短時間の講演会となりました。その要約を紹介します。
お二人からのスピーチご協力に感謝いたします。

ニッセイ基礎研究所 主任研究員 松浦 民恵 氏

ニッセイ基礎研究所 主任研究員 松浦 民恵 氏

ゲスト:ニッセイ基礎研究所 主任研究員 松浦 民恵 氏
日本生命保険相互会社の人事担当、東京大学社会科学研究所特任研究員等を経て、現在はニッセイ基礎研究所生活研究部主任研究員。博士(経営学)。専門は人的資源管理論。主な研究テーマは女性活躍推進、ワークライフバランス等。JSHRM会員。



 本日はダイバーシティを阻害している要因や、ダイバーシティ・マネジメントの実効的な進め方について、改めて考えてみたいと思います。

 そもそも、ダイバーシティの本質は「『異質・多様』を受け入れ、違いを認め合うこと」です。多様な人材がそれぞれの持ち味を生かしながら活躍できてこそ、ダイバーシティ・マネジメントが効果を上げていると言えます。例えば女性社員が多くても、一まとめに扱い「女性目線」の発想しか期待しないようでは、多様性が生かせているとは言えません。単に多様な人材を雇用するだけではだめなのです。

◆同質性のマネジメントから脱却するときが来た

 日本企業ではこれまで、男性正社員を勤務地や勤務時間に制約のない同質的な集団とみなし、中核人材として活用し続けてきました。これをここでは「同質性のマネジメント」と呼びます。同質性が高い集団は、楽にマネジメントできる面もありました。同質であれば自然と仲間意識が高まり、あうんの呼吸で意思疎通が図れます。しかし逆に危機意識やグローバル競争への耐性が低下し、多様な人材をマネジメントする能力の向上も阻害されます。また、集団の同質性に適合できない人材は高い評価を得られず、排除される傾向があるため、同質でない人は、同質性を装わなければならない、息苦しい状況です。

 同質性のマネジメントは日本社会に深く根付いています。「20時一斉退出」や「男性の育児休業取得100%」など、ダイバーシティを推進しようとする政策も、このように「例外を認めない」手法のほうが、効果が上がりやすいという皮肉な事実があります。また、元来人は多様な存在のはずなのに、今の日本では老若男女問わず「空気を読む」ことが求められます。このように過度な同質性が求められてきた結果、企業のみならず、社会全体に多様性を排除するメカニズムができあがってきました。

 一方ビジネスシーンでは、先端的市場での競争優位性を確保するため、多様な視点や変革のマインドを持つ意欲・能力の高い人材が求められています。労働力人口が減少する中でよりよい人材を集めるには、同質性の縛りを緩める必要があります。多様性を活かすダイバーシティ・マネジメントへの転換はもはや不可避です。

◆多様な人材を意識的に増やし、コントロールする

 同質性のマネジメントから脱却するには、まず人事部が変わることが重要です。

 人事部は、新卒採用から幹部候補を選抜・育成に至るまで、一貫して強い権限を有しています。ですから人事部には、多数派である同質性の高い集団の中でも特に配慮が得意な手堅い人材が配属されやすく、集団の同質性を一層凝縮させる傾向があります。まずは人事部が同質性から脱却し、人事制度の設計に関わる重要なポジションに多様な人材を配置することが、ダイバーシティ・マネジメントを成功させる第一歩となります。

 次に、多様な人材を積極的に採用するべきです。幹部候補の中に多様な人材を3~5割程度混在させられれば、多様な人材も一定の発言力を得て、社内でマイノリティにならずに済みます。

 また、働き方に制約がないことを前提とした人事制度を見直すことも大事です。たとえば一時的な転勤の免除や、働き方に制約のある社員が重要な会議に出席できるような工夫等によって、多様な人材の定着・活躍が期待できます。多様な人材を締め出さない仕組み作りが必要なのです。

 最後に、組織目標の達成に向けて、多様な人材をどのようにマネジメントしていくかという問題です。多様であるがゆえに意見の食い違いも多く、ダイバーシティ・マネジメントは手間がかかります。多様性を許容し、活かしながら、一方で組織目標の達成に向けて多様な人材を統合していく必要があります。

 ここで2014年に行った、人事担当者へのアンケート結果をまとめた「In-Di モデル」をご紹介します。ここでは「経営・事業のイノベーションに対する貢献度」と「多様な人材の活用度」の大小で、企業を4つのタイプに区分しました。また組織目標の達成に向けた人材統合のスタイルは、「経営理念・組織文化」「業務プロセス・ルール」「成果・パフォーマンス」の3つに集約されると考えました。この4タイプの企業において、それぞれの人事がどの人材統合のスタイルを重視しているかを調べました。

 結果として、同質性が高くイノベーションもさほど求められない「企業内熟練型」では、どのスタイルも重視されておらず、統合の必要性がそもそも低いと推察されます。同質性は高いがイノベーションが求められる「体育会系型」では、理念とプロセスをある程度統合すれば、成果は自ずと出るようです。人材の多様性もイノベーションの必要性も高い「タレント型」では、理念や成果で統合し、プロセスにはこだわらない手法でした。最後に、最も統合の必要性が高いのは、イノベーションの必要性は低いが、多様な人材を活用しなくてはいけない「マニュアル型」で、このタイプでは、すべての人材統合スタイルが重視されていました。つまり、企業タイプによって、人材統合のスタイルは大きく異なります。

 同質性のマネジメントにおいては、組織目標の達成に向けた人材統合がさほど必要とされてきませんでした。しかしこれからの日本企業においては、組織目標の達成に向けて多様な人材をどう統合するか、という視点が欠かせません。自社にあった手法を実践していくことが、ダイバーシティ・マネジメントを成功させる上で重要であると言えます。

NEXT>>


目次