株式会社マイナビのライフキャリア実態調査(2021)によると、。仕事や職場において「孤独感や孤立感を感じているか」という質問において、約20%が何らかの孤独感や孤立感を感じています。孤独とは、自分が一人であると感じる時に生じる感情だと言われています。昨今では、SNSが発達しているため、リアル(Face to Face)以外にもコミュニケーションの場は多様になっています。一方で、孤独感を感じる人が増えていることも事実です。なぜ孤独を感じる人が増加傾向にあるのでしょうか。

 理由として頻繁に挙がるのが、コミュニケーション不足です。コミュニケーションと一口に言っても、職務上の比較的フォーマルなコミュニケーションではなく、より個人的(プライベート)なコミュニケーションが不足気味のようです。新入社員や転職などで、新しい会社に入社したてであったり、年齢層が違いすぎるメンバーが多い職場の場合、特に不足気味になるのかも知れません。

 職場で孤独を感じるメンバーが増えることによって、組織や業務に支障をきたす場面もあります。例えば、「報告・連絡・相談」が機能不全を起こす場面です。職場コミュニケーションの基本である「報告・連絡・相談」ですが、孤独を感じるメンバーにとっては、悩みを一人で抱え込み、上司や同僚に相談ができないという精神状態になってしまうことがあります。孤独感からネガティブな思考をしがちになり、自己肯定感が減退していく可能性もあります。結果として、残業が増えたり(過重労働)、病気がちになったり、ストレスが増えて退職につながるケースもあるようです。ウェルビーイングやワークハピネス、健康経営などの観点から組織全体で対応すべき課題なのではないでしょうか。

 今回の特集1では、早稲田大学の石田光規教授にお越しいただき、企業における人間関係について、多角的にお話を伺いました。

(インサイト編集長:岡田英之)

ゲスト:早稲田大学 文化構想学部 教授 石田 光規 氏

1973年、神奈川県生まれ。早稲田大学文化構想学部教授。東京都立大学大学院社会科学研究科社会学専攻博士課程単位取得退学。博士(社会学)
主著:『孤立の社会学――無縁社会の処方箋』(勁草書房、2011年)、『つながりづくりの隘路――地域社会は再生するのか』(勁草書房、2015年)、『郊外社会の分断と再編――つくられたまち・多摩ニュータウンのその後』(編著、晃洋書房、2018年)、『「友だち」から自由になる』(光文社、2022年)
早稲田大学 文化構想学部
教授 石田 光規 氏
「友だち」から自由になる

新しい“つながり”と“居場所を”デザインする
~職場の孤独・孤立を克服するソーシャルキャピタル~

岡田英之(編集部会):本日は、早稲田大学教授の石田光規先生にお越し頂きました。それでは石田先生、まずは簡単に自己紹介をお願い致します。ご専門分野やご著書の内容。最近テレビや様々なメディアに登壇されていらっしゃるので、研究活動(アカデミア)に加えて、こんな活動もしていますといった観点からお話し頂ければと思います。

◆1990年代半ばが「孤独・孤立問題」のターニングポイント

石田 光規(早稲田大学文学学術院 教授):早稲田大学の石田と申します。私の専門は大きなくくりでは社会学で、その中でも人間関係、人と人とのコミュニケーションを軸に研究をしております。1999年に研究を始めて今年で25年近くになりますが、一貫して人間関係の研究をしており、今日のテーマとの関連で申しますと、博士論文でも、「企業の人間関係」を調査致しました。
 その後、孤独・孤立の研究にシフトしまして、孤立している人は誰なのか?そこにどのような社会問題が潜んでいるのか?あとは友人関係、地域の人間関係、地域のつながりをどう再生していくかなどについて研究しています。
 最近の活動ですと、1月にちくま新書さんから『「人それぞれ」がさみしい』という著書、9月に光文社新書さんから『「友だち」から自由になる』という著書を出しました。さらには、内閣官房の孤独・孤立対策の委員を拝命されていたり、メディア等に出演させて頂いております。

岡田:ありがとうございます。いわゆる孤独、孤立、友達づくり、これは多くの国民が人知れず悩んでいることと思います。石田先生も関わられている内閣官房の孤独・孤立対策委員会ですが、こうした委員会が立ち上がるということは、孤独・孤立がもはや社会問題化しているのでしょう。
 企業でも若手社員に限らず、シニア層、そして非正規雇用、フリーランスなど様々な人が悩んでいます。上司と部下のすれ違いは昔からですが、職場のチームの人間関係もちょっと希薄になっているようです。コロナ禍でリモートワークが増えましたし、雇用も流動化しているので人間関係が20~30年前とはかなり異なる。結果として価値観、ゴールの共有が難しくなっています。このあたり、先生の論文などを紐解いて頂きながらお話頂ければと思います。

石田:わかりました。まず、岡田さんがおっしゃるように、孤独・孤立が日本社会全体で取り組む問題になったことが大きな変化です。1970年あたりまでは、「私たちは集団的すぎるから、もっと一人になる自由が必要だ」とか、どちらかと言えば個人に焦点が当たっていたのです。かつ1970年代あたりというのは終身雇用の会社があり、日本人であればほとんどが結婚していたわけです。これが変わったのが1990年代半ば~後半。そこまではバブルがもう1度戻ってくるのではないかという空気感があったのですが、拓銀(北海道拓殖銀行)や山一證券が倒産し、いよいよ厳しくなって、その頃から企業の終身雇用的な体質がかなり揺らぎ始めました。

岡田:北海道拓殖銀行の経営破綻、たしか1997年くらいでしたかね。

石田:はい。非正規雇用が増えたのもその時期で、派遣法が改正されて多くの職種で派遣ができるようになりました。並行して、日本社会で結婚も一気に揺らいでしまったのです。生涯未婚率(50歳以上未婚率)が5%を超えて、急速に上昇し始めたのが1990年代半ばあたりだったと思います。
 結婚、家族、会社という日本社会を支えていたものが急速に失われていき、2000年代からは、孤独、孤立という問題が、それこそ日本に住む人たち全体の問題として立ち上がってきたという流れです。

岡田:1995~1997年あたりが、今日のテーマでいくと変化のターニングポイントですね。

石田:もう一つ、論文にも書いたのですが、ちょうど成果主義が出てきた時期でもあります。企業では組織改革が盛んに言及され、硬直的な会社をフラット化しようと改革が進められました。急速に進めた結果どうなったかというと、私が調査した企業では、縦の階層をある程度フラットにした結果、上司とつながれる人と、あまりつながれない人が出てきて、つながれない人は厳しくなったのです。
 プロジェクト型の組織ですと、プロジェクトで成功した人には次々に声がかかって良いサイクルに入るのですが、成功しなかった人は、会社の中にいても仕事に巻き込まれることがなくなり、厳しい状況になってしまうケースが散見されました。会社の外に目を向ければ非正規雇用が急速に拡大し、いわゆる排除される人たちが、明確に現れ出したのです。

「孤独・孤立問題」の背景とは

◆食事に誘うと、「それは業務なんですか?」と言う部下

石田:NHKスペシャルが2005年に象徴的な番組を報道したのです。「ひとり誰にも看取られず」という番組です。常盤平団地で1人暮らしの男性が餓死してしまった事件の特集です。人がたくさんいてすぐ声がかけられるはずの団地でこんなことが起きたので、すごく世の中に衝撃を与えました。
 「無縁社会」という言葉が出てきたのが2010年。その頃には単身世帯が明らかに増えて、男性の4人に1人は未婚、全世帯の4世帯に1世帯は一人暮らしだから、もう無縁は他人ごとじゃないですよといった、脅し文句が出てくるようになりました。

岡田:もう単身で生活している人が多数派。先生からご覧になって、10年後、20年後、30年後どうなってしまうのでしょうか。

石田:本当に厳しくなっていると思います。孤立という問題がなくなることも、単身化が弱まることもなく、これから何十年間かは、孤立は問題であり続けると思います。
 もう一つ背景があって、「個人を尊重しましょう」「多様性を尊重しましょう」という気運が出てきたのもその頃なのです。あまり個人の生活に立ち入ることは良くない、それを聞いて不愉快に思う人がいるかもしれない、相手を不愉快に思わせたらそれはすべてダメ、ハラスメントだというふうに社会が変わってきました。

岡田:たしかに、そうですね。

石田:家族構成を聞くことも難しくなった。上司と部下の関係では、リアルに聞いた話ですが、上司が食事に誘ったら、若い社員から「それは業務なのですか?違うのですか?」と言われてしまう。そうなると、会社の中でも外でも困っている人がいて、おせっかい焼きが必要だといわれても難しいわけです。個人を尊重するからこそ、立ち入らない、距離をおいて、というのが私たちの生活のルールになってしまっているのです。
 さらに一人になれる環境も用意されてしまったので、日本社会は孤独・孤立がダイレクトにやってくるところがあるのです。生活を便利にする道具、今まで人と関わらないとできなかったことをサービス業が担ってくれる。これからも益々増えると思うので、人間関係は、人と交流したい人だけがやってくださいという方向になっていくと思います。

岡田:非常に興味深いです。今はお昼にコンビニに弁当買いに行くと無人レジになっていて、コンビニのお兄ちゃんとの会話もなくなりました。企業間取引、営業スタイルもZoomになったりして全部オンラインで完結するケースも増えています。DX化、IT化で便利になるほど、ジレンマなのですが、孤独・孤立が促進されてしまうようですね。

石田:そうなのです。それに対応できる人は良いのですが、対応できない人はどんどん取り残される。それで今度は居場所を人為的に作り出そうとするわけですね。2000年くらいから、政策的に居場所を整えましょうという動きが急速に広がりました。居場所って、元々の意味は単に「いるところ」だったんですが、今は「ありのままの自分を出せる場所」のように、特別な意味を持つようになりました。最近は、人付き合いもシステムとして整えていきましょうという方向になってきていると感じます。

◆コスパで友達を考える若者、リモート環境は幸福か?

岡田:すごく興味深いです。居場所というシステム。人間関係もシステムとして捉える。先生の著書に若者が友達をコスパで決めるってありますが、これもある種のシステム思考的な、合理的思考回路でしょうか。

石田:自分で人間関係を調達するとなると、せっかく努力して労力をかけて付き合うのだから、それに見合った良いものが欲しいという考えになるので、コスパを意識するのもある意味仕方のないことです。人間関係に限らずコスパはすごく意識させられています。インターネット検索でも、目的にダイレクトにたどりつくコスパ的な発想です。そういったことが人間関係にもあてはめられて、どんどんコスパ思考になって、つながり格差が広がったようなところがあると思います。

岡田:コスパ、タイパ、映画を早送りで見る。最近の音楽はコスパを考えてイントロなしでいきなりサビに入るものが多いそうです。居場所もサードプレイスなんてよく言いますが、従来はコスパなんかなくて、ふらっと自分一人になれるスナックや居酒屋など、ちょっとした空間を誰もが持っていた気がするのです。

石田:それが今は、居場所もある程度誘導していかないといけない。もっと言えば会話相手もです。介護の現場では、アプリでボランティアを頼んで週に2度くらい来てもらって対話する、といったことも行われています。

岡田:そんな社会だと、上手に人と関係性を構築できる人はハッピーですが、それができない人もいるので、そちらはサポートしないといけないと思いました。会社でも仕事は嫌じゃないけど人間関係を構築できなくて、メンタル不全になって離職する人が増えているようです。特にリモートワークになってから、オンボーディングが難しくなりました。先生は、リモート環境がメンタルヘルスに及ぼす影響、孤独や孤立に及ぼす影響についてどのようにお考えでしょうか?

石田:リモート環境が幸福感を満たせるという研究も、リモートでは難しいという研究も両方出ています。日本では、コロナのついでにリモートが入ったことが大きいと思います。わざわざ対面で会う必要はない、リモートでも良くない?みたいな文化がコロナを機に拡がって、選別の傾向が強くなったのです。しかもコロナ禍でほぼすべての日本人が、本当に会うべき人は誰かと、人間関係の棚卸しを行ってしまった。だから、対話の欲求がなかなか満たされない、誰かと一緒にいる感覚を得づらい社会になっていると思います。リモートって、やはり共感が難しいメディアなのです。

岡田:友達がたくさんSNSにいるけど、実際にリアルにコミュニケーションをとれる人は何人かということですよね。人間関係の棚卸しも、SNSは、“やーめた”と数秒でできてしまう。これは、SNSがない時代の家族、親しい友人、地縁血縁社会の人たちの人間関係と区別しているのでしょうか?

石田:かなり違います。倍速視聴とも似て、嫌なところは飛ばせばいいと、コンテンツに対して完全に受け身じゃなくて自分たちですべて操作するのです。SNSはそれが可能なわけです。ブロックするとか、リストから外すとか、アカウントを使い分けることもできる。

岡田:その思考回路だと、上司との関係性でも、比較的Z世代では操作化してしまうのでしょうね。隣の職場の部長さんを嫌いでも、昔はいやいやながら、上手な付き合い方を覚えていきましたが…。

石田:ある程度操作化して、この人はここまでの対応、となるのではないでしょうか。我々の世代は、飲んで話したことが仕事のヒントになるくらいの感覚でしたが、今は業務なら業務でのぞむ、業務ならこのくらい時間でやってくれないと困る、そうじゃなくてインフォーマルなら断らせてください、という人が現れていると思います。

岡田:苦手な上司と思っていたけど、飲み会で偶然会話してみて、最初は弱いつながりだったんだけど、いつのまにか結構強い紐帯になったとか、最初は嫌だなと思っていたけど、ある日恋愛感情が湧いて結婚したみたいなストーリー、人間関係を構築するアクシデントは、これからどうなっていくのでしょうか。

石田:減ると思います。要点だけならオンラインでいい。話したい人とだけ会おうとなるので異質なものとはなかなか会えないですし、異質なものは避けるべきリスクと捉えられてしまう。それこそ今後は仕事でも、対面で会うのは緊張しちゃうという人が出てくると思います。

若者のコスパ、タイパ(タイムパフォーマンス)指向

◆ソーシャルキャピタル、ソーシャルネットワークとは?

岡田:最近、人事の世界では「ウェルビーイング」「ワークハピネス」など個人の幸福度が重要視されています。そこでソーシャルキャピタル、ソーシャルネットワークという単語がでてくるのですが、このあたりをご解説いただきたいです。

石田ソーシャルネットワークとは、単純に人が持つ人間関係に近い意味です。ソーシャルキャピタルとは、意味が大きく2つあって、一つは個人が持つ人間関係。ソーシャルキャピタルが豊富な人は人間関係に恵まれているので幸せになるという話です。もう一つは、特定の会社の部署や地域の人間関係を指し、そこの人たちがお互いに良いイメージの人間関係を持っていると、チーム力が高まるという意味です。

岡田:ソーシャルキャピタルが豊富でネットワークのハブになるような人材を、育成あるいは採用することは組織の活性化につながるのでしょうか。

石田:育成は難しいんですよ。また、実に日本的ですが、アメリカ的にどんどん外に出て人間関係を作るというよりも、いろんな人に頼られて、「あ、こういうことでもできます」と断われないで受けているような人が、結果的にものすごい関係を持つほうが、日本ではどちらかかといえば多いと感じます。

岡田:最後の質問です。読者には、僕は一人が好きなんです、ソーシャルキャピタルが大事だとわかるんですけどそういうのは煩わしくって苦手なんです、という人もいます。そんな人がウェルビーイングを高めて、健やかに組織で生きていくにはどうしたらよいでしょうか?

石田:私自身、実はこの話をしようと思っていました。孤独・孤立の話をすると、必ずそれの何が悪いんだ?という意見が出てくるんです。ここが一番難しいところで、問題がある孤立とは、後々問題が発生して遡ったときに、やはりあの孤立がよくなかったという孤立なので、問題のない孤立との仕分けがとても難しいんです。ただ研究を見ると、言い方はきついのですが、孤独・孤立はほぼ百害あって一利なしに近いものがあります。
 だからといって、独りの人がみんな不幸せなのかというと、私自身は決してそうではないと思います。そういった方々は無理してつながりを作ろうとすると、かえってくたびれてしまうと思うのです。つながりを作る、交流するって苦手な人にとっては結構辛いことなので、あまり無理して交流する必要はないと思います。
 ただ、同じ部署の人とか、何かやらなきゃいけないことがあって人と会うことは大切です。そこで仲良くなるならそれでもいいし、自分はこのくらいの距離感としてもいいですし、リモートになるとそれも選べると思うので、交流するかは別として、人の中にほんの少し入っておくことが大事だと思います。

岡田:最後に読者の方々、企業の人事部の人が多いんですけれども、今日のテーマについてメッセージをいただけないでしょうか。

石田:今は、人との交流、居場所などをある程度システム化せざるを得ない時代になりつつあると思います。会社内でも、人と人の交流をどうデザインしていくかがとても大事になってきます。そういう意味では、昔からある懇親会も、私は実は捨てたものじゃないと思っています。全部署でやる懇親会があるからこそ、これまで交流を保ってこられた人たちが少なからずいるのです。
 必ずしも懇親会である必要はないのですが、何かしら人と人がつながる仕組みを、うまく企業の中に入れていくことが大切です。かつての日本的経営のような全人的なつながりでなく、パッと会ってその後濃くつながるか、業務だけでつながるかはその人たちに委ねる程度のつながりで良いと思いますので、企業が仕組みとして、そういうものをぜひ作っていただければと思います。

岡田:令和の時代の新しいつながり方を、人事部がリデザインしていくことが大事ですね。ありがとうございました。本日の収録は、以上で終了します。

令和時代の新しい“つながり方”とは