皆さんは、「組織のネコ」という働き方をご存じでしょうか?多くのビジネスパーソンが「個性を活かし、自分らしく働きたい」、「組織に縛られずに働きたい」と感じています。ですが、いざ実現しようとすると乗り越えなければならない壁(ハードル)が多く、道半ばで諦めてしまう方が多いのではないでしょうか。

今回お話を伺った仲山さんは、そんな多くのビジネスパーソンが密かに?抱える悩み(心の叫び)に解決のヒントを与えてくれます。働き方をライオン、トラ、イヌ、ネコといった身近な動物にたとえ、働き方を多角的に整理します。社命を第一とするイヌではなく、自分の意志を優先して働く「組織のネコ」。企業に所属しながら社内外で大きな活躍をするトラになるには難しくても、トラを目指しながらネコとして働くことをおすすめするのが「組織のネコ」という働き方です。

今回のぶらり企業探訪では、『「組織のネコ」という働き方』を上梓されました楽天大学学長で仲山考材株式会社代表取締役の仲山進也さまにお話を伺います。

(編集長:岡田英之)

楽天グループ株式会社 楽天大学学長
仲山考材株式会社 代表取締役
仲山 進也 氏

ゲスト:楽天グループ株式会社 楽天大学学長/仲山考材株式会社 代表取締役 仲山 進也 氏

慶應義塾大学法学部卒。シャープを経て、創業期(社員約20名)の楽天に入社。2000年に楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立、人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。
2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年には自らの会社である仲山考材を設立、考える材料(考材)をつくってファシリテーションつきで提供している。2016年には「横浜F・マリノス」とプロ契約、コーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施。
20年にわたって数万社の中小・ベンチャー企業を見続け支援しながら、消耗戦に陥らない経営、共創マーケティング、指示命令のない自律自走型の組織文化・チームづくり、長続きするコミュニティづくり、人が育ちやすい環境のつくり方、夢中で仕事を遊ぶような働き方を探求している。
著書『「組織のネコ」という働き方』『組織にいながら、自由に働く。』『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか』『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』など。

組織のネコという働き方

個性を活かし、組織に縛られない自分らしい働き方とは?~「組織のネコ」という働き方から考えるこれからのワークスタイル~

岡田英之(編集部会):本日は、仲山考材株式会社の代表取締役、そして楽天大学の学長でもある仲山進也さんにお越しいただきました。今回はご新著『「組織のネコ」という働き方』についておうかがいします。それでは仲山さん、苦手だということで申し訳ないのですが(笑)、簡単にどんな方なのか自己紹介をお願いします。

◆シャープから社員20人のベンチャーへ同期3人が転職

仲山 進也(仲山考材株式会社 代表取締役/楽天グループ株式会社楽天大学学長):1時間話しても「ちょっとよくわかんないんだけど」と言われるくらいに自己紹介が苦手でして、えっとどこを話したらよいでしょうか…。

岡田:私が理解している限りでは慶応義塾大学を卒業されてシャープさんに新卒で入社されて、1999年に当時まだ20名程度の楽天さんに移られたと。私も比較的世代が近いので、新卒で大手メーカーに就職して思うところあってまだ小さい楽天に移られたあたりをちょっとお聞きしたいなあと思うんです。

仲山:大学4年のとき司法試験に落ちまして、浪人するイメージがわかなくて、そういえば試験が嫌いだったと思い出しました。大学も推薦で入れてもらいましたし。そこで就職活動をすることにしたのですが、それまでまったく就職を考えていなかったので、「メーカーと商社の違いって何?」というレベルの、残念な就活生でした。たまたまシャープさんが拾ってくれた感じです。

岡田:司法試験組だったんですね。法学部ですから周りに目指されている方も結構いたのでしょうね。

仲山:多かったです。シャープでは、奈良(大和郡山)の工場に配属されました。同期がいまして、敷地内で会うたびに「どう最近?」と聞くと、「うん全然」と、死んだ魚のような目で返事してくるのがお決まりの挨拶みたいになっていました。彼とは「もっと思い切り働きたいよね」といつもくすぶりトークをする仲間だったのですが、2年目に入ったある日、「インターネットのベンチャーな会社に行くことになりました。みなさんさようなら」と、同期のみんな宛に2行のメールを残していなくなりました。
3年目に入ったばかりの4月、彼から電話がかかってきて、いきなり「どう、そろそろ?人が足りないんだよね」と言われました。転職する気は全然なかったので「最低3年はいようと思っている」と断ったんですけど、たまたまGWに東京に行く予定があって、ご飯を食べながらいろいろ話を聞きました。といっても当時インターネットに疎い僕にはさっぱり内容がわからなかったのですが、「どう最近?」と聞いたら「楽しい」と言われて、「お決まりの挨拶が不成立だ…」と思ってモヤッとしました。
「それでも3年はいようと思っている」とまた話したら、彼が「うちの会社は今15人だけど、社長が年末には60人にすると言ってる。仲山が3年勤めた来年の4月だと100人目くらいか…20番目と100番目って、違うだろうなぁ」とボソッと言ったんですね。「石の上にも3年」という諺と「20番目と100番目の社員の違い」を天秤にかけたら、なんだか20番目の社員のほうが重そうだと感じて「社長とかと会えるの?」と聞いたら、その場で電話してくれて3日後に会うことになりました。3日後、会社に行ったら三木谷さんという人が現れて「休みの日は何してるの?」「サッカーしてます」「ネットで買い物したことある?」「ないです」「じゃ買っておいて」と10分くらい雑談して、最後に「じゃあ、よろしく」と手を伸ばされたので思わず握手して、「これ、もしかして転職することになったのかな?」と思うという、いい加減な転職をしました(笑)。

岡田:いや、非常に興味深いお話ですね、もうこの部分だけで面白い。これ当時の楽天さんは、大卒の学生さんの、就活の選択肢にはまだまだ入ってこないですよね?

仲山:まったく入ってこないです。ちなみにもう1人、奈良にくすぶり仲間の同期がいまして、東京から帰って彼の家に直行しました。僕が東京で買った賃貸情報誌フォレントを見せて、「こういう(転職する)ことになったんだけど」と言ったら、彼はすぐ楽天の同期に電話して、「今週末、東京行くから面接セッティングしてくれない?」と頼んで、本当に翌週東京へ行きました。結局、ほぼ同じタイミングで楽天に転職して、楽天社内では「シャープ3人組」と呼ばれたりしていました。

“一期一会”

◆組織にいるライオン型リーダー、トラリーマン、イヌ型社員、ネコ型社員

岡田:楽天さんとの一期一会の出会いがあって活躍されて今に至っているのですね。それでは、次にご新著の『「組織のネコ」という働き方』の出版の経緯あたりからお聞きしたいです。

仲山:知人が転職をして、その会社の社長が書いた『ヤンキーの虎』という本を送ってきてくれたんですね。カリスマファンドマネジャーと呼ばれている藤野英人さんの本です。その後3人で食事をした際、藤野さんが「虎にはベンチャーの虎、ヤンキーの虎、組織で自由に働くサラリーマンの虎であるトラリーマンがいる」と話されて。「仲山さんはトラリーマンですね」と言われました。よくよく聞くと、知人は僕を「トラリーマンのサンプル」として藤野さんのもとへ連れていったようです。そのやりとりをFacebookに投稿したら、それを見た翔泳社のWebメディアBiz/Zine(ビズジン)の編集長から連絡がきて「トラリーマン対談の連載やりましょう」という話になりました。最初、トラリーマンなんてあまりいないだろうと思ったんですけど、記事がアップされるとトラリーマンっぽい知人友人から反応があったんですね。元岐阜県庁で今は飛騨市長の都竹淳也さんがすぐコメントをくれたりとか。そんな感じで次々トラリーマンが見つかって15回続いたところで「本にしましょう」というお話をいただきました。

岡田:面白い。昔のタモリの「笑っていいとも」のテレフォンショッキングみたいですね。

仲山:あとは今のご時世、「働くこと=組織のイヌになること」と思い込んでモヤモヤしながら働いていたり、会社から不正をするように指示されて、精神を病むような出来事も少なからず起こっています。それとは違う働き方の選択肢もありますよ、と世の中にお伝えできるといいなと思って書きました。

岡田:本にはライオン、トラ、ネコ、イヌと4つの動物が登場してきます。表紙にもあるこの4象限について簡単にスキームというか概念をご紹介いただいてよろしいですか?

非言語的手がかりとは

仲山:「組織に忠実」なのがイヌです。言われたことをちゃんとやる。「何のためにやるか」を納得できないと動きたくない「自分に忠実」な感覚を持っているのがネコ。マネージャーとして説明するときに、「社長の指示だからです」と部下に伝えるのはイヌ。その仕事をやる意味をメンバーに伝えるのがネコっぽいマネージャーです。
図の左側は「組織の中央を志向」します。イヌの上にいるのが、群れを統率するライオン。ライオンは従来型の優秀なリーダーです。図の右側は「組織にいながら自由」で、ネコの進化系がトラ。「社命より使命」で動きます。ライオンとトラは、自分と違う価値観を理解する姿勢があるので、お互いリスペクトしている関係性。イヌとネコはそこまで成熟していないので、お互いちょっと馬鹿にしあっています。イヌはネコに「群れの統率を乱さないで」「言われたことちゃんとやろうよ」と言い、ネコはイヌに「言われたことだけじゃなくて、ちゃんと価値ある仕事をしようよ」「上ばかり見て大変ですね」と言っているようなイメージですね。

岡田:それぞれのタイプ、いますね。今は仲山さんのようなトラリーマン的な生き方をする人が増えているのではないかと思います。ネコちゃんだけでなく、イヌちゃんも憧れているかもしれない。

仲山:最近は、越境人材というキーワードがあって、名刺を2~3枚持つような人も増えてきた感じ、ありますね。トラの人は、組織のど真ん中の混んでいるところはあまり居心地がよくなくて、際(きわ)の方をウロウロしたり外に出て活動したりしがちです。
会社の事業の調子が良いときは、ライオンとイヌがしっかりやっていれば回るので、トラとかネコは注目されません。でも、ライオン、イヌのやり方がうまくいかなくなって「何か他のやり方がないか?」と思ったときに、トラみたいな新しいことをいつもやっている人が注目されるようになる。それでライオンが「新規事業を立ち上げなければ」と言い出して、トラの人が担当になると、結構うまくいったりします。

ライオン、トラ、ネコ、イヌそれぞれの個性

◆「判断=価値基準×入力情報」を理解してコミュニケーション

岡田:最近は自律型社員、自律型組織、ネットワーク型組織というキーワードも耳にします。まさにネコとかトラにとってそういう環境は非常に好ましい。一方でライオンちゃん、イヌちゃんにとってみると環境変化ですから何か適応しなきゃいけない。マネジメントスタイルも従来のライオン型リーダーではちょっと難しそうですね?

仲山:ライオンとかイヌは組織中心の考え方をしやすいんですが、居場所がなくなるわけではないです。先ほどの藤野さんが去年(令和3年)出された本の中に、「令和3年型の企業」と「昭和96年型の企業」という表現が出てきます。昭和に事業を立ち上げ、成長期・成熟期をすぎて衰退期に入っているのに、賞味期限切れの事業や組織を何とか維持しようと努力しているのが「昭和96年型」。まずは現状の事業や組織が、賞味期限切れになっていないか気づくことが大事です。その上で、令和4年の組織になるためにはどうすればよいかをみんなですり合わせていく。
いま閉塞感のある組織は、新しい価値を生み出す活動をやり損なってきています。社内の価値基準、評価基準もライオン、イヌがよしとされる制度になっていて、トラやネコは評価されにくい。新しいことを立ち上げても本業に比べると新規事業の数字なんてちっぽけなものです。儲かっていないから評価しないとなると、新事業なんて生まれてくるわけないです。そういう構造が理由になっていることが多いと思います。

岡田:ライオンちゃんとイヌちゃんの居場所がどんどんトラとネコに浸食されて無くなっちゃうわけではなく、組織の在り方を見直して共存していくことが重要なのですね。

仲山:はい。それぞれの強みを活かした役割分担、例えばトラは新しいものを立ち上げるのが得意で、ネコはトラと一緒に新しいプロジェクトにアサインされるといきいきします。プロジェクトが軌道に乗って「そろそろマニュアルとか作ったほうがよくないですか?」という人が現れるタイミングになると、急にトラは興味がなくなって、また新しいものを立ち上げに他の所に行きたくなります。そのときに、きっちりイヌの人たちにバトンを渡せる仕組みになっていればいいと思います。立ち上がったものを回して改善しながら伸ばしていくのはイヌの得意技ですから。どちらが偉いではなくて、強みを活かして役割分担しようというコンセンサスがある状態を作れるとうまくいくと思います。

岡田:まずはトラとか、ネコの人が積極果敢にイノベーションを起こし、新しい付加価値の種を見つけて挑戦していく。そのボリュームを増やす。当然、ビジネスはインキュベートして終わりではないので、イヌたちが軌道に乗せて継続していく。すると両方ともいきいき働けるということですね。

仲山:そうです。ただ今までは、「組織で働く=組織に忠実に働くこと」という価値観が主流だったので、指示されたのと違うことをやったり、指示されていないことを熱心にやるネコやトラを見ると「あいつら何サボって遊んでるんだ」と思われがちでした。相互理解を進めることで、プレースタイルが違うだけというのをわかりあえればいいかなと思います。一つ図を用意しました。
意見の違いをどう捉えるかなんですけど、多くの人は「自分が正しくて相手が間違っている」と思っています。意見が合わない人のことを「あのヒトとは価値観が合わない」と言いがちではないかと思いますが、「判断=価値基準×入力情報」と表現するとしたら、価値基準は一緒だけど入力情報がずれているから意見(判断)が合わない、ということは結構あります。意見が違うだけで、なんとなく嫌いになるみたいなことが世の中にたくさん起こっていますが、それはもったいない。みんな見えているもの(入力情報)が違うし、価値基準も多様化しています。お互いがこういうフレームワークを共有して、「なぜその判断になるのか入力情報と価値基準を教えて」とお互いにすり合わせするのが、チームビルディングの要諦です。

岡田:この図すごくいいですね。職場でも家庭でも使えます。価値基準が合わないのではなく入力情報が違うって結構あります。そもそも見えている世界が違う。職場なんかここにバイアスっていう変数が入っちゃう。

仲山:バイアスも入りますし、コントロールしようとするタイプのマネジメントだと情報格差があったほうがコントロールしやすいんです。「お前は全体像がわかってないんだから、つべこべいわずに言うことを聞け」と言えるので、情報格差がマネジメントパワーになる。これに対してフラットなネットワーク型の組織だと、みんなで見えているものをいかに共有できるか、同じ価値基準、同じ入力情報で判断を合わせられるかが組織の強さになっていきます。

岡田:わかりやすいですね。あらゆる誤解が少しずつ解けそうな気がします。最後に企業人事の皆さんにメッセージをお願いします。

仲山:逆に質問があって、人事の方がこの本を読んだときに、どの辺が気になるかうかがいたいです。

岡田:人事屋さんはどうしてもイヌが多いです。トラやネコみたいな働き方に対してすごく議論はしているんです。でも、自分たちの会社に戻って人事部長として振る舞うときに、実際にトラとネコが目の前にたくさん現れるととたんに戸惑います。別に否定するわけじゃないんですが、トラとネコをどう処遇したらいいかわからない。そっぽ向かれるのも嫌だし、かといってあまり自由気ままに暴走されるのも嫌だし、世の中的にはやっぱりこれからトラ、ネコの時代、あきらかにトラ、ネコが必要だよねとは思っている。そういうイヌです、企業人事は。

仲山:この本を読んだ僕の友人から、「自分はイヌ出身でライオンになったタイプで、今は執行役員だけど、イヌのときは狂犬としてネコをいっぱい叩き潰したりかみ殺したりしてきた気がする。でも実際にライオンポジションになってみると、イヌだけだと新しいものって生まれない。トラやネコの存在意義が大事だと腹おちした」という感想が届きました。まずはそういう視点も持っていただけると、トラ、ネコと相互理解を進める意義が理解しやすいのかなと思います。

また、こんな感じで、イヌ、ネコ、トラ、ライオンと動物に置き換えると、話しやすい空気が生まれます。「やっぱりあの人はだめだよね」ではなくて「イヌってこういうところあるよね」と抽象化するとコミュニケーションがとりやすくなると思いますので、この図を見てみんなで話しあってもらうことが大事だと思っています。

岡田:ありがとうございます。それでは本日の収録を終わります。

ライオン、トラ、ネコ、イヌのハーモニーとは