リスキリング、アンラーニング、…。ビジネスパーソンの多くが耳にするようになったこれらの言葉。所謂「学び直し」の重要性を意味しています。既に学び直しに励んでいる方々は、仕事で必要な知識や技能を獲得することを目指していたり、将来のキャリアアップを目標にしていたり、ウェルビーイングに象徴される生きがいや働きがいを求めて学び直しに精を出しているようです。

 VUCAの時代。「学び直し」の重要性について疑う余地はないでしょう。一方で、何(コンテンツ)を?どのような手段(ツール)で?どのタイミングで?どんな環境設定で?学べば良いのかについては、様々な情報が流布し、判断に迷う場面も多いのではないでしょうか。

 さらに、メンバーの「学び直し」を支援(サポート)する人材育成部門スタッフは、戦略人事、組織マネジメント、キャリアデザインなどの視点も意識した柔軟な体系やシステムをデザインするスキルが要求されています。

 今回のぶらり企業探訪では、読書という多くのビジネスパーソンにとって馴染みの行為を通じた人材育成について、株式会社フライヤーさまにお話を伺います。

(インサイト編集長:岡田英之)

株式会社フライヤー

【ゲスト】

株式会社フライヤー 代表取締役CEO 大賀 康史 氏
早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了。2003年にアクセンチュア株式会社製造流通業本部に入社。同戦略グループに転属後、フロンティア・マネジメント株式会社を経て、2013年6月に株式会社フライヤーを設立。著書に『ビジネスエリート必読の名著15』(自由国民社)、『最高の組織』(自由国民社)、共著に『7人のトップ起業家と28冊のビジネス名著に学ぶ起業の教科書』(ソシム)、『ターンアラウンド・マネージャーの実務』(商事法務)がある。

株式会社フライヤー 執行役員 プロモーション担当 井手 琢人 氏
早稲田大学第一文学部卒業。2003年に株式会社WOWOWに入社。株式会社あさ出版を経て、2017年、株式会社フライヤーに参画。広報、プロモーションを行うほか、180を超える出版社や全国の書店とのリレーションを担う。「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長。
個人では「井手隊長」名義で全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター&ミュージシャンとして活動中。

株式会社フライヤー 営業&プロモーション担当 楠瀨 悠城 氏
高知工業高等専門学校 物質工学科卒業。2007年に高知新聞社に入社。退職後は食品専門商社を経て、2021年に株式会社フライヤーに参画。

ビジネスエリート必読の名著15
全員の才能を極大化する
最高の組織

「学び直し」に効く新しい読書 ~flier(フライヤー)による“新しい読書”を通じた人材育成~

岡田英之(編集部会):岡田英之(編集部会):本日は、本の要約サービス flier(フライヤー)を提供する、株式会社フライヤーの大賀さま、井手さま、楠瀬さまにお越しいただきました。今日はCEOの大賀さまも来られているので、創業の背景も含め御社のご紹介と、お三方それぞれの自己紹介をいただければと思います。

◆本の要約サービス「flier(フライヤー)」のヒントは論文のAbstract

大賀 康史(株式会社フライヤー /Flier Inc.代表取締役CEO):フライヤーは創業して10年目になります。創業時から本の要約をお届けするサービスを提供しています。世の中、本を読みたい方は多いと思うのですが、なかなか敷居が高かったり、まとまった時間がとれなかったりして読めないでいる方が多くいらっしゃいます。そんな方に今出ている新刊、ロングセラーの本、優れた本を選んで一冊10分で読めるように要約して、オンラインでご覧いただくサービスです。
 最近は、本を通じて人材育成をしたい、自律的に学んで成長する人材を会社で養成したいという理由で、法人でご利用いただくケースが増えています。多くは人事部さんを通じてですが、すでに690社にご利用いただいており、個人も含めた会員数が累計100万人と、少しずつですけれども広まってきているかなと思います。

岡田:ありがとうございます。企業の人材育成や自律的な学びに読書はやはり重要だと思います。我々の会員には企業人事が多いので、これを読まれている人事部長さんも、ぜひ人材育成体系の中にフライヤーさんのサービスを検討されるとよいのかなと思いました。

大賀:そうなると、嬉しいです。

岡田:早速ですが、我々人材マネジメント協会ですので、みなさまがどういったキャリアをお持ちなのか人事としてすごく興味があります。CEOの大賀さまから、お三方のキャリアについてお話いただいてもよろしいでしょうか?

大賀:まず私は、大学院では機械工学科におり、環境に優しいエンジンの研究開発をしていました。技術者の道は30年、40年と同じ道を貫いていくのが世の常ですが、私は先が見えないキャリアを歩みたいと思い、アクセンチュアというコンサルティング会社に就職しました。その後、より社会的意義のあるコンサルティングがしたいという理由で、企業再生に強いフロンティア・マネジメントに転職し、3年程勤めて、そこの同僚メンバーと創業したのが株式会社フライヤーです。
 flierの発想は、大学院のときに技術論文をよく読んでいたのですが、海外の論文は冒頭にAbstract(アブストラクト)やSummary(サマリー)という項目があって、論文の内容がコンパクトにまとまっています。あ、これはとてもありがたいなと。まず、それを読んで良い論文を見つけてから20~30頁の論文を読めるんですね。私は英語があまりできなかったので、非常に助かりました。
 また社会人になって比較的忙しかったので、最近の本や話題の本の情報が入りにくく、プロジェクトの合間の休みに20冊くらいまとめ買いして読んでいたのですが、日頃から本の情報がキャッチアップできて良い本をストックできれば素晴らしいなと思っていました。Abstractのような感じで本が要約されているサービスがあれば、そこからも学べるし、いい本にも巡り会える、そういうサービスを提供したいと思ってフライヤーを創業しました。

岡田:理系でアクセンチュアさんご出身。起業される方も多いですよね。実は私もビジネススクールに通っていたときに海外の論文を読むと、冒頭にAbstractがあって、コンパクトにまとまっていて助かるなと思った体験があります。なるほど、そこがフライヤーさんの創業の一つのきっかけ、原点の一つなんだと思いながら聞いていました。

読書を通じた人材育成

◆フライヤーに入社した理由、それぞれのキャリア

岡田:次は、井手さんのキャリアのご紹介をお願いできますでしょうか。

井手 琢人(執行役員):私は、大学を出てWOWOWに入社し、宣伝、プロモーションの仕事をしていました。ちょうどアナログ放送が終了し完全デジタル化する激動の時期で、20代は死ぬほど働いていたという感じです。映画、スポーツ、音楽などのテレビ番組のプロモーションをしていたのですが、テレビ以外のプロモーションの仕事をしてみたいと思い、大学が文学部で本や活字が好きだったので、29歳のときにあさ出版に転職し、ビジネス書の宣伝をしていました。
 正直、ビジネス書は敷居の高すぎるイメージを持っていたのですが、読んでみるとどんな方でも読める内容の本がたくさんあって、大賀もよく言うのですが、著者さんが人生をかけて書いた本が1,000円ちょっとで読めるのですごくコスパのいいメディアなんです。それでもっとビジネス書の裾野を広げたい、どんな出版社の本でも紹介できたらと思うようになりました。フライヤーとはあさ出版時代に付き合いがあって、この先確実に伸びるサービスだろうと思っていたので、ここならと思い、35歳のとき参画させてもらって今6年くらいです。

岡田:噂で聞いたのですが、井手さんはラーメンに精通していらっしゃるとか…。井手さんにとってラーメンとはどのような世界観なのでしょうか?ラーメン好きの人事担当者もいるので、ぜひお聞きしたいです。

井手:ラーメンは大学のときから食べ歩いてノートにつけていたら20何冊になって、それをブログに書いていたら、出版社さんやネットニュースの方々にお声をかけていただき、ラーメンライターになっちゃったんです。ラーメンの魅力は常に進化しているところじゃないですかね。食べても食べても飽きないし、毎年トレンドも変わるし、新しいものが出てくるし、古いお店は古いお店の魅力があります。もう息をするような感じで、毎日ラーメンを食べています。

岡田:今一番ホットなラーメンのエリア、読者の方におススメなエリアはどのあたりでしょう。例えば都内なら␎。

井手:都内で一番ラーメン店が密集しているエリアは高田馬場と言われてきました。やっぱり学生街には文化というかソウルフード的に根差したラーメン店がたくさんあっておすすめですね。

岡田:ありがとうございます。では、楠瀬さんお願いします。

井手さんのキャリア

楠瀬 悠城(営業・プロモーション担当):僕は高専を卒業して、地元の高知県の新聞社に入社し、最初は技術職としてパソコンのメンテナンス、サーバーの管理などをしていたんですけど、人が好きだったので3年目に営業に配置転換になりまして、そのまま10年間は営業職として新聞広告を扱っていました。
 後半の5年は東京支社にいて、そのときに出会ったのが井手さんです。井手さんが出版社にいたときに、企画した広告を気にいられて、何かと良くしてもらいました。新聞社をやめたときも真っ先に声をかけていただいたという縁です。
 新聞社にいたときに地方が衰退していき、かつ本が売れない、読まれないという課題をすごく感じていて、flierはみんなが本を読むきっかけや、本を読む文化の醸成に役立つんじゃないかなと思っていました。最終的には自分も本に関わる仕事がしたいと思い、井手さんに引っ張ってもらって入社し、現在は法人の営業とプロモーションを兼務して働いています

岡田:良いご縁があってフライヤーさんとつながったのですね。読者のみなさんもお三方の話を聞いて、フライヤーってなんとなくこういう雰囲気の会社かなと、伝わったのではないかと思います。

楠瀬さんのキャリア

◆リ・スキリングにおける読書の有効性とは

岡田:今、大人の学び直し、リ・スキリングアンラーニングという文脈で、読書が重要だというムードが盛り上がっている感があります。大賀さんの私見で結構ですので、大人の学び直しにおける読書の有効性についてお話しいただきたいです。

大賀:まず私は、リ・スキリング、アンラーニングなど言われていますが、何かのきっかけで一回学ぶということではなく、本来は一生続けて学び続けることが大事だという考え方なのです。
 そもそもキャリアが長くなっているじゃないですか?70、80歳くらいまで働く期間が延びています。IT、AI、Web3みたいな話も出て変化も速い。過去の知識が劣化するスピードがすごく速いので、常に知識をブラッシュアップしなければいけないのは、現代のビジネスパーソンの宿命だと思っています。

岡田:おっしゃるとおりです。

大賀:そんな中で、私は本からの学びが最も効率がよく、一生を通じた時間対効果が最も高いと思っています。理由は本ができるプロセスにあって、Webメディアなら数時間、新聞なら1日のサイクルで記事を作るかもしれませんが、本は大体企画から始まり1年くらいかけて世の中に届けられます。1年かけて作った本が買ってすぐ価値がなくなることはまずありません。息の長い学びになる情報が凝縮されている確率が圧倒的に高いのです。
 もう一つは、ジャンルの多様さです。本からはあらゆる領域の学びが得られます。研修だと全社員一律になりがちなので、自分に合う、合わないが出てきますが、本ならその人が盛り上がっているところに学びの教材を提供できます。そこが、本の圧倒的なジャンルの広さのメリットだと思います。

岡田:たしかに会社の研修はどうしても1対多で画一的になります。ダイバーシティマネジメントが会社で求められるなか、一律的な研修でいいのだろうかというと…おそらく違うでしょうね。本は無限にジャンルがあるので、まさにオーダーメイドに、カスタマイズされた人材育成の教材になりうるわけですね。

大賀:はい。人材育成が大事と言いながら、世界と比較すると、日本は圧倒的に企業の人材育成にかけるお金が少なくて、およそ1/4くらいです。本の購入補助をする会社も多くはありません。そういったなか、従業員さんの学びを応援する仕組みを、フライヤーとして一緒に築いていきたいと思っています。

岡田:フライヤーさんから新しい学びのスタイルとして、企業人事にご提案いただけるものはどんなイメージでしょうか?

大賀:その人が、興味を持てる本を精度高くご覧いただく仕組みがあります。毎年70,000タイトルくらいの本が出版されるのですが、ビジネスパーソンがトレンドを把握でき、長く活かせる知が得られる本を選書委員会で厳選しています。要約は専門ライターが作り、できあがった要約も出版社や著者の方に許諾をいただいているので、本の作り手の方たちにも納得いただける要約になっています。
 あとは要約からの学びを社内でシェアする「学びメモ」という仕組みがあり、2つの効果があります。一つは、メモを書く人にとってアウトプットする過程で学びが定着すること。もう一つは周りの人への刺激。メモを見て「自分もこの本は参考になりそうだ」、「この人が読んでいるんなら自分もちょっと触れてみよう」となるのです。社内で学びの文化、本の話題が活発になるような仕掛けが、いくつも含まれているのがflierの特徴です。

学び直しと読書

◆企業の人材育成の課題と、今後に期待すること

岡田:読書は個に閉じるイメージがあって、会社がサポートするときも書籍購入補助になりがちですが、学びがシェアリングできるわけですね。循環されて、リフレクションが発生し、社員同士が学んでいく。ピーター・センゲという人の『学習する組織』という本があります。そんな組織になる仕掛けのエンジンとして「学びメモ」というツールがあるのかなと感じました。すごく、良いですよね。井手さんは、いかがでしょうか?

井手:flierを会社で使えるのはすごく良いと思います。電子書籍もありますけど、隙間時間にパッパッと本の情報を入れるのはなかなか難しくて、僕も出版社にいたときに他社さんの本はたくさん読めなかったんですね。社員の方が隙間時間で学べ、興味関心を広げられるのはいいなと思います。

岡田:ありがとうございます。このサイトは読書迷子になっている人たちに、本当に自分にとって必要な1冊は何かみたいな、ブックガイド的機能なども将来お考えでしょうか?

大賀:実は、私はflierというサービス自体がブックガイドとして最も優れていると確信しています。それぞれ意義はありますが、レビュアーや書評家の方の紹介はその方々の主張が主になります。要約は著者が言及していることをギュッとまとめるので元々ブックガイド的要素があるのです。将来は業界や職種ごと、例えば人事の方向けに、世の中の人事が今どういった本を評価しているのかなどを、精度高く提供していけると思います。

岡田:オンライン読書会がコロナ禍になって活況です。フライヤーさんとオンライン読書会の関わりがあれば、お話いただきたいです。

大賀:「flier book labo(フライヤーブックラボ)」というオンライン読書コミュニティを運営しています。本は読むときは一人ですが、実は人と人をつなぐものでもあると思うんですね。好きな漫画もそうですが、同じ本を読んだことがあると何やらすごく盛り上がり、10年来の友人みたいになるのです。また、それについて語り合うのはとても喜びがあります。オンラインなので耳だけの参加、コメントだけの参加もできれば、議論もできます。ライフスタイルに合わせて参加できるので参加者の多様性が広がって、海外からの参加者もいます。

岡田:ワールドワイドですね。次のフェーズとして、コミュニティを何かに活用する構想があればお願いします。

大賀:「flier book camp(フライヤーブックキャンプ)」という、オンライン講座も開催しています。これは月に2時間程度で、講座の期間は宿題や課題図書が出ます。個人の方の利用が多かったのですが、会員の方が会社で評判を広めていただいて、最近は法人利用につながるケースも増えています。

岡田:最後にお三方に、今の企業の人材育成の課題と、今後期待することをお聞きしたいです。

大賀:はい、世の中でリ・スキリングと言われるようになって、それ自体は喜ばしいのですが、根本的な研修の体系は多分ここ30年変わっていない気がします。世の中の変化の激しさ、多様性の重視、イノベーション重視という目的に、今の教育プログラムや研修だけで対応するのは不可能だと思うのです。できるだけ多様な人が多様なことについて学んでいけることが、これからの社会では重要なので、flierに限る話ではなく、学びの環境を提供する人事の方々は、非常に重要な使命を担われていると思います。
 あとですね、意欲ある人だけが学べば良いというのは、私は違うと思うのです。将来性を信じて採用した人には、等しく学ぶ環境を提供するべきで、そうすることで人材が会社の力になっていくと思います。

岡田:井手さんは、いかがですか。

井手人材教育のメニューはすべてが学びの入り口だと思います。そういう意味で意欲的になる入り口、楽しいと思えるようなきっかけを作ってもらうことが重要かと思います。例えば、いきなり本を読めというより10分でビジネス書に触れられるのはハードルが低いじゃないですか。学びが始まる入り口を社員に与えられたら、自然に始まるのかなと思います。その先はそれぞれの人生がありますから、個々が成長できるものを提供していく。「入り口」と「提供」の2つが大事だと思います。

岡田:楠瀬さん、お願いします。

楠瀬:大賀と重複するのですが、どこの企業さんでも研修はどうしても単発になりがちです。人事主導の研修も大切だと思いますので、単発になりがちな研修の合間をflierでうめるような、自己革新の環境を整備してあげる、そういった組み合わせを考えることが大切だと思います。

岡田:大賀さんから、読者の人事担当者の方々にメッセージをお願いできますでしょうか?

大賀:私は、本にいろいろ助けられてここまでのキャリアを歩んできました。その感謝の気持ちと読書の有用性を確信しているところから、flierという要約サービスを作ってここまできています。
 世の中、本好きな人ばかりではありませんが、本から学びたい、学びたいので信頼できる本の情報を得たいという人は、日常的に本を読む人よりも桁が一つ違うくらいに多いと感じています。
 このサービスは、実は読書を促進するサービスなのです。本の代わりに読むのではなくて、要約にたくさん触れることによって、読みたい本に出会うサービスです。日本全国の人たちに本の素晴らしさを実感していただき、より輝かしいキャリア、自分らしい人生を歩める助けになれればと思っておりますので、何卒これからもフライヤーをよろしくお願いします。

岡田:みなさま、ご多忙の中ありがとうございました。以上で収録を終わります。

企業の人材育成に貢献する株式会社フライヤーの取り組み