2022年7月28日に特別セミナー『未来の人事が担うべきこととは!?~「人事×アート」によって働く人の気持ちを引き出す~』がオンラインにて開催されました。本セミナーでは、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社の岡本努さん(組織・人事コンサルティング部門共同責任者 執行役員パートナー)、株式会社OVERALLsの赤澤岳人さん(代表取締役社長)を登壇者としてお迎えし、「人事×アート」の観点から、組織の方向性や個人の感情・気持ちを表現するチャレンジについて、事例紹介とご提言をいただきました。

セッションの冒頭に岡本さんより今後の人事の期待役割として、目利き力を生かす「チェンジのコーディネーター」、従業員の気持ちに寄り添い、良質な体験をデザインする「個人の想いを叶えるエージェント」、そして自律的に動ける環境を創る「戦略と感情、気持ちのオーガナイザー」があるという解説をいただきました。これまでの人事は調整やコントロールに重きが置かれていたものの、今後は「プロデューサー」としてより動的な役割が求められるとのことでした。

続いてOVERALLsさんのアートを自己表現やコミュニケーションのツールとして活用した取り組みが紹介されました。単に写真や言葉が並んでいても多くの人は気に留めることはないであろう、企業理念や社史、会社の未来といった、企業の想いや文化。これがアートとの掛け算によってOVERALLsさんが手掛ける壁画アートやオフィスアートに形を変えることで、思わずふと立ち止まって注目してしまうようなものになっていきます。そんなアートについて話し合う会議で、その会社の従業員から漏れ出てくるのは「なんとなく、これ好き 」「なんかわかんないけど良いよね 」「でもこれは嫌。理由はないけど」といった、感覚や直感に基づく言葉の数々だそうです。「なんとなく」や好き嫌いに基づく発言は、普段のビジネスでは忌避されがちであり、これらの言葉が発せないのが、今の日本の会社の課題ではないか、と岡本さんは投げかけます。人材マネジメントにおいても、エンプロイーエクスペリエンスやエモーショナルインテリジェンス(EQ)など、経験価値や感情に注目が集まる一方、企業がそれらを扱いあぐねたり、ビジネスにおいては論理的かつ理性的であるべきという考えから従業員個人も感情を抑制してしまう傾向がまだ存在しています。しかし、これほどOVERALLsさんの壁画アートやオフィスアートに共感が寄せられるのは、誰しもが多かれ少なかれ自身の感情を認められたい、という欲求を持っているからではないでしょうか。

また、時代の変遷とともに若い世代の消費行動や人々のニーズも変化し、「HOW」から「WOW」へ、スペックではなく感情が満たされることに価値が置かれるようになっています。原発事故で長らく帰宅困難区域となっていた福島県双葉町で、壁画アートが人々の心を動かし、行動に向かわせたように、コミュニティにおいても「HOW」のアプローチでは突破できなかった壁を「WOW」によって切り開かれた取り組みが紹介されました。その他にもセミナー内でご紹介いただいた数々の事例はいずれも圧倒的な迫力と説得力があり、オンライン上であっても伝わってくるポジティブな熱量が非常に新鮮でした。全体ディスカッションでは、アートを取り入れるのに抵抗感がある層を説得する方法や、リモート時代におけるオフィスアートのあり方などが議論されました。

HRテクノロジーやAIの活用など、効率的なオペレーションや経営・人事戦略実行のための人事分野における「サイエンス」との結びつきが強調される昨今、組織あるいは個人としての「ひと」と向き合う人事において「アート」の要素を捉えることがますます重要性を持つようになっています。一人ひとりが自分の感情が表現でき、かつ自律的に動ける場を人事としてつくっていくためには、時代の流れを捉え、これまでに協業する機会がなかった社内外のパートナーと組むことや、繋がりが薄かった異分野から学ぶことが重要であり、その一つの解が今回紹介されたアートを通じて感情に訴えかけ、自己開示や感情表現を引き出すことなのではないかと感じました。

JSHRM編集員 河村 綾子