第5回のラウンドテーブルでは、社会的に関心が高まりつつある「副業」をテーマとし、東洋大学の川上先生のご講演を踏まえ、JSHRMと厚生労働省のメンバーとが活発な意見を交わしました。

副業の可能性-多様化する働き方-(東洋大学教授 川上淳之氏)

直近の就業構造基本調査の実施が2017年なので、最新の数値は分からないのですが、副業を持つ人は5年間で2倍以上増えているのではないかと推測されます。理由は2つあり、1つ目が安倍政権で推進された「働き改革」。2つ目が新型コロナウイルスの流行です。また、本業の収入と副業率を確認すると、収入が低い方が副業を行っている比率が高いですが、収入1,000万円以上の高所得者が副業を行っている率も高くなっています。副業に対して、非金銭的な就労動機を持つ方も多くおり、調査では全体の3分の1が収入以外の目的で副業をしているという結果が出ています。

副業が「役に立つのか?」ということが皆さんの関心ごとだと思いますが、役に立つためには条件があります。イギリスの研究ですが、「本業と異なる職業の副業を持っていたときに転職を通じて収入の増加やスキルの向上がみられる」という研究結果があります。また、副業が本業に与える効果を分析したのですが、フルタイム労働者で分析的職業を行っている場合に賃金率が高まるという結果になりました。さらに、「スキルを理由」に副業を行っている人達に、賃金率の上昇がみられるという結果にもなりました。なぜ、このような結果になるかというと、副業で越境することにより外での経験を積み、それを内省することにより、パフォーマンスが上がるからではないかと考えています。学習効果を高めるためには、業務経験と内省のサイクルを回すことが非常に重要だといえます。

最後に副業とイノベーションとの関係ですが、日本はグローバルで比較すると起業に関するビジネススキルが低く、開業率と社内起業率が非常に低いという結果になっています。なぜ、起業に関するビジネススキルが低いかというと、経験が圧倒的に足りていないからです。また、起業においては自己効力感が重要という研究結果があるのですが、副業により自己効力感の上昇効果が確認できます。恐らく、外の環境でも通用するという経験から自己効力感が高まるのではないかと考えられます。つまり、副業により経験を積み、自己効力感を高めることにより、イノベーションに繋がる可能性があるということを示唆できます。

官民交流から見えたもの

川上先生の講演後、JSHRMと厚労省のメンバーにて「副業の可能性」についてグループに分かれて夫々の考えを共有しました。また、川上先生と活発な意見交換も行いました。

【質問者(企業人事)】
当社では制度的には副業制度がありますが、転職されるリスクを下げるために同業種には副業させないという制度にしています。副業が転職や雇用の流動性に影響を与えるという調査や研究があったりしますか?

【川上先生】
転職する可能性を高めるというデータはあります。また、副業を持っている方は失業するリスクを下げるので、マクロの視点で見ると雇用にはプラスの影響を与えると言えます。

【質問者(企業人事)】
副業が雇用の流動性を高めるとした時に、厚労省の立場として、雇用の流動性に対してポジティブに捉えておられるのでしょうか?

【回答者(厚労省職員)】
個人の見解になってしまいますが、雇用の流動化を加速させていくことは望ましいと考えています。副業だけではなく、職業訓練等を通じて新しいスキルを身に付けて、成長している産業(より賃金が高くなる企業)でより多くの人が働くことが望ましいと考えています。

【質問者(厚労省職員)】
どのような職種で副業をすれば、幸福度や満足度が上がるのか?という研究はありますでしょうか?

【川上先生】
現状では分析が難しいのですが、次回の就業構造基本調査では副業の職種を細かく調査する予定なので、何らかの相関が示せるかもしれません。

株式会社千正組 千正康裕氏

川上先生のご講演のおかげで、企業や厚労省という立場を超えて活発に意見交換ができたのではないかと思います。まさにこの会の目的であるネットワークと知見が広がる会となりました。本日はありがとうございました。

以 上

JSHRM編集員 中村 薫