少子高齢化社会で目覚めるシニア社員~雇用義務から積極雇用へ~

 内閣府は2022年6月14日、令和4年版高齢社会白書を公表しました。65歳以上人口は3,621万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は28.9%となりました。65歳以上人口は増加傾向が続き、2042年に3,935万人でピークを迎え、その後は減少に転じると推計されています。65歳以上の新体力テストの合計点は、10年前より向上し、健康寿命は男性が2.26年、女性は1.76年延びて、さらに平均寿命の延び(男性1.86年、女性1.15年)を上回っています。一方で、令和4年版少子化社会対策白書では、我が国の年間の出生数は、第1次ベビーブーム期には約270万人、第2次ベビーブーム期の1973年には約210万人でしたが、1975年に200万人を割り込み、それ以降、毎年減少し続けてきました。1984年には150万人を割り込み、1991年以降は増加と減少を繰り返しながら、緩やかな減少傾向となっています。2020年の出生数は、84万835人となっています。今後の少子化は加速することが予想されています。

 最近ネット上で「働かないオジサン」が話題になっています。「働かないオジサン」に関する記事やネットの論調を見ていると、「高い給料をもらっていながら、成果が出せない(出そうとしない)本人が悪い」、「今まで放置してきて、急に手のひらを返した会社が悪い」、「こうした状況に対して何も言わない(言えない)上司や人事が悪い」など、社内での犯人捜しや、責任の所在の追求のみにフォーカスした議論が多い気がしています。しかし、現在の「働かないオジサン問題」は、従来から言われ続けてきた「サボリーマン」、「本人が悪い」という程度の認識では捉え切れず、複雑な要因が絡んでいるように感じます。

 「働かない」とは言いすぎかも知れませんが、少子高齢化、人生100年時代を迎え、働く期間が長期化する中で、シニア社員の処遇に頭を悩ます企業は年々増加しているようです。某人材企業における2020年度調査結果を見ると、シニア人材の活用や活性化に課題を感じている企業は約50%に達したとのことです。課題の中身は、定年退職後の再雇用者のモチベーション低下が最も多いようです。

 一方で、人材開発や研修の予算配分では、シニア向けが約6%に留まります。2022年度総務省の調査では、働く高齢者は数も割合も年々増加しています。65歳以上の就業者数は906万人と17年連続で伸び、15歳以上の就業者数に占める65歳以上の割合は13.6%と過去最高を記録しています。

 また某民間シンクタンクの試算によると、役職定年に伴い50歳代社員が意欲と生産性を下げることで生じる経済的な損失は約1兆5,000億円に達するようです。「中高年の意欲を引き出し、キャリアの選択肢を広げられるよう企業は後押しすべきだ」と指摘しています。

 バブル期の大量採用もあり、シニア社員の活性化が課題になることはかなり前から指摘されてきました。終身雇用の下で、多くの働き手はキャリア形成を会社に委ねてきました。定年間近になって初めて身の振り方を考えるようではどうしても選択肢が限られてしまいます。当然ですが、早い段階から中長期的視野でキャリアビジョンを検討することは、労使双方にとってベターです。某大手製造業では、40~59歳の希望する社員を対象に、リカレント教育を開始したようです。「ロジカル思考」や「メタ思考」など数時間の講義と個人面談(キャリア相談)を実施することで、自身が持っているキャリアの棚卸しを促しているようです。

 企業の施策は、リカレント教育やキャリア面談の他にも多くあります。例えば、副業は社外での人脈を拡げ、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)構築にも有益です。職務を明確にした「ジョブ型」雇用は、スキルを意識するチャンスにもなるでしょう。成果重視のメリハリのある処遇も重要です。

 今後は労働市場の変化スピードも高まっていくでしょう。専門性を高めればシニアでも転職の可能性は大きく拡大します。VUCA時代における柔軟でしなやかな専門性を獲得するためにアンラーニングという考え方が有効です。学習棄却と呼ばれており、「これまで学んできた知識を捨て新しく学び直すこと」だと言われています。環境変化に対応するためには、新しい勉強だけではなく従来の知識を捨てる勇気も必要だという考え方です。松尾睦.仕事のアンラーニング.同文舘出版、2021、によると、プロフェッショナルであり続けるためには、自分の型やスタイルを確立するだけでなく、確立した型やスタイルを壊し、新しい知識やスキルを取り込むアンラーニングが必要となるとのこと。アンラーニングは学びほぐしとも訳され、硬直した知識・スキルをほぐして新しく組み立て直すことを意味するようです。

 今後も増加するシニア社員。変えるべきは企業側の意識です。「法規制があるから仕方なく雇用しなければならない」という雇用義務の意識から、「深刻な人員不足の社会を見据え、経験や知識があるシニア社員を積極的に活用して生産性を高めよう」という積極雇用に発想を転換する必要があるのではないでしょうか。


JSHRM 執行役員『Insights』編集長 岡田 英之
【プロフィール】
1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等にて20年間以上に亘り、人事・コンサルティング業務に従事する現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員 ■2級キャリアコンサルティング技能士 ■産業カウンセラー ■大学キャリアコンサルタント ■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)