2024年10月26日に開催されたJSHRMのカンファレンス。今回の参加者は、会員62名/準会員3名/一般(協賛招待者含む)14名の合計79名でした。
多くの皆さん、ご参加いただきありがとうございました。(登壇者・事務局を含めると85名でした)
現地参加の60名、そしてオンライン19名による議論も行われた活気あるカンファレンスを振り返ります。
【不確かな「BANI」の時代を乗り越える組織変革を】
JSHRMの中島 豊会長は冒頭のあいさつで、変化の激しい現代について、「VUCA」の時代から「BANI」へ、というキーワードで次のように触れました。「BANI」はそれぞれ、Brittle(脆弱性)、Anxious(不安)、Non-Linear(非線形)、Incomprehensible(不可解)を示しています。
組織変革は日本の会社のほとんどが直面している。
私たちは「BANI」という、常識では理解や説明できないほど不思議な時代を迎えている。
これまで、量子コンピューターなどを活用し、ある程度の見通しを立ててきたが、それを超えた時代となってきた。
経済成長の各国の比較を見ると、日本の弱さが指摘されるようになってきている。
我々は変化に対して対応しきれていないのではないか。
予測不可能な時代に、変化があっても耐えぬける個人と組織、社会が必要。
レジリエントファウンデーションをJSHRMでも議論していってもらいたい。
【前半戦:基調講演で投げかけられた仮説“組織アイドリング”】
今回、基調講演を依頼したのは、東京大学大学院経済学研究科講師の舟津昌平さんです。経営組織論をはじめ、イノベーションマネジメントを専門とする若手研究者として注目されています。
舟津さんはまず変革が持つイメージと実態について、「組織は変わった方がいいのになぜ変わらないのか?」「どう変わるか」「誰がリーダーか」といった問いが立てられがちだ、と指摘しました。一方で、知人の会社員の方の話として、「変革は大事というが、外部の人から言われると逆に信用できない」「無垢には受け止められない」「素晴らしいと言われる割には現場には受け入れてもらえない」といった現場からのリアルな声を挙げました。
では「変革」の難しさの背景には何があるのか。
- 変革とは、定義が難しく、主観的に見るしかないこと、
- 不確実性、
- コストをかけることが先、変化は後から見えてくる=時間にまつわる現象であること、
舟津さんはこうしたことを指摘します。
【組織変革へ~組織アイドリング仮説とは】
そこで舟津さんは、「変革のためにはメンテナンスが必要だ」と提案し、それを「アイドリングしている状態」だと説明しました。
変革できる状態とはどういうことか。文化や、変革そのものを平時から意識しておくことが大切です。
社内イノベーションコンテストとかはあるが、ほとんど実行されない。
しかし変わることはできなくても、「無意味」ではない。ワークを繰り返していくことでより身近になっていく。
疑似的に、リスクのないところで変革の準備をしていく、変革を実感していくことが大切です。
それが「組織アイドリング」という仮説なのです。
【後半戦:CHOが語る“人事の葛藤とは”】
続いて行われたのはパネルディスカッションです。
株式会社サイバーエージェントCHOの曽山哲人さんが登壇し、JSHRMのメンバーと議論しました。
その中でJSHRMのメンバーが単刀直入に曽山さんに尋ねたのは、「人事が組織を変えていこうとすると、『管理するモード』になってしまい、うざい存在になってしまうのではないか。組織変革の妨げになっているのは人事ではないか」という葛藤でした。
この問いに、曽山さんは、「実際、人事の仕事は『人と組織で業績を上げることだ』」と答えます。
さらに、人事の役割についてはこう述べました。
「自分は人事に20年くらいいるが、人事部門が無い方がいいのが本当のところ。経営が決めたことを現場が実行し、互いにできて前に向けていけばいい。とすれば、人事は「コミュニケーションエンジン」なのだと考えています。本質を見抜いて上に提言し、業績を上げる、つなげることにもっていくために間に入っていく。
その気概がない人は、人事では難しいでしょう。」
【変革を前に“組織にゆらぎを作る重要性”】
では曽山さんが考える変革への道筋とは。
議論が活気を帯びる中、曽山さんはサイバーエージェントの現場で行われている「変革」を例に示します。
普段から変化をしていないのに、変革しようとしても社員はついていけない。変化慣れしていないと難しいと思います。
サイバーエージェントの大きな変革は、スマホ変革、Amebaブログ、AbemaTVという3回でした。
一方で、24年間、小さな変化を毎年行っています。それは、社内での席替えを含んでいます。
とにかく移っていく。会う人が変わっていくことが大切で、フリーアドレスという名の固定化もありません。
それによってさまざまな価値観や変化に耐えられるよう求めていきます。
7割の社員が年1回は異動しています。大ごとではなく営業第一から第二へといった異動もある。
もちろん、「異動が多い、引っ越しが多いという」不満もありますが、業績を上げるためには必要としてきました。
同じ人と働き続けると変化できなく固定化してしまう。慣れてしまうのを避けたいのです。
席替え、異動はどの会社でもできます。
大きな変革が目立つが、小さな変革である“ゆらぎ”を人事が意図的に行うのは大切なことだと思います。
【ディスカッションは「組織変革にどう臨む」】
この後のディスカッションでは5つのグループに分かれて参加者が討議しました。その主な内容です。
組織変革・突破人材育成研究会
組織変革ができる人について議論。
スキルベースの評価だけではなく、変革への評価や変革を起こす人への評価も重要なのではないか。
WWN研究会
組織変革に向き合う(準備・覚悟ができている)人材の育成について議論。
現状維持バイアスをどうとらえるか。説得力のある第三者を連れてくる、異質な企業との研修を半ば強制的に実行する。表彰するだけでなくそのプロセスの評価が重要。
雇用システム研究会
アイドリングできる状態になるときに望ましい人事制度を議論。
アイドリング期間があった時のタイムラグへの指摘、制度は失敗をおそれがちになるが、何を成果とするか、何をKPI,KGIとするか、自分たちで決めることが制度を作るうえで重要。
アカデミア・プラクティス研究会
変革を自分事として理解する方策を議論。
組織変革に向けた先行きの前に、現状を認識。まず経営がメッセージを出す必要がある。メッセージのない経営者には人事が吹き込んでいく。メッセージの解像度を上げ、管理職、現場職といった、レイヤーごとに伝え方を考える必要があるのでは。
オンライングループ
変革をめぐる利害の違いをどう乗り越えるのか。経営と現場で危機感の認識の違いがある中、危機感をあおる、仲間を増やすということで、どう変革に乗せていくのか。「組織変革をやろうよ」というとき、誰が加わるのか、キーパーソンをどう取りこむかも大切な視点。
【最後に・カンファレンスに参加して】
今回の「組織変革」をめぐる熱い議論を通して見えてきたのは、「変革を諦めず、日常から動き続けていく」ことの大切さです。それは、図らずもカンファレンスの共通項として見えてきた舟津さんの「アイドリング理論」と曽山さんの「ゆらぎ」という考え方に基づくものでした。
私たちが人事として、また組織の一員としてできること。
それは、日頃から変革に向け思考し続け、小さなことから動き続けていくことではないでしょうか。
そうした考え方や向き合い方が周囲に伝わることで組織を巻き込み、ゆらぎとアイドリングが組織変革につながっていくことに期待し、実行していきたいと思いを新たにした議論となりました。
文:本田 洋子(JSHRM会員)