HR Magazine: November 2016

女性活躍
職場の男女共同参画は22世紀まで起こらない可能性があるとの統計が発表された。しかし、人事のプロフェッショナル達こそが、この100年戦争を勝利に導く立場にあるのである。


Wemen’s Work
The latest stats indicate that workplace gender equality may not happen until the 22nd century.
But HR pros are well-positioned to help their organizations win this 100-year war.
By Dawn Onley


◆職場の男女共同参画に向かって

 様々な意味で、世界の舞台でも職場でも、今年、2016年は、女性にとっての転機の年となったと言える。ヒラリー・クリントン氏が、初めてアメリカの女性大統領候補となっただけでなく、女性就労に関しての法整備が優先的に行われ、女性の能力活用に関しても高い関心が集まった。

 カリフォルニア州及びニューヨーク州では、今年1月に男女同一賃金法を制定し、8月にはマサチューセッツ州が初めて、報酬差異の継続に繋がるような給与履歴に関しての質問を求職者にすることを全面的に禁止する法律を制定した。

 また、昨年は、Netflix社、Microsoft社を含む大手IT企業が、有給父親育児休業制度を導入し、今年の初めには、キャンベルスープ社が、26週もの長期にわたる有給育児休暇を両親が取れる制度を導入した。

 Society for Human Resource Management(SHRM)の「2016年度:従業員報酬研究レポート」によれば、雇用者の半数以上が在宅勤務やフレックスタイムなど柔軟な勤務体系の選択肢を提供している。

 しかし、それでも、Facebook 社のCOOシェリル・サンドバーグ氏(Sheryl Sandberg)は、「まだまだ、男性が世界を動かしている。女性の活用は、上手くいっていない。特に、シニア・リーダーシップ・レベルで、女性は、まだ対等ではない。」と、今年初めに、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム(World Economic Forum)で、世界的リーダーたちの前で語った。

 事実、McKinsey & Co. とLeanIn.org の報告によると、現在の進歩率では、男女格差解消には100年以上かかるとのデータが示されている。また、42カ国のデータを分析したマーサー社の「女性活躍レポート2016」では、企業の全ての層において女性が過小評価されており、経営幹部レベル(C-Suite)においては、女性は、約20%弱しかいないことが分かった。

<男女別・経営への参画 2016>
エントリーレベル マネジャー 部長、本部長 副社長 上級副社長 経営幹部(CEO, COO, CFO等)
男性(%) 54% 63% 67% 71% 76% 81%
女性(%) 46% 37% 33% 29% 24% 19%
◆人事のコミットメントが無ければ、男女共同参画は進まない

 男女共同参画の問題は困難且つ複雑であるが、人事のプロフェッショナル達は、それらの問題解決に向けて変革を起こすことが出来る立場にある。なぜなら、人事部門の殆どは女性で占められており、また、米国労働統計局(BLS)によると、人事の管理職者の約80%が女性である。但し、男性の人事管理職者は平均して女性の人事管理職者の40%以上の収入を得ている点は、改善しなければならない。

 「人事は、企業の変革において、重要な役割を担っており、女性のリーダーシップにおいても人事がコミットしなければ、男女共同参画は進まない。」と、ウェブサイト、“InHerSight”のCEO、創設者、ウルスラ ミード氏(Ms. Ursula Mead は、語る。

<ウルスラ ミード氏(Ms. Ursula Mead)>ウェブサイト、“InHerSight”のCEO、創設者


 男女不均衡の根源は、文化にあり、未だ、女性の貢献度を男性よりも低く評価することがディフォルト環境となっている。このような環境に、人事は、影響を与えていかなければならない。

◆ギャップの存在を認識すること

 「Jason Economic Democratic Staff」の男女賃金格差報告書(The Gender Pay Equequality:Women、Families and Economy)によると、2016年、男性が1ドル得るのに対し、女性は79セントの賃金しか得ていない。また、全ての教育レベルにおいて、女性の所得のほうが低い。また、女性の所得が低い理由として、子育てをする為に低い賃金層の職業に移っていることもあげられている。

 1963年の米国均等賃金法で、同じ職場の男性と女性に同等の賃金が支払われることとされているにもかかわらず、未だに、男女の賃金不均衡は続いている。雇用主をはじめ人事も賃金分析等の実施により、賃金の公正な支払いを保証するよう積極的に取り組むべきである。

ミード氏のウェブサイト、“InHerSight” で行った15,000 人の女性アンケート結果によると、「有給休暇」、「賃金報酬」、「働きやすい同僚」の内、女性は、「有給休暇」を一番希望している。


◆バイアス(偏見)を排除すること

 女性への偏見は、まず、女性の名前が記載された履歴書を提出する瞬間から始まる。氏名を伏せた履歴書にて、スクリーニングを行えば、男女平等の評価が可能になる。

 また、給与の交渉の際にも、男性より女性の方が、低い給与レベルで交渉される可能性が高い。また、女性の方がもともと低い賃金である為に、前職の給与がそのまま反映され、転職後も引き続き低い賃金のままで雇用されるケースも多い。女性は、交渉力を身につけることが必要である。

◆柔軟な対応を行うこと

 男女格差を生み出している最も大きい理由は、やはり育児にある。女性の方が、一般的に、子育てにおいて、より責任を負うからである。より柔軟な職場環境を提供することが、企業は、より多くの女性を維持し、賃金や各階層において男女平等の促進に役立つ。

 人事リーダーは、部分的または完全な在宅勤務制度、フレックスタイム制度、短時間勤務の正社員制度等のオプションを導入するべきである。

◆ガラスの天井に石を投げる

 男女賃金格差のもう一つの要因は、シニア・リーダーシップの役割における女性の過小評価である。トップレベルのポジションには高額の報酬が支払われる。従って、女性もそれらのトップレベルのポジションにもっと到達できるようにすることが必要である。

 男女平等機会を作り出すことに成功している企業では、どのポジションに誰が着任し、昇格しているかを管理・評価し、必要とされる経験を多様な従業員に提供することに注力している。

 世界的には、女性が保有するシニア・リーダーシップの割合(24%)は過去5年間でわずか3%しか増加しておらず、上級管理職の女性を持たない企業の割合にいたっては過去5年間約33%程度に留まったままである。「これは、企業の3分の1が、経営幹部の意思決定に女性の意見を取り入れてもいないし、リーダーとして事業の成長を支援している女性を保持していないということである。

◆一筋縄ではいかない男女均等問題

 一方、マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(McKinsey Global Institute)は、4月に、女性が職場で完全に均等活躍できるようになれば、米国は2025年までに国内総生産(GDP)に最大4.3兆ドルを追加することが出来るという報告を発表した。

 今日、女性が自身に最も適した社風を持っている企業を捜す為のツールは幾らでもある。従って、優秀な人材を引き付けて保持したいのであれば、女性に優しい企業であることが、自社の優位性につながるのである。

 人事のプロフェッショナル達は、フレックス制度、育児休業、報酬の満足度の向上、メンタリング、管理職投与への機会等を提供し女性に優しい企業風土を形成する重要な役割を果たす。

 だだし、これらを人事のプロフェッショナル達だけでは、達成できない。企業のトップマネジメントを巻き込み、協力得ることが必要なのだ。

 「職場で男女平等に到達するまでに80年から100年もかかるかもしれない」と言われていることを考えると、男女共同参画問題の解決は、容易ではない。

 しかし、ミード氏は、企業レベルでの良いデータ、透明性、アカウンタビリティ(つまり、私たちが重視しているもの)があれば、思ったより早く達成出来ると信じていると言う。

 ミード氏のウェブサイト、“InHerSight”では、どの企業が、女性に優しい企業なのかを評価出来る。

<女性を経営に上手く活用しているのは、どの企業なのか?>

(要約:インサイト編集部員 黒田 洋子)


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