人事評価におけるフィードバックの誤解

人事評価制度の運用に悩む企業は多いです。『人事評価に対する意識調査』リクルートマネジメントソリューションズ(2016)によると、評価に対する不満足の理由で多いのが、何を頑張ったら評価されるかが曖昧だから(54.4%)、評価基準が曖昧だから(47.6%)、評価の手続きに公正さを感じないから(手続き的公正性)(38.3%)が上位を占めています。要は、自己評価と上司評価の違い(ズレ)の理由をいかに納得できるレベルで説明(情報開示)できるかです。その際にポイントとなってくるのがフィードバックです。
フィードバックとは、相手のパフォーマンスに対する意見と改善するための方策を伝えることだと認識されています。特に、人事の世界では、後半の改善、つまりコーチングによる指導・育成に重点が置かれるケースが多いです。この指導・育成ですが、本当に効果的に行われているのでしょうか?そこには“フィードバックは必ず有益だ”という思い込みが存在していないでしょうか?フィードバックという行為は有益であるという考え方に背後には次の3つが考えられます。

  1. 自分の弱みは本人よりも他者の方が客観的で適切な場合が多い。自身では気がつかないことを他者に教えてもらうということはためになる。(他者効果)
  2. 自分に不足している能力があれば、同僚がそれを教えてやるべきだ。(学習効果)
  3. 優秀なパフォーマンスは普遍的で、再現性があり、分析可能で説明可能なものである。ひとたび定義できれば誰にでも応用できる。(卓越性の汎用効果)

1.他者効果、2.学習効果、3.卓越性の汎用効果の3つに共通するのは自己中心的(主観的)であるということです。自分には知識やスキルがあって相手にはなさそうだということを所与(前提)としています。つまり、相手も当然自分のやり方でやるべきだと思い込んでいるのである。こうした自分のやり方への固執がフィードバックを歪める原因になります。自分にとって高いパフォーマンスを発揮できた要因が、他者にとっても同様に適用可能であるとは限りません。
私たち人間は、意図のよくわからない相手(評価者)から、自分の現状や長所、短所改善のために必要なことを指摘されても、改善に繋がるよい働き(パフォーマンス)は期待できないのです。自分のことをよく理解し、常に気にかけてくれる上司から、上司が体験したことや感じたことを教えてもらった時にはじめて、改善に繋がるよい働き(パフォーマンス)への動機形成がなされるのです。
人事評価結果の納得性を高めるために様々な取組み(運用改善)を継続的に実施することは勿論大切ですが、フィードバックという手法(行為)に過度に期待することはいかがなものでしょうか。今こそフィードバック無条件の肯定的信奉(フィードバック万能神話)を疑い、フィードバックという手法(行為)を批判的に捉える視点(内省)が求められるのではないでしょうか。

JSHRM 執行役員
Insights編集長 岡田 英之

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