組織率が17%(2019年6月時点)まで低下し、存在が空洞化している労働組合。彼らも組織として生存していかなければなりません。本来、労働者側の代表として経営層と交渉し、働きやすい職場環境を実現することが目的だったハズですが…
“ブラックユニオン”と称される新手の労働組合では、合法的?に労働者から搾取します。その実態と処方箋とは。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

働き方改革総合研究所株式会社
代表取締役 新田 龍 氏

ゲスト:働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役 新田 龍 氏
働き方改革総合研究所株式会社代表取締役。ブラック企業問題の専門家。早稲田大学政治経済学部卒業後、複数のブラック企業で事業企画職、営業管理職、人事採用職を歴任。現在は、ブラック企業のマネジメント手法と問題解決手法を合法的に応用した、企業の働き方と労働環境を改善するアドバイスと、ブラック企業の悪事から組織と人を守るコンサルティング事業を展開。

著書『ブラックユニオン』


岡田 英之(編集部会):本日は、働き方改革総合研究所の代表取締役である新田龍さんにおいでいただきました。今日のテーマは、ずばり新田さんのご新著の『ブラックユニオン』。ユニオンなので労働組合ですね。ブラック企業アナリストとして有名になられた新田さんに労働組合なるものをご説明いただきつつ、ご著書の出版の経緯などをお話しいただければと思います。

◆ブラックユニオン(ブラックな労働組合)とは?

新田 龍(働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役):ありがとうございます。今回の著書では怪しい労働組合の実態を暴露していますが、決して労働組合自体をネガティブに捉えているわけではありません。むしろ、労働環境改善のために労働組合は必要だし、もっと声を上げて力を発揮すべきだと考えています。実際に私自身も、企業内組合からは数多く講演や研修のご依頼を頂くなど、大切なクライアントでもあります。

岡田:また、新田さん独自の切り口で語っていただけるのではないかと思います。

新田:私は組織の労働環境改善と、ブラック企業との取引におけるトラブル解決が仕事ですが、最近はブラック企業も顔負けの、ブラックなユニオン(合同労働組合)に関する相談や告発が増えています。たとえば「未払い賃金や不当な人事異動などを円満に解決したくてユニオンに相談したのに、ユニオンが勝手に会社と対決姿勢で臨んだことで被害者と会社との関係性が悪化し、却って被害が拡大してしまった」という労働者の方や、「労働環境について針小棒大に騒ぎ立てられ、解決金を払って和解したのにまだしつこく誹謗中傷されて困っている」といった企業など、様々な被害が実際に起きている。そこに警鐘を鳴らしたいということでこの本を執筆しました。

岡田:労働組合というと一般的には労働者の味方で、会社が残業代を払わなかったりパワハラにあったりしたときに、いろいろ相談にのってくれるイメージがありますが、それはあっていますか?

新田:その面ではあっている一方で、残念ながらそうではない面もあります。労働組合側は、まさに「労働者の味方です!」と宣伝しますよね。個人では会社に対して太刀打ちできないようなトラブルでも、組合に相談して一緒になって交渉すれば解決する駆け込み寺のような存在、労働問題の切り札と言わんばかりです。
しかし、日本におけるメンバーシップ型の雇用慣行と労働組合は固く結びついているところがあります。諸外国と違い日本の企業内組合のミッションは「社員の雇用を守ること」、すなわち「会社が永続すること」であって、それによって自分たちもともに栄えていこう、という感じですね。

岡田:長期雇用のために、会社を長期存続させるということですね。

新田:はい。組合員にいろいろな不満があったとしても、軽微なことや組織存続に必要な不利益であれば、組合内でうまくまとめて納得してもらい、オオゴトにならないようにして会社組織と長期雇用を守りぬこうという力が働きがちです。あまりに苛烈な要求をして会社が潰れてしまっては元も子もないので、不利益はお互いに痛みわけで勘定していこうという不文律があるような感じですね。

そもそも労働組合とは?

岡田:言わば緩衝材であり、winwinの関係性を目指している。

新田:一方、この本で対象としている合同労働組合(ユニオン)は、そのような企業内組合とは少し違います。特定企業との繋がりはなく、所属組織や雇用形態に関係なく個人で加入できる独立系の労働組合で、正社員だけではなく派遣社員、アルバイト、管理職の方や、失業された方なども入れます。もちろん、真っ当に活動されているところがほとんどなのですが、ごく一部に問題を起こすユニオンが存在します。本書はその実態を追ったものです。

◆従来型の労働組合とブラックユニオンの違い

新田:同じ労組なのに何が違うかというと、被害を受けた労働者の残業代を払えとか、クビを撤回しろといった要求をするところまでは同じでも、企業内組合であれば長期雇用維持のために労使協調路線になりやすい一方、ユニオンは宿主たる企業が存在しないので、要求が苛烈になりがちである、という点です。ユニオンの場合、交渉の結果として争議先の会社に悪評が流れようが、潰れようが知ったことではなく、あくまで被害が解決でき、解決金という名目でお金さえ取れればいい、となってしまうわけです。それによって実際に潰れた会社や、ブラック企業という風評被害に苦しんでいる会社もあります。

岡田:ユニオン自体もやっぱり活動資金とか必要でしょうね。

新田:規模の大きいユニオンは専従職員も多いので、カンパや組合費だけではまかないきれないくらい固定費用がかかってしまいます。そうすると、解決金獲得を目的とした無理筋の交渉をせざるを得ないケースも出てくるでしょう。ユニオンによっては争議が解決した場合、「得られた解決金のうち20%を拠出金としてユニオンに支払え」といった要求をする例もあります。これは、過去「拠出金割合が高すぎるため無効」となった判例(16%)よりも高額で、健全な水準とは思えません。

岡田:なるほど。

新田:また、本人は復職したいと希望していたにもかかわらず、「あんな会社に戻ってどうするんだ!?」「辞めたほうが得られる解決金も高くなる!!」と本人を説得したり、あるいは本人に無断で交渉したりして、結果的に意に反して退職せざるを得なかった、などという事例もあります。

岡田:労働者の意思に反するような交渉をする…かなり過激な、野放図なことが起きているのですね。

新田:一旦和解が成立すると交渉内容は秘密になりお互い口を開かなくなるので、なかなか実態が明らかにならなかったのですが、ようやく公開するに足る確度の高い情報が集まったので、今回書籍にまとめた次第です。

岡田:改めてこの『ブラックユニオン』について、こんな視点で読むと問題の本質を捉えられるというところなどをお話しいただけますか。

新田:この本は労働者向けのメッセージ、企業経営者向けのメッセージの両方を書いています。ユニオン関係者からは、争議先の社長がユニオン対策としてこの本を買って予習していたという話も聞いています。

岡田:企業向けにもなる。俺の会社はブラック企業なんじゃないとか思っているような人が読んでもいい?

新田:はい。一般的に、ブラック企業で苦しんでいる方が訴える先は労働基準監督署と言われていますよね。しかし残念ながら、労働基準監督署にできるのは企業に労基法違反だと行政指導を出すところまでです。よほど悪質でない限りは送検や逮捕まで至りませんし、残業代を払えという是正勧告は出せても、そこに強制力はなく、払うか払わないかは経営者の一存になってしまっていました。

岡田:行政から命令が出ても、払わない企業があるのですか?

新田:よくあります。それがユニオンの場合は、弁護士が対応して法的な根拠を教えてくれます。場合によっては一緒に取り返すための団体交渉をしてくれて、いつまでにこれだけ払えということを約束させて労働協約として書面にしてくれる。実行力が非常にありますので、使い方や選び方さえ間違えなければ頼りになる存在であり被害回復も速いということなんですが、本書はそこから先の話です。

従来の労組とは異なる存在

◆労働組合に強大な権利を与える労働組合法とは

新田:まず、なぜユニオンがそんな強大な力を持てるのかということですが、これは労働組合法という法律の後ろ盾があるからなんですね。

岡田:労働組合法とは、どのような法律でしょうか?

新田:簡単に言うと、労働組合に強大な権力を与えて保障している法律です。労働組合は誰でも、誰の許可も得ずに作ってよく、労働組合を作りさえすれば企業経営者と対等な立場で交渉ができます。そしてその交渉は正当な理由がなければ拒否できません。そして税法上も、労働組合は公益法人扱いのため、収益事業以外から得た所得は非課税です。

岡田:労働組合が交渉を持ちかけてきたことに、経営者がノーと言ったら法律違反になりうるのですか?

新田:団体交渉拒否もそうですし、組合や組合員に対して会社が不誠実な対応をした場合は「不当労働行為」として、労働委員会に訴え出ることができます。労働組合に対して非常に強力な権限を与えているんですね。

岡田:すごいですね。そんなことサラリーマンの多くは知らないですよね。労働組合法でググった方がいいでしょうか。あるいはこの本を読めば書いてありますか?

新田:ぜひググったほうがいいですね。本にも書いてありますので買って読んで頂きたいです。この労働組合法が後ろ盾になっているので、ユニオンの活動はやりやすいんです。ユニオンは各地域にたくさんあり、インターネットで加入申し込みできるところもあります。入会金が数千円から1万円程度、月会費(組合費)は1,000円~3,000円程度が相場でしょう。

岡田:そんなに安いんですね。

新田:実際にユニオンのおかげでトラブルが解決して感謝している方は大勢います。あるホテルの従業員の方が職場からパワハラを受けてクビになったのですが、ユニオンに参加して交渉してもらったことでクビが撤回されて、職場復帰できたという事例もあります。

岡田:今の例は望ましいユニオンの使い方ですね。

新田:はい。しかし、中には労働組合法に守られていることを悪用して、企業に法外な要求をするユニオンもあります。合法ではあるものの、場合によっては恐喝にあたるのではと思われるケースも報告されています。若い読者の方はご存じないかもしれませんが、昔は総会屋というものが存在しました。

岡田:総会屋、ありましたね。若い読者の方に説明していただけますか?

新田:総会屋というのは、大手上場企業などの株を一部持って株主総会に参加して、そこでクレーマー的な要求を突きつけたり議事進行を妨害したりして、黙ってほしければ利益供与しろ、というような要求をする団体ないしは個人です。法律の規制が加わったことによって今はなかなか存在しえないのですが、一部のブラックユニオンはこの総会屋まがいの行為を各所で展開しているのです。

◆机をたたき、大声でどなるような苛烈な交渉も

新田:ユニオンは「団体交渉」という手段を用いて合法的に会社に入り込み、相手企業の会議室など事務所スペースを提供させて、自分たちの要求を伝えることができる権限を持っています。その他、組合員が仕事をしない「ストライキ」や、事務所前でビラを撒いたり拡声器を使って抗議行動を起こしたり…これらを個人でやると、営業妨害や名誉毀損などで訴えられる可能性がありますが、「労働組合が争議権を行使している」という建前があれば正当な権利になります。

岡田:何もなければ住居侵入罪です。

新田:交渉と言うとおだやかなイメージですが、ブラックユニオンの団交の場合、多いときは関係者が一挙に数十人くらい押し寄せてきます。経営者側は社長、役員、人事など数人が並んで対応するのですが、そこで机をバンバン叩いて怒号やヤジが飛び交い、「社長は何考えてんだ!?」などとヤクザまがいの恫喝をされたりするので、社長や役員もビビってしまうわけです。

岡田:社員に気づかれてしまいますからね。

新田:さすがに大声で騒ぎたてるのは勘弁してほしいし、おとなしくお引き取り願いたいから「ユニオン側の要求を聞こう」となる。すると、ユニオン側は「自分たちの要求はこの労働協約にまとめてあるからサインしろ」と言って、未払残業代は支払いますとか、組合員を差別して扱わないとか、いろいろな要件をつきつけるんです。

岡田:そこはちょっと正義の味方っぽいですね。

新田:それが、ブラックユニオンが出してくる労働協約の場合は、よく読むと会社が本来持っている人事権、誰を昇進させるとか出向させる、誰の給与を上げる・下げるということに関しても、都度ユニオンの同意が必要、などと書かれていたりするんです。そうすると、会社として何をするにもユニオンにお伺いを立てないといけなくなる。実質的にユニオンに牛耳られてしまうというか、乗っ取られてしまうことになりかねないわけです。

岡田:労働協約というものに盛り込んじゃうわけですね、しのばせる。それに迂闊にサインをしてしまうと、いつのまにか会社の経営権を乗っ取られてしまうかもしれない。しかも合法的に。

新田:はい。労働関連の法律や契約書に関して詳しくない経営者もいらっしゃるでしょうし、そんな分厚い書類をすみずみまで一語一句読まないよという方もいると思います。そこを上手くついてくるわけです。

岡田:かなり知能犯ですね。インテリマフィアみたいです。

新田:そうですね、彼らは労働法を関連法までよく熟知していますし、交渉ごとには慣れています。また共闘している労働弁護士たちもいます。本来、弁護士資格を持たない者が、報酬を得る目的で法律に関する仲裁や交渉、代理行為をおこなうのは違法なのですが、彼らには弁護士がついて交渉しますので、すべて合法的にできてしまうわけです。

◆悪いユニオンに付け込まれないために

岡田:本にプレカリアートユニオンという言葉が出てきます。2000年代中頃ですかね、雨宮処凛さんの本に出ていた、いわゆる非正規雇用の人たち、弱者になってしまった人たちの過酷な労働環境を何とかしましょうということで彼女たちが立ち上がった。年越し派遣村なんてありましたね。

新田:ありましたね、懐かしい。

岡田:実はプレカリアートユニオンという合同労組があって、その実態が書かれています。これ、この本の中のメインだと思うんです。プレカリアートユニオンというのは僕らから見れば労働者の味方で一生懸命格差是正に取り組んでいると思っていたのですが、そうじゃない側面も若干感じるんですね。

新田:私も最初にこのユニオンを報道等で知ったときは好意的でした。連合系列でバックグラウンドもしっかりしていますし、非正規労働の問題に切り込んだり、いわゆる「時給上げろデモ」などにも協賛したりしていますしね。
一番名をあげたのが大手引越会社との争議です。いろいろないきさつはあるのですがYouTubeで会社の役員が街宣活動にきたユニオンメンバーを恫喝している場面が切り取られた動画が100万回くらい再生されてしまい、その会社はその年のブラック企業大賞を受賞したはずです。メディア戦略が非常に上手です。

岡田:その会社は世間的にブラック企業だとインプットされてしまったわけですね。

新田:一方、このユニオン自体についてもいろいろな相談や告発があったため調査しました。その過程で内部関係者とつながることができ、結果としてユニオンを頼った被害者や組合員、そして争議先企業のほうがむしろ被害を受けているとがわかりましたので、その経緯を本に書いています。たとえば、不当配転からの復職を希望して組合員として活動していた人がいたのですが、ユニオン側はその希望を無視して、本人の退職と引き換えに和解金を寄越せと水面下で交渉していた事件があり、その内情についても詳説しています。

岡田:社員の方もそこまでしてくれとは言っていなかったのでしょうね。企業としては、今後、この新しいブラックユニオンという存在にどう向き合っていけばよいでしょうか?何か講座や研修はされていますか?

新田:研修と講演をしているほか、ブラックユニオンに入り込まれないための就業規則改訂など、予防のためのコンサルティングも提供しています。もしすでにユニオンに入り込まれている場合は、団体交渉に強い、場数を踏んでいる社労士に入ってもらうこともできます。noteの有料コンテンツ、有料メールマガジンで情報発信もしていますし、この本を読むだけでもかなり対抗できるかと思います。あとは、この件に限らず雇用関係の法規については、解雇規制緩和について政策提言するなど議員に働きかけていますので、何か法律についてご要望があれば私からお伝えできます。

岡田:働き方改革における長時間労働の問題、同一労働同一賃金というテーマも、本来はユニオンが経営者と一緒になって促進していくことですよね。新田さんも働き方改革について、経営者に必要な覚悟は、「何があっても絶対に残業させないし、残業を許可しない」ことだと、かなり強く書かれています。

新田:はい。そう言うたびに「残業しないと仕事が回るはずないだろう!?」などと反発されるのですが、それは残業に依存し、価値を産まないムダな作業も含めて残業でカバーしているだけ。経営者なら「1日8時間、週40時間、月170時間の労働で充分利益が出るビジネス」を創出し、「ノー残業で完結する業務フロー」を整えるべきです。そうやって良好な労働環境を作り上げることができれば、ブラックなユニオンに付け込む隙を与えることにはならないはずです。

岡田:すべて、そこにつきますよね。人事担当者としても労働組合法を読み返すとともに、根本に立ち返って労働組合というものの存在を社員の方にもしっかりと正しく認識してもらい、企業の継続的な発展と理想的な労使関係をもう一回再構築することが大事ですね。ありがとうございます。以上で収録を終了します。

対談を終えて