交流したいとは考えないのです。オンライン上で興味関心の類似性を認知すること、つまりインタレストグラフによって結びつけられることは、さらなる情報取得行動に向かわせるだけなのです。

4-3-3.インタレストグラフに期待されていること

 冒頭に述べたように、昨今はソーシャルグラフを介したビジネスがうまく行かないため、インタレストグラフを見直そうとする論調が見られます。このような論調においては、個人間の類似性認知という心理的状態を、ソーシャルグラフとのアナロジーにおいて、「インタレストグラフ」あるいは「インタレストグラフによって結びつけられている」としばしば言い換えます。このような言い換えの背後には、インタレストグラフという、何らかの実体的なコミュニケーション・チャネルがそこに形成されているという期待があるように思われます。そしてこのコミュニケーション・チャネルを通じて、人々が情報を広めてくれるというマーケターの期待があるのです。

4-3-4.インタレストグラフへの誤解

 しかし先に述べたように、インタレストグラフとはもともとは人と関心の対象とを結びつけるものですから、その関心対象の周りに、興味をもつ人々を集める効果があることは間違いありません。でも、そこに集まる人々の主な目的は、相互にコミュニケーションすることではなく、その関心対象に関する情報を得ることです。そして人々は、そこから得た情報を基本的にソーシャルグラフで結ばれた他者、すなわち知り合いに伝えるのです。つまりインタレストグラフだけでは、情報は広がっていかないのです。
 誤解がないように、ここでもう一度確認しておきます。皆さんが何か困ったことや迷っていることなどがあって、インターネット上で答えやヒントを探しているとしましょう。例えば、「○○駅の近くで、雰囲気のよいレストランはないだろうか」とか、「この窓枠に網戸をうまく取り付けるには、どんな留め金を購入すればいいのかな」といった日常の問題です。こういうときに、皆さんはインターネットで答えやヒントを探します。そのときに、多くの場合みなさんが行き着くのは、こうした内容について情報がやりとりされているオンライン上のプラットフォームなのです。たとえば食べログやカカクコムなどが、その例です。食べログには、レストランに興味・関心がある消費者が集まっていますから、それらの人々と皆さんは、食べログを利用しているときには、一時的なインタレストグラフで繋がっているのです。しかしレストランについての情報を食べログに投稿している誰かは、どこかの知らない人です。だから、そこにソーシャルグラフは存在しません。このような状況で、皆さんが食べログに投稿された1つのクチコミからヒントを得たとしましょう。こうした状況を、近年は「インタレストグラフにもとづくクチコミ」と呼んでいるのです。これは、たしかに一種のコミュニケーションとも言えますが、一方向の情報取得であり、その投稿をした誰かと交流することは(ほとんどの場合は)ありません。したがってこうした行動は、データベースから情報を引き出すことと変わりがないと本稿では考えています。つまり、繰り返しになりますが、インタレストグラフを介したコミュニケーションの目的は情報取得であり交流ではないので、インタレストグラフを介して情報が拡散していくということは、あまり期待できないのです。

4-3-4.クチコミを広めるためには

 したがって昨今の論調のように、「インタレストグラフかソーシャルグラフか」という二者択一的な議論は生産的ではありません。やはりオンライン上では、インタレストグラフとソーシャルグラフとを適切に組み合わせることが、マーケティング的には現実的です。つまりインタレストグラフによって消費者に情報を取得してもらい、その情報をソーシャルグラフによって広めてもらう、というプロセスが現実的です。ただしその場合も先に述べたように、ソーシャルグラフを介して届く情報に対して受信者は一般に関心が低いということを忘れてはいけません。ソーシャルグラフで結びついた人々の間にはインタレストグラフ(興味・関心の共通性)が欠けているため、送り手が面白いと思った情報は、受け手には何の興味もないものである可能性が高いからです。
 また、これも先に述べたように、ソーシャルグラフで結ばれた相手とのコミュニケーションの大部分は現実にはオフラインで行われています。このため、オンライン上においてインタレストグラフとソーシャルグラフを組み合わせるだけでなく、オンラインとオフラインのソーシャルグラフを適切に組み合わせる視点も重要であることも、改めて確認しておきたいと思います。


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