JSHRM会員の誌面交流の場として、会員の方から寄せられた自己紹介や日ごろ考えていること、問題・課題意識などをご紹介します。

ゲスト:株式会社インストラクショナルデザイン代表/ATDネットワークジャパン副代表 中原 孝子 氏
加速されるラーニングのデジタル化とパーソナライズラーニング
パンデミックで進んだラーニングのオンライン化
昨年は、緊急事態宣言によって自宅待機を余儀なくされ、やむなくオンラインビデオ通話システムを使って「集合研修のコピー」をZOOMなどで展開したという組織は多かったと思います。あれから1年以上。世界中が同時に見舞われたCOVID-19パンデミックによって、テクノロジーは急速な進展を見せ、ビデオ通話におけるリアルタイム翻訳キャプションなどを可能にするテクノロジーも現れ始め、「言語」の壁を越えた同時コラボをより容易なものにしようとしています。
データ・ドリブンな世界が広がる中「DX」も叫ばれ、元々その必要性が言われていた人事周りのテクノロジー導入の必要性でしたが、「研修」に関しては、まだまだ「集合研修」を主としたアプローチが取られ、「学習」のデータは、その「参加」記録のみ、というようなデジタル時代には程遠い状態だった組織も多かったのではないかと思います。しかし、今日々「Webセミナー」の情報が押し寄せ(Webセミナーやその動画を見ることが「学び」になるかどうかは別として)、集合研修を提供できなくなったのでその代替え的に既存e-ラーニングコースを導入したところもあるでしょう。いずれにしても、日本語でのオンライン上での学習機会は一昨年に比べて大幅に増え、オンライン上で学ぶことに対する抵抗が低くなったことは、変革を進めなければならなかった組織にとって、大きなメリットであったかもしれません。
また、オンライン化が進んだことによって、本来何を「集合研修」するべきだったのか、というインストラクショナルデザインの基礎とも言える習得目標や研修ゴールに沿った研修手段の選択や集合研修における学習の質の提供を真剣に見直す動きも出始めています。
さて、そのような状況下で、リモートワークが進むことと相まって、ラーニングマネジメントシステム(LMS)を導入した、タレントマネジメントシステムを導入したところもあるようです。しかし、その活用はどうかというと、単なる記録のデジタル化になっていたり、既製で組み込まれている機能の一部を使っているのみで、その戦略的な人材育成戦略への活用や、インパクトデータの収集などがほとんど進んでいなかったりという状況も聞きます。
いずれにしても、デジタル化やオンライン化が進むことによって、タレントマネジメントや人材開発に関わる担当者や部門には、より多くの専門性が求められる(AIとの差別化のためにも)ようになってきました。
パーソナライズド・ラーニング
さて、そのような中で、いよいよ進んでいたのが、「パーソナライズド・ラーニング」です。
各人の学習ニーズに合わせ、また、業務推進や業務課題、組織課題の適時性と絡めて、各個人にオンスポットで必要とされるコースやモジュール、はたまたナレッジを推奨して学習のパスやその経験を個人に合わせた形で進められるようにしたラーニングジャーニーの設計をするのがパーソナライズド・ラーニングです。
すでに多くのLMSやLinked-In Learningのような既製コースを提供するラーニングプラットフォームには、バックグラウンドでAI(機会学習)テクノロジーを使って各学習者に対してその人の好みや学習傾向に合わせたコースを推奨する機能が備わっており、それらのラーニングプラットフォームに規定されたアルゴリズムによって学習パスをパーソナライズすることが行われています。では、それらの機能は、組織がもとめる人材に対するケイパビリティ―やタレントマネジメント戦略とつながった形で提供されているでしょうか?
残念ながらそれらの機能を旨く使うことが出来ている組織は少ないようです。
しかし、今デジタル化に踏み出した組織にとっては、それらのシステムやラーニングプラットフォームの導入を初めの一歩として「デジタルラーニングカルチャー」構築を同時に進めるチャンスかもしれません。
ラーニング環境の設計
パーソナライズド・ラーニングに欠かせない第一歩は、人材開発や研修を提供する側のマインドセットを変えることかもしれません。研修を企画提供する側の都合に合わせた“One-size fits All”型のイベント提供的アプローチから、学習を必要とする人が必要な時に必要な情報や支援を得ることができるJust in Time学習できる学習者のコンテクストに沿ったアプローチが必要です。そのためには、同期型のオンライン研修や集合研修や集合研修への補足的な形でのブレンド型研修の提供だけではなく、今ある学習資産をできる限り小さな習得目標単位や業務課題単位に「チャンク」し、コース学習だけではなくラーニングコンテンツやナレッジを整理し、ラーニングマネジメントシステムを介してアクセスできるよう整備する必要があります。(図)

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