官民共創HUBにおいて、企業の第一線で働くJSHRMのメンバーと日本の労働政策を担う厚生労働省のメンバーとが交流する場設け、官民の交流を行いました。今回は6月23日に行われた第1回目の内容をレポート致します。

株式会社千正組 千正康裕氏

厚生労働省においては、経団連等の業界団体とのやりとりはありますが、企業の第一線で働いている方々とのやりとりは少ないと思います。本日は企業の人事部が何をやっているのか?どういう機能を持っているのか?という点から理解を深めていければと思っています。また、企業で働く方の生の声を聞き、現場で何に困っているのかを理解する場になれば幸いです。

JSHRM 岡田英之氏

民間の人事労務の実務を担うメンバーは民間企業同士の交流は多くありますが、官の世界の人達との交流はほとんどありません。情報もそれほど入ってきませんので、どうなっているのか?というのが本音のところだと思います。今回、官民で交流を持ち、相互理解を深めることにより、ブレークスルーを見出せるのではないかと考えています。今回は1回目となりますが、継続的にやりたいと考えていますので、宜しくお願い致します。

NECライフキャリア株式会社 佐藤秀明氏

 まず、自己紹介を含め、厚生労働省の皆さんに民間の人事パーソンのキャリアについてお話をさせていただきます。私は、NECに入社し、最初は事業場の総務課に配属されHRとして様々な事を学んだ後、現場のHRと制度設計を経験し、グローバルでも現場のHRと制度設計に携わりました。その後、人事部長として全社政策に携わり、現在はNECライフキャリアという働く人達のキャリアを専門にした会社を立ち上げ経営に携わっています。私自身の経験を通じて思うのは、HRのキャリアとして、現場と制度設計とを行ったり来たりするというのが非常に重要だということです。
 民間企業での人事パーソンのキャリアパスを考えると、「事業」「職務」「社会文化」という3軸のディメンションに分けることができます。HRのリーダーとして「事業」「職務」「社会文化」のカバーできる範囲規模を広げていくキャリア、またはHRの専門家として特定領域での専門性を深めていくというキャリアが存在し、上司や関係者と話しながらどういうキャリアパスを作っていくのかを考えていくことになります。また、最近の人事のキャリアパスのトレンドでは、外資系企業等のHRへの転職により人事としての専門力を深めながら、経験組織の多様度を高めるといった傾向も見られます。
 次に人事部の役割についてですが、組織を設計して人をアサインしていくことが挙げられます。そして、仕事を実行してもらい、評価をし、フィードバックを行います。但し、このプロセスを回していくのは現場のマネージャーであり、組織内の個人と現場マネジメントが最適に機能するように制度を整備し、実行を支援していくことが人事として重要な役割となります。
 最後に、近年の企業人事部が抱えている課題として、「抱え込み・異質排除」から「ダイバーシティ&インクルージョン」への転換をどう進めるかが挙げられます。変化が激しい社会の中で今必要なことは、人材を流動させ、人材に選ばれる会社になることです。以前、リンダ・グラットンさんと話をした時に、「日本はオートノミーが弱い」と言われました。これからは、「出入りが自由な開かれた会社」を実現していく必要があり、そのためには行政も含めて取組む課題が多く残されているとことを提起して、説明を終わりたいと思います。

厚生労働省 宇野禎晃氏

 厚生労働省の労働政策の根底には「働く人を大切にする」という考え方があり、「公正の確保」「安定の確保」「多様性の尊重」の3点を軸に労働政策の立案を進めています。
 労働政策を実施するにあたっては、「法令」「予算」「組織」の3つの枠組みがあり、それぞれについて説明致します。1つ目の「法令」ですが、労働法の普遍的性格として、「労働市場」「個別的労働関係」「団体的労使関係」の3つの分野で規制していることが挙げられます。労使関係は基本的に不均衡であり、規制においては労働者保護を出発点としています。現在は、労働者派遣法等、一部規制を緩めている側面はありますが、保護法としての性格は変わりません。2つ目の「予算」については、財政においては、労働施策は一般会計を財源とすることがほとんどありません。なぜかと言うと、労働保険の保険料を財源として施策を行っているケースが多いからです。我々の問題として、労働保険の保険料を財源としているため、フリーランスの人から財源を徴収できない等が挙げられ、財源をどう確保していくのかが、課題となっています。3つ目の「組織」についてですが、大きな特徴として労働施策は都道府県単位ではなく、国の直轄で行うということが挙げられます。政策決定体系の特徴としては三者構成を原則としており、政・労・使の3者の審議会等により体系作られているということが挙げられます。基本的には3者の合意が無ければ、政策が決定できないというのが大きな特徴です。
 最後に、人材開発政策担当としての問題意識として、日本経済の活性化に資する働き方とは?学び・学び直しの機運の醸成をどう図っていくのか?ということが挙げられます。具体的な取り組みとして、公共職業訓練等の労働政策を通じて、再就職の促進および定着を高めていくということが必要になりますので、様々な属性に対してどのような教育を行えば効果があるかなどを分析しています。また、厚生労働省は様々な分野を管轄する為、職員が2年程度で異動をしており、専門性が不足する側面があります。そのため、民間の方々の知恵と経験を活かすことが重要であり、今回のような機会を活かして労働政策の企画立案に取り組みたいと考えています。

厚労省職員

組織の体質を変える場合、人事のバックヤードを強くする必要があると思いますが、いかがでしょうか?

佐藤さん

バックヤードを充実させることも重要ですが、一番重要なことは経営トップの意識を変えることです。では、経営トップの意識を誰が変えられるのか?ということですが、それはHRが担うべき役割だと考えています。一方、投資家からのプレッシャーも強くなっており、ある意味、資本主義のメカニズムが非常によく効いていると言えます。但し、資本主義のメカニズムは時に暴力的な側面もあり、行政の担う役割は非常に大きいと考えています。

人事担当者

政・労・使の3者構成による代表制の在り方の課題感はありますか?

宇野さん

「政」は当該分野の専門家である研究者が担う場合が多く、「使」は経団連等の団体の代表、「労」は連合が担うことになります。労働組合の組織率が低下しており、特に非正規の方々をどうするかの代表制の課題はあると考えています。

厚労省職員

働き方改革は定着したけれども、リカレント教育は定着しなかった印象があります。企業側として要因をどのように考えていますか?

人事担当者

リカレント教育の推進により、労働者が一時的に抜けてしまう可能性があり、誰が穴を埋めるのかということが課題となります。企業規模にもよりますが、中小企業においては1人抜けるインパクトが大きいため、浸透が難しかったのだと思います。また、経営に対して教育効果を数値で示す必要がありますが、人材育成の費用対効果は非常に定性的であり、総論賛成、各論反対に陥りやすいです。一方、働き方が改革については、罰則規定もあり、企業が対応せざるをえなかった為、浸透したとのではないでしょうか。

佐藤さん

リカレント教育については、世代によってセグメントを分けて議論することが好ましいと考えています。日本社会の抱える大きな問題として年金問題があり、年配の労働者の働く期間を延ばすことができれば、年金問題の解決の一助になると考えています。こちらについては、1企業だけでは取組むことが難しいため、行政としてぜひ取組みを進めていただきたいと考えています。一方、若手については、確実に自身のキャリアへの意識が高まっています。日本の課題であるオートノミーが高まっているとも言えますが、企業としては彼らから選択される魅力ある企業にならなければならないと考えています。

JSHRM事務局長 野村

今回は、第一回目ということで、お互いを知るというところから始めました。非常に活発な意見を交わせたと考えています。今後も継続して建設的な議論をしていきたいと考えておりますので、引き続き宜しくお願い致します。

以 上

JSHRM編集員 中村 薫