今回の巻頭言では、通常の誌面紹介的な内容ではなく、私の拙い経験から感じている課題意識を述べ、経験豊富な読者の皆さまの忌憚のないご意見を伺いたいと思います。その課題意識とは、「若手人事担当者の育成」です。

 昨今、「専門的教育をどのように行ったらよいか悩む」、「良質な経験を積ませる機会が減っている」、「実践的学びの時間的余裕がない」、「日々の実務が多忙で考えるゆとりがない」などの声を聞くことがあります。若手人事担当者の育成に課題を感じている企業は多いように思います。

 90年代後半以降、企業再編、M&A、リストラ、成果・業績主義により、人事部門においても人材確保が困難になってきたと同時に、若手が配属されなくなり、即戦力人材中心で人事組織を運営するような企業が多くなった印象があります。即戦力人材を確保するには、内部労働市場からの確保(人事異動・ローテーション)では充足が難しいため、外部労働市場からの確保(キャリア採用)を積極的に行うことになります。人事部に経験豊富な即戦力人材が多数入社するようになると、人事部門に大きな変化を及ぼすことになりました。その変化の一部とは、「経営人事、SHRM(戦略的人的資源管理)の側面が強くなり、人事部員にもKPIが導入されるようになった」、「人事部内業務が高度に専門分化されるようになった」、「欧米由来の人事マネジメント手法が多く導入されるようになった」、「アウトソーシングやShared Serviceなどにより業務の外部化が促進されるようになった」、「事業戦略が短期間で大きく変化するようになり、それに合わせてHR施策も短期的にスクラップ&ビルドを繰り返すようになった」こうした変化は、人事部の役割・機能を根本的に再定義することに繋がり、人事部内メンバーの役割・業務分担にも見直しが要求され、戦略性・効率性・高度な専門性などがより重視されるようになりました。

 こうした人事部内で生じた変化により、若手人事担当者の育成が滞る(後回し)ようになりました。特に30歳代以下の人事担当者にとっては、定型・定量的実務業務が中心となり、制度企画や労務管理といった判断業務の経験を積む機会が著しく減少しているように思います。1980年代までは何とか機能していた人事部内で多様な業務を経験し、人事部門ゼネラリストとして管理職を志向するというキャリアパスが危機に瀕しているのかもしれません。

 人事の役割・機能も多様化し、企業規模・業界・業態により要求される内容も異なりますが、人事部が経営・組織戦略上生存圏(存在価値)を確保し続けていくためには、若手人事担当者の育成から目を背けてはならないように思います。

岡田 英之

JSHRM 執行役員
Insights編集長 岡田 英之


編集部会メンバー
  • 岡田 英之
    1996年早稲田大学卒、2016年首都大学東京社会科学研究科博士前期課程卒(経営学修士)。1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社人事部に配属される。その後、伊藤忠商事、講談社グループ会社、外資系企業にて20年間に亘り、人事・コンサルティング業務に従事する。2010年より日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員として、機関誌『Insights』の企画・編集に携わる。また、2016年より人事制度研究会を主宰する。2級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。
  • 中田 尚子
    千葉大学卒業後、システム開発に携わる。その後、渡米しミネソタ大学大学院にて、人材開発、組織開発の修士修了。修了後は、シリコンバレーで、日系企業の現地法人立ち上げに参加。帰国後は、製薬系外資企業にて合併による数々のシステム統合プロジェクトに関わる。現在はアメリカ系医療機器メーカー勤務。グローバルプロジェクトに関わりながら、アジアの社内システムのサポート業務に従事。
  • 黒田 洋子
    The Ohio State University 卒業(International Business Administration専攻、Bachelor of Science 取得)。中央大学大学院 戦略経営研究科戦略経営経営法務専攻(経営修士/ MBA 取得)。日系・外資系(アメリカ、ヨーロッパ)メーカーや商社の人事部門にて、20年間に亘り、ジェネラリストとして人事マネジメント全般に携わる。2014年4月より、日本人材マネジメント協会(JSHRM)の編集部員として機関誌「Insight」の企画・編集に携わる。
  • 荒川 勝彦
    中央大学大学院 国際会計研究科修了(国際会計修士(専門職)/MBA 取得)。2014年より、日本人材マネジメント協会(JSHRM)の編集部員として機関誌「Insight」の企画・編集に携わる。