バブル崩壊と失われた30年。企業活動が低迷し、従来の日本型雇用が維持できなくなりました。特に多くの昭和型日本企業は、新卒一括採用というある意味都合の良い仕組みを利用(悪用?)し、企業の成長・発展を実現してきました。しかし、局面は大きく変わりました。就職氷河期とは。1993年~2005年の就職難の時期のことです。 この時期に社会人になった世代は、「就職氷河期世代」や「ロスジェネ世代」と呼ばれます。彼らの就職活動やその後のキャリアを追いかけてみると、そこには日本型雇用の歪みとそれに翻弄された人生(キャリアドリフト)が見えてきます。令和時代になってもなお日本型雇用のメリット(幻想)に固執し、組織人事戦略の転換が図れない企業は多いです。長きにわたり放置されてきた就職氷河期世代の現在(いま)に迫ります。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

株式会社パブリック・クロス 藤井 哲也 氏

ゲスト:株式会社パブリック・クロス 藤井 哲也 氏
人事コンサルタント。株式会社パブリック・クロス代表取締役社長。町工場を経営する親の長男として1978年誕生。2001年立命館大学法学部卒業後、人材派遣会社に就職。これからの日本社会を憂慮し2003年9月に会社設立。以後、若手求職者の就職支援事業を経て、現在は大企業から中小ベンチャー企業まで幅広く、若手社員の早期離職を減らすコンサルティング事業を展開。社員定着手法「リテンション・マネジメント」という概念を日本に普及・定着させた。



岡田 英之(編集部会):本日は藤井哲也さんにお越しいただきまして就職氷河期問題についてじっくりとお話をうかがいます。藤井さん、まずはこれまでのご活動やご専門分野などの自己紹介をお願いします。

◆大学時代はホームレスのキャリア形成を研究

藤井 哲也(株式会社パブリック・クロス):では、簡単に自己紹介させていただきます。現在は労働政策や人事コンサルティングをメインで行っております。これまでの経緯を説明しますと2001年に立命館大学の法学部を卒業しまして、まず派遣会社に就職いたしました。

岡田:まさに就職氷河期ですね。

藤井:そうですね。当時仲間内で10人いたら5~6人くらいしか就職できませんでした。残りの学生は例えば「キャリア官僚を目指す」と言いつつ浪人したり、「大学の先生になるんだ」と言いながら浪人したりで、結局、非正規になっていきました。ちょうど大学の研究のフィールドワークで、ホームレスの方々のキャリア形成過程を実際に聞込みしながら調査もしていまして、今は誰もがそのような状態に陥る、そしてこれからもっと増えるのではないか?と考えたのが発端ですね。

岡田:誰しもがホームレスになるリスクがあるのですね。

藤井:あります。入社した派遣会社には2年勤めて、派遣法が改正されて市場が急拡大するなか、営業職として内側からどんなことが起きているかを経験しました。衝撃的だったのは同年代の人たちが非正規で働いていて、すごく低賃金なんですよね。例えば28万円を派遣会社が企業からもらうとしたら3割引いて20万円少しの手取りにしかならない。

岡田:そんなに少なくなってしまうのですか。

藤井:はい。それで自分なりに思うところがあり2003年に会社を作ったんです。当時、就職氷河期という言葉はなかったのですが、同年代がしっかり職についてキャリア形成していける事業を始めたいと思いました。2003年はちょうどフリーターが400万人を超えた時期でもあり、小泉政権下でおそらく日本で初めて若年者向け就労支援施策がでて、全国にジョブカフェというものができました。そのお手伝いなどもしていました。

岡田:ジョブカフェといってもスタバなどとは違うんですよね(笑)簡単に説明していただけますか?

藤井:ジョブカフェは若者向けに就職紹介やキャリアカウンセリング、教育訓練をワンストップで行うハローワークより気軽に立ち寄れる感じのセンターです。当時そこがフリーター層や氷河期の非正規の方々を支援していました。自分の会社でもフリーター層向け求人サイトを立ち上げ、私は滋賀出身で大学は京都なものですから、滋賀・京都で合同企業説明会やキャリア相談受付、求人開拓なども行っていました。

岡田:空理空論ではなくまさに雇用の実態がわかる現場で、ご自身も汗をかかれながらリアルな経験をしてこられたのですね。

藤井:はい。リアルにいろんな声を聞いてきました。当時、現場感では景気が上向きになるような兆しも若干感じていたのですが、2008年にリーマンショックが起きて、また一気に雇用環境が悪くなりました。

ご自身も就職氷河期世代である藤井さん

◆バブル崩壊、リーマンショック、派遣法改正に翻弄された氷河期世代

藤井:氷河期世代の人たちも、新卒のときに就職が厳しかったとしても20代後半で挽回できたらよかったのですが、リーマンショックでそれができなかったのが非常に大きいと思います。今もそうかもしれませんが、当時は30歳が転職の一つの壁だったんです。

岡田:28~29歳でリーマンショックが来てしまった。非正規でがんばってきた人たちが「よっしゃ、リベンジだ!」と思うタイミングでリーマンショックが来たので、転職しようにもそこでまたくじかれてしまったわけですね。

藤井:その後も3~5年くらい雇用環境が悪い時期が続きます。私としてもビジネスで氷河期世代を下から支えるだけでなく、政治行政を通じて地域の雇用を伸ばしたいと考えまして、2011年に会社をいったん休業し地方行政にチャレンジしました。2011年から2期8年の2019年までは地方議員を務めていました。
ただ、氷河期が今40歳前後でしょうか?そろそろなんとかしないと手遅れになると考えまして、2019年からは東京に出てきて自分なりにロビイングの活動を行い、厚生労働省や内閣官房の方々と意見交換しながら政策提言などを行っています。

岡田:ここ最近、急に就職氷河期世代がクローズアップされています。そもそも就職氷河期問題とは何なのでしょうか?巷では日本が不況(失われた30年)の時期、企業が新卒採用数を極端に抑制したため、正社員になれず派遣社員やアルバイトなど不安定かつ低賃金な働き方を余儀なくされた方々がいて、「大変だったね」「お気の毒ね」という理解がされていると思います。改めてこの問題をわかりやすく解説していただけないでしょうか?

藤井:まず、就職氷河期世代の一般的な定義は「1993~2006年にかけて大学もしくは高校等を卒業した方々」です。ただね、データでみると1993年くらいはまだそんなに就労環境は悪くないと思います。1997年のアジア通貨危機あたりからですね、急に雇用環境が悪化しているのは。

岡田:しばらくは日本にもバブルの余韻というか残り香があったのでしょうね。

藤井:本当に厳しかったのは1997~2003年くらい、そして2005年くらいからまた少し悪くなったと思います。キャリアを中長期で考えたときに20代半ばまではとても重要な期間です。就職した時期だけではなくてキャリア形成期間が氷河期だったこともその人に大きく影響すると思っています。

岡田:なるほど、働き出してビジネスマナーやマネジメントの基礎などいろいろなことを身につけられる若い時代に氷河期だったものだから、スキルアップの機会にも恵まれなかったんですね。

藤井:また、成果主義が2003年くらいからさかんに言われましたよね?この成果主義がバブル崩壊とうまく重なってリストラの方便に使われてしまい、全体的にブラック風土の企業が多かったと思うんです。今のように第2新卒市場もなかったので、辞めたら転職もそう簡単にはできない。
もし、派遣になってしまうと正社員と同じような仕事をしても給料もポジションも上がりません。いわゆるコンセプチュアルな部分のスキルが身につかないまま、ずっとオペレーション的な仕事を続ける。そのまま30歳を越えると、正社員としてだけでなく派遣社員としての市場価値すら下がってしまうんです。そんななかキャリア形成するのは、たしかに難しかったと思います。

就職氷河期時代のマクロ環境は?

◆就職氷河期世代が8050になったときに噴出する問題

岡田:いろいろな負の要因がダブルパンチ、トリプルパンチになって、1997年以降の人たちはにっちもさっちもいかなくなったわけですね。

藤井:派遣、非正規をどう評価するかにもよるのでしょうけどね。一方でセーフティネットになったと思うのですが、もう一方でキャリア形成や、キャリアアップができない問題もあったので両側面あると思っています。なかなか難しいですね、この問題は。

岡田:2004年に派遣法改正があってから製造業の工場のラインにも派遣スタッフが入るようになり、ますます非正規が増えました。プレカリアートという言葉が出てきたり、年越し派遣村が話題になったり、一気に非正規雇用、特に派遣労働者の実態が様々な角度からあぶりだされたのもこのくらいの時代ですね。

藤井:そうでしたね。多分他の世代からしたら「かわいそう」で終わってしまったのでしょうが、当事者としては何とかしたい思いはありますよね。みなさんすごく苦労されていらっしゃいます。不本意な非正規が当時で約200万人はいました。

岡田:不本意な非正規とは、本当は正社員になりたいのに非正規で働いている方たちですか?200万人というのはどのくらいのイメージでしょうか。日本で働いている人の総数は何人くらいですか?

藤井:日本の雇用者数は約6,000万人です。200万人という数字も最近の政府推計では50万人まで減ってきています。でも、この世代は消費や所得がほかの世代に比べて低く、無貯金率も高いと言われていますよね。そして、低年金です。

岡田:給料が低い、お金がないから当然消費もできない、貯金なんてもってのほか。厚生年金なんかも報酬比例ですから将来の年金も少ない。まずいじゃないですか。生きる希望が湧いてこないですよね?

藤井:まだ7040くらいですから顕在化していないと思うのですが、これが8050になると介護、健康リスクもあるので出費が増えると思うんですよ。メディアによって数字は違うのですが、就職氷河期世代をこのまま放置すると数兆円~30兆円の予算が必要になると言われています。

岡田:彼らを支援するための追加予算が30兆円必要になる。まさに社会問題ですね。

藤井:支えられる社会環境があればいいのですが、財政的にもさらに厳しくなっていると思いますから、今のうちに手を打とうというのが多分国としてはあると思います。もう一つの見方をすると一億総活躍、全世代型社会保障という枠組みから、女性活躍の次にくるのが就職氷河期世代ではないかと思いますね。

岡田:この氷河期問題を解決したいじゃないですか?彼らのセーフティネットについて、どんなことを具体的にしたらよいのでしょうか?

藤井:国の今回の支援プログラムはまあまあよいと思っています。あと私が思うのは、氷河期世代は職務経歴書を見るとガラガラ、デコボコの状態な方が多いので、この世代の評価の仕方ですよね。

◆「第2の職務経歴書」を活用し氷河期世代の可能性を開く

藤井:氷河期世代には第2の職務経歴書みたいなものが必要で、そちらを見て判断するべきじゃないかと思っています。

岡田:第2の職務経歴書にはどのような内容を書くのでしょうか?

藤井:仕事に関係するかもしれないことを書いていいと思います。ボランティア、家事・育児の経験、社会活動など。新卒採用はそれに近いですよね? 最近、越境的学習の効果が注目されていますが、あれも類似経験があればスキルを転用できるということだと思うんですよ。

岡田:なるほど。例えば、家事・育児でタイムマネジメント的なことを経験するし、子供の夜泣きなどでトラブルシューティングも鍛えられる。企業で働くスキルに転用できるんじゃないかということでしょうか?

藤井:はい。ただ、すべての企業人事がそこを見抜ける面談スキルをもっているわけではないので、公共が入る必要はあるかと思います。これからのジョブカウンセリング機能を見直していくためにも、第2のジョブカードが必要です。もう一つは、今の採用助成金に「スキルを向上させたらいくら」みたいなことを追加して講じるべきではないかと思います。

岡田:就職氷河期世代を雇った企業が、その人に研修したりいろいろな経験をさせたりして、3~5年後にその人のスキルが向上し人材価値が上がったら助成するということですか?

藤井:そうです。あとは新しい時代に向けた教育訓練のあり方そのものですよね。ソサエティ5.0(情報社会の次にくる未来社会)に向けて国も取り組もうとしているのですが、なかなかハードルが高いと思うんです。

岡田:ここ重要ですね。企業はもう終身雇用でもないですし、国内市場も縮小しているので、潤沢な教育投資ができない。ソサエティ5.0に向けた人材育成をどうするかとなった時、企業や大学以外の地域や社会が注目されていますが、ご指摘の通り地域行政、NPOにはハードルが高いと思うんですよ。ノウハウや資金の問題もあって、結局、民間人材企業などに投げてしまいがちです。

藤井:そうなっていますよね。もっといえば私は内部労働市場中心のOJT 型訓練が解放されるべきだと思っています。今までのモデルだと組織の中で働かないかぎりスキルも報酬もポジションも上に上がらない。外部から人材が入ってもしっかり育てていける教育体制が本来のあるべき姿だと思います。

岡田:そうそう、これから人材が流動化しますし、人生100年時代なので人はいろいろな組織に所属して働きますからね。教育や人的投資は絶対必要になります。そこは誰がするのでしょうか?

藤井:国や社会なんでしょうね。今回、政府が一ついいことしたと思うのは、自治体が自由に使える就職氷河期世代の支援加速化交付金を30億円予算に盛り込んだんです。自治体の裁量権が広がるので、地元の産業構造にあわせて地域やNPOなど を巻き込んだ人材育成システムを作れるのではないかと思っています。私も実は4月から滋賀県の就職氷河期世代支援のアドバイザーになる予定なので、官民連携でアイデアを出していけるような組織を作っていければという思いはあります。

◆人事担当者へのメッセージ

岡田:最後に一つお聞きしたいのですが、1997年あたりからは日本型雇用の終身雇用、年功序列、労働組合、こういったものも揺らいで崩壊してきました。日本型雇用の恩恵を受けてきた人たちは、絶対にこんな美味しいものを手放したくないですよね?でも、その枠組みの中に入ろうと思っていた就職氷河期世代は理由もわからずロックされてしまった。そこについてどう思われますか?

藤井:玄田有史さんの本では「高齢者の雇用を守るために若者が犠牲になった」という見方がされていましたが、それと同じで正社員という壁が非常に大きいと思います。極論ですが、正社員という雇用形態はあってもいいのですが、解雇要件を大胆に緩和したら人材の流動性が高まってガラっと社会が変わるとは思います。

岡田:正社員を解雇できるようにする?

藤井:すごく守られている方がいるから新しく入ることができない。極端な見方かもしれませんが…。もう一つは副業・兼業のあり方です。正社員を辞めたくないのは、結局次の収入のあてがないからです。しかし、平日9時~6時を動かしたらダメと言われたら副業もそうできません。本来はスキルシェアさえできたら副業する人たちも会社にずっといる必要はなく外にいけます。ここを解消したら枠が空くと思うんです。

岡田:副業を推進することで一つの椅子に一人が座るのではなくて、月水金はAさんが、火木土は別の誰かが座ればいいようにするということですか?そうなると外に副業に出かけたおじさんがアイデアやおみやげを持ち帰ってくるかもしれないですね。

藤井:会社にとっても絶対得だと思います。氷河期世代もまだ活用が始まったばかりなのでどのくらいイノベーションが起こせるかわかりませんが、ある意味全然違う経験を積んできた人たちなので採用したら面白いと思うんですね。女性が最初に社会に活用されていったのは女性マーケットがあってアイデアを活かせるからだったと思いますが、氷河期世代も一つのマーケットなので、氷河期世代に向けた商材開発などにも力を発揮すると思います。

岡田:なるほど、氷河期世代向けのマーケットを作ればいいですね、お菓子とか。

■人事担当者へのメッセージ

岡田:それでは最後に人事担当者へのメッセージと今後のご活動予定などをお願いします。

藤井:外国人採用もそうですが氷河期世代の採用をリスクと捉えると採用できないと思うんです。ぜひ氷河期世代だから経験してきたことに目を向けてほしいと思います。もしかしたら、ものすごいポテンシャルを持っているかもしれません。あとは社会全体で氷河期世代の活用についての知見が不足していますので、成功事例をお持ちの企業様は社会に共有していただきたいという思いが強いです。
今後もロビー活動は続けていきたいので、自分の会社の社名を変更しましてパブリック向けの提言活動をしていく予定です(本年4月1日付で社名変更)。執筆については時事通信の「地方行政」というメディアで今書かせてもらっています。

岡田:今後もマルチに活動されていかれるのですね。もっと氷河期問題について知りたい方、取り組みたい方はこのアドレスにご連絡すればよろしいですね。では収録を終わります。本日はありがとうございました。

対談終了後のパチリ!