JSHRM会員の誌面交流の場として、会員の方から寄せられた自己紹介や日ごろ考えていること、問題・課題意識などをご紹介します。

オリンパス株式会社 中野 恵一 氏

ゲスト:オリンパス株式会社 中野 恵一 氏

9月初めに事務局より、会報誌にて自己紹介を投稿するようご依頼いただきました。どうしたものかと思いバックナンバーを遡ると、Vol.96にて新シリーズとして始まったばかりで、まだ8名の方が寄稿されたに過ぎず、私のような新参者がお引き受けしてよいものかと正直、躊躇しました。しかし「異色の理系人事マンの視点」で書いてみよ、ということでお声がけ下さったようですので、これまでの経歴を現在の人事としての取組みにも絡めてご紹介することで、JSHRM会員の皆さんとのネットワーキングの端緒にできればと思います。

さて、COVID-19の対策にも貢献し始めたことで「富岳」というスーパーコンピュータの名前をお聞きになった方も多いかと思います。あるいは近年、AI(または機械学習)やビッグデータの処理が様々な分野で実用化されています。このような高性能計算(High-Performance Computing)には「並列処理」という技術が欠かせません。私の元々の専門は、この並列処理を効率よく実現するソフトウェアの研究です。

そんな研究を修士で終え、平成元年にオリンパスに入社して画像処理に関する研究に従事しました。当時、皆さんが現在も画像データのやり取りに使われているJPEGが、ちょうど国際規格として標準化されようとしており、それに対応した世界初のデジタルカメラの開発に関わるのが最初の仕事でした。それが一段落すると「博士号を取得して来い」と言われ、恩師に相談して出身研究室に社会人学生として戻ることになりました。修士以来の研究を継続する傍ら、インターネット商用化の前でしたが大学での利用は始まっていましたから“(今に至る)ネット”のヘビーユーザでもあった“学生生活”を3年過ごしました。

会社に戻り、自社技術の外売りのための技術マーケティングを担当しつつ、労働組合役員を3年務め、ポイント制退職金への移行設計等にも関わりました。これが“人事”に関わるきっかけで、後にこの時の学びや経験がとても役に立つことになります。特に意識していた訳ではないですが”Planned Happenstance Theory”がある程度、実践できていたのかもしれません。

組合活動を卒業したタイミングで、入社以来の上司が新事業創生の責任者となっており、そこに呼ばれました。個人的には、研究所の成果がなかなか事業に結びつかない状況を打破したいという思いもあり、社外の企業やベンチャーキャピタルを絡めた仕組み作りを始めました。今で言うオープン・イノベーションですね。ところがその過程で、米国ベンチャーが持つ技術に出会ったのですが、それが私の専門にとても近いことが分かり、これは自分がやるしかないと受け止め、技術ライセンスを受けるベンチャーを創業しました。オリンパスにとっても重要な技術ではあるものの自社内にはほとんどない技術だったため、技術者は全員、外部から採用しました。ここでの「リファラル採用」の威力は大きなものでした。

しかしその後、ITバブル崩壊の影響でライセンス元の技術進化が途絶えてしまいました。一方、約20名にまでなった技術者チームは、ハード・ソフト・システムをカバーできる有望な組織となっていました。そこで他技術への転換などもチャレンジしましたが、最終的には現在で言うところのアクイ・ハイアリング(acqui-hiring)を意図して完全子会社に移行させ、退職金制度や人事評価制度の独自設計も含めてPMI(Post Merger Integration)を進めました。その結果、今やグループ内にユニークな技術者集団として定着しています。

ただその過程では、本体側にその価値を理解できる主体がなければうまく行かないという課題も認識したので、本体のR&Dに戻ってソフトウェアの専門組織を新設する戦略を描き、立ち上げました。その戦略では、ソフトウェア/システムの領域をリードする人材の育成強化にも取り組むこととし、ソフトウェア開発専門の子会社とも連携して、教育研修プログラムを開発しました。このプログラムが、ほとんど“人事”がやっていてもおかしくない内容だったことが、その後、人事組織に人材開発機能を担当する部署を新設することになった際に呼ばれることになった遠因でした。

この新部署の立ち上げから4年半、研修体系の整備や、選抜系の経営人材育成プログラムの再構築、あるいはジョブ型人事制度への移行に伴う研修開発などに取り組んでいます。それにあたってはATDを中心にして勉強させてもらっており、2017、18年はICEにも参加して人材開発系の皆さんとの交流が広がりました。それに加えて、人事組織内のメンバー育成施策も担当することとなったため、人事全般をカバーできるようSHRM会員にもなり昨年はラスベガスの大会にも参加しました。本会には、その事前学習のため入会させてもらい、以来、研究会や月例会にて理事はじめ多くの皆さんにご指導いただいています。

そして今後は、以上の経歴をベースにテクノロジーと人材開発、言わばHR“D”techの切り口で社会貢献できればと思います。引き続きよろしくお願いします。