熟経済を迎え、企業の成長も鈍化し、チャレンジングな仕事も減ってきています。会社にいて目の前の仕事をこなす以外大きな目標を持てないでいる人も多いのではないでしょうか。
 組織と個人との関係が見直される昨今、「ノマド」「独立、企業」「好きなことをやる」がキーワードになっているようです。しかし、現実には独立や起業に対するリスクや不安は大きなものがあります。そこで、会社にいながら、仕事を充実させていけばいいというのがNO.2という働き方です。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

株式会社Transam Management System 代表取締役 細島 誠彦 氏

株式会社Transam Management System 代表取締役 細島 誠彦 氏
1968年長野生まれ。1993年中央大学法学部法律学科卒。ベンチャー・インキュベーション事業の会社において、管理本部長、経営戦略本部長、CFO、取締役を歴任。退社後に起業するも破綻。上場企業を経て、イベント事業を手がけるセイムペイジグループに入社。グループ数社の取締役に現在も就任中。2012年自身の経営コンサルティング会社である株式会社TransamManagementSystem を立ち上げた。

岡田 英之(編集部会):本日は株式会社HARES(ヘアーズ)の代表取締役社長、複業研究家、ランサーズ株式会社の正社員など、多彩な肩書をお持ちの西村創一朗さんにお越しいただきました。まず西村さんの自己紹介と現在の活動について教えて下さい。

岡田英之(編集部会) 今日は『No.2という働き方』というご著書を出された、株式会社Transam Management System 代表取締役の細島誠彦さんにお話を伺います。
 細島さんは大学卒業後、ベンチャー企業に就職されて5年でCFOや取締役まで経験されています。その後、現在の会社を設立し、経営戦略構築や組織戦略、マーケティング戦略、財務戦略、M&Aなどのコンサルティングを行うことによって、いわば企業の参謀としてご活躍ですね。まず、企業でのご経験をお聞かせください。

◆名将を支える軍師に興味があった

細島誠彦(株式会社Transam Management System 代表取締役) 就職した企業は、ベンチャーインキュベーションの会社で、ほとんど設立と同時に入りました。ボーナス無しの月18万円ほどの給料でしたが、仕組み作りに始まり、グループ会社ができるにつれて役目も増えました。勉強させてもらっていると思うと頑張ることができました。
 事業を作る、そして駄目になってつぶすということも多く経験しました。会社が資金難になったときは銀行交渉を全部手がけました。その経験によってどん底にも耐えられる力が付き、リーマンショックや東日本大震災にも難なく対応できました。

岡田 今の多くの学生は、ベンチャー企業に飛び込んでいって、短い期間で自らをストレッチさせよう、多く経験を積もうという志向が衰えてきている感じがします。細島さんはなぜスタートアップの事業に興味を持たれたのでしょうか。

細島 学生時代から歴史が好きで、中でも名将を支える軍師の手腕に興味がありました。組織や事業の成り立ちを知り、自分ならどう統率するかを考えたくて経営の勉強を始めました。大きな会社では、細分化された仕事しかできません。一方、ベンチャーは、学んだことを生かすために適した業界でした。
 ベンチャー企業は人員も部署も十分でないため、事業全体を考えて携わることが必須となります。不足していた財務やマーケティングの知識などを、独学やセミナーで幅広く学びました。そして、知識を身に付けるだけでなく、実践でそれをアウトプットする機会があったのがとても重要だったと思います。

岡田 その後はどうされたのですか。

細島 M&A の案件があり、九州などに飛んでいろんな調査をしました。しかし残念ながらハードワークで体調を崩して会社を辞めました。その後は上場企業、その他の企業などで経営戦略本部長、管理本部長に就いていました。一貫して会社の戦略や、経理財務人事などを見てきました。現在の会社は2014年の設立です。

岡田 次に、著書を出された経緯をお伺いします。ご著書で訴えたかったことは、端的に言えば「働き方改革」というようなことでしょうか。

細島 仕事で関わる若い人たちと飲みに行ったりすると、給料を上げたい、偉くなりたいという希望はありつつ、何をやればいいか分からない、分からないから何もしないという人が多くいることが分かります。そういう人たちに何か指針を出せたらと思いました。

◆青い鳥症候群から脱するには

岡田 昔から青い鳥症候群と言われていますね。若い人に限らず、プロになりたい、偉くなりたい、自己実現したいなどと考えて、勉強会に行ったり、英語を勉強したりと投資はする。でも、肝心の自分の状況はマンネリ化していく。このような乖離が起こっているビジネスパーソンは意外に多いのですが、どうしてなのでしょうか。

細島 投資して勉強する姿勢は評価できます。しかし、インプットだけでアウトプットができていないのだと思います。会社で実践できるポジションに就いていないのかもしれませんが、やろうと思えばできることはたくさんあります。何か戦略を立てたければ、相手にされない可能性があっても、意見や案を考えて出すべきです。行動する前から「やっても意味が無いから」とやらなかったりする。それこそ投資の無駄です。やってきたことはアウトプットとして出す、そして経験は自らつかみにいくことが重要だと思います。

岡田 「アウトプットが重要なのは分かっているけれども、自分の置かれている状況では出せない」と、他責の念を抱く人も多いと思います。

細島 決められたことだけをやれという会社もあるでしょう。会社のみならず上司も同じ考えであれば、成長の余地が無いので早く見切りを付けるべきだと思います。しかし、少しでも可能性があるのなら頑張ったほうがいいと思います。

岡田 環境を変えてみるということですか。

細島 やりたいことがあれば、転職や独立でかなえられるという論調が多いように思いますが、環境ですぐに変わるというような簡単なこととは思っていません。そこで、同じ企業にいながらにしてナンバー2を目指す道を提案したかったのです。

◆ナンバー2は役職・肩書きだけでは決まらない

岡田 本のタイトルにもなっている「ナンバー2」というキーワードについて、ご説明いただけますか。

細島 一般には専務などがナンバー2とされています。しかし、創業メンバーだったために就くことができた、肩書きのみで実際には何もできない人も多いのです。私が本で書いたナンバー2とは、現場レベルでこの人がいないと事業が回らないというポジションを指しています。

岡田 役職が○○でなければ駄目ということではないのですね。

細島 会社の規模にもよりますが、現場を動かし、他部門や経営者とやり取りができる人もナンバー2だと思います。実務に影響が出るため、辞められては困ると周囲からみなされている人です。

岡田 細島さんは独立志向をお持ちに見えます。なぜ、組織内のナンバー2になることを勧める本をお書きになろうと思ったのでしょうか。

細島 企業を軍に例えると、軍師のような参謀の手腕が兵力を左右します。企業も同様に、トップの意向を元に社員を統制できるナンバー2が必要です。今は「ノマド」や「自由な生き方」というキーワードの本が多く出版されている一方、これを実現できている人は多くありません。希望と現実のギャップを抱く方々に、ナンバー2という働き方で得られるメリットを知っていただき、夢や希望を実現するきっかけとなればと思いました。

◆ナンバー2の労働市場を!

岡田 現実問題として、ナンバー2という労働市場はできているのでしょうか。私が見た限りでは、このレイヤーの市場は活発でないように思います。

細島 私のところにくる相談者は、社長一人でやらざるを得ないという環境の方が多いです。組織が10人を超えてくると、社長一人で統率するのは困難になるため、ナンバー2が必要なのです。

岡田 戦略的にナンバー2を育成する必要があるということですね。そうであるならば、企業横断的に通用する、ナンバー2のスキルセットを教える機関も必要ではないでしょうか。そこが整えば、ナンバー2の労働市場ができて、日本全体にとって非常にいいのではないかと思います。

細島 そうですね。ただ、需要はありながらも、ナンバー2を担える人材がまだ少ないように感じます。また、事業規模や事業内容にもよるため、必要となるナンバー2の像を一律に考える難しさがあります。ただ、少なくとも、会計や営業などの一般的なスキルの取得は必須事項となります。

◆ミドルが覚醒するきっかけとなるか

岡田 ミドルの中間管理職が閉塞感を抱いていることが、日本の企業社会における問題の一つです。ポストの減少により、部長昇格者は数パーセント、課長でさえ2割ぐらいにとどまっています。昔のように論功行賞的にポストで報われないため、定年まで頑張るモチベーションもなかなか描けません。そんな中、転職は難しくても、うちの子会社のナンバー2というポジションが魅力的かもしれないなどと思うミドルが増えてくると、活発なミドルの再生産になると思います。

細島 まさにそうですね。若い方に可能性があるのは仕方がありませんが、ミドルは経験値の高さが強みです。何をすればいいか分からない人が多い一方、方向性さえ決まれば限界を破っていける人は多いと思います。

◆今の法制度が労働力を弱らせる

岡田 少し視点をずらして、今の雇用環境・労働環境に目を向けたいと思います。新しい働き方も出ていながら、それを実現する仕組みづくりが追いついていません。この辺りについてはいかがですか。

細島 私は、日本の労働者に対する法制度は、中途半端だと思います。必要以上に守られています。

岡田 首を切られることも、あまりありませんね。

細島 労働者の首を切れないために、企業が疲弊していると思います。デンマークやオランダは解雇しやすい柔軟な労働市場となっており、EUが目指すお手本にもなっています。これは、手厚い失業保険や、充実した職業訓練プログラムを含む福祉の充実によって成立できています。一方、個人責任に重きを置くのはアメリカです。そして、日本はどっちつかずな状態だと思います。
 例えば、農業は守られすぎて弱くなってしまっています。それと同じことが起こるのではないかと懸念しています。

岡田 会社によっては「ぶらさがり社員」などとも言われますね。仕事をしてはいるものの、10年間同じ仕事をルーティンでやっている人もいます。しかし、その人の雇用は守られており、昇給すらあります。この状況は良くないですか。

細島 良くないと思います。同一労働同一賃金論にもつながる話ですが、完全に同一な労働などあるでしょうか。例えばある製品を1日に100個作る人もいれば、90個しか作れない、あるいは120個も作れる人もいるでしょう。それを同一労働だから同一の賃金というのは、かえってバランスが悪い気がします。同一賃金だからと社員も自分の能力を磨かず、ぬるま湯の中にいるのだったら、誰のメリットにもならないと思います。

◆人事部の本質はルーティンワークにあらず

岡田 細島さんは参謀としてご活躍なので、人事的なアドバイスも多くの企業にされていると思います。ビジネスの世界をご覧になる中で、人事部に対してどのようなイメージをお持ちですか。

細島 企業によって担当分野に多少違いがあると思いますが、大半の企業では、人事の仕事はルーティン化してしまっていると思います。

岡田 給与計算などのことですか。

細島 そうです。給与計算や社会保険手続きが人事のメイン業務という企業も多いと思います。そういう人事は、将来は消滅していく可能性があります。
 一方で、面談は自動化できません。直属の上司ではなく、人事が行うからこそ引き出せる現場の本音があります。組織は常に何か問題を抱えています。人事が面談を通して、できるだけ多くの社員から情報収集をすれば、潜在する問題を見つけ出し解決することが可能となります。
 加えて、モチベーションを上げることも人事の目指すところだと思います。例えばGoogleが採用していることで知られる「20%ルール」は、今ではおなじみとなったGmailやGoogleマップを誕生させました。人事が社員のモチベーションに働きかける仕組みを導入することで、各人のパフォーマンスと、会社全体の利益を上げることにつながるのです。
 会社は法的には株主のものですが、私はよく「社員のものだ」という話をしています。社員が成長する場であり、成長の結果次のステージへ進み、転職をしてもいいと考えています。社員をサポートし、成果を最大限に出せる環境を提供するのが人事部の本質的な仕事ではないでしょうか。

◆人事の特権を生かしてナンバー2を目指す

岡田 ナンバー2を目指すには、会計や営業のスキル取得が必須条件とのことでした。人事パーソンが目指す場合も、人事畑以外の違う仕事をするべきでしょうか。

細島 ルーティンワークだけではナンバー2のポジションには就けません。現場を動かし、他部門や経営者とやり取りするには、組織全体を知ることです。企業の方向性はもちろん、各部門での業務内容や状況把握に努めることが大切だと思います。
 人事パーソンは、他の部署に移らないまでも、面談などを通して情報を仕入れられることができます。人事部だからこその特権を生かしてほしいです。

岡田 一方、特定の部署においてスペシャリスト志向で専門性を高めたいという人は、今後方向性を変えるべきでしょうか。

細島 一概に変えるべきとは言えません。しかし、ルーティンワークの減少はさまざまな分野において、あり得ます。経理分野を例にすると、会計業務を自動化する「マネーフォワード」などのサービスが登場しています。

岡田 テクノロジーに代替されないような分野で、スキルを磨く必要があるということですね。

細島 そうです。ただ、スペシャリストは必要ですが、大勢必要とされているわけではありません。

岡田 スペシャリストを目指すにはあふれてしまうような方にも、ナンバー2という道を探ってほしいです。人事なら、人事以外の領域も知り経験することで、組織の中で生き残ることができますね。

◆読者へのメッセージ

岡田 最後に読者へメッセージをお願いします。

細島 ナンバー2は特別な人でなくても、気づきや努力によって到達できます。良い戦略を策定しても、人がしっかりしていないと事業は動きません。ですから企業は、ナンバー2を育成できる人材と環境を併せ持つことが重要です。
 育成を担う人事担当者は、率先してナンバー2を目指す意識を持って、仕事に取り組んでほしいと思います。役職には人数制限がありますが、ナンバー2にはありません。そして、ナンバー2の数は、組織の原動力に比例し、成長や利益という結果で反映されるはずです。年齢に関しても、ミドルでもシニアでも、いつから目指しても構わないのです。
 また、人事部のサポートや施策次第で、社員と企業の成長は無限大になります。例えば、幹部候補とは別枠で、ナンバー2育成のための部門横断的な実務経験施策などを仕掛けると、会社も、停滞している人材も、活性化することができます。人事パーソン本人も、やりがいのある面白いポジションだと感じられると思います。
 何から始められるかを考えていただく機会となれば幸いです。

岡田 自分のキャリアを戦略的に考えるきっかけになりそうですね。
 本日はありがとうございました。