今回のラウンドテーブルでは、「外国人受け入れ新時代の展望」をテーマに、日本国際交流センターの毛受敏浩さんの話を伺った後、JSHRMと厚生労働省のメンバーとで活発な意見を交わしました。
※次世代労働政策官民ラウンドテーブルは、2022年6月にJSHRMの岡田英之さん、株式会社千正組の千正康裕さんを中心に官民の相互理解の醸成を目的に立ち上がったラウンドテーブルです。

千正康裕さんのご経歴

1975年生まれ。2001年厚労省入省。医療、年金、子育て、働き方、女性活躍などの分野で8本の法律の立案に携わる。秘書官や大使館勤務も経験。医療政策企画官を最後に2019年退職。
2020年、株式会社千正組設立。企業、民間団体のコンサルティングにより、政策と現場の橋渡しに取り組むほか、メディア出演、講演、執筆をしている。官僚の実情や政策のつくり方をつづった著書『ブラック霞が関』(新潮新書)はベストセラーに。ツイッターやnoteでも発信している。

「外国人受け入れ新時代の展望」(日本国際交流センター 毛受敏浩さん)

毛受敏浩さんのご経歴

慶応大学法学部卒。米国エバグリーン州立大学行政管理大学院修士。兵庫県庁で10年間の勤務後、1988年より日本国際交流センターに勤務。

1.人口亡国

 2023年6月に「人口亡国-移民で生まれ変わるニッポン」という本を出しました。この本では、人口減少時代に入りながら移民の受け入れを認められない「移民ジレンマ」状態の日本の実態を解明し、移民を受け入れた時に日本がどうなるかを書きました。日本に在留する外国人の人口予測について国立社会保障人口問題研究所の推計だと13万人/年増となることが見込まれていますし、近年の日本人と外国人の人数の増減の推移をみると日本人の減少分の3~4割程度を外国人の増加で埋めているという状況が続いています。この推移で進めば、30万~40万人/年程度で外国人が入ってくる可能性があり、20年後には、日本に住んでいる外国人が1,000万人近くになることになります。驚くべき数字ですが、そうしないと社会が回らなくなるのではないかと考えています。
次に、コロナ渦に外国人労働者がどうなったかを見ていくと、コロナ渦でも減ることなく横ばいで推移しています。外国人労働者がコロナ渦でも自国に帰らなかったということは、完全に日本に定着しているということが言えます。また、在留外国人の国籍も多様化しており、平成の間に中国、東南アジアおよびブラジル国籍の方が大幅に増えました。

2.なぜ日本で移民はタブーになったのか

 政治の動きを見ていきますと、1999年の小渕内閣の「21世紀日本の構想」で移民の必要性が明記されるなど、2000年までには移民についての議論がされていました。一方、2009年~12年の民主党政権時に永住者の地方参政権問題が起こり、自民党は猛烈に反対することになります。その後、隣国(中国、韓国)との領土問題、関係悪化があり、ヘイトスピーチ等も蔓延し、移民がタブー化されていきました。

3.日本の在留外国人の課題と2018年以降の政府の政策変化

 日本の在留外国人の課題については次の5点が考えられます。

  1. 政府、社会が定住を想定しないまま、実際には定住が進んでしまった
  2. 課題の複雑性
    • 多様な在留資格、言語、文化、国籍の違い等
  3. 広範な支援の領域
    • 3大テーマ(就労、日本語、教育)に加え、医療等生活全般
  4. 日本人の意識変革
    • 今後は外国人と共に日本の未来を創る時代の認識
  5. 支援体制の不十分さ
    • 専門性の乏しい自治体、市民ボランティア主体の民間団体、資金不足

このような課題に対して2018年以降、政府の政策の変化も見られます。

  • 2018年12月 入管法の改正
    • 新在留資格「特定技能」の創設、出入国在留管理庁と在留支援課の創設
  • 2022年6月  「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」
    • 「ライフステージ、ライフサイクルに応じた支援」
  • 2022年11月 「地域の日本語教育の在り方」報告書
    • 「すべての市町村に日本語教育の指針策定を求める、企業の責務明記、B1レベルの日本語目標(320~520時間の学習要)」
4.「選ばれる国」になるために

 外国人を受け入れていくことが必要な中で日本が「選ばれる国」になるためには、政府トップが「在留外国人の存在の重要性、新たな国造りの担い手の認識表明」を発信し、将来的には在留外国人基本法の制定も求められるのではないかと考えています。また、人口動態の変化予測に立った受入れ政策をゼロから再検討することも求められます。特に、受け入れ後の包括的な支援体制の構築は必須になります。加えて、国民、企業自治体の意識改革も必要であり、一時的な滞在者ではなく、社会の重要な担い手として外国人を認識することが重要になるのではないかと考えます。

【官民交流から見えたもの】

毛受さんの講話の内容について、JSHRMと厚生労働省のメンバーで3ループに分かれてディスカッションを行い、各グループの議論の内容を全体で共有しました。

<各グループで議論した内容>

グループテーマ議論した内容
A外国人との共生・特定技能等だと転職が可能なので、稼ぎの良い都市部への移動が起きやすいのではないか(日本人で起きている問題と同じ問題が起きる可能性がある)
・法整備含め定着支援にどのようにお金を付けていくか
B日本語教育、日本の文化にどう溶け込んでもらうのか・企業の日本語教育に任せている実態もあり、行政としてどう取り組んでいくのかが重要
・外国人の方も同じ国籍やバックグランドを持った方でコミュニティをつくるので、コンフリクトをおこさずにコミュニティとどう関わっていくのかが大切になる
C外国人から選ばれる国へ・基幹的な労働力としての移民を増やしていくという環境を作っていくことが必要
・基幹的な労働力を確保するためには、賃金や就業環境等の向上も求められる

以 上