今回のラウンドテーブルでは、「女性が健康に働き続けるために必要なこと」をテーマに、株式会社リンケージの今村優子さんの話を伺った後、JSHRMと厚生労働省のメンバーとで活発な意見を交わしました。
※次世代労働政策官民ラウンドテーブルは、2022年6月にJSHRMの岡田英之さん、株式会社千正組の千正康裕さんを中心に官民の相互理解の醸成を目的に立ち上がったラウンドテーブルです。
千正康裕さんのご経歴
2001年 厚労省入省。医療、年金、子育て、働き方、女性活躍などの分野で8本の法律の立案に携わる。2019年 退職
2020年 株式会社千正組設立。企業、民間団体のコンサルティングにより、政策と現場の橋渡しに取り組む。
「女性が健康に働き続けるために必要なこと」(株式会社リンケージ 今村優子さん)
今村優子さんのご経歴
2007年 病院にて助産師として勤務
2016年 英国にて公衆衛生学修士課程修了
2017年 医療政策シンクタンクである日本医療政策機構に参画。女性の健康プロジェクト等を担当し、調査の立案、企画、実行、政策提言を行う
2023年 株式会社リンケージに参画。法人向け女性ヘルスケアサービス「FEMCLE」の事業推進等を行う
1.働く女性たちの実態
日本医療政策機構の「女性の健康増進に関する調査2018」によるとPMS(月経前症候群)の影響により、元気な状態と比較してPMS時にパフォーマンスが半分以下になると回答した人が約半数いることが分かっています。また、出産数や栄養状態の改善等もあり、昔に比べて現代女性の月経回数も増えており、必然的に疾病リスクが増加しています。へルスリテラシーとパフォーマンスの関係をみるとヘルスリテラシーが高い方の方が、プレゼンティーズム(出勤しているにも関わらず何らかの健康問題によって実務効率が落ちている状態)の傾向が低いことも分かり、ヘルスリテラシーの向上がパフォーマンスを発揮する上で非常に重要だということが分かりました。
ヘルスリテラシーの向上のためには専門家に相談することが大切ですが、「婦人科・産婦人科に行くべき時に行かなかった経験の有無」を訪ねると、約4割の方が「行かなかったことがある」と回答していました。行かなかった理由を確認すると、「自分の症状は重大な病気でないと思ったから」が一位となっています。一方、定期的に婦人科・産婦人科受診している方のきっかけとなった情報源は「会社の健康診断時や婦人科受診時の医師からの勧め」が一位であり、会社の取組みが女性たちの婦人科・産婦人科へのアクセスに影響を与えている可能性が示唆されます。
2.企業における女性の健康の取組みの実態
厚労省の調査をみると、企業の健康支援として「生理休暇」の設置が最も多くなっていますが、月経随伴症状やPMS、更年期症状の根本的解決につながる支援を行う企業は少ないことが分かっています。これらの対応として、経済産業省の「健康経営銘柄」の選定要件に「女性の健康保持・増進に向けた取り組み」が追加されました。最近企業の担当の方と話す機会が多いですが、「健康経営」への取組みもあり、e-learningやセミナーを実施する企業も増えていることを実感しています。ただし、「女性の健康支援に対して、社内の理解が得られず困っている」、「婦人科検診の受診率をもっと上げたい」というような声も伺っていますので、セミナー等を通じて具体策へ進めていく事が今後重要になります。
3.女性が健康に働き続けるために必要なこと
女性が健康に働き続けるために必要なこととして次の3つが重要だと考えています。
これらは、セミナーや相談窓口の設置などの地道な取り組み、企業と健康保険組合・医療機関との連携、フレックス制度や時間休制度等の導入、および事業主検診の問診に月経随伴症状等の婦人科症状に関する項目を追加する等で取り組みが進むと考えております。
【官民交流から見えたもの】
今村さんの講話の内容について、JSHRMと厚生労働省のメンバーで4グループに分かれてディスカッションを行い、各グループの議論の内容を全体で共有しました。
<各グループで議論した内容>
- Aグループ(グループメンバーが全員男性)
- 男性としてサポートを行おうと思っても、実際のサポートが難しい
- 男女問わず体調が悪い時に休みを取りやすい環境にしていく
- 知識をしっかり身に着けることが重要
- 女性の活躍を推進していく上で、政策として企業を支援していくということも非常に大事
- Bグループ(主に企業内の健康管理について議論)
- 安全配慮義務は理解するものの、検診結果を受診者よりも先に事業主が知ってしまうというのはプライバシー的にどうなのか?
- 生理休暇について、上司に対して申請がしにくいのではないか?仕組みがあっても活用しにくいのではないか?
- Cグループ(従業員のニーズについて議論)
- 「言いにくい(見えにくい)」というのもあり、従業員のニーズが見えにくい。ニーズを拾い、どう使ってもらうかが重要
- ニーズを見える化させるためには、管理職を中心に知識を身に着けてもらうことが必要であり、研修等の地道な活動が重要
- パルスサーベイやストレスチェックなどの質問項目に、婦人科症状等の質問を入れてもいいのではないか?
- Dグループ(休暇制度の必要性について議論)
- 現状で休暇制度を設けても取得が進まないのではないか?
- 「必要性」がどれくらいなのかという共通認識を持つ必要があり、企業の「必要性」という観点から、「PMS時にパフォーマンスがどれくらい下がるのか?」や「婦人科にかかればどれ位症状が改善するか?」の理解を促進する必要がある
- 共通理解が出来たとしても、休暇制度を乱立するのではく、究極的には夫々の健康状態に合わせて働ける環境構築をしていくことが重要
<終わりに>株式会社千正組 千正康裕さんより
今日は、政策としてできること、企業としてできることついて考えるきっかけになりました。また、企業に対して福利サービスを展開する企業、産業医、保健師、人事等、様々な角度から「女性が健康に働き続けるために必要なこと」について考えることができましたので、夫々の立場で今後の取組みに活かしていただけるとありがたいです。本日はありがとうございました。
以 上