なぜ我が社の経営層や上司は意味不明で理解に苦しむ意思決定を連発するのだろう?一体どういう思考プロセスで決定に至ったのであろう?こうした現実に苦しむビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。所謂、「場当たり的」に物事が決まったり、変更されたりする状況です。最近では、アジャイルマネジメントや柔軟でフレキシブルなマネジメントと称して、方針がコロコロ変わったり、根拠不明な数値目標を挙げる組織も増えていると聞きます。なぜこんなことに陥ってしまうのでしょう。
特集1では、『「場当たり的」が会社を潰す』(新潮社)の著者で、数多くの企業の研修に携わってきた北澤孝太郎さんに、「場当たり的」な人や組織への処方箋について語って頂きます。
聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

東京工業大学 環境・社会理工学部 特任教授 北澤 孝太郎 氏
ゲスト:東京工業大学 環境・社会理工学部 特任教授 北澤 孝太郎 氏
1962年京都市生まれ。1985年神戸大学経営学部卒業後、株式会社リクルート入社。2005年日本テレコム(現ソフトバンク)に転身。執行役員法人営業本部長、音声事業本部長などを歴任。2015年4月より、兼任で東京工業大学 大学院理工学研究科の特任教授として、MBA科目の「営業戦略・組織」を担当。著作に、ベストセラーとなった『営業部はバカなのか』(新潮新書)やMBAクラス教科書の『優れた営業リーダーの教科書』(東洋経済新報社)などがある。
北澤孝太郎公式サイト http://kotaro-gosodan.com/

◆日本で初めての「営業の授業」を大学院で担当
◆日本で初めての「営業の授業」を大学院で担当
岡田 英之(編集部会):今回は、営業リーダー教育の専門家として、東京工業大学大学院の特任教授としても活躍しておられる北澤孝太郎さんにお越しいただきました。まずは北澤さんの自己紹介からお願いします。
北澤 孝太郎(東京工業大学 環境・社会理工学部 特任教授):私は大学卒業後にリクルートへ入社し、20年にわたり営業分野の仕事に携わってきました。その後転職したソフトバンクでは営業本部長を務め、さらにベンチャー企業の経営者などを経て現在に至ります。
現在は企業向けの営業リーダーの研修や執筆活動がメインですが、ここ5年ほどは、東京工業大学の大学院で「営業の授業」も行っています。営業の役員や本部長だった人が教壇に立つというのは殆ど例がないのですが、東工大さんから「本を読みました。日本で初めての営業の授業をMBAでやりたいので是非先生に」とお誘い頂き、特任教授という異例の待遇で迎えてもらいました。
岡田:北澤さんは大学院での授業以外にも、営業に関する講演活動、執筆活動に積極的に携わっておられます。今年の3月には最新著『「場当たり的」が会社を潰す』が出版されましたが、この本の内容について簡単にご紹介ください。
北澤:この本は5つの章立になっており、それぞれの章で「場当たり的」について取り上げています。
特に企業やビジネスパーソンにとって「場当たり的」というのは、構造や戦略性などを考えず、無目的に思考したり行動したりすることです。「場当たり的」な行動をしている企業は、結果としてライバルとの競争力が失われてしまったり、存在そのものが危うくなってしまうケースが少なくありません。
本書の中では企業が「場当たり的」に陥る原因や背景をはじめ、いかに「場当たり的」に陥らないようにするか、「場当たり的」を回避するにはどうすればよいかなどについて、具体的に示しています。企業の「場当たり的」度がわかるチェックリストも掲載していますので、ぜひ活用していただければと思います。
◆「場当たり的」な人や組織への処方箋
◆「場当たり的」な人や組織への処方箋
岡田:企業にとっての「場当たり的」について、さらに詳しく教えてください。
北澤:高度成長期以後の日本企業では、「自分がどういう組織にしたいのか」を考えながら行動できるビジネスパーソンは少なくなっています。むしろ多くの人は「他人がやっているから」「前任者がやっているから」「他社がやっているから」といった理由で、あるいは社長への忖度や社内の力学、自分の立場を良くするためだけに動いていますが、これらはかなり「場当たり的」な行動です。
岡田:「場当たり的」な行動をするビジネスパーソンが増えている原因としては、どのようなものが考えられますか。
北澤:ひとつの原因は、物質的に豊になることだけを目的として生きてきたので、生きる目的を考えない癖、習慣が身につき過ぎたのだと思います。本来人は、何のために生きるのか、どうありたいのかを考えたうえで、それを実現するためにはどうすればよいのかを模索します。ところが、そんなことを考えるより、一生懸命さえやってれば幸せになれるんだという考えが蔓延したばかりに、ややこしいことを考えることは邪魔くさいことと捉えられるようになりました。その一面的な考え方は、まさしく「場当たり的」な行動につながります。
また、最近の経済の停滞も無関係ではありません。利益利益と追い立てられ、それを短期的に出すことだけが正義となり、物事を合理的にだけ考える癖、習慣がついてしまいました。単年度利益に拘り、内部留保を無目的に溜め込む経営者は、もはや病気です。現代の日本では、後者の傾向が強くなりつつありますね。
岡田:「場当たり的」な行動をする人は、無意識で行っているのでしょうか、それとも確信犯なのでしょうか?
北澤:どちらのケースもあると思います。周囲に流され自然と「場当たり的」な行動をする人もいれば、わかっていても仕方なく「場当たり的」な行動をとらざるを得ない人もいるのが現実です。どちらの場合も、まずは自分の頭でしっかり戦略への筋道を考えるのが処方箋になります。
岡田:考えることが「場当たり的」への対処法になるということですか?
北澤:そうです。人間の意思決定にはさまざまなバイアスがかかりますが、そのバイアスを意識して、毒されないよう自省や反省をしていれば「場当たり的」にはなりません。
そもそも「場当たり的」な人間は物事を深く考えることをしませんし、振り返らずに動いてしまいます。ただし人間は習慣によって形作られますから、たとえ今は「場当たり的」でも、意識的に考えたり反省したりする習慣を身に付けることで悪循環からの脱却は可能です。

『営業部はバカなのか』(新潮新書)
岡田:個人ではなく、組織としての「場当たり的」にはどう対処すべきでしょうか?
北澤:本質的には同じことです。「場当たり的」な組織のトップは、その場の流れや思いつきで発言や行動をします。たとえば謝罪会見で「私は寝てない」と発言し、炎上してしまうとか…。これは企業の体質というよりその人の答え方の問題ですが、特に社外、例えばマスコミが絡むようなケースではしっかり戦略を考え、世間の評判を気にしながら行動すべきでしょう。
リーダーとしての教育も必要です。組織のトップに立つ人には、組織に対する「思い」や「在り方」をしっかり持ち、それを体現するにはどのような知識が必要か、自分がコントロールすべき価値基準は何か、立ち位置を作る顧客価値は何かを考えた上で、戦略を構築する必要があります。
◆「場当たり的」な組織を防ぐコミュニケーション
◆「場当たり的」な組織を防ぐコミュニケーション
岡田:「場当たり的」な組織の典型的なケースにはどのようなものがありますか?
北澤:著書の中では3つのパターンを書きました。あんな調子で社内力学だけを気にしたり、忖度が横行したり、自己中心の上司が闊歩する組織だと多くの若者はやる気を無くしてしまいます。
岡田:最近ではハラスメント問題を恐れて上司が萎縮したり、自己保身に走る風潮も多いと聞きます。これについてはどのようにお考えですか?
北澤:現実問題として、会社組織としての目的を達成するには時として厳しい態度が必要なこともあると思います。ですから上司が萎縮したり自己保身に走ったりするのは、やはり問題でしょう。
この問題に対処するには、会社として明確なルールを用意する必要があります。たとえば「こういう発言なら構わない」といった形などでセーフとアウトの基準を会社がしっかり決めておくべきです。加えて、あったかなかったか疑わしきパワハラやセクハラの責任をとって現場を離れる人にカムバックの道を用意しておくことも非常に重要です。これらの対処が「場当たり的」だと、いつまで経っても問題は解決しません。
岡田:そうした仕組みは文書化しにくいように感じますが、組織のコンセンサスはどうやって醸成すればよいのでしょうか?
北澤:互いの意見を徹底的に話し合うことです。特に、幹部同士が問題から逃げずに徹底的に話し合うことは必須といえるでしょう。また普段から互いの思いを共有するためのコミュニケーションの場も必要ですね。
岡田:組織内のコミュニケーションというと、ヤフーの「1on1」も注目されています。
北澤:1on1を活用したMBO(Management By Objective)の過信は、組織が「場当たり的」に陥るひとつの要因だと考えています。MBOの仕組みは、絶対相対評価が基本で、誰かにAをつけたら別の誰かにはDをつけなくてはなりません。このような評価制度を長く続けていると、互いに手の内を見せたくないという意識が働いて横のコミュニケーションがなくなってしまいます。上司と部下のコミュニケーションは増えるかもしれませんが、その内容も「想いの交換」ではなく「目標達成のための会話」に終始しないことが重要です。大切なのはコミュニケーション自体ではなく会話の中身です。
この問題の根底にあるのは、「なんのために評価をするのか」を本当に企業が理解しているかという点です。今の時代に企業の発展に役立つ評価を行いたいのであれば、まず学び合うことが必要であることを明らかにしたうえで、組織への貢献や部下の人材育成を評価項目に入れる必要があります。この理解がないままMBOを強化すること自体「場当たり的」な評価と言わざるを得ません。
高度成長期以来、日本では「利益さえ上げれば良い」という時代が長く続いてきました。結果として上司も部下も難しいことを考えなくなり、「場当たり的」な行動が習慣化しています。この状況を打破するためには、トップが腹を据えて中身のあるコミュニケーションを推進することが必要です。
◆人間本来の知識としてリベラルアーツを学ぶ
◆人間本来の知識としてリベラルアーツを学ぶ
岡田:働き方が多様化する中で、ビジネスパーソンはどのような態度で組織と関わるべきでしょうか?
北澤:まずは個人としてどう生きたいか、どういう仕事をしたいか、どうやって働きたいかをしっかり考えることだと思います。そのうえで個人として働くなり、組織にジョインするなり、自分の理想に合った働き方を選択すべきでしょう。
働き方の多様化というのは、なにか特別な、新しい変化ではありません。むしろ社会は本来あるべき姿に戻りつつあります。そもそも高度成長の時代というのが特殊な時代でした。大量生産大量消費が主流になって仕事が分業化されることで、気楽なサラリーマンという働き方が一般化し、「考えなくていい風土」をみんなで作り上げてしまいました。その結果として、「まず個人として力を付け、そのうえで組織と関わる」という本来あるべき姿を忘れてしまったのです。現在になってようやく、本来の働き方に戻ってきたといえるでしょう
岡田:本来の姿に戻りつつある今、ビジネスパーソン向けの教育も変化していくのでしょうか?
北澤:何を教えるかが大事になっていきます。具体的には、ちゃんとした自立の仕方とか、仕事や家族のバランスの取り方、社会貢献、学びなどについてきちんと教える必要があるでしょう。もちろん選択肢を提示するだけでなく、選択する力も養わなくてはなりません。失敗に対して責任を負うことを教えるのも重要です。
岡田:社会の厳しさを教える、ということでしょうか?
北澤:本来、人間社会は厳しいところです。その厳しい環境の中で自分らしくサバイブし、自分の好きなものを選び、幸福感を味わうという経験はとても大切だと思います。これまでのように、「みんなと同じことをする」という横並び意識を教えるのではなく、「自分が選び、その責任を取る」ことをしっかり学ばせるべきです。
そのためには、リベラルアーツをもっと重視する必要があります。物事を問いただす力をつけ、普段から自分に「これはこうあるべき」と問いかけをする訓練をしていれば、予期せぬ事態に直面しても「場当たり的」な行動をせずに、確かな根拠に根ざした直感を生かせるようになります。

リベラルアーツの重要性
岡田:リベラルアーツを学ぶ際に意識すべきポイントは何でしょうか?
北澤:当事者意識を持つことです。物事を当事者の立場で考え、シミュレーションし、ストーリーを作ってください。例えば誰かの伝記を読んで、「彼ならどう決断するか、自分ならどう決断するか」と考えるとか…。そうすれば、人間の成功と失敗を当事者として学ぶことができます。男性であれば女性の立場、子供の立場で考えることで相手の気持ちをわかるようになり、どういうシチュエーションがセクハラになるか、パワハラになるか、注意力が高まるでしょう。もちろんこれは伝記に限らず、その他の読書にもいえることです。
岡田:組織のリーダーとして、どうすればリベラルアーツを実務に生かせるでしょうか?
北澤:まず、常に考え続けることが重要です。たとえば歴史上の為政者たちの選択について知ったとしても、それを一朝一夕に真似することは困難です。自分が同じ立場に置かれたときに先人の残した教訓を生かすには、情報を知識化したうえで、それを自分が使える道具として蓄積しなければなりません。
◆人事担当へのメッセージ
◆人事担当へのメッセージ
岡田:本誌の読者である企業の人事担当者の皆さんにメッセージをお願いします。
北澤:企業の人事が果たすべき役割は、企業の風土を作る、制度を作る、採用する、教育する、という4種類です。とはいえ人事が会社の短期的な利益を目指して動くと、本来向かうべき方向からずれてしまう危険があります。人事のみなさんは「どういう企業にしたいのか」を経営陣としっかり話し合ったうえで、風土をどう作ろう、そのためこんな人を採ろう、場合によっては今いる人たちをある程度変えようといった戦略を決定してください。
もうひとつ重要なのは、「人事のための人事」にならないということです。人事は「事業と人をつなぐ」仕事です。業を営むための人や風土について考え、その会社がなぜ存在しているのかを意識しながら人事をすれば、人事の仕事が誇らしくなると思います。
岡田:最後に、今後のご予定についても教えていただけますか?
北澤:現在SFAを手がける某企業との共著で、「営業変革」をテーマにした書籍を執筆中です。それと営業変革で悩む企業リーダー向けの研修を、企業さまのニーズに合わせて実施しています。ホームページからご相談いただければ私自らお返事させていただきますので、ぜひご利用ください。
岡田:営業についての北澤さんの熱い想いが伝わりました。人事はもちろん、企業経営者にとっても非常に有意義なお話だったと思います。本日はありがとうございました。以上で終わります。

対談を終えて
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