-企業人事と学生が本音で語る!入りたい企業・採りたい学生-

2022年2月26日に「JSHRMコンファレンス2021-企業人事と学生が本音で語る!入りたい企業・採りたい学生-」が開催されました。講演・パネルディスカッションに加え、学生と社会人のグループディスカッションも行われました。今回はその様子の一部をダイジェストでお届け致します。

◆開会挨拶:JSHRM会長 中島 豊 氏

 ミレーの「晩鐘」は、働くことの充実を描いています。一方、チャップリンの「モダン・タイムス」は機械の一部のように働く、賃金労働者を題材にしています。「働くこと」については、労働者側と雇用者側の両面から捉えることができますが、現在の労働法制・マネジメントの在り方は雇用者側からの側面を前提にしていますし、「働くこと」の苦痛・虚しさという要素が増えてきているという話もあります。しかしながら、コロナ禍で働き方そのものが変わってきており、オンライン・リモートで働くことが増えました。それにより、労働者側が自分達の働き方を選ぶこと、自分らしく働くことが可能になってきました。

 本日のテーマは「新卒採用」です。「新卒採用」は他国に例をみない日本独自の雇用慣行であり、バブル経済崩壊後も続いています。一方、コロナ禍で働き方が変わり、学生も自分らしい働き方を求めており、企業の採用も変化してきています。本日のコンファレンスでは、企業の人事の方だけでなく学生も含め様々な方が集まっていますので、ぜひ活発に議論いただきたいと考えています。

開会の挨拶:JSHRM会長 中島 豊 氏

◆中野 智哉 氏(株式会社i-plug 代表取締役CEO):『新卒採用市場トレンドとミスマッチ解消への取り組み』

 「つながりで世界をワクワクさせる」というミッションで新卒オファー型就活サービスを開発・運営するi-plugという会社を経営しています。本日は、「ミスマッチが起こる背景」と「ミスマッチ解消のポイント」についてお話しさせていただきます。

 まず、「ミスマッチが起こる背景」ですが、なぜミスマッチが起こるのかを考えると、企業と学生の情報格差によって起こります。コロナ禍で選考がオンライン化しており、学生一人ひとり、企業1社1社との関係性が深めづらい環境にあります。ある調査結果では、22年卒採用活動の動向について、50%の企業が「自社へのエントリー数」が増えたと回答する一方、30%以上の企業が「選考中の辞退の人数」および「内定辞退の人数」が増えたと回答しています。つまり、選考のオンライン化により母集団形成がしやすくなった半面、学生からの辞退が増加しています。企業側のリソースも限られますので、エントリー数が増加したことにより、落とすプロセスに多くの工数がかかり、学生に対する意向上げ・相互理解・フォローに十分な工数を確保できないという事態に陥っていることが分かります。

 続いて、「ミスマッチ解消のポイント」です。企業側としては、人材要件、選考基準が曖昧な場合、採用すべき学生を見極められず、工数ばかりがかかることになりますので、人材要件、選考基準を明確化することが必要です。また、23年卒就活生は「Z世代」となりますので、SNSに強く、周りと一緒に働くということを重視する傾向にあります。価値観も多様化しており、67%が将来的に転職する可能性があると回答している調査結果もあります。ミスマッチを解消させる為には、このような学生側の変化を企業側もしっかりと把握しておく必要があります。その上で、「企業が学生の価値観・知りたいことに寄り添ったコミュニケーションを行うこと」が大切であり、選考時から相互理解を深めることが重要だと考えます。

◆伊達 洋駆 氏(株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役):『オンライン時代の採用の留意点』

 研究知見を活かした組織サーベイ、人事データ分析を行っている会社の代表をしています。本日は、オンライン化が進む今、企業は何に気を付けて採用活動を行えば良いのかを研究知見をもとに企業の視点からお話し致します。

 まず、「採用の原理原則」についてですが、採用において重要なのは学生のニーズと企業のサプライのフィット(以下:「N-S Fit」)が高い状態が望ましいです。学生のニーズとは、「望む働き方や環境」であり、企業のサプライとは、「提供できる働き方や環境」をさします。従来、企業は、オフィスでの面接、OB・OG訪問、会社見学会等を通じてサプライを伝え、学生はオフィス等で会社の雰囲気を感じ取ることで「N-S Fit」を高めてきました。「N-S Fit」を高めることが学生にとっても、「こんな会社だと思わなかった」というリアリティショックを減らし、企業への志望度を高めることに繋がります。

 では、オンライン化が採用の原理原則をどう揺さぶったのでしょうか。オンライン化により学生はオフィス等で企業の雰囲気を感じ取ることができなくなりましたし、応対者の身振り手振り、視線などの「非言語的手がかり」が得にくくなってしまいました。そして、企業にとっても学生にとっても、「話を理解してもらえた感覚」および「相手の話が理解できた感覚」(以下:伝達感)が低下してしまいます。この伝達感の低下により、社員の人柄や社風などの企業のソフト面のサプライが学生に伝わりにくくなり、「N-S Fit」を低下させることになります。

 最後に「これからの採用のヒント」について考えたいと思います。これまでの話を整理すると、原理原則として「N-S Fit」が重要であり、オンライン化の影響で伝わりにくくなった社員の人柄や社風などソフト面のサプライをどのように伝えていくかが重要になります。実は、オンラインでは伝達感は低下するが、実際に理解できた程度は対面より高いという興味深い研究報告があります。つまり、オンラインは対面より理解できた感覚は低いが、実際には理解できているということになります。そのため、企業として大切なことは社員の人柄や社風などのソフト面の言語化であり、「見ればわかる」「話せばわかる」から脱却し、「社員の人柄」と「会社の風土」などを言葉で表すことが重要になります。また、会社の中が想像しにくい学生に対して、企業が学生のニーズの掘り下げを行い一緒になって考えることが、遠回りのようで、結局は採用を成功させることに繋がります。

◆沢渡 あまね 氏(作家/ワークスタイル&組織開発専門家):『人を惹きつける組織/遠ざける組織』

 先程、伊達さんのお話にあった、サプライとニーズの観点は非常に重要であり、企業にはイノベーティブな仕事ができる環境をサプライして欲しいと考えています。「旧態依然の社会構造・組織構造・マインド」が、意欲ある人材を遠ざけるのです。変化を生み出せるのは、経営者であり、人事の皆さんです。人事の皆さん自身が積極的に様々な働き方を経験し、その経験を自分の文脈に落とし、学生が魅力を感じる組織をつくりあげて欲しいと考えています。

 人を惹きつける組織の例として、浜松のめっき会社の事例を紹介します。この会社は従来、展示会や訪問営業を中心とした男性中心の気合と根性を重視した販売方法をとっていました。リーマンショックを契機に事業構造が揺らぎ、「めっき屋の景色をかえる」との考えから、マーケティングにデジタルを取り入れ、体力勝負から知力勝負へと戦うフィールドを変えていきました。また、テレワーク等の多様な働き方も可能にし、女性も働ける環境をつくり、多様な人材が価値創造に貢献できる仕組みをつくりました。その結果、コロナ禍においても、デジタルを使ったマーケティングにより、様々な顧客にアプローチすることができ、県外の顧客を増やすことができました。働き方を変えることで、勝ちパターン自体も変えることができるのです。

 最後に「人を惹きつける組織のキーワード」について考えていきます。キーワードは「ブランドマネジメント」であり、ブランドとはファンを作る力と言い換えることができます。それは、学生かもしれないし、地域の方かもしれない。ゴールはビジネスモデルの変革であり、働き方を変えると良いファンを繋ぎとめることができます。景色を変えれば、組織は変わります。そのためには、「あなたの組織は何をする組織か?」をぜひ言語化し、人事という仕事を通して組織のファンをどうつくるか?ということを考えて欲しいと思います。

沢渡 あまね 氏

◆【パネルディスカッション】

パネスディスカッションでの中野氏と伊達氏

コロナ禍で大学に入学し、サークル等にも参加できず、企業にアピールするポイントが無いことが焦りに繋がっています。企業はどのような学生を求めているのでしょうか?

中野 氏:学生の皆さんは、凄い成果を出した方が企業から評価されると思っているのではないでしょうか。実は、企業は、選考を通して、成果ではなく取り組みのプロセスや皆さんの価値観を知りたいと考えています。そのため、取り組みに対して、皆さんが感じたことを自分の言葉で話すことが大事だと思います。

伊達 氏:企業は、内容の凄さよりもその経験を通じてその人がどんな人かを知りたいわけです。要するに、企業のニーズに合っているかを判断したいわけです。そのため、自分を典型的に現わしている経験であればどのような経験でもいいですし、むしろ普段やっていることの方が、自分を表現できるのではないかと思います。外に出づらい環境であれば、学業でも十分な経験になります。

企業も学生も「言語化すること」や「言語化した概念を共有し合うこと」が下手なのだと思います。それらを鍛える方法はありますか?

伊達 氏:言語化の機会を増やすことが大事だと考えています。また、ボキャブラリを増やすことが非常に大切であり、論文や本などを読んでボキャブラリを増やすことで鍛えられます。

中野 氏:2つの観点があると考えています。1つ目は、無理に鍛えないということです。あまり、意識しすぎると「らしさ」が無くなると思っています。2つ目は、置かれている環境が異なる人と話をすることです。環境が異なる人に話を伝えようとすると、相手が理解できる文脈で伝えなければならず、自然と力が付きます。

お二人は、「仕事は楽しいですか?」。身近に「仕事が楽しい」と明言する人があまりいません。

中野 氏:プロフィールには書いていないですが、学校卒業後に4ヵ月間、所謂ブラック企業で働いたことがあります。大変なことも多かったですが、その時もお客さんと話をしている時は楽しかったです。結局、お客さんを騙すということができず辞めましたが、どんな仕事でも楽しさを見つけることはできると思います。

伊達 氏:仕事も色々な側面があるので、全てが楽しいとは言えないですが、仕事を楽しくするということはできると思います。ジョブクラフティングのように仕事に対する捉え方を変えることはできますし、仕事を楽しくするという視点が非常に大事だと思います。

転職が当たり前の時代になぜ新卒採用を実施するのでしょうか?

中野 氏:日本では労働市場の5%程度しか転職していません。そのため、企業は転職市場においてアプローチできる人が限られてしまいます。新卒採用の場合は、その年、社会に出る世代の全ての人にアプローチができるので、企業にとっても魅力があるのです。また、新卒で採用し、その企業にフィットした人材に育成することは、人の面で競合に対して優位性を持つことにも繋がります。

伊達 氏:新卒採用を主とするメンバーシップ型の一つの側面として、育成の連鎖ができるということが挙げられます。新卒で入社後、まずは簡単な仕事をし、徐々に仕事の難易度を上げていきます。毎年新卒採用を続けていると、少し年上の先輩が業務を教えてくれ、先輩を見ながら、将来の自分を想像することができます。新卒採用は学生の皆さんにとっても、育成という観点で魅力的な部分もあるのです。

◆閉会の挨拶:JSHRM理事長 藤岡 長道 氏

 今回は学生の皆さんの参加もあり、先輩諸氏に混ざって果敢に質問いただき感謝申し上げます。本日は、様々な立場の参加者が活発な議論を交わしてきましたが、「なぜ人事が必要か?」を考えると組織で働く人々の多様性を活かした上で、組織を統合していく必要があるからです。我々は、純粋な気持ちで人事の世界を活性化させ、元気にしていこうというNPO法人であり、様々な立場で人事の仕事に携わるメンバーが意見を交わし、自分を磨いていく場を沢山つくっていこうと考えています。この場がそのような場になれていれば幸いですし、学生を含め、幅広く議論が出来てとても楽しかったです。本日はありがとうございました。

【取材後記】

 今回のコンファレンスは、「新卒採用」をテーマに「3名のスピーカーによる講演」、「パネルディスカッション」、「学生と企業人事との交流」という濃密な4時間でした。特に学生と企業人事との交流会では、活発に意見が交わされ、参加された方は、学生の自分が社会に出てどう活躍するのかを真剣に考える姿勢に刺激を受けたのではないでしょうか。

 最近、「セルフアウェアネス(自己に意識を傾けること)」が注目を集めていますが、なぜ「セルフアウェアネス」が大事かというと、社会の変化が激しく「正解がない時代」に突入したからです。正解がない中で、自分の輪郭を描き、「自分の強み弱み」を共有しながらチームを作り、チームで変化に対応していくことが求められています。しかしながら、私自身、企業で働く中で自分の輪郭を描くことができている人はそれ程多くないと感じています。

 一方、学生は就職活動を通して「自分が何者であるのか?」を知ろうと必死になっています。この違いは、世代の差で片付けられるのか?それとも採用されることがゴールになっており、企業で働くにつれ「自分が何者であるか?」という問いから離れていくのか?ということを考えさせられます。もし後者のように、企業で働くにつれ自分を知ることから離れているのであれば、人事の責任は重く、企業で働く若者の可能性を奪っているのかもしれません。

 伊達さんが仰っていた採用におけるニーズとサプライのフィットや中野さんの仰っていた学生に寄り添うことは大事です。ただ、人事は入社した後も若者のニーズを知り、寄り添うことを蔑ろにしてはいけません。人事として社内の若者とも積極的に対話を続け、彼らのニーズを把握する。この時に若い世代だけに目を向け、上の世代のやる気を削ぐのではなく、上の世代も含めて活力を与えることができるサプライを考えることが重要だと考えます。

 では、どうやってサプライを考えればいいのか?沢渡さんが仰っていたように人事自身が積極的に様々な体験をし、その体験を踏まえてサプライを考えることが大切なのだと思います。人事が、働く景色を変えることができ、社内のファンを惹きつけるこができれば、学生という社外のファンも惹きつけることができる魅力ある企業になれるのだと思います。

 今回、「新卒採用」というテーマで学生の考えや想いに触れることができました。そして、学生に寄り添うことが大切だと気付かされたのと同時に、今働いている社員のニーズを探り、彼らを惹きつけるサプライを考えることが、より一層重要だということを考えさせられました。

(Insights編集部員:中村 薫)