近年の人事分野におけるIT技術活用動向とは
人事分野におけるIT技術においては、過去10年において革新的な技術が次々と開発されており、これらの技術開発への投資額は、20億ドルに達すると言われている。
2016年の投資額は、わずかに減少したものの、人事分野におけるIT技術導入を行う企業は増え続けており、今後も中規模の企業を中心に、企業統合人事管理システム(HRMS)プラットフォーム導入等の増加傾向が見られる。
クラウドからモバイルへの移行、人工知能の活用、職場でのビデオやウェアラブル機器の活用、ソーシャル・ネットワークを活用した採用活動等、従業員や人事プロフェッショナルが使用するIT 技術は、急速に変化を遂げている。
これらの動向を踏まえて、今後人事分野において、企業が理解しておくべき9 つのIT技術の動向を見ていくこととする。
1.パフォーマンス管理における技術革新
1.パフォーマンス管理における技術革新
過去5年間の傾向を見ると、多くの企業が年単位で行われるランキング型の人事評価制度から、チェックイン型(常にリアルタイムでフィードバックを行う制度)に移行している。つまりパフォーマンス管理は、よりデータ駆動型で、チームワーク重視型へと移行しているのである。
従業員は、クラウドベースの人事管理システム、もしくはエンタープライズリソースシステムにログインすることで、チーム中心のパフォーマンス管理アプリケーションを使用出来る。そこでは、組織階層だけではなく、チーム単位でのパフォーマンス管理が可能で、チーム単位で迅速な意思決定を行ったり、チーム目標を透明、且つ容易に変更し追跡することが出来る。
また、定期的な従業員調査、タグ付けや単語検索によるリアルタイムのフィードバックも可能である。
また、オンラインでの性格診断や業務適性診断を行うことで、マネジャー達は、部下の管理・育成のツールとしても使える。
アクティビティストリームやゲーム機能と連携することで、従業員であるユーザが使いたくなるデザイン・インターフェイスにすることも出来る。
従業員の基本情報管理システムや他の人事管理ツールと統合することで、人事プロフェッショナルにとっても日常業務の一環として使える便利なツールとなる。
2.リアルタイムでのフィードバック評価
2.リアルタイムでのフィードバック評価
従来は、多くの企業が、年単位のパフォーマンス評価を行っていたが、今や、四半期、月次、週次の評価を行っている企業や、組織内での重要な変更やイベントがある度に、それに対するフィードバックやデータを収集している企業がある。
これらのツールは、従業員のニーズを理解しようとする企業にとって重要な経営基盤となるだけでなく、パフォーマンス管理システム、人員継承計画、組織変革戦略、その他すべての人事マネジメントに統合することが出来る。
実際、リアルタイム フィードバックベースの人事ツールとシステムは、今後数年間に人事プラットフォームにおける主要テーマになると考えられている。
3.人の分析の台頭
3.人の分析の台頭
今日の人事分野のIT技術革新において最も顕著な傾向は、「人の分析」の分野の台頭と言えるだろう。一昔の人事は、人事データベースを中心とした「データマネジメント」が中心であったが、現在では、高度なデータ分析やレポート機能を使っての「予測モデル」へ移行しています。
このような分析モデルが普及するにつれ、企業は独自のITソリューションを構築することから、ベンダーからITソリューションやシステムを購入することに徐々に移行しており、Oracle、SAP SuccessFactors、Workday、ADP、Cornerstone、Visier、Ultimate Software等が導入され、従業員のリテンションマネジメントの予測ツール等として使われている。
また、勤務形態のシステムにより、転職する可能性の高い従業員を識別する等の高い効果をあげている。
OracleやSuccessFactors のツールにより、各従業員が従事している業務や役割に基づいて、推奨する研修の選定も出来る。
Cornerstoneのシステムは、どの従業員が規則を遵守しなくなり強制的な改善研修に参加させなくてはいけなくなるかを予測することが出来る。
また、Starling Trust は、電子メールやその他の通信のパターンを分析して「信頼ネットワーク」を構築できるシステムを提供している。セキュリティリークや不正行為が発生する可能性が高い場所を実際に予測することも出来る。
Humanyzeは、従業員にバッジを持たせることで、従業員の居場所を監視し、最もストレスを感じる時間と場所を測定する“スマートバッジ”を販売している。このデータを使用し、企業は、施設を再編成したり、会議時間や開催方法を変更したりして、従業員のエンゲージメントを促進に役立てることが可能になる。
従って、この様な人事システムモデルが従流となれば、人事部門は、それらを理解し、効果的に運用できる人事プロフェッショナルを採用・育成することが必要となる。
これらのシステム導入や人事チームの構築には、数年かかると共に大きな投資が必要だと言われる一方で、投資をしない組織は、そうした競合他社に勝てないとまで言われている。
4.学習市場の成熟
4.学習市場の成熟
多くの大企業は、Cornerstone、SumTotal、Saba、Oracle、SuccessFactors等の学習管理システムを導入しているが、最近では、Workday Learning、Fuse Universal、SAP Jamが、ビデオ学習システムの提供を拡大している。
また、従来の研修記録データベースを管理する「学習管理プラットフォーム」だけでなく、YouTubeの様な、ビデオ学習と共に、データベースに基づいて、次に学習すべき学習内容の推薦機能付がある「学習経験プラットフォーム」と呼ばれるもシステムも登場している。
5.新しい採用手法
5.新しい採用手法
今日の採用市場は、拡大傾向にあり、240億ドルにも達すると言われている。そして、この大規模な市場において重点が置かれているITツールには、以下の項目が挙げられている。
- 優秀な候補者の発掘が可能である。
- 企業のブランド価値を市場において上げられる。
- 求人票をサイトにアップ出来る。
- 採用担当者とのコミュニケーションの管理が可能である。
- 候補者の技術アセスメントが可能である。
- 経歴スクリーングと心理テストが実施できる。
- 候補者との面接が可能である。
- 応募者の追跡システムや採用活動システムをとおして、全ての複雑な採用プロセスを全て管理出来る。
必要な人員を効率的に獲得できなければ、ビジネスに支障をきたすこともある。従って、これらの項目は、多くの企業にとって、戦略的に非常に重要なのである。
SmartRecruiters、Lever、Greenhouse、Gild等の採用プラットフォームが、ソーシング、求人広告管理、分析、オンライン面接、候補者評価、進行中の候補者管理、入社手続き等、全ての採用活動を管理するシステムを構築し始めている。これらのツールは、LinkedInや他の求人掲示板に直接接続できるように設計されており、候補者の情報を長期に保存・閲覧することも可能なのである。
6.臨時雇用労働力の管理
6.臨時雇用労働力の管理
政府統計によると、米国の労働者のおよそ40%が臨時雇用であり、その多くは特別なネットワークを通して採用が行われている。
これらの採用活動を支援するシステムは、2つの市場に分けることが出来る。
1つ目は、SAP、Kronos、Beeline、PeopleFluent、Workday等の、ベンダー管理や、時間管理、スケジューリング管理システムを提供している市場である。
2つ目は、労働者とプロジェクトを結びつけるネットワークシステムを提供しているUpwork、Freelancer、Fiverr、Workpop等の市場である。
臨時雇用を効率的に行う為には、人事プロフェッショナルは、これらのサイトを常に監視し、臨時業務に必要な専門家とのネットワークを構築しておくことが必要なのである。
7.チーム管理ツールの導入
7.チーム管理ツールの導入
チーム管理の分野において、最も顕著な傾向として、今まで人事プロフェッショナルが、行っていた業務を、ITシステムが行ってくれることである。
例えば、リアルタイムのメッセージング、アーカイブ、検索などの機能を使用し、チームが作業状況・項目を効率的に追跡出来ることで、チームのコラボレーションを促進出来る様々なソフトウェアツールがある。
また、Workdayの学習管理システムやスキル・技術管理システムにより、従業員自身が自社内で次の職位を見つけ、その職位に適したトレーニングやビデオ学習を自身で見つけ出すことが出来る。
そして、従業員がこのタイプの機能を気軽に使えるように、Outlookや毎日使用するワークフロー管理ツールと統合することで、チーム管理業務は、人事プロフェッショナル達から、従業員やマネジャーの業務に移行しているのである。
8.豊富なウェルネスアプリ
8.豊富なウェルネスアプリ
2017年に拡大していくであろうと言われている大きなIT技術の領域は、ウェルネス、ワークライフバランス、従業員の活動、そして最終的には個人パフォーマンスを管理するためのツールである。
今後は、更に、ウェルネス、エンゲージメント、評価認識およびパフォーマンス管理のためのアプリケーションが、従業員のフィードバック、活動および目標に関する情報と統合され、従業員の就業環境を改善につなげていくと言われているのである。
これらのツールは、従業員が何をしているか、どれほど幸せで、自身のことをどれくらい管理出来ているのかを、会社が把握することを可能にし、そして、会社は、従業員のウェルネスを総合的に把握することにより、従業員の生産性を向上やキャリアアップの為のアドバイスを行うことが出来ると言うのである。
9.“自動化人事”の加速
9.“自動化人事”の加速
人事分野のIT技術は、人工知能、自然言語処理、そしてロボット自動化プロセスへと大きな進歩を遂げている。この人事業務の自動化においては、Amazon Echo、Siri、Vivなどの従業員の音声を聞き取り、様々なシステムを新しいワークフローに結び付けることができる製品もある。
モバイル ソフトウェアを含むこれらの人事IT技術により、殆どの人事業務は、人事プロフェッショナルが一つ一つ対応していく一連の人事業務ではなく、自動化された人事システム内を自動的に流れていく業務となっていくのである。
そうなると、全従業員が人事業務プロセスに参加することになる。例えば、採用時の面接、入社手続き、オリエンテーション、フォローアップ研修等が、ITシステム内で全て行われる。Deloitteの顧客である、ある企業は、全ての候補者に、“採用アプリ”支給し、応募から内定、職務研修に至るまでの一連の流れを“採用アプリ”で行う。
人工知能、ロボット自動化プロセス、従業員がセルフサービスで行う人事業務などが、人事業務コストを大幅に減らすと共に、人事の価値を上げてくれるのである。
結論
結論
2017年は、人事分野のIT技術市場に大きな変化が訪れるであろう。
モバイル機器の使用の拡大、ビデオ、センサー、人工知能による、従業員の会社へのエンゲージメント、社風への適合、ウェルネス、生産性の向上へ向けた取り組みが強化され、そして、人事分野のIT技術市場が更に革新的な技術を開発し続けることで、人事業務そのものも、また大きな変化を遂げていくのである。
(要約:インサイト編集部員 黒田 洋子)
- Insight Vol.91 2017.4月号
- 編集部会から『響』
- 特集1:『職場の問題地図』から考える本当の働き方改革~残業だらけで休めない働き方をいつまで続ける!?~
- 特集2:『デスマーチはなぜなくならないのか IT化時代の社会問題として考える』を読む~ソフトウェアエンジニアの「働き方改革」実現に向けて~
- 特集3:『働き方総点検 多事総論!』~経営学の視点から働き方改革議論を総ざらい~
- 寄稿:巨大不祥事を対象とした人事考課システムの考察~エンロン事件におけるPRCシステムの断罪~
- <海外専門誌から>:HRマガジン翻訳「人事分野における9つのIT技術活用動向」
- 寄稿:人事セミナー Employee Engagement 人材を活かす組織マネジメント
- 連載:ぶらり企業探訪<フォトクリエイト>
- リレー連載:自主研究会おじゃマップ 第1回「れこると♪」