コカ・コーライーストジャパン株式会社 常務執行役員 HR本部長 石坂 聡 氏

株式会社HR ファーブラ 代表取締役/筑波大学大学院客員教授 元PwC パートナー 山本 紳也 氏

 飲料業界の王者として今も君臨するコカ・コーラ。人口減で国内清涼飲料市場の伸び悩み、ライバルのシェア拡大に打ち勝つため、日本においても、ボトラー社の統廃合が数多く行われてきた。

 このような環境のなか、外部から人事の責任者として参画した石坂氏。周囲の信頼関係を醸成し、男性中心のドメステックなマネジメントの刷新という誰もがしり込みするミッションをやり切った原動力はどこから来るのであろうか。その源を引き出すために適切なグローバルHRの世界で20年以上コンサルティングを行ってきた経験を持つ山本氏がファシリテーションを担当という豪華なキャスティングとなった。

 石坂氏のやり切った成果として特筆すべき点は、全国展開を進めてきた地域ボトラーの設備や人員の重複やムダの乱立の解消に終始せず、男性中心のドメステックなマネジメントの刷新を既存のルールを変更し、企業文化を醸成することに尽力した点にある。具体的には、コカ・コーライーストジャパンが大切にしてきたミッション、ビジョンを軸に据えた50もの人事の改革プロジェクトをマネジメント、さらに、アセスメントによる部下と上司の逆転、海外のコカ・コーラシステムからグローバルの知見を持つ人材を招聘、英語でコミュニケーション可能な人材を含む150人の中途採用、7名しかいなかった女性管理職を約50名まで拡大、経営陣では女性取締役1名、また日本のコカ・コーラ史上、初の日本人女性社長を誕生させた等がある。

 13ある労働組合との交渉を実行できたのは、石坂氏の信頼される人柄に依存しているように思われる。今後の課題は、人事プロセスとキャリアパス、後継者の育成とし、世界トップのブランドを守りたい。他社がマネのできないブランド愛を競争の源泉にしたいと締めくくられた。

 山本氏からは、他国と比較して日本企業における社員のエンゲージメントは低い。組織に従属し、クビになることもないという調査結果を紹介。コカ・コーラが好きというブランドのアドバンテージの高さが他社とはまったく違う、ブランドが他社との競争優位性に大きな貢献をしていると指摘した。さらに、石坂氏を見抜いたトップの眼力も企業の競争優位性となるとしたうえで、「なぜ、あなたは人事責任者として選ばれたのか」という鋭い質問がなされた。石坂氏は、「やり切る」というリーダーとしての自覚と決意、冷静さ、社長とともに行動を共にし、声に出し、誤解を恐れない行動力」。後継者という視点では、「修羅場をくぐらせ、やり切れるタフさがないと投資する価値はなく、頭で分かり行動ができること」とした。山本氏は、経営者がヒトを見抜く視点は内省と「日本をよくするにはまずは企業から」という高い次元の目的に昇華できるかにあり、結局、人間の器の大きさで決まるとした。石坂氏と山本氏の仕事に対する真摯な姿勢と熱い思いは会場に充満し、多くの質問が寄せられた。参加者からの評価はすべて最高点がつけられ、大満足の場となった。

(執筆:執行役員(HRカフェ担当)武田行子)