2022年5月31日のMeetUpにて、元厚生労働省の千正康裕さん(株式会社千正組代表取締役)による「霞が関キャリア官僚の未来をデザインする~働き方、組織、キャリアの新しいプラットフォームを思考する」を開催致しました。その様子の一部をダイジェストでお届け致します。

岡田 英之 氏(人事制度研究会代表)
開催にあたって

 昨今、霞が関のキャリア官僚の働き方について、良くも悪くもメディアで報道されていますが、実態はどうなのかということを、千正康裕さんに話をしていただきたいと考えております。また、民間企業とキャリア官僚の働き方の類似点や異なる点についても、お話をいただき、聴講者とインタラクティブなやり取りができればと考えています。

千正 康裕 氏(株式会社千正組代表取締役)
 私は2001年に厚生労働省に入省し、19年に退官しました。事務官として主には法律改正に携わってきましたが、秘書官として政治サイドの動きをサポートしたり、インド大使館で日本の医療機器の審査を緩和するための働きかけをしたりしました。他にも省全体の調整、採用活動、業務改善などを幅広く経験してきました。また、自分が書いた条文が社会にどのような影響を与えているのかを知りたくて、休みの日にNPOや中小企業を訪ねて話を伺うという事もしていました。

 霞が関から離れた後に「ブラック霞が関」という本の中で、霞が関の官僚がいかに過酷な環境で働いており、このままでは国民のために働けなくなるという危機意識を書きました。民間と霞が関の違いの一つに統治の違いが挙げられます。民間は数字のガバナンスが効くと思いますが、霞が関は倒産がないので数字によるガバナンスが効きづらいです。霞が関に効くガバナンスは外圧によるものであり、数字的なガバナンスが効かない代わりに民主的なガバナンスが効きます。従って「霞が関の働き方」が社会問題だということを伝えるために、本を書いたりメディアに出たりして、発信を行っています。

 霞が関で何が起こっているかというと、1つは「長時間労働」がひどいということです。私の経験からしても、本当に忙しい時は月200時間を超える残業をしていたこともあります。また、メンタル休職も民間の3~4倍という統計もありますし、離職者が増加している一方で試験申込者が減ってきているという実態があります。「長時間労働」については、今に始まったことではなく昔から長時間労働だったわけですが、「若いうちは寝食を忘れて仕事に没頭すべき」という考え方が今も根強く残っています。しかし、時代が大きく変わっており、人口構造の変化により生産年齢人口が2040年に向けて減っていくことが明らかになっています。民間企業では、多様な人材の活用が進み、働き方改革が進んでいますが、公務員の世界では働き方改革が進んでいません。国家公務員の内定者・志望者向けて行われたアンケートによると、政策を企画・立案し国民に貢献するという想いを持った方が多い一方で、長時間労働を不安に感じているという方が9割を超えています。民間企業の働き方改革が進み、公務員の働き方改革が進まないと人材が民間企業に流れ、人材が確保できません。若い人たちが力を発揮しやすく働きやすい職場を作ることは、国民の期待する政策を立案・執行するためにも必須の事であると考えています。

 では、どのような改革が必要なのでしょうか。当たり前ですが、まず無駄な仕事を減らすということが重要になります。慣例で作り続けている資料もありますし、コア業務とは言えない定型業務もまだまだ沢山あります。これらを減らすことがまずは大切です。また、霞が関の最大の特徴は国会であり、国会が年の2/3くらいの期間行われています。民間企業に置き換えると毎日株主総会をやっているようなものですし、半分近くは野党の方なので、政府に対して批判的な方たちに対応しなければなりません。国会では様々な質問が行われますが、前日の夕方や夜に質問者から質問内容が通告されます。それに対して官僚が回答を考え、当日の朝に大臣と打ち合わせを行い答弁の内容を固めます。つまり、質問の通告が前日の夕方や夜であり、そこから動き出す為、夜中まで仕事をしたり、場合によっては徹夜をしたりするということが起こるのです。これを何日か前に質問を通告してもらうルールに変えることができれば計画的に仕事ができるようになりますので、官僚の働き方を変えるためには国会改革が必要となります。

 政策と民間企業の根っこの違いが何かというと、顧客が商品を選べるか選べないかの違いだと思います。例えば、携帯電話が欲しいと思った時にキャリアも機種も選ぶことができます。一方、役所の供給する商品を顧客は選ぶことが出来ません。例えば、道路交通法で飲酒運転が禁止されていますが、全員に適用されており、例外はありません。このように、政策は強制的に適用されるわけであり、開発段階で「社会的合意」をいかに形成するかが重要となります。「社会的合意」を得るためには、NPOや民間企業も含めセクターを超えた様々な協働が必要になります。

 少し話が変わりますが、改革提案に対して自分に意思決定権がない時に、どうやって意思決定をしてもらい改革をしていくかを考えるにあたって5W1Hが使えると考えています。特にWhyの設定が重要であり、例えば、ブラック霞が関でも官僚の働き方がブラックであるというだけのWhy(目的)であれば、民間企業に転職すればいいという話で終わってしまいます。ブラック霞が関の結果として、政策における「社会的合意」が崩れていき国民が大きな不利益を被る可能性があると言えば、国民の関心が高まります。その後の4W1Hも抽象的ではなく具体的な視点で設定していくことが、非常に重要となります。皆さんが直面する課題を解決しようとする際に、実際に意思決定権がなくても、どのような5W1Hを設定すれば有効かということを考えて取り組んでいただければ、よい結果になるのではないかと考えています。

JSHRM編集員 中村 薫