人材育成担当者にとっての「探索」と「深化」
~理論の世界と実践の世界を越境する~

 アンラーニングリスキリングリカレントなどの言葉が引き続き喧しく語られています。人生100年時代を迎え、働く期間が長くなると同時にキャリアの棚卸しや学び直しの機会も増えていきます。これらを支援する企業にとっても今後研修(人材育成)部門の役割はより重要になってくるように感じます。では、研修(人材育成)部門はこれまでどのような取り組みを行い、これからどのような取り組みを指向していけば良いのでしょうか。

 研修(人材育成)と問われれば、OJTOFF-JT自己啓発の3つの単語をイメージされる方が多いように思われます。多くの企業の研修(人材育成)は、この3つの単語をベースに体系化され、個別メニューが企画・実施されてきたように思います。巷に溢れる研修(人材育成)関連のアンケートや調査でも、OJT、OFF-JT、自己啓発の3つの観点からアンケート調査や分析、考察をした内容が多いように感じます。確認ですが、OJTとは、「On the job Training(日常業務をベースとしたトレーニング)」、OFF-JTとは、「OFF the job Training(職場を離れて、研修会場等(昨今ではオンライン環境)で実施されるトレーニング)」、自己啓発とは、「会社や上司からの指示ではなく、自ら主体的に学ぶこと」を意味します。いずれにおいても、「学習」のプロセスを伴います。では、「学習」とは何なのでしょうか。

 OJT、OFF-JT、自己啓発における学習とは、職場での学びが中心です。しかしながらそのメカニズム(理論や概念)を理解している研修(人材育成)担当者は意外と少ないのではないでしょうか。例えば、リフレクションフィードバック経験学習職場学習越境学習コーチング研修転移などの理論や概念について、専門家は勿論のこと、実務家はどの程度理解しているのでしょうか。インターネット検索等容易に情報検索・収集ができる昨今では、業務多忙からどうしても表面的理解に留まり、本質を理解していない場合も多いように感じます。

 人事実務の世界で話題となる研修(人材育成)が「経験と勘」レベルで語られる状態から、理論や概念に基づいて語られる状態へと進化した点は評価できますが、本質を理解するという点では更なる踏み込みが必要かも知れません。これからの研修(人材育成)担当者に必要なことは、研修(人材育成)に関する理論や概念について、表層的ではなく、本質レベルで理解するスキル(知の深化)と、理論や概念を研修(人材育成)の現場で実践(トライ&エラー)するだけでなく、PDCAサイクルマネジメントやリフレクションなどを通じて最適化できるスキル(知の探索)。つまり、両利きのスキルが要求されるのかも知れません。こうしたスキルの獲得を目指して、社内だけでなく、社外にも積極的に意識を向ける越境思考と、当協会のような組織から学ぶ越境学習が有効な選択肢のひとつかも知れません。


JSHRM 執行役員『Insights』編集長 岡田 英之
【プロフィール】
1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等にて20年間以上に亘り、人事・コンサルティング業務に従事する現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員 ■2級キャリアコンサルティング技能士 ■産業カウンセラー ■大学キャリアコンサルタント ■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)