話題になった「バイトテロ」問題です。主にアルバイトなどの非正規雇用で雇われている飲食店や小売店の従業員が、勤務先の商品(特に食品)や什器を使用して悪ふざけを行う様子をスマートフォンなどで撮影し、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿して炎上する現象です。みなさんの日常にも存在するコンビニや居酒屋が舞台です。バイトテロによる度を越した悪ふざけは、企業経営の根幹を揺るがしかねない問題に発展することもあります。コンビニ業界においては、24時間営業を巡り、フランチャイズシステムの仕組み、本部とオーナーとの関係も注目されました。特集2では、バイトテロの背景に隠された社会・労働問題に迫ります。

聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

NPO法人ホットプラス代表理事、聖学院大学客員准教授 藤田 孝典 氏

ゲスト:NPO法人ホットプラス代表理事、聖学院大学客員准教授 藤田 孝典 氏
茨城県出身。東京国際大学を卒業後、ルーテル学院大学にて博士前期課程を修了する。東京国際大学では、地域福祉論の先駆者、原田正樹のゼミ生として、指導を受ける。2003年(平成15年)ごろから、埼玉県さいたま市を中心に社会的弱者への支援活動を行っている。



岡田英之(編集部会):本日は、NPO法人ほっとプラス代表の藤田孝典さんにお越しいただきました。今回は藤田さんに、最近立て続けに起こっているバイトテロについて詳しく解説をしていただきたいと思います。それでは藤田さん、まず簡単に自己紹介をお願いいたします。

◆バイトテロが起きる背景とは?

藤田孝典(NPO法人ほっとプラス代表理事 聖学院大学客員准教授):NPO法人ほっとプラスという団体の代表をしている藤田と申します。僕は年間に300件ほど、生活困窮者、フリーター、シングルマザー、いわゆるワーキングプアといわれる方々からの相談を受けています。最低賃金もしくは最低賃金+20~30円で働いている方々が中心ですね。この生活困窮者の支援に携わって17年目になります。

岡田:早速、今日はバイトテロについて藤田さんのご意見をおうかがいしたいと思います。バイトテロが起きる背景、彼らの心情、そこから見えてくる社会的課題などについて解説いただけますか?

藤田:今回のバイトテロもそうですが、まず労働者が最低時給に近い価格帯で働いている飲食、医療、福祉などでの業界では、事件、事故、残業代未払いの相談などが非常に多いということです。労働者は賃金が低いためにかなり不安を抱えながら働いているのですが、仕事は従来であれば正社員なり店長がするべき業務をパート、アルバイトがやらざるをえない状況になっています。

岡田:アルバイト、パートの仕事内容と対価が見合っていないわけですね。

藤田:いわば人件費を極限まで下げて、利益を株主や別の事業に回すというビジネスモデルで、要はここのゆがみなのですよね。貧困問題というのは基本的に賃金による第1次分配が弱いところで起こります。賃金が弱いと第2次分配という社会保障で補うのですが日本はどちらも弱い。特に賃金による分配が弱いので、そこがバイトテロのような問題の起こる温床になっていると感じます。

岡田:貧困問題には第1次分配と第2次分配がある。貧困問題と聞くとつい生活保護などをイメージしがちですが、それは第2次分配の話であって、その前に第1次分配という賃金の問題があり、そこにゆがみが出ているということですか。

藤田:はい。実際にバイトテロ問題が発生している企業をいくつか調べると、やはり最低時給+αぐらいしか出ていない。「この業務内容で、この賃金か」というケースしか見あたらないですよね。
今は正社員の管理監督者や店長などが店舗にいないケースも多いです。昔はここまで人件費をダンピングしていなかったのですが、最近は基幹労働をパート、アルバイトに担当させて、それを正社員が補佐するかたちになっていて、もう役割が逆転しているように感じます。

バイトテロの背景とは?

岡田:アルバイトだけで運営している店も出てきていますね。

藤田:だから、現場としてみれば「なぜこの時給でここまで要求されるのか」「なぜこの賃金でお客さんに下に見られて、ペコペコしていろいろな業務をやらなきゃいけないのか」と不満やストレスがたまります。いろんな人が面白おかしくは伝えていますが、バイトテロも職場や規範に対する率直な不満なり反乱だと見ていいと思いますね。本来ならアルバイトに大きな責任を持たせること自体がおかしくて、もしそうするのなら、ある程度のリスクは当然出てくるということですね。

◆学生、フランチャイズオーナーの長時間労働

岡田:NPO法人POSSEの今野さんが発行する季刊誌で特集したことがあると思うのですが、コンビニに代表されるフランチャイズシステム。これも合法なのですがいろいろ問題があって、結局、コンビのバイトテロ問題は、さかのぼっていくとオーナーの店長が疲弊しちゃっているわけですよね。

藤田:そうですね、疲弊しています。フランチャイズシステムは基本的に労使の形で資本側が資本を提供して労働者を働かせて利潤を回収するという、資本主義の構造そのものの弱肉強食の仕組みです。資本主義では、あまり労働者から巻きあげると、労働者が暮らせなくなり再生産できなくなる。世帯を形成して子供を産み育てて日本経済を回していく循環ができなくなるので、ある程度は労働規制してきたのですが、それが全然働かない業界です。オーナーさんが過労死するケースもあります。

岡田:これも問題になっていますよね。もちろん成功されている方もたくさんいるでしょうけど。

藤田:オーナーさんの収入もまちまちで年収300万円から、なかには1200万円稼ぐ人もいます。問題は長時間労働がかなり仕組みづけられていることです。そうすると自分が休まないか、あるいはアルバイトにまかせざるをえない。

岡田:これは、コンビニ本部自体も事情があるのでしょうか?実際はもうかっていて内部留保しているのか、あるいは本部の懐事情も苦しいのか?もしそうであれば、消費者が支払うお金を上げていくしかないということでしょうか?

藤田:内部留保もそうですが株主への還元率が高い。利潤がぎりぎりの状況のなかであれだけの高い配当を出すということは、労働者にかなり負担をかけているということです。消費者主体、株主主体で、労働者が置いていかれているのが、このバイトテロが起きる産業の特徴だと思います。

岡田:アルバイトの学生さんたちは、将来不安みたいなことも感じているのでしょうか?

藤田:将来不安はあるでしょうね。それがバイトテロに結びつくかは別ですが、みな不安は抱えています。日本は学生への第2次分配も弱い。ほかの国では住宅費、教育費などを支給して、こんなに過度に働かなくてもすむように社会保障がバックアップする例があるのですけど、それもないので学業もおろそかにせざるをえない。

岡田:就学もできませんね。今は親のスネも細っていますから地方からの学生は仕送りも少ないでしょう。

藤田:テストも出ない、ゼミ合宿にも参加できない学生が多いです。必死なのですよ、もう。働かないと暮らせないので。ほかの国でこんなに働いている学生はいないです。欧米各国は、教育費に関しては社会が恩恵を受けるし、将来的な納税額も上がっていくということで、比較的早くから投資の対象として見ています。教育費無償、給付型の奨学金、公営住宅などの補助、住宅手当支給、本を買うお金を出す国もあります。ある国ではほとんど働いていないですね。
日本は家族まかせで、それでも昔は家族に力があって、企業も日本型雇用で正社員中心だったのでうまく回っていましたが、平成が終わって次の時代になったら、もうおそらく無理でしょうね。

◆サービス産業のビジネスモデル変革が必要

岡田:最近は、厚生労働省の賃金データ偽装問題が騒がれています。このパート、アルバイト、非正規雇用者の賃金データも今回騒がれているデータに入っているのでしょうか?

藤田:実は以前から日雇い、派遣などの非正規雇用者の賃金がデータに反映されていないのではないかと指摘されていました。今、非正規雇用率が40%ぐらいまでに上がっています。だとすると賃金が上がるわけはないですよね?基本的には消費性向も低くなる。実際、全国消費実態調査、国民生活基礎調査を見ても全然上がっていないので、これで賃金が上昇しており第1次分配が上手くいっているというのは、研究スタンスからみても説明がつかないです。

岡田:働き方改革で、同一労働同一賃金ということが言われています。少しは是正されるのでしょうか?

藤田:アルバイトを限定正社員に格上げする動きもありますが一部だと思います。これまでの歴史を見ても、同一労働同一賃金というのは、政府が上から与えるものではなく労働組合が勝ち取ってきた歴史なのです。労働者が要求していかないと、なかなかそこまではいたらないと思います。

岡田:個が動くのではなくて、個人個人の声を組織として集約して法的手続きに則って主張、アサーションしていくということですね。別に喧嘩するわけではなく。

藤田:小売り、飲食、介護、保育業界などはみな、女性の安い労働力に依存してきた産業です。男性が基幹の正社員として働いて、女性やアルバイトがお小遣い稼ぎで働くイメージが強い。このイメージを払拭しながら、労働者自身が「同じ労働をしているのだから、きちんと賃金を払ってください」と要求をしていかないと…この壁というのはものすごく分厚くて、いわば戦後ずっと作られてきた歴史そのものの考え方ですから。

岡田:家計補助的な働き方のイメージですね。我々もある種の幻想というか、昭和という時代が63年間も続き、そのなかに高度経済成長などいろいろな成功体験があるものだから、女性の家計補助的な働き方がビルドインされてしまって、平成の30年が終わってもなお、そこから脱却できないということはありませんか?

藤田:本当におっしゃるとおりで、一番深いところで言えば、正社員と非正規雇用の差別待遇とは男女差別の問題につながってきます。サービス産業の労働組合自体が女性の安い労働力に依存して、男性が正社員待遇の地位を獲得してきた歴史があります。だから、労働組合を含めてサービス産業自体のあり方がもう古いものになっているのです。

岡田:労働組合が新しい時代に合わせて変わるべきだという話。これもずっと言われていますよね。

藤田:今の日本は第3次産業で働く人の数が最も膨大です。サービス産業が変革されて業界の賃金が上がらないと日本経済全体が回りません。そこが構造的な問題を抱えているからここ30年ワーキングプアが増え続けています。中の下の労働市場が凄いボリュームになっているので彼らの賃上げがなされないと個人消費も伸びません。やはり重要なのは、非正規の人たちの賃金確保だと思います。

サービス産業の生産性が問題

◆動物園のような保育園、虐待してしまう介護職員

岡田:食品業界のバイトテロももちろんですが、医療従事者、介護職員、看護師、保育なども最近は問題になっているじゃないですか。人の命に係わる現場で、働く人たちの給料が安いために、テロが起きるようなことがもしあるのだとすれば、それこそ大問題だと思います。

藤田:おっしゃるとおりで、もうすでにいろいろ起こっていいます。介護の現場では人を殺しているし、施設から老人を突き落とすような事件もあります。保育園も管理者が足りなくて赤ちゃんが亡くなっている。それでいいとみなが思うかどうかですよね。

岡田:誰もそうは思わないと思います。

藤田:総論としては、それはちゃんとやりましょうとなります。各論としてあなたの負担が上がりますよとなると合意形成がまた難しくなるといいますか…。小林美希さんが書いている『ルポ、保育崩壊』という本は衝撃的で、彼女が見ているような現場の実態が、もう少し可視化されるといいなと思いますね。子供の保育において、3歳までといういろいろ決定づけられる大切な時期なのに、動物園の管理みたいな状況になっている。

岡田:動物園よりも酷い。動物園は決まった時間にエサを与えます。食べ物も与えないのですから。

藤田:人間としての尊厳がなにも尊重されていない。

岡田:藤田さんや今野さんにお願いしたいのは、こういった問題をもっと情報発信していただきたいということです。先日、テレビに出られていましたが、メディアに出たりするのは凄く良いですね。いずれにせよ、今は社会のステークホルダーの一つでもある労働者が、あまりにも軽んじられているということだと思います。

藤田:軽んじられています。だから根源的には消費者や株主に、ちゃんと考えてもらわなければいけないのです。消費者もこの価格でこのサービスを提供されて本当に大丈夫なのかと少しはイメージしていいと思うのですよ。デフレマインドに慣らされているので牛丼は200~300円、お寿司も100円で出てくるのが当たり前と思っていますけど、一番のひずみは労働者に回っているのですよと。

岡田:一方で、30代の経営者などと話すとあまり金、金言わない人が多くなっています。むしろ自分の事業が社会的にどのような意義があるのかを割と気にしますよね。今、日本でも欧米でも資本主義というものがゆらいでいるといいますか、トマ・ピケティ、ノーベル賞をとったジャン・ティロールなどのように、行き過ぎた資本主義の状態に、警鐘を鳴らす経済学者も増えてきています。

藤田:日本でも社会的企業が増えていますし、資本の側が自分たちで資本主義を是正していこうという動きは広がってきています。若い世代が上の世代を見てきて、達観している傾向もあると思います。

岡田:ミニマムリストが出てくるなど、今の若者は昔の世代よりあまり金銭に価値を置いていない。資本主義的な発想をする若い人であっても、その中身が以前とは変わってきている気がします。

◆欧州型モデルも導入、社会保障も転換期へ

岡田:社会保障についての話ですが、藤田さんはベーシックインカムについてどうお考えですか?

藤田:第2次分配の支給の仕方については、欧米各国でも現物支給が先にあるべきではないかと議論されています。僕もすべてお金で支給するのは反対ですね。

岡田:現物支給だと、使い道が限定されますね。

藤田:限定されますし、なおかつ効率がいいのです。欧米各国の場合は、医療、介護、保育、住宅、あと教育。このあたりはほぼ無償化か低負担なので失業率をあまり大きく感じていないんです。ヨーロッパが失業率10%くらいでも労働生産性が下がっていないのは、ある程度有用な人に職業訓練をしながら、もう1度産業に入ってもらうという施策を強力に進めているからです。

岡田:失業中の生活を下支えして、ちゃんと循環させているわけですね。

藤田:ヨーロッパでも課題はありますけどね。移民層の職業訓練が十分でないという指摘もあります。でも、日本もまずは失業しても食べていけるように、現物給付サービスから広がるとよいと思います。

岡田:最近この問題については、政党に関係なくフラットに議論が進んでいるように見えます。

藤田:おっしゃるとおりで今いい流れがきていると感じています。以前だったら政争の道具にされましたが最近はそんなこともないので僕らもいろいろな政党と話しています。医療保険制度の一体改革、幼児保育無償化などはヨーロッパの福祉国家型の政策なのですね。今まで全部アメリカ型だったものが少しずつ欧州型になっています。時代の転換期であるのは確かだと思います。

岡田:先日、首都大学東京の阿部彩先生が日本の貧困問題は、アフリカみたいに見た目ですぐわかる貧困と違い、相対的貧困で見た目が普通なので、お金を持っている人たちが相手の貧困に気づかないことが問題だと言っていました。そういう意味でも実態が可視化されるような情報発信が必要ですね。

藤田:数字で説明してもなかなか伝わらないので、理論を理解しつつ、数字も把握しつつ、現場の支援に関わりながら、何が起きているかを発信していくのが僕や今野の役割だと思っています。メディアなどでも深い議論にするためには、もう1パターン仕掛けが必要だとはいつも思っていますね。

◆終わりに

対談を終えての1枚!

岡田:最後に藤田さんの今後の出版予定や、活動のご予定などを教えていただけますか?

藤田:今年から僕も今野もヤフーのインターネット媒体で記事を配信して、ある程度、議論を巻き起こしていこうと意識的に取り組んでいます。あとは岩波書店から、社会活動、社会運動をする人に向けての書籍を今野と編著で出す予定です。

岡田:今後もぜひ発信を続けていただきたいと思います。本日は、ありがとうございました。


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