プラットフォームビジネスという言葉に象徴されるように業種・業態を問わず、産業構造は急速かつドラスティック(非連続)に変化(進化)しています。ハードウェアの競争優位が雌雄を決する時代はとっくに終焉し、プラットフォームが生命線になります。こうした環境変化に対し、多くの日本企業が誤解・誤認をしています。ビジネスがジリ貧になり、組織や人も疲弊していきます。こうした悲劇に陥らないための処方箋とは?
聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

ゲスト:立教大学ビジネススクール (大学院ビジネスデザイン研究科) 教授 田中 道昭 氏
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。株式会社マージングポイント代表取締役社長。シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任。

自動車産業を通して見えてくるプラットフォームビジネスのリアル
岡田 英之(編集部会):本日は立教大学ビジネススクール教授で『2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路』の著者である田中道昭先生にお越しいただきました。それでは、田中先生の自己紹介をまずお願いいたします。
◆『2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路』の出版背景
◆『2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路』の出版背景
田中 道昭(立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授):現在、立教大学ビジネススクールの教授と上場企業の社外取締役、戦略コンサルティングの3つの仕事をしながら、書籍や雑誌、オンラインメディアなどで執筆もしています。時間的に一番メインな仕事は戦略コンサルティングになります。
岡田:最近、すごく精力的にご著書を出しておられてメディアでも注目されている印象を持っています。今、先生がご関心を特に持たれているのはご著書にあるようなプラットフォームビジネスの分野でしょうか?
田中:そうですね。私は自分の4つの仕事、その中でも特に戦略コンサルティングの仕事上の要請で、常にグローバルな企業をベンチマークしています。それが今だとGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)とかBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)ということですね。
岡田:GAFAとBATHですね。
田中:この本のタイトルに次世代自動車産業と入れて、帯にも「車、IT、電機、通信、電力、エネルギー」と書きましたが、今は、例えば金融業界の近未来を予測するのにも、車、IT、電機、通信、この辺の業界がどうなるかわからないと多分わからない。逆もしかりです。
テクノロジー一つとってもAI、IoT、自動運転などがそれぞれ相当深く関係しています。これだけテクノロジーの進化が激しいと、多分いろいろなものを深く広く見ないと物事が読み解けないのです。だから何か特定のものをみている感覚はなくて、必然性からこういう展開になりそれを書籍にしたためている感じです。
岡田:令和という新しい時代にもなりましたが、AI、プラットフォーマー、フィンテック、EC、CASEなど、これからのビジネスモデルを考えるにあたっておびただしい数のキーワードが飛び交っています。私も含めてビジネスパーソンがキーワードに踊らされて本質がよくわからなくなっている気がしているんですね。それで本日は、田中先生のご著書を中心にこれからの我々の産業社会、引いては組織や働く環境の変化について考えていければと思っています。まず、ご著書の出版背景などからお聞きできればと思います。

田中:出版動機ですね。私は4つの仕事の要請上グローバルでベンチマークしている企業が常にあり、その中でもっともベンチマークしている企業がアマゾンだったため、2年前に『アマゾンが描く2022年の世界 すべての業界を震撼させる「ベゾスの大戦略」』という本を出しました。
それで、次に何を書こうかと思ったときに産業が複数フュージョンしている業界にフォーカスしようと考えました。自動車産業は一番いろいろなものがオーバーラップする業界なので「次世代自動車産業」と名付けて分析して書いたというところですね。関連する業界を広く深く分析したかったので、通信単独の章、エネルギー単独の章もあればアマゾン、アップル、グーグルだけが登場する章もあります。この本を出すタイミングで日本の次世代自動車産業のプレイヤーとしてトヨタ自動車とソフトバンクを取り上げたのは異例だったと思いますが、本の予想通りこの2社が組むことにもなりました。
◆未来物語ではない自動車産業の歴史的転換
◆未来物語ではない自動車産業の歴史的転換
岡田:本には日本のお家芸の一つであった自動車産業が精緻なものづくりという従来の自動車産業ではなくなるということが書かれています。なぜ自動車産業はこのような歴史的転換点を迎えているのでしょう?
田中:どのような変化が起きているかというと、もうハードが生命線ではなくOSやプラットフォームが生命線になっているということです。広義のハードではなく広義のOSやプラットフォームが重要になる。この流れは、タイミングはともかくすべての産業、すべての業態、すべての商品サービスに起きると予想しています。
まっさきにPCとかスマホで起きて、広義の自動車産業でもう起きているわけであり、それを予測して書いていたのがこの本です。現在進行形でもうすでに足元がそうなってしまっているのです。
岡田:もうすでにそうなっているのですか。
田中:今年の米国のCES(世界最大規模のテクノロジーショー)に行きましたが、トレンドの一つが自動運転で、何が発表されていたかというと2018年12月にウーバー、ウェイブが自動運転タクシーを商業化し、2019年はGMとフォードが計画していますという話でした。一方でブースにいくと、バイドゥがアポロ計画(自動運転車向けソフトウェアプラットフォーム構想)を展示していました。
バイドゥは、昨年1月のCESでは2018年度中に自動運転バスを実用化すると発表していました。では1年後に彼らが何をブースで見せたかというと、実際にレベル4の自動運転バス(操作に人間が関与しない一定の領域内を走行するバス)を実用化したという映像を流していました。しかもすでに21カ所で運行しており、去年の7月からは量産化に入っていると発表しているわけです。実際にバイドゥの運行している自動運転バスを見ましたが、車じゃないですよね、もうIoT家電です。
自動車メーカーではなくスタートアップ企業や家電メーカーが作ったほうがいいような車がすでに走っています。要するにもうハードに収益源がない。自動運転のシステムを作っている広義のOSとかプラットフォームに収益源があるわけです。すごく誤解があるのですが、もうすでにそうなっているんですよ。
もちろん、まだ一部で局地的です。ただ、非常に戦略的だと思ったのはGoogleが走らせているのはまだ車の形をしています。だから、量産化、収益化には相当時間がかかるはずです。でもバイドゥは自動運転バスというIoT家電みたいなものからスタートしたので量産化と収益化が速いはずです。これを局地的例外とみるのか、ここで危機感を高めて一気にアクションをとるのかは、自動車産業はおろかすべての業界の方々の考え方次第ですよということです。
岡田:もうそこまできているのですね。日本の自動車メーカーはあまり認識をしていないのでしょうか?
田中:1年前にこの本を出してからほとんどの自動車メーカーで講演や研修、ワークショップを行いました。そのたびにこういう話をしますから聞いている人は当然、認識しているでしょう。でもその時点ではほとんど8~9割の方はそんな認識をもっていなかった。高い危機感もっている人は本当にごく僅かでしたね。
多分、トヨタ自動車の社長はそういう認識もっているからこそ、2年ぐらい前から「生きるか死ぬか」と言っていますし孫さんと組んだのだと思います。だから、これは全然未来物語でもなんでもないのです。

◆人事部門はどのように変わるべきか?
◆人事部門はどのように変わるべきか?
岡田:日本の自動車メーカーの技術力を持って本気になればキャッチアップはできるでしょうか?
田中:そんな甘いものではないでしょうね。ことはAIですから機械学習、ディープラーニングも必要です。テクノロジーでも遅れていますが、それ以上に実証実験、社会実装のところで致命的に遅れているでしょう。
岡田:遅れてしまう一番の原因は何でしょうか。それを克服するのは難しいですか?
田中:やはり大企業病だからでしょうね。日本もスタートアップ企業が生まれてはいますが米中ほどではない。基本的に大企業にイノベーションを依存しています。でもイノベーションというのは、大企業病におちいっている企業からは生まれません。これは企業DNAの問題ですから、克服するのは簡単ではないですよ。相当大変です。そうは言ってもほかの業界よりは自動車業界のほうが相対的に危機感は高いですが。
岡田:AI、IoTなどの登場に危機感を感じても戦略を変えるまでにはいたらない企業が多いように感じます。
田中:まったく危機感のない会社がどのくらいかはわかりません。逆に危機感のある会社が2割ということかな…。アマゾンの本を出したあとに、ほとんどすべての業種の業界団体や企業から講演依頼がありました。まっさきにあったのがファッションで、EC、小売、自動車など本当に幅広かったです。この本はまだ出して2カ月ですがさらにそういう状況です。だから、以前よりはまずいと思っているのではないでしょうか。
岡田:わかりました。最後に読者である人事担当者にメッセージをいただけますでしょうか?
田中:企業の経営者と話していると、やはり今の3大課題の一つは採用です。それに対して普通の会社がどういうことに一生懸命取り組んでいるかというと、去年くらいまでカスタマー・エクスペリエンスと言っていたのが去年後半くらいからエンプロイー・エクスペリエンスということを重要視するようになってきています。
顧客に対して優れたカスタマー・エクスペリエンスを提供するためには優れたエンプロイー・エクスペリエンスを会社が従業員に提供しないといけないという意味です。エンゲージメントという言葉も定着してきましたが私はそれを一過性のトレンドとは思いません。これは本質的な話です。採用している会社なら気づいていると思いますが、もうMake Upで人が採用できる時代ではなくて、企業側が社員を本当に大切にして、社員が働きやすい会社にして、やりがいや幸せ感を高めていく努力をしないと採用もリテインもできない時代であることを人事担当者にはぜひ認識してほしいと思います。
あとは、働き方がこの半年~1年で急速に変わっていますね。上場企業とのプロジェクトでも何回か顔を合わせたメンバーであればミーティングはリモートです。副業を解禁したので優秀な層から副業を始めているでしょうしフリーランスも増えている。さらに最近は副業の届け出すら必要ないという上場企業も出てきました。そこまで足元が変化しています。We workに大企業が入り始めているというのも価値観の変化です。私は未来予測をするのに一番重要なのは人の価値観だと思っていますが、これ、人の価値観が変わっているんです。だから不可逆的な流れだと思います。
岡田:本質的なところに人事も向き合う必要がありますね。ありがとうございました。以上で終了いたします。

- Insights Vol.101 2019.10月号
- 編集部から “Editorial Scope”
- 【特集1】自動車産業を通して見えてくるプラットフォームビジネスのリアル
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- 【特集3】増殖するモンスター部下と処方箋(背後に見え隠れする心理的側面を読み解く)
- 【新】兼業・副業・フリーランス時代の労務管理シリーズ VOL.1
- 【シリーズ:研究者が語る】「人」と「組織」に関する未来と人事の果たすべき役割-1
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