組織にとって、従業員のパフォーマンスを上げることは、最大の関心事である。そのために、マネジメントだけでなく、人事業務に従事される方々の中でも様々な議論がされている。「Employee Engagement(エンプロイ・エンゲージメント)」という概念もをその中の一つと言っていい。今回、日本ミネソタ会が主催するセミナーのお手伝いをする機会が与えられ、実に13年ぶりに、私が組織開発の授業でお世話になったケネス・バートレット教授にお会いできた。今回教授が取り上げたトピックは、まさしく、「エンプロイ・エンゲージメント」。2017年1月17日に行われたセミナーの報告をしたい。
(寄稿:インサイト編集部員 中田 尚子)
◆「Employee Engagement:人材を生かす組織マネジメント」
◆「Employee Engagement:人材を生かす組織マネジメント」
1月17日(火曜日)19時から、マネジメントセミナー「Employee Engagement:人材を生かす組織マネジメント」が行われました。スピーカーは、来日中だったミネソタ大学College of Education and Human Development Department of Organizational Leadership, Policy, and Development(OLPD)の教授Dr. Kenneth Bartlett(ケネス・バートレット)。有楽町にあるトーマツ イノベーション株式会社のセミナールームには、約30名ほどのミネソタ会の会員の方、そして、人事業務に携わっている方々が集まりました。このセミナーは、日本ミネソタ会主催によるもので、ミネソタ大学を卒業した人を中心に、アメリカのミネソタ州にゆかりのあるメンバーで構成されたこのミネソタ会が企画したものでした。
世間では、今、組織やマネージャにとって、とても関心のあるトピックスの一つ、「Employee Engagement(エンプロイ・エンゲージメント)」。バートレット教授は、エンプロイ・エンゲージメントに関わる最新のリサーチ結果を紹介しながら、このトピックをわかりやすく論じてくれました。一方、会場からは積極的に質問が飛び出し、それに教授が応答、活発な議論も見られ、皆さんの関心ぶりに驚きます。
◆Employee Engagementとは何なのか?
◆Employee Engagementとは何なのか?
まず、バートレット教授から、会場に「Engagement(エンゲージメント)とは?」と問いかけが投げられました。が、これほどに捉えどころのない言葉は他にないのではないしょうか。それは、日本に限っての事でもなく、アメリカにおいてもそのようです。比較的に新しい概念である「エンゲージメント」は、意味も曖昧で、さまざまな解釈も存在するほど。まだまだ変化をしている言葉のようです。さて、それでは「Employee Engagement(エンプロイー・エンゲージメント)とは?」と、教授は続けます。教授によれば、「企業そのものや、企業の目指すことに対しての感情的な繋がり」ということでした。そして、エンプロイー・エンゲージメントは、組織の目標を代わって、自らの仕事や、組織の仕事を気にかけている、自発的な努力をしていることだとつけ加えました。
ここで一つの写真が取り上げられました。オールを漕ぐ人々の写真の中、一人でも他の人と違う方向に漕ぐ人がいれば、どうでしょう。
ボートの進行を妨げ、複数の人間で漕いで進むには、影響を与えます。呼吸を合わせ行うことが大事ということを、写真を使って説明しました。それは、組織においても同様なことが言え、一人一人のエンゲージメントが大切だと言うのです。
◆エンゲージメントの基本と最近の調査結果
◆エンゲージメントの基本と最近の調査結果
エンゲージメントの一番の基本は、
Say, Stay, and Strive
Say(自分が、組織の中で働くことを楽しんでいることを、言葉や行動でコミュニケーションする)
Stay(組織にロイヤリティーがあり、離職は起こり難い)
Strive(パフォーマンスを改善する努力をする)
そして、エンゲージメントには、三つのタイプがあります。
Engaged(情熱でもって働き、組織と深い繋がりを感じる)
Non-Engaged(無為に組織で時間を過ごし、努力をしない)
Actively disengaged(仕事で幸せではなく、エンゲージしている同僚の達成を台無しにする)
ギャラップ社による日米対比のリサーチによれば、日米におけるエンプロイ・エンゲージメントの意識には、大きな違いが出ているとのことです。例えば、従業員のうち、以下の割合で、エンゲージメントの結果が出ています。
日本
7-9% は、積極的にエンゲージしている
約60% が、エンゲージしていない
33% は、やる気のない
日本の従業員エンゲージメントが、アメリカに比べて低いのに驚いている聴衆が目立ちました。
そして、エンゲージメントに対し注意を怠ると、次のような結果を生んでしまうと言います。例えば、道の端に木が張り出し道路に侵食していた写真を使いながら、「道を治すことは、積極的にエンゲージしていることを意味し、道を治すのは、常に同じ人だったりする。常に、道を治し続けたその人は、いつか、『道を治すのに疲れた』と言って、組織を去ってゆく」。エンゲージメントの高い従業員を保持するには、努力が必要なようです。
◆エンゲージメントに対する考えの変化から人事の役割
◆エンゲージメントに対する考えの変化から人事の役割
フォーチュン500 CEOによれば、最近は、「エンゲージメントは興味深い調査という認識から、身近なビジネスで行う方法の一つへと意識が移っている」とのことです。では、今日言うエンゲージメントの変化とは、何でしょうか。
変わりつつある働く環境は、雇う側と雇われ側に新鮮な緊張感を生む中、トップレベルな才能ある人材を引き止めることは難しくしています。仕事へのさまざまな要求やストレスについての認識が広がり、働く中での健康への関心が広がっています。このことは、人事にとっても新しい挑戦となり、一方でリスクでもあります。では、組織のDNAの一部とも言えるエンゲージメントを養うために、人事のとるべき戦略的な役割は何でしょうか。
◆あるストラテジーを取り上げての考察
◆あるストラテジーを取り上げての考察
エンゲージメントを推進するストラテジーは一つではなく、教授は、このストラテジーの例として、一つの本を取り出して説明をしてくれました。比較的シンプルでわかりやすいその本は、「Closing the Engagement GAP」。
その中で紹介されている戦略とは、次のステップを踏むことでした。
次に、Grow them(従業員を成長させる)とは、Human Resrouce Development & Engagement(人材開発とエンプロイメント)でもあると言います。従業員を成長させるためにある福利厚生、トレーニングなどのサポートは、(トレーニングを受ける)時間数や回数ではないのです。大きな業界や、組織的な改革のイベントはトレーニングなどをむしろ減らしているようです。では、代わりに、従業員を育てる例には、どんなものがあるかと言うと、教授は、コーチングやリーダーシップ育成を挙げてくれました。
また、バートレット教授自身が行なった2011年、2012年、2016年、2017年に行なったリサーチ(33,000ケースからなる360度フィードバック、マネージャーの評価、自己啓発、コーチング、他人を育てるなど)から、エンゲージメントとパフォーマンスの関係を探っています。「エンゲージメントの方向づけるのは、従業員の成長を助け、見守ることである」と言います。
Inspire them(従業員を動機づける)とは、ここで一つ問いかけがありました。「働き始める初日を覚えているだろうか?」
この初日のために、靴を磨いたりするなど、何か準備をしたことでしょう。そして、多くの例にあるように、ほとんどの従業員たちは、働く初日は、熱意のある従業員でエンゲージをし、せっせと働き、組織に貢献することに熱意を持っていました。このことからも、マネージメントは、とても重要な役割を担っていることが言えます。例えば、Job Description(職務内容)の記述は、授業員を奮いたたせ、興味を引きつけ、認識させます。リーダーの出来不出来は、エンプロイ・エンゲージメントの結果に大きな影響を与えると言います。
最後のReward them(従業員の労に報いる)とは、報酬や福利厚生だけでなく、経験、感謝など社員の働きに報いることも含みます。新世代と言われる若者たちは、経験できることに重きを置いています。また、感謝や報酬を受けることの選択が、従業員側でできるようにすることも重要です。
◆エンプロイ・エンゲージメントの解釈は変化する
◆エンプロイ・エンゲージメントの解釈は変化する
最後に、エンゲージメントは、ただの調査道具や単なるデータや評価の要素であることから変わりつつある、と言います。それは、戦略にとって重要で、リーダーシップの育成に強い結びつきがあるものへと認識が変わってきています。そして、日々の生活の上で、自分に問いかけ、自分で考え、自分の気分を上げ、反省してゆくことも重要です。バートレット教授は、マネージャーが従業員のエンゲージメントを左右する上で、とても、重要な役割を果たしていると強調されました。やる気をあげたり、ストレスへの対応を助けるだけでなく、大切な言葉「ありがとう」を言ってあげることも重要です、とつけ加えました。
参考文献
- Closing the Engagement Gap
Julie Gebauer & Don Lowman
- College of Education and Human Development
http://www.cehd.umn.edu
ケネス・バートレット教授のプロフィール
ニュージーランド出身。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校Human Resource Development で、博士課程修了、PhD 取得。現在、ミネソタ大学教授OLPD(Department of Organizational Leadership, Policy, and Development)所属、人材開発分野を専門とする。
http://www.cehd.umn.edu/olpd/people/faculty/
日本ミネソタ会(Japan Minnesota Association)
ミネソタ大学同窓会のメンバーが主となり1984年7月22日に発足。アメリカミネソタ州との親善・情報の交流ならびにミネソタに興味ある会員相互の親睦を図っています。
(ミネソタ会ホームページより) https://minnesota-japan.jimdo.com
- Insight Vol.91 2017.4月号
- 編集部会から『響』
- 特集1:『職場の問題地図』から考える本当の働き方改革~残業だらけで休めない働き方をいつまで続ける!?~
- 特集2:『デスマーチはなぜなくならないのか IT化時代の社会問題として考える』を読む~ソフトウェアエンジニアの「働き方改革」実現に向けて~
- 特集3:『働き方総点検 多事総論!』~経営学の視点から働き方改革議論を総ざらい~
- 寄稿:巨大不祥事を対象とした人事考課システムの考察~エンロン事件におけるPRCシステムの断罪~
- <海外専門誌から>:HRマガジン翻訳「人事分野における9つのIT技術活用動向」
- 寄稿:人事セミナー Employee Engagement 人材を活かす組織マネジメント
- 連載:ぶらり企業探訪<フォトクリエイト>
- リレー連載:自主研究会おじゃマップ 第1回「れこると♪」