自分と異なる環境で育ち、異なる教育を受けてきた人間と接することは、決して容易なことではありません。仕事上の意思疎通において、悩みを抱える皆さんも多いのではないでしょうか。日本で生活する外国人の数も年々増加しています。コンビニや飲食店等で、外国人労働者と接する機会も日常となりました。多様性やダイバーシティ&インクルージョン(DI)という表現を使うまでもなく、異なる文化や習慣を持つ人間同士が関わる機会もますます増加します。

 今回の特集2では、「世代」という表現に注目してみました。Z世代とは、米国から伝わってきた表現です。「ジェネレーションZ」に端を発し、そこからZ世代という表現で日本国内に広がりました。年齢は明確に定義されていませんが、「1990年半ばから2010年代生まれの世代」を指すことが一般的です。

 さとり世代とは、インターネット掲示板の「2ちゃんねる」から発出された表現です。高い目標やあらゆる欲求よりも、現実を大切にしている若者を指す表現として、主にネット上で普及しました。

 こうした世代に対して、「どのように接していいのかわからない」ミドル世代。「あの人(上司)には何を言ってもムダ、すでに諦めている」と達観するZ世代やさとり世代。両者には深い溝(ギャップ)が存在します。深い溝(ギャップ)は、何に起因し、どう解決していけば良いのでしょう。

(インサイト編集長:岡田英之)

ゲスト:特定非営利活動法人しごとのみらい 理事長 竹内 義晴 

1971年生まれ。新潟県妙高市出身・在住
特定非営利活動法人しごとのみらい理事長。「楽しくはたらく人・チームを増やす」が活動のテーマ。「ストレスをかけるマネジメント」により心が折れかかった経験から、コミュニケーションや組織づくりの企業研修・講演に従事している。
2017年よりサイボウズ株式会社にて複業開始。ブランディングやマーケティングにも携わる。複業、2拠点ワーク、テレワークなど、これからの仕事のあり方や働き方を実践している。また、地域をまたいだ多様な働き方の経験から、ワーケーションをはじめ、地域活性化の事業開発にも携わる。
元は技術肌のプログラマー。ギスギスした人間関係の職場でストレスを抱え、心身共に疲弊。そのような中、管理職を任されコミュニケーション力の必要性を痛感。コミュニケーション心理学やコーチングを学ぶ。ITと人の心理に詳しいという、異色の経歴を持つ。
特定非営利活動法人しごとのみらい 理事長 竹内 義晴 氏
Z世代・さとり世代の上司になったら読む本

Z世代、さとり世代を正しく理解し、協働する
~世代を超えたコミュニケーションとマネジメントスタイルの変化~

岡田英之(編集部会):本日は、『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本』の著者で、NPO法人しごとのみらい理事長の竹内義晴さんにお越しいただきました。では、早速ですが簡単に自己紹介からお願いします。

◆Z世代・さとり世代の特徴、ベテラン世代との違い

竹内 義晴(特定非営利活動法人しごとのみらい 理事長):NPO法人しごとのみらいの竹内と申します。主に組織づくり、コミュニケーション領域を中心に、上司と部下、あるいは若い世代から上司世代に対してどのような関係を築いていくかなど、一言で言えば「仕事は楽しい方がいいですね」、「楽しく働けたらいいですね」ということをテーマに、企業研修や講演、執筆などをさせていただいております。

岡田:仕事は楽しい方がいいですね、私も同感です。まずご著書の『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本』の出版背景や、課題意識。読者にこんなことを共有したいといったところから、お話しいただければと思います。

竹内:出版背景は、普段から組織づくりやコミュニケーションに関する情報発信をしたり、Webメディアなどで記事を書かせていただいたりすることが多いので、それを見た出版社の方から声をかけていただいたのがきっかけです。課題意識としては、世代間ギャップって最近始まったわけではなくて、人類が始まってからずっとあったはずなのですが、これまでは何となく「世代って違うよね、ギャップがあるよね」くらいのトーンだったものが、近年は問題になってきています。課題感があるようですね。

岡田:なるほど。

竹内:ベテラン世代は自分が上の世代からされてきた「いいから、やれ」という接し方を、若い世代にそのまましてしまうと、ややもするとパワハラ・モラハラだと言われてしまう。その結果、若い世代が離職してしまう。離職で済めばまだよくて、下手したら人の心を潰してしまいます。それが怖くて上手く接することができない。という声もよく聞くようになっています。そのあたりの課題が解決すれば良いかなという気持ちです。

岡田:Z世代・さとり世代の特徴について、もう少しお話いただきたいです。

竹内:Z世代の前に、まず、ベテラン世代が育ってきた組織の特徴を簡単に言うと、ピラミッド型で上下関係が強い組織形態でした。インターネットもなかったため、情報伝達と言えば社長が部長に、部長が課長、課長が係長、係長が一般社員に伝えるコミュニケーションが最も効率的でやりやすかった。逆に、若い世代からは、自分の意見を言うことが容易ではありませんでした。
 一方、インターネットで情報伝達がフラットになった時代に育ったZ世代・さとり世代は、上下ではなくて横のつながりから情報をとるようになったし、自分が伝えたいことを発信するのが得意です。
また、学校教育にも多様性が入ってきたので、人を尊重する、多様であることが当たり前になってきています。そのため、一昔前の上下関係や、「いいから、やれ」という一辺倒の指示ではなかなか通用しなくなっています。
 あとは、僕らの世代は一度会社に入ったらずっと働き続けるのが当たり前で、辞めるときは相当な覚悟をもっていましたが、今は辞めることにそれほど抵抗感もなくて柔軟にキャリアを重ねていきます。3年で3割が辞めるので転職のハードルも低い。その分、組織に対して「なぜ、そこにいるのか?」という意味、目的を重視するようになってきたのかなと思います。

岡田:学校教育も変わって、多様性の尊重、個性の重視がデフォルトになっているのですね。上の世代は多様性がデフォルトではないので、世代間ギャップによるコミュニケーション不全が起きているのでしょうね。

竹内:マネジメントのスタイルが変わってきたという一言につきます。かつての、人口が多く、モノを大量に生産しなければならなかった工業社会では、多様性よりも、同じ品質のものを大量に作ることが求められました。つまり、画一的な組織です。でも、少子高齢化社会になり、さまざまな課題がある現代は、多様なアイデアが必要で人の個性を生かしていく必要があります。
 このように、社会や人の価値観が大きく変わってきた中、「いいから、やれ」というようなマネジメントが合わなくなっているし、変化に対応するために、マネジメントサイクルも速くなっている。それなのに、今までのマネジメントスタイルでやろうとするから、それがギャップになっているのです。

Z世代、さとり世代の特徴とは

◆多様性の尊重がデフォルトな時代の、マネジメントとは?

岡田:マネジメントサイクルがどんどん速くなっていくので、おっしゃったように実務の現場がいよいよ追いついていけなくなっていると私もよく聞きます。マネジメントスタイルというのは比較的固着性が強くて、現場には様々な世代もいて、なかなかシフトできない現実もあり、ジレンマになっている。何かアドバイスはありますか?

竹内:「話を聞く」ことにつきると思います。マネジメントスタイルとか、システムに人を合わせようとすることを正しいとする時点で、もう多様でなくなってしまいます。そもそも、人はそれぞれ違うので、現在の状況に対してどう思っているのか、どうしていきたいのかは、まずは、話を聞いてみないと分からないですよね。
 あとは、情報共有です。誰が、どんな意見を持っているのか。何を感じているのか、それらを気軽に共有できる場が必要です。もちろん、気軽に共有できないとか。どこまで共有すればいいのかわからない、といった課題はあるでしょうでも、お互いを知るという意味でも、本当はできるだけオープンにしていくことが重要だと思います。

岡田:情報は、確かにハイスピードで共有、拡散していく必要があります。一方で、多様性をどんどん進めていけばいくほど全体観を見失ってしまう場面もあって、ホーネルネス、パーパス経営という議論も出てきているのが昨今だと思うのです。組織としての共通の軸のようなものは、やはりしっかり共有しておかなければならない。この点は、竹内さん、どのように考えますか?

竹内:「チームとグループの違い」を意識することだと思います。グループはバラバラな人がそこにいる状態です。一方、チームとは何かしらの目的、理想があってそれを共有しています。何か理想があってそれを共有しているのが組織、会社だとするならば、「私達は、このためにここにいますよね」という共有は絶対条件かなと思います。
 たとえば、「社会のために価値を提供していきたい」というチームに、「私は、金稼ぎたいんですよ」という人がいたら、その目的を達成するんだったら別にうちの会社じゃなくていいですよね、という話ですね。

岡田:そのあたり、かつての日本組織は金を稼ぎたい輩もいいよ、社会貢献したい輩もいいよみたいに、あえて曖昧というか様々なものを包含している組織風土だったんでしょうね。

竹内:戦後の何もない時代、これから復活させていこうという時代は、「お金を稼ぐこと」も大きな動機の一つだったんじゃないかと思います。
 でも、戦後と比べたら、現在は、物は十分あるし、食べられるし、ある程度豊かになっている。多くの人にとって、もう食べるための労働ではなくなってきている。その中で、社員の意識を一つにまとめるためには「私たちはこのために働いている」という理想と、それに対する共感が必要なんじゃないかと、個人的には思います。

岡田:なるほど。本田宗一郎とか松下幸之助の時代の企業理念みたいなものと、今議論になっているパーパスというものは、一巡して、また全然別なものになってきているということですかね。

竹内:時代も違いますし、人も違いますし、価値観も変わっていますから、本来同じであるはずがないと思うのです。だから本当は中にいる人たちが変えてもいいと思いますけどね。

多様性尊重時代のマネジメントとは?

◆Z世代・さとり世代とコミュニケーションで大切なこと

岡田:今日、一番お聞きしたい質問です。我々ミドルシニアはZ世代・さとり世代と、どうやってコミュニケーションをとったら良いでしょうか。コツっていうと変ですが、一歩踏み出すためのヒントをお願いします。

竹内:やはり、「話を聞く」ことだと思います。ベテラン世代の人たちはタバコ部屋があって、割と飲み会もあってなんだかんだ話していたじゃないですか。それが、生産性だなんだと言われるようになって、さらにコロナ禍になって、会話をする時間が激減してしまった。今起きているのはコミュニケーションの分断なのです。
 近年、心理的安全性が注目されているのは結局、会話不足、雑談不足、安心して話せる場がないからです。そんな状況で何かチャレンジしろと言われて、いざチャレンジしてちょっと失敗すると後ろから刺される。それで何が成功しますか、という状況です。安心安全な場で話ができることが大事です。だけど、それが案外難しい。

岡田:意識すると難しいですよね。

竹内:管理職世代に研修すると、「部下の話? ちゃんと聞いてますよ」と言う方がよくいるんですね。でも、人事の方は、「管理職世代が若い世代の話を聞こうとしない」と言います。その結果、若い世代は上司と会話をするのをあきらめて会社を辞めてしまう…という話をよく聞きます。

岡田聞いている、聞いてくれないギャップですね。

竹内:話を聞くというのは、よほど意識して聞かないと聞けないんです。自分の意見を一切言わずに聞くということは結構難しくて、ついアドバイスしてしまったり、自分の経験を語ってしまったり、批評を良かれと思ってしてしまう。だから今は、いろいろな企業さんが話を聞くトレーニングを導入している感じです。
 実際、トレーニングをすると、「今まで部下の聞いていたと思ってたけど、聞いていなかったみたいです」、「聞いてもらうってことは案外心地いいことですね」という声が出ます。聞くっていうことを実感できたんだと思うんです。

岡田:タバコ部屋や飲み会を思い出すと、そこに上司がいて若手がいて、そこでとられていたのは本音のコミュニケーションだったかなあと今つらつら思ったのですけど、そういう会話と竹内さんの研修トレーニングで聞く力を身につけてする会話は、まったく別モードでしょうね。

竹内:まったく別ですね。飲み会で、上司の意見を一方的に聞かされたり、武勇伝をこんこんと話されたりするなら、そんな飲み会、行きたくないですよね。会話の質を高める必要があります。一辺倒でなく、どちらかというと聞くモードになることが大切です。

岡田:ミドルで勘違いしている人がいて、そうかコミュニケーションが足りなくなったからオンラインミーティングの回数を増やそう、やれオンライン飲み会だと行っても、場をグリグリ増やしているだけでむしろZ世代との関係が冷え切ってしまう。大切なのはその場で質の高いコミュニケーションをとることなのです。

竹内:1on1で「お前、何やってんだ!」と怒られる場が増えたら最悪じゃないですか。1on1的なことをやって効果が出ないのは、仕事の話しかしていない、話を聞いていない、すぐアドバイスをしてしまうとか、話し手が逆転しているからだと思います。入り口として1on1の数を増やすのは良いですが、重要なのは会話の質を上げること、上司ではなく、若手社員のほうが何でも雑談できる場であることなんです。

◆管理職向けコミュニケーション研修を成功させるために

岡田:研修には、1日とか半日とか様々なプログラムがあると思いますが、どのような類の研修でも宿痾みたいなものがあって、時間の経過とともに元にもどりやすい。筋トレして筋肉つけても半年経ってもどっちゃうようなことがあると思うのです。聞く力を持続させたい場合、どうすればよいでしょうか?

竹内:一つは、研修の目的と意味です。「僕らのチームをより働きやすく、離職率が少ない、皆が幸福感を持って仕事できるようチームにする」とか、研修目的を定義して伝えることが大切です。単にスキル研修をやるので管理職集合というと、「また人事がめんどうくさいことやるらしい」で終わってしまいがちです。
 あと、最も効果があるのは困っているミドル、変わりたいと思っているミドルを中心に研修すると、その人たちは実践します。受講者を選ぶこともひょっとしたら重要かもしれないですね。

岡田:ある程度自覚している人の方がいいということですね。「俺は、全然イケてるね」と思っている人に研修するよりは、効果は当然高いと。

竹内:僕自身、そういうトレーニングをしなければならない時期があったのですが、やっぱり自分やメンバーの変化が見えてきたときに、やってよかったなと思いました。そういう経験を積むことが大事だと思います。あとは研修の後に、たまに集まって「僕はこういうところがよかった」、「こういうことやってみたんだけど、うまくいかなかった」と振り返る機会を設けると、比較的実行するモチベーションになると思います。

岡田:ありがとうございます、最後に会員の人事課長、人事部長の方々にメッセージをお願いします。

竹内:本には、「中堅・ベテラン世代から変わりましょう」と書きました。このような話を目にすると、「何で俺達が…」と感じる方もいるでしょう。「俺だって今まで言われて苦労してきたのに、何で俺が変わらなきゃいけないんだ」と思うのは当然です。先日ある管理職の方が「ボクらの時代ってもっとゴリゴリやられましたよね」と言っていましたが、私たちの世代は、上の世代からは「いいから、やれ」と言われ、下の世代からは「パワハラ、モラハラ」と言われる不運な世代です。
 だからこそ、なんとかしたいなと思うわけです。これをお読みのみなさんも、きっと若いときに、嫌な思いをしたことがあるはず。それを思い出してほしい。そして、自分の関わりを変えていくことでメンバーが変わっていく姿、チームが変わっていくうれしさを体験してほしいです。
 話は少し変わりますが、人生100年時代と言われる今、社会が大きく変化しています。社会の変化に合わせて、今後は自分を変えていく必要があるでしょう。いわゆる、リスキリングであり、アンラーニングですね。
 自分の第2、第3のキャリアを形成する上でも変化していくことはすごく重要なので、「変わりましょう」にはそういう意味もあります。
 人が減っていくなか、これからは一人ひとりの強みを組み合わせて生産性を高めていかなければなりません。そのためには相手は何が得意で何が不得意か知る必要があるし、聞く必要がある。何でも言ってもらえる関係性を構築する必要もあります。一人ひとりの能力を最大限に発揮していけば、それで全て解決するとまでは思いませんが、何とかなっていくんじゃないかという期待もあります。

岡田:ありがとうございました。以上で、収録を終わります。

管理職(マネジメント)のコミュニケーションスキル